4 / 5
ヴィネの恋人
しおりを挟む
「とまれかくまれ、あれが私の元婚約者ですよ」
ソールの隣で膝を抱えて座るカナは区切りをつけて達観した眼差しへヴィネが去って行った方角を見つめ言う。
「あれがそうか。随分とカナを悪し様に言っていた。別れて正解だ」
「え?」
少し憤ったように聞こえるソールの声に、カナは目を瞬かせた。
確か、さっきソールはイヤホンで音楽を聞いていて、ヴィネがカナを悪く言っているところは聞いていない筈なのに、これは一体──。
カナが結論を導き出す前に、それを阻止するようにソールが話題を切り出す。
「カナ、次の休みはクラシックを聞きにいこう。ここの音楽団はオリジナル曲もたくさん出していて、演出も凝っているから。この曲とかカナ、好きそう」
イヤホンの片方をカナの耳に差し込み、ソールが再生ボタンを押す。
するとカナの脳内に上品な曲調ながらもポップなリズムの音楽が響き渡った。
ヴィネがくる前に話していたデートのスケジュールの話をしたいらしい。
「あー、これ好き。明るくてわくわくする感じがいいねぇ。席取れるとこ?」
「うん、今予約した」
すいすいと端末の画面を弄り、予約完了画面を見せる。時間は午後からだった。
「よぉし、じゃあ午前は美術館とかどお? 芸術繋がりで」
「いいな。会場近くの美術館は、と。お? 今何か展示やってるみたいだぞ」
「わぁ。切り絵だぁ」
◆
「あ、いたいた。カナ、婚約者と仲睦まじいところ申し訳ないけれど、ちょっと今いいかい?」
「会長! はい、何でしょう」
楽しそうな二人の元へやって来たのは、生徒会長のレオンだった。
流石のソールも生徒会長の顔は知っており、敬意を持っているのか無言のまま軽い会釈をした。
レオンの用件というのは、生徒会役員であるカナに渡しておく資料があったそうだ。
「これ、各委員が提出する資料だ。記入して来週までに提出してくれ」
「わかりました」
「そう言えば何かあったのかい?」
「え?」
「いや、いましがた走りながら「悪魔がっ、悪魔がが地獄から這い出てくるぅううう!」って叫んでいるヴィネとすれ違ったから」
「ぷっ、くく・・・・・・」
「カナ?」
「あはははははははは!」
「ど、どうしたの?」
突然、堰を切ったように笑い出したカナに、レオンは目をぱちくりさせる。
カナは愉快だった。自分を理不尽な理由で婚約破棄したヴィネが恐怖に震えて走っている姿を思い浮かべるだけで痛快だ。
婚約破棄してから、思うところがなかった訳ではない。多感な時期に身近な人間から受けた裏切りは、カナの心に相応の負荷を強いた。それが今ではどうだろう。ヴィネのことなんて全く気にならない。心が、羽のように軽かった。
それもこれも、偶然ソールがデスメタルにハマってくれていたおかげだ。
「いやぁ、因果応報ってあるんですねぇ」
「そこそこいい気味だな」
「うん、そこそこ!」
奇しくもヴィネにひと泡吹かせてやることに成功したカナとソールは満足げだが、経緯を知らないレオンには何があったのか推察することすら出来ない。
◆
「ま、ヴィネも今頃いとし~のハニーにのところにでも駆け込んで慰めてもらってるかもね」
「というか、婚約者いる相手に手を出す女って何者?」
世間を見れば浮気不倫など五万と溢れているが、学生のうちにそんな真似に走るのは珍しい。というか将来が心配になる素行だった。
「えー? んっと、確かミラ? とかいう子だった気がする。ヴィネが惚気る時に自慢気に呼んでた」
聞きたくもない恋人の話を延々と続けるヴィネを思い出しながら、ヴィネの恋人の名前を口にすると、レオンがぎょっとした。
「え!? ヴィネの恋人ってあのミラなの?」
「会長、ご存知なんですか?」
「有名人だよ。悪い意味でのね。確か彼女、常に恋人が三人いる女っていうキャッチフレーズがついている人だよ」
「「うーわ」」
そのことをヴィネは知っているのか知らないのか。
まぁ、どのみちカナたちには関係のない話だが。
ソールの隣で膝を抱えて座るカナは区切りをつけて達観した眼差しへヴィネが去って行った方角を見つめ言う。
「あれがそうか。随分とカナを悪し様に言っていた。別れて正解だ」
「え?」
少し憤ったように聞こえるソールの声に、カナは目を瞬かせた。
確か、さっきソールはイヤホンで音楽を聞いていて、ヴィネがカナを悪く言っているところは聞いていない筈なのに、これは一体──。
カナが結論を導き出す前に、それを阻止するようにソールが話題を切り出す。
「カナ、次の休みはクラシックを聞きにいこう。ここの音楽団はオリジナル曲もたくさん出していて、演出も凝っているから。この曲とかカナ、好きそう」
イヤホンの片方をカナの耳に差し込み、ソールが再生ボタンを押す。
するとカナの脳内に上品な曲調ながらもポップなリズムの音楽が響き渡った。
ヴィネがくる前に話していたデートのスケジュールの話をしたいらしい。
「あー、これ好き。明るくてわくわくする感じがいいねぇ。席取れるとこ?」
「うん、今予約した」
すいすいと端末の画面を弄り、予約完了画面を見せる。時間は午後からだった。
