39 / 43
デート編
39.古書通りのマジシャン
しおりを挟む
「魔法使い! なんて素敵な響き! 光栄です♪ ですが、残念ながら私は魔法使いではなく、マジシャンです」
「マジシャン?」
聞き慣れない言葉です。信じられない出来事を目の当たりにして、思わず口にしてしまいましたが、夢見る幼子ではないので魔法使いが実在しないことは理解しています。
ですが、魔法のようなことが出来る人がいることもこの目で知りました。それがマジシャン──どんなものなのでしょう?
「手品を見せる者のことです。不思議な力で奇跡を起こすのが魔法使いであれば、マジシャンは仕掛けと技術で奇跡を演出する者、と言えばよいでしょうか?」
「仕掛け──先程の鳩のパフォーマンスやこのリボンが切れたことには理由があるということですか?」
「その通りです。どうやったかは──秘密ですけど」
「秘伝というものですね」
技師や武人にその門派や流派に伝わる技術があるように、手品にもそういうものがあるのでしょう。先人たちが磨いてきた技を安売り出来ないという矜持もあるでしょうが、知る者が少ないこと事態に希少性が生まれます。希少という言葉に惹かれる人は多く、それは利益に繋がります。故に、特別な技術は門外不出です。
エステルさんは手品は奇跡を演出すると言ってました。手品における仕掛けとは、推理小説におけるトリックや犯人のようなものでしょう。ネタバラシをされてしまっては面白さが半減してしまうもの。そう考えれば、とてもとても気になりますが、手品の仕掛けを追求するわけにはいきませんね。
「ほぼ独学ですけどね──昔、うちに泊まったお客様にマジシャンの方がいて、その方に基礎を教えて貰って後は手探りで」
「泊まったお客様?」
「ああ、エステルは古書通りでよく手品ショーをしてるけど、客停通りにあるフェザームーンっていう宿の娘で普段は家業を手伝ってるんだ」
「アルフェンにお泊まりの際は是非フェザームーンをご贔屓に♪ 建物は古いですけど、中は清潔ピッカピッカ☆ お料理も美味しいですよ。ちなみにオススメは鳥料理です♪」
「鳥料理……ですか……」
エステルさんを止まり木にしている鳩の一羽がくるっくーと鳴きました。
……どんな反応をすればいいのでしょう……いえ、鳩は食用鳥ではありませんが。
「はい。丸焼きが最高です! 舌だけではなく、目でも楽しんで頂けるように時々お食事の時間に宿の方でも手品を披露してるんですよ。この間はこの子たちと一緒にクローシュを上げる度にお肉が鳥に、鳥が卵になる若返りの手品をしました」
「……そうですか」
それもとても凄い、凄いと思うのですが……エステルさん、発想力がかなり型破りです。
「? どうかされました?」
「いえ、なんでも。それにしても、独学とは驚きました。エステルさんは凄い人ですね。手品というものを初めて見ましたが、とても感服しました。わくわくする驚きとでも言うのでしょうか──素晴らしかったです」
称賛の言葉を贈り、拍手をするとエステルさんは頬を染めて照れながら頭の後ろを掻きました。
「それほどでも~、まぁ、ありますけど~。ちょっとちょっと、オウル様! この誉め上手のお嬢さんはどなたですか? オウル様のコレですか?」
「その小指を立てるジェスチャーが何かは分からないけど、ジゼルは僕の婚約者だよ」
「え!? あの金食い虫のワガママお嬢様の!?」
そう叫んだエステルさんに信じられないという目でまじまじと見つめられました。
──ああ、ここにもリーファの余波が……。サリブお婆様の時も思いましたが、いくら婚家の自領とはい、話広まり過ぎではありませんか……?
どこまで広まっているのでしょうと遠くを眺めていると、隣のオウル様が咳払いをしてからきっりちと訂正して下さいました。
「んんっ、違うから。婚約者が変わったんだよ。彼女はジゼル・アーモンド。婚約者のことは公表してるんだけど、本当に市井ではまだあまり認知されてないんだね──そうだ、エステル、お願いがあるんだけどこのことを皆に広めてくれないかな? 君の言葉はよく届くから」
「もちろん、構いませんよ! というか、お二人ともお揃いなのですから、この場で発表しちゃった方が手っ取り早くないですか? その方が皆も広めてくれるでしょうし──うん、我ながらナイスアイディア! この古書通りのマジシャン・エステルが最高の演出でサポートさせて頂きますので、ステージへどうぞ。さぁ!!!」
「「え?」」
「マジシャン?」
聞き慣れない言葉です。信じられない出来事を目の当たりにして、思わず口にしてしまいましたが、夢見る幼子ではないので魔法使いが実在しないことは理解しています。
ですが、魔法のようなことが出来る人がいることもこの目で知りました。それがマジシャン──どんなものなのでしょう?
「手品を見せる者のことです。不思議な力で奇跡を起こすのが魔法使いであれば、マジシャンは仕掛けと技術で奇跡を演出する者、と言えばよいでしょうか?」
「仕掛け──先程の鳩のパフォーマンスやこのリボンが切れたことには理由があるということですか?」
「その通りです。どうやったかは──秘密ですけど」
「秘伝というものですね」
技師や武人にその門派や流派に伝わる技術があるように、手品にもそういうものがあるのでしょう。先人たちが磨いてきた技を安売り出来ないという矜持もあるでしょうが、知る者が少ないこと事態に希少性が生まれます。希少という言葉に惹かれる人は多く、それは利益に繋がります。故に、特別な技術は門外不出です。
エステルさんは手品は奇跡を演出すると言ってました。手品における仕掛けとは、推理小説におけるトリックや犯人のようなものでしょう。ネタバラシをされてしまっては面白さが半減してしまうもの。そう考えれば、とてもとても気になりますが、手品の仕掛けを追求するわけにはいきませんね。
「ほぼ独学ですけどね──昔、うちに泊まったお客様にマジシャンの方がいて、その方に基礎を教えて貰って後は手探りで」
「泊まったお客様?」
「ああ、エステルは古書通りでよく手品ショーをしてるけど、客停通りにあるフェザームーンっていう宿の娘で普段は家業を手伝ってるんだ」
「アルフェンにお泊まりの際は是非フェザームーンをご贔屓に♪ 建物は古いですけど、中は清潔ピッカピッカ☆ お料理も美味しいですよ。ちなみにオススメは鳥料理です♪」
「鳥料理……ですか……」
エステルさんを止まり木にしている鳩の一羽がくるっくーと鳴きました。
……どんな反応をすればいいのでしょう……いえ、鳩は食用鳥ではありませんが。
「はい。丸焼きが最高です! 舌だけではなく、目でも楽しんで頂けるように時々お食事の時間に宿の方でも手品を披露してるんですよ。この間はこの子たちと一緒にクローシュを上げる度にお肉が鳥に、鳥が卵になる若返りの手品をしました」
「……そうですか」
それもとても凄い、凄いと思うのですが……エステルさん、発想力がかなり型破りです。
「? どうかされました?」
「いえ、なんでも。それにしても、独学とは驚きました。エステルさんは凄い人ですね。手品というものを初めて見ましたが、とても感服しました。わくわくする驚きとでも言うのでしょうか──素晴らしかったです」
称賛の言葉を贈り、拍手をするとエステルさんは頬を染めて照れながら頭の後ろを掻きました。
「それほどでも~、まぁ、ありますけど~。ちょっとちょっと、オウル様! この誉め上手のお嬢さんはどなたですか? オウル様のコレですか?」
「その小指を立てるジェスチャーが何かは分からないけど、ジゼルは僕の婚約者だよ」
「え!? あの金食い虫のワガママお嬢様の!?」
そう叫んだエステルさんに信じられないという目でまじまじと見つめられました。
──ああ、ここにもリーファの余波が……。サリブお婆様の時も思いましたが、いくら婚家の自領とはい、話広まり過ぎではありませんか……?
どこまで広まっているのでしょうと遠くを眺めていると、隣のオウル様が咳払いをしてからきっりちと訂正して下さいました。
「んんっ、違うから。婚約者が変わったんだよ。彼女はジゼル・アーモンド。婚約者のことは公表してるんだけど、本当に市井ではまだあまり認知されてないんだね──そうだ、エステル、お願いがあるんだけどこのことを皆に広めてくれないかな? 君の言葉はよく届くから」
「もちろん、構いませんよ! というか、お二人ともお揃いなのですから、この場で発表しちゃった方が手っ取り早くないですか? その方が皆も広めてくれるでしょうし──うん、我ながらナイスアイディア! この古書通りのマジシャン・エステルが最高の演出でサポートさせて頂きますので、ステージへどうぞ。さぁ!!!」
「「え?」」
226
あなたにおすすめの小説
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」
性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました
クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。
十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。
我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。
誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。
どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね
柚木ゆず
恋愛
※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。
あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。
けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。
そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。
あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす
青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。
幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。
スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。
ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族
物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる