闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0812話 波動

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凹静の大広間に漂う薄い花の香り。

小医仙と紫研が静かに座っている。

前者はまだ平静だが、後者は明らかに不機嫌な表情だ。

「もう二日も密室でいるのに、どうして一向に終わらないんだ?」

紫研が椅子から立ち上がりながら尋ねた。

その足取りは早々と再び落ち着き、彼女はため息をついた。

「薬煉は時間がかかるものよ。

焦らせないわ」

小医仙が淡黄色の書物を置き、密室の方へ視線を向けた。

その目元に一抹の喜色が浮かんだ。

「もう少しだけ待ってみて」

紫研が唇を尖らせて不満げに頬を膨らませると、突然大広間全体が激しく震えた。

二人は同時に密室の方へ視線を向けた。

そこから異様なほど濃厚なエネルギーの波動が形作られつつある。

「薬煉が成功しそうよ」

小医仙が目元に喜びの色を浮かべながら言った。

彼女は薬煉師ではないが、この程度のことは見識があるのだ。

高価な丹薬が完成する際には必ずしも大きな騒動になる。

「気をつけないと。

ここはブラック・ロウガーで人目が多すぎるわ。

強者も多いから、この騒動は隠せない」

小医仙の声に厳しさが含まれる。

その言葉を途端に密室の中から凄まじいエネルギー波動が爆発した。

すると「バチッ」という音と共に約半尺の光の柱が突き抜け、天井を破って空高く伸びた。

小医仙はその光の柱を見つめながら眉をひそめた。

紫研も同じように困惑した表情で彼女を見上げる。

「蕭炎が何を作っているのかしら?こんな大きな騒動……これではブラック・ロウガー全体が驚かされるわ。

紫研、ここに来る人間は全て殺すのよ」

小医仙の声には凍り付くような冷たさがあった。

紫研が頷きながら質問を投げかける。

「あなたはどうするの?」

小医仙の灰と紫の双眸に鋭い光が走った。

この騒動は間違いなく強者たちの注意を引きつけるだろう。

特に死神のような老練な存在が干渉すれば、蕭炎には重大な危険が及ぶ。

「私は現れるわ。

彼らの意図を威嚇する必要がある」

小医仙の姿が突然消え、次の瞬間屋根に立っていた。

冷たい視線で周囲を見回す。

小医仙の予想通り、その光柱はたちまちブラック・ロウガー内の強者達の注意を引きつけた。

彼らはその光の中から感じ取る純粋なエネルギーに驚愕し、瞬時に建物や木々から姿を現した。

近距離で観察すると、光柱の正体が判明した。

人々は次々と驚きの声を上げた。



「光柱の中に丹薬の香りが充満している。

その部屋で誰かが丹薬を練っているようだ」

「高段階の丹薬は確かに騒動を起こすが、七品丹薬でなければこの異変は見られない。

まさか七品丹薬を作っているのか?」

「それは無理がある。

七品丹薬が完成する際の騒動はこれよりずっと大きいはずだ。

やはり六品上位の稀少な丹薬だろう」

「うーん、こんな異変を起こすような丹薬は尋常ではない。

下界にいる煉薬大師は誰か?黒皇宗の齊山か?」

「ふむ、齊山はまだ六品に昇進したばかりだ。

この六品上位の丹薬を作れるわけがない」

周囲に集まる強者たちのささやきが増すにつれ、その光柱を見つめる人々の目には次第に貪欲な色が滲んでくる。

こんな騒動を起こすような丹薬は決して凡品ではない。

「シュッ!」

突然破風音が響き、瞬く間に人影が飛び込んでくる。

最後は空中で停止し、驚異の表情で突き立つ光柱を見上げる

「この黒皇城にこんな煉薬大師がいるとは知らなかったな。

一体何者だ?」

空を覆う十数人の人影の中で白髪の老者が驚きを滲ませた。

その隣には羽根を振って浮かぶ男がいた。

