妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶

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デート編

39.古書通りのマジシャン

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「魔法使い! なんて素敵な響き! 光栄です♪ ですが、残念ながら私は魔法使いではなく、マジシャンです」

「マジシャン?」

 聞き慣れない言葉です。信じられない出来事を目の当たりにして、思わず口にしてしまいましたが、夢見る幼子ではないので魔法使いが実在しないことは理解しています。
 ですが、魔法のようなことが出来る人がいることもこの目で知りました。それがマジシャン──どんなものなのでしょう?

「手品を見せる者のことです。不思議な力で奇跡を起こすのが魔法使いであれば、マジシャンは仕掛けと技術で奇跡を演出する者、と言えばよいでしょうか?」

「仕掛け──先程の鳩のパフォーマンスやこのリボンが切れたことには理由があるということですか?」

「その通りです。どうやったかは──秘密ですけど」

「秘伝というものですね」

 技師や武人にその門派や流派に伝わる技術があるように、手品にもそういうものがあるのでしょう。先人たちが磨いてきた技を安売り出来ないという矜持もあるでしょうが、知る者が少ないこと事態に希少性が生まれます。希少という言葉に惹かれる人は多く、それは利益に繋がります。故に、特別な技術は門外不出です。
 エステルさんは手品は奇跡を演出すると言ってました。手品における仕掛けとは、推理小説におけるトリックや犯人のようなものでしょう。ネタバラシをされてしまっては面白さが半減してしまうもの。そう考えれば、とてもとても気になりますが、手品の仕掛けを追求するわけにはいきませんね。

「ほぼ独学ですけどね──昔、うちに泊まったお客様にマジシャンの方がいて、その方に基礎を教えて貰って後は手探りで」

「泊まったお客様?」

「ああ、エステルは古書通りでよく手品ショーをしてるけど、客停通りにあるフェザームーンっていう宿の娘で普段は家業を手伝ってるんだ」

「アルフェンにお泊まりの際は是非フェザームーンをご贔屓に♪ 建物は古いですけど、中は清潔ピッカピッカ☆ お料理も美味しいですよ。ちなみにオススメは鳥料理です♪」

「鳥料理……ですか……」

 エステルさんを止まり木にしている鳩の一羽がくるっくーと鳴きました。
 ……どんな反応をすればいいのでしょう……いえ、鳩は食用鳥ではありませんが。

「はい。丸焼きが最高です! 舌だけではなく、目でも楽しんで頂けるように時々お食事の時間に宿の方でも手品を披露してるんですよ。この間はこの子たちと一緒にクローシュを上げる度にお肉が鳥に、鳥が卵になる若返りの手品をしました」

「……そうですか」

 それもとても凄い、凄いと思うのですが……エステルさん、発想力がかなり型破りです。

「? どうかされました?」

「いえ、なんでも。それにしても、独学とは驚きました。エステルさんは凄い人ですね。手品というものを初めて見ましたが、とても感服しました。わくわくする驚きとでも言うのでしょうか──素晴らしかったです」

 称賛の言葉を贈り、拍手をするとエステルさんは頬を染めて照れながら頭の後ろを掻きました。

「それほどでも~、まぁ、ありますけど~。ちょっとちょっと、オウル様! この誉め上手のお嬢さんはどなたですか? オウル様のコレですか?」

「その小指を立てるジェスチャーが何かは分からないけど、ジゼルは僕の婚約者だよ」

「え!? あの金食い虫のワガママお嬢様の!?」

 そう叫んだエステルさんに信じられないという目でまじまじと見つめられました。
 ──ああ、ここにもリーファの余波が……。サリブお婆様の時も思いましたが、いくら婚家の自領とはい、話広まり過ぎではありませんか……?
 どこまで広まっているのでしょうと遠くを眺めていると、隣のオウル様が咳払いをしてからきっりちと訂正して下さいました。

「んんっ、違うから。婚約者が変わったんだよ。彼女はジゼル・アーモンド。婚約者のことは公表してるんだけど、本当に市井ではまだあまり認知されてないんだね──そうだ、エステル、お願いがあるんだけどこのことを皆に広めてくれないかな? 君の言葉はよく届くから」

「もちろん、構いませんよ! というか、お二人ともお揃いなのですから、この場で発表しちゃった方が手っ取り早くないですか? その方が皆も広めてくれるでしょうし──うん、我ながらナイスアイディア! この古書通りのマジシャン・エステルが最高の演出でサポートさせて頂きますので、ステージへどうぞ。さぁ!!!」

「「え?」」
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