「よぉし、じゃあ午前は美術館とかどお? 芸術繋がりで」
「いいな。会場近くの美術館は、と。お? 今何か展示やってるみたいだぞ」
「わぁ。切り絵だぁ」
◆
「あ、いたいた。カナ、婚約者と仲睦まじいところ申し訳ないけれど、ちょっと今いいかい?」
「会長! はい、何でしょう」
楽しそうな二人の元へやって来たのは、生徒会長のレオンだった。
流石のソールも生徒会長の顔は知っており、敬意を持っているのか無言のまま軽い会釈をした。
レオンの用件というのは、生徒会役員であるカナに渡しておく資料があったそうだ。
「これ、各委員が提出する資料だ。記入して来週までに提出してくれ」
「わかりました」
「そう言えば何かあったのかい?」
「え?」
「いや、いましがた走りながら「悪魔がっ、悪魔がが地獄から這い出てくるぅううう!」って叫んでいるヴィネとすれ違ったから」
「ぷっ、くく・・・・・・」
「カナ?」
「あはははははははは!」
「ど、どうしたの?」
突然、堰を切ったように笑い出したカナに、レオンは目をぱちくりさせる。
カナは愉快だった。自分を理不尽な理由で婚約破棄したヴィネが恐怖に震えて走っている姿を思い浮かべるだけで痛快だ。
婚約破棄してから、思うところがなかった訳ではない。多感な時期に身近な人間から受けた裏切りは、カナの心に相応の負荷を強いた。それが今ではどうだろう。ヴィネのことなんて全く気にならない。心が、羽のように軽かった。
それもこれも、偶然ソールがデスメタルにハマってくれていたおかげだ。
「いやぁ、因果応報ってあるんですねぇ」
「そこそこいい気味だな」
「うん、そこそこ!」
奇しくもヴィネにひと泡吹かせてやることに成功したカナとソールは満足げだが、経緯を知らないレオンには何があったのか推察することすら出来ない。
◆
「ま、ヴィネも今頃いとし~のハニーにのところにでも駆け込んで慰めてもらってるかもね」
「というか、婚約者いる相手に手を出す女って何者?」
世間を見れば浮気不倫など五万と溢れているが、学生のうちにそんな真似に走るのは珍しい。というか将来が心配になる素行だった。
「えー? んっと、確かミラ? とかいう子だった気がする。ヴィネが惚気る時に自慢気に呼んでた」
聞きたくもない恋人の話を延々と続けるヴィネを思い出しながら、ヴィネの恋人の名前を口にすると、レオンがぎょっとした。
「え!? ヴィネの恋人ってあのミラなの?」
「会長、ご存知なんですか?」
「有名人だよ。悪い意味でのね。確か彼女、常に恋人が三人いる女っていうキャッチフレーズがついている人だよ」
「「うーわ」」
そのことをヴィネは知っているのか知らないのか。
まぁ、どのみちカナたちには関係のない話だが。
57
あなたにおすすめの小説
双子の妹は私から全てを奪う予定でいたらしい
佐倉ミズキ
恋愛
双子の妹リリアナは小さい頃から私のものを奪っていった。
お人形に靴、ドレスにアクセサリー、そして婚約者の侯爵家のエリオットまで…。
しかし、私がやっと結婚を決めたとき、リリアナは激怒した。
「どういうことなのこれは!」
そう、私の新しい婚約者は……。
妹は稀代の聖女と崇められているのだから、婚約者様のこともパパっと治してさしあげたらいいと思います
貝瀬汀
恋愛
一話完結。ショートショート。聖女様、都合のいいときだけ頼らないでくださいませ? わたくしを利用してくる妹にはうんざりです。
まさか、今更婚約破棄……ですか?
灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。
エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。
なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!?
色々こじらせた男の結末。
数話で終わる予定です。
※タイトル変更しました。
とっても短い婚約破棄
桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。
「そもそも婚約ってなんのこと?」
***タイトル通りとても短いです。
※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。
大公家を追放されて奈落に落とされたけど、以前よりずっと幸せだ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
大公家を追放されて奈落に落とされたけど、奈落のモンスターの方が人間よりも優しくて、今の方がずっと幸せだ。
悪夢がやっと覚めた
下菊みこと
恋愛
毎晩見る悪夢に、精神を本気で病んでしまって逃げることを選んだお嬢様のお話。
最後はハッピーエンド、ご都合主義のSS。
主人公がいわゆるドアマット系ヒロイン。とても可哀想。
主人公の周りは婚約者以外総じてゴミクズ。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる