闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
90 / 1,458
0000

第0090話 「薬老の決意」

しおりを挟む
呆然と窓辺に突然現れた少女を見つめ、暫く経ってから蕭炎は不思議そうに囁いた。

「なぜここに来たのか?」

「ふん、この状況を見れば、彼女も同じ目的なのかもしれないね」薬老は奇妙な笑みを浮かべて言った。

眉を顰めながら、蕭炎は影の中に身を潜ませ、内心で問うた。

「薰子の実力…なぜこんなに強くなったのか?先ほどの動きを見れば、大斗師並みかもしれないが……」

「彼女の本当の実力は普段のままだ。

しかし今は秘術を使っているから一時的に強化されたのだ。

彼女の出自を考えると、そのような奇異な秘術を持っていることも珍しくないよ」薬老は淡々と答えた。

それを聞いて蕭炎は驚きを隠せなかったが、すぐに嘆息し、薰子の不思議な背景についてためらうように嘆いた。

首を横に振ると、視線を遮るカーテン越しに奇妙な雰囲気の部屋を見つめた。

その頃、柳席は欲望で頭がぼんやりしていたため、窓辺にいる少女には気づいていなかった。

しかし彼女が床から立ち上がろうとした瞬間、突然動きが止まった。

六星斗者の彼も違和感を察知し、首を回して開けた窓を見やった。

月光の中に、金色の衣装をまとった少女がくつろいでいる様子だった。

その目は炎のように輝き、部屋の中の狼狽うする男を見るだけだ。

手には金色の炎が踊り、妖異な軌跡を作っている。

柳席は月光に映る少女を見つめ、その完璧な容姿と超凡脱俗な雰囲気に心を奪われた。

しかし突然背後で何かを感じ取り、急に振り返った。

死の気配のような不気味さが欲望を完全に消し去り、彼は慌てて部屋から飛び出した。

ドアまで数秒しかかからない距離だったが、その瞬間足元で何物かが動いた。

柳席はバランスを崩して床に転んだ。

血と歯の断片が口から飛び出し、地面に散らかった。



顔を覆うように俯むと、その両足にはいつの間にか二つの拳大の血穴が現れていた。

血穴の周囲は焦げた黒い色で、そこから漂う焼けた匂いに柳席は目眩みがする。

「来人啊,有人要刺杀我!」

激痛に意識を曵かせながらも、柳席は歯を食いしばり叫んだ。

「誰も聞いていない。

部屋は私の気配で包まれているのだから」と窓辺から少女が淡々と告げる。

「お前……一体何をしたいのか?金や薬草が必要か?私は全て与える。

ただし、私だけに」

恐怖で顔色を変えた柳席が叫んだ時、少女は軽く笑みを浮かべてその言葉を遮った。

蓮の足音と共に窓から降り立つと、少女は優雅に歩き始める。

「薰(くん)は青髪だったはず……」蕭炎が気づいたように呟く。

今や彼女の長い黒髪は地味な光を放ち、その秘儀の結果であることが明らかだった。

広い部屋で金色の衣装に身を包んだ少女は、床に這りながら叫ぶ柳席へと向かう。

彼女が近づいた瞬間、柳席の胸に金色の炎槍が突き刺された。

「なぜお前はあの男を侮辱したのか?お前にはその資格があるのか?」

少女の声は凍り付くほど冷たい。

炎槍は再び柳席の体に突き刺され、血穴が広がった。

意識を失いかけた柳席の目は恐怖で開き、顔色は更に蒼白くなる。

少女はその死体を見下ろし、「もしも炎上(ヤンホウ)さんから咎められるなら……加列家はもうこの世になかったでしょう」と呟いた。

「どうせまた馬鹿なことを考えているんだろう」少女は窓辺で深呼吸をし、夜色の中に消えた。



「啧啧、この娘は温かみがあって可愛らしいのに、殺人をやる時はこんなに素早くて冷酷だね。

ほら、今回は良い獲物を見つけたんだよ」薬老の皮肉な声が、蕭炎の頭の中で響いた。

苦笑着首を振りながら、蕭炎はため息をついて言った。

「今日は夕方まで来たら無駄だった」

「ふん、必ずしもそうとは限らない。

その娘は手が出せないほど鋭利だけど、年が若くて経験不足だから」薬老は淡々と笑った。

それを聞いた蕭炎は驚いて尋ねた。

「どういうこと?」

「見てろよ」薬老は神秘的な笑みを浮かべてから沈黙した。

薬老の態度を見て、蕭炎はため息をついて首を振り、暗闇の中にさらに体を潜め、部屋の中の様子を凝視し続けた。

薄暗い部屋の中で、床に寝ている侍女がうっすら呼吸する以外、静寂が支配していた。

十数分間待った後に、蕭炎の眉が寄り始めた瞬間、彼は柳席の死体を見つけると瞳孔を一瞬絞めた。

門口で、柳席の死体の手がわずかに動いた。

その目は開き、顔から灰色の影が消えるように見えた。

「あー、この娘が死ぬまで我慢できない」柳席は胸元の血の穴を見つめながら吐露した。

「でも、もし私が出て行く際に先生から『亀息丹』を盗んでいなかったら、ここで死んでいただろう」

玉瓶から白い粉末を取り出し、傷口に塗布し、淡青色の薬を服用する。

その動作が終わると柳席の顔色はさらに蒼白になった。

「この重傷は半年かかるだろう。

明日加列家に帰って先生を呼び、先生が手伝ってくれれば蕭家はもう終わりだ。

あの娘を絶対に許さない」

突然の笑い声で柳席の思考は途切れた。

暗闇から黒衣の人影が現れ、掌からは不気味な白炎が発せられた。

「異火?」

柳席の目が広がった。

「お見事、ご褒美だ」

黒衣の男は笑いながら掌を振ると、瞬時に柳席は灰燼となった。

一品薬師・柳席は大陸から完全に姿を消した。

黒衣の男は拍手し、地面の灰を一掃して窓際に上がり、加列家を飛び出した。

屋根際で足を止めた瞬間、目の前に金色のドレスを着た少女が現れた。

「貴方は誰ですか?」

少女は髪を払うと顎を上げて尋ねた。

秋水のような目は彼を見つめている。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私は貧しい家に生まれた お母さんが作ってくれたパイを始めて食べて食の楽しさを知った メイドとして働くことになれて少しすると美味しそうなパイが出される 王妃様への食事だと分かっていても食べたかった そんなパイに手を出したが最後、私は王族に気に入られるようになってしまった 私はつまみ食いしただけなんですけど…

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

処理中です...