闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0334話 0003年の約束!

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雲嵐宗はガーマ帝国で最も強力な勢力の一つだ。

その血脈は代々継承され、この古くからの門派が帝国の頂点に立っている。

もし宗派の戒律に反するなら、王権を奪うことも可能だが、これまで何度も皇朝が交代した中で、雲嵐宗は常に帝国全体を支配下に置いた。

しかし、宗派の戒律により帝王の権力を侵すことは禁止されているため、現在のガーマ皇室は加刑という守護者とその神秘的な異種モンスターの保護を受けている。

そのため、この時代の皇室は雲嵐宗にも少しだけ畏れを抱いている。

そして、山脚に配置された精鋭部隊が存在し、これまでずっと平和だった。

皇室がその軍団を配置した目的は誰もが知っている。

それは雲嵐宗に対する防衛のためだ。

雲嵐宗側としては反撃する意欲はない。

若い弟子たちが最初に軍営地で小規模な妨害を行ったことはあるが、門派の上層部は黙認している。

彼らも「ベッド横に他人が寝ていては眠れない」という諺を知っているからだ。

雲嵐宗が崩壊する限り、山脚の軍団は一歩も動けない。

ガーマ帝国のどの朝代も雲嵐宗に対して手が出せなかったのは、この巨大な蜂の巣に触れるリスクがあるためだ。

雲嵐宗は雲嵐山の頂上に位置し、帝都から数十里の距離にある。

二つの強大な存在が互いに対峙している。

三年間待った蕭炎は紫雲翼を使わずにゆっくりと進み始めた。

黒装の青年が巨斧を背負っている姿は苦行者のように見える。

広い道を歩く彼の背後に巨大な巨斧があるため、通りすがりの車馬から驚きの視線が集まる。

しかし蕭炎はそれを無視し、軽やかに進み続ける。

巨斧の重さは初見では衝撃的だが、二年間の慣れにより彼はその重量を全く感じていない。

足跡も浅く、かつてのように深く残る影はない。

一歩ずつ進む姿からは、単なる若者ではなく何らかの意図が読み取れる。

出城門を出てからすぐさま大斗師に昇級したばかりで、体中の気力が周囲の人々を圧倒しているため、誰も彼の近くには近づけない。



これまで歩んできた道。

そして今、その果てに。

蕭炎の体外に満ちる気は、その一部が体の奥深くまで浸透していた。

再び見ると、背後の巨大な槍以外に異常は認められなかった。

太陽が平線を越えると、萧炎は斜坡の頂上で足を止め、視界の先端に広がる山麓を見やった。

そこには軍営地帯が連なり、白いテントが起伏をなして並んでいた。

目を凝らすと、その向こう側に訓練中の兵士たちの姿も確認できた。

「やはり加マ皇族は雲嵐山下で精鋭部隊を配置しているようだ」そう考えながら、蕭炎は斜坡を降り、大通りへ向かう。

軍営地帯の警備は厳重だが、登山客には特に障害はない。

彼は路傍の哨兵の視線にさらされても容易に山道を上った。

周囲が鬱蒼とし、訓練音も次第に遠ざかってきた。

顔を上げると、目の前に無数の青石段々が連なり、まさに通じる階段のようだ。

その先端には雲が漂い、山林の風にそよぐ様子は鐘のような響きで、心を酔わせる。

暫くの沈黙の後、蕭炎は目を開け、背中の槍を軽く叩いた。

そしてゆっくりと古びた石段に足を下ろした。

この瞬間、三年の約束がついに達成されたのだ。

その刹那、彼の魂が三度の抑圧を吐き出すように感じた。

三年前、屈辱と怒りで家を飛び出し、深山や砂漠を駆け抜け、血と鋼の世界で自己を変容させた。

全ては今日の約束のためだった。

胸に込み上げる複雑な感情を感じながらも、彼は均等な歩調で石段を進み続ける。

視線は段々の先端に向けられ、その頂上には雲の向こう側に座す女性の姿が浮かんだ。

「ナラン・ヨウレン」口元から静かに名前が漏れる。

石段の果てには広大な広場があり、中央に巨大な石碑が立っていた。

そこに刻まれるのは雲嵐宗の歴代宗主や功績ある人物たちの名だ。

広場を見渡せば、月白色の衣を纏い、袖口から剣が舞う人々が円弧状に並んでいた。

彼らは皆、微かな剣気を湛えているように見えた。



高い階段の石造り。

そこには高台が連なり、段々と上昇している。

大体は、上層部ほど年齢が高いという特徴がある。

最上階の石台は空いているが、その下には十数人の白袍老者が座っている。

彼らの外見からは特別な特徴は見えないが、衣服の衣袖は鋼のように風に揺らぐこともなく、人々の心を捉える存在感がある。

これらの老人は、単なる凡人ではない。

その高台のすぐ隣には、石段の一つが独立している。

そこに立つのは月明かりのような白い長袍と赤い短衣の女性だ。

彼女は目を閉じて微風を感じ、衣装が体にぴったりと張り付いて、その完璧なプロポーションが露わになっている。

カメラワークはその静かな表情に移動し、そこには明らかに「ナラン・ヤンラン」の姿がある。

広場には約千人の人々が集まっているが、風の音を除き、他の声は一切ない。

時折微風が通り、白い衣装が揺れ動き、雲のように降りてくるように見える。

その光景は圧倒的な美しさだ。

突然、空気を切り裂く破風音が響き、巨木の枝先端に人影が現れる。

視線を向けた瞬間、周囲の樹木の頂上に多くの人々が立っていることに気づく。

海波東やファーマ・ガルデイン、ナラン・ケイなど、強力な存在たちもその中にいる。

雲嵐宗が招いた来訪者は多いようだ。

彼らは静かに立ち、広場の沈黙を破らないようにしている。

雲嵐宗の実力ある弟子たちはその存在を感じ取っているが、反応はない。

皆が円滑に動くように調整されているのか、まるで一つの体のように見える。

海波東は木の枝から目を凝らし、広場を見渡す。

彼のような強者が見れば、呼吸のリズムが完全に一致していることに気づく。

千人の気配が絡み合い、一歩間違えば連鎖的な反撃が来るだろう。

その規模は斗皇級でも避けるべきだ。

「やはり雲嵐宗は凄い」と彼は心の中でつぶやく。

この程度の協調を達成するには、どれほどの努力が必要か知っているからだ。

法マルガルデインも同じように考え、二人はお互いに視線を合わせる。

雲嵐宗の合体大陣は彼らの警戒範囲内にある。

広場は依然として静まり返り、時間は過ぎていく。

頂上では太陽が真っ赤な光を放ち、山頂全体を包む。

突然、階段から小さな足音が響く。

その瞬間、広場の一体感にわずかな変化が生じた。



雲嵐宗の門下生たちは目を開け、その視線は青石段々に向けられた。

軽くも重くもなく響く足音がどこからか聞こえてくる。

石台の上ではナラン・ヤーランもゆっくりと目を開き始めた。

彼女の視線は特定の場所を注視し、なぜか以前よりもぼんやりしていた瞳孔が突然乱れ動き出した。

その足音は次第に近くなり、次第に大きくなる。

白袍の老臣たちも十数人、同じ方向を見上げた。

空高く、太陽の光が雲間から漏り出し、ちょうど段々の最後端にまで届いた。

そこには、背後の巨闆を背負った黒衣の青年が、ようやく多くの視線の中に現れた。

広場に集まった約九〇〇人の目はその男を見つめ、彼も巨大な広場を横目にし、石台に立つ美しい女性へと視線を向けた。

歩みを進めるごとに、その足音は静かに響くだけだった。

三歩目で青年は顔を上げ、目の前の女性を見詰め、やっと口を開いた。

「蕭家 蕭炎」

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