彼の容貌は少し見覚えがある。

よく見れば蕭炎の兄、蕭厲だった。

そしてその白髪老者は内院大長老、蘇千以外にない

「うむ、この騒動を見る限り丹薬は七品に近いかもしれない。

しかしそんなレベルの丹薬を作れるのは齊山だけだ」

蘇千が微かに頷き、周囲を見回した後、視線を鋭くする

「魔炎谷の人間も来ていたようだ」

その言葉に蕭厲も驚きを隠せない。

蘇千の視線方向を見やると、対岸の空に一団の人物が浮かんでいた。

先頭は魔炎谷の大長老、方言だった

「あの連中とここで会うとは……帰り際に彼らを許すわけにはいかない」

蕭厲が冷ややかな笑みを浮かべる。

その視線の先にいる赤髪の老人を見つめながら

「えっ?」

蘇千が微かに眉をひそめた後、淡々と方言の方へ目を向けた。

その時だけ灰袍の人物を見て驚きの声を上げた

「大長老、どうした?」

蕭厲が不思議そうに尋ねる

蘇千は眉を寄せて首を横に振った。

しかし灰袍の人物を見つめる視線には何か違和感があった

魔炎谷の一団もこちらを見てきた。

双方の視線が交差する瞬間、空気中に殺伐な気配が満ちた

「蘇千という老害まで来たのか……今回は彼らを捕まえるのは難しいかもしれない」

方言が眉をひそめて目を離すと、その視線は再びこちらに向けられた

「その時は彼もろとも殺せばいいさ」灰袍の男が袖を軽く震わせながら無表情に言った「今になって私はこの丹薬を作った人物が誰なのか気になってきた。

こんなレベルの丹薬を作るなら、黒皇宗の齊山よりもさらに上手い煉金術師だろう。

この黒角域にはいつからこんな級の煉金術師がいたのかな」

「詳しくは分からない。

今回の黒皇城に集まった強者たちの中の一人かもしれない」方言が首を横に振りながら低い声で答えた

「うむ、だがその人物がここで丹薬を作っているのは確かだ。

現在成丹の最中だろうから少しでも邪魔すると丹は失敗するだけでなく反撃される可能性もある」

「では貴方はどうなさりたい?このレベルの煉金術師なら魂も相当強いはずよ」方言が口角を上げて冷ややかな笑みを見せた

光柱がある建物の上部に白い影がゆっくりと浮かび上がった

「百メートル以内の者は皆殺し」

その白い影は冷たい灰紫の双眸で周囲を見回しながら特定の方向に一瞬止まった後鋭く叫んだ声が空を震わせた

その叫びと共に凄まじい気魄がその美しい身体から猛然と溢れ出し、それを感じ取った場の者たち全員が顔色を変え連続して驚きの声を上げ始めた

「斗宗級の強者か?」

その驚きの声に続いて、その殺意に包まれた冷たい気配を感じた人々はぞくっと身震いしながら後退り始めた

「この娘が斗宗級の強者なのか?どうしてこんな若いのに……」その凄まじい気魄を肌で感じながら方言は目を見開いた。

黒角域にいつからこんな若き日の斗宗級強者がいるというのか?

「十秒以内に退け」

方言が驚愕していると、その冷たい視線が突然こちらへ向けられ眼の中に宿る無情な殺意が魔炎谷の長老たちの心臓を鈍く刺した

しかし胸中で凍りつくほど寒さを感じたとしても、この場にいる人物は特別だった。

方言は黒角域での地位を誇る存在であり、ましてや灰袍の男が同行しているのだ。

普通の人間とは異なる。

「まずは退くべきだ。

こんな時に無闇に敵対するのは賢明ではない」灰袍の男が静かに言った

その言葉に方言は一瞬で我を失い頷き、手を振って人々を連れて後退り始めた

周囲の人々は魔炎谷の一団が白装束の女一人の命令で引き返す様子を見て舌打ちした。

やはり斗宗級の強者とは油断ならない存在だ

魔炎谷の一行が去った後の空には、蕭家の一団だけが残っていた。

白い影は殺意に満ちた視線を彼らに向けてゆっくりと向け始めた

その冷たい視線を感じ取ると蕭家の面々も顔色を変え蘇千と目配せし互いに退くよう合図したが、白装束の女は突然眉根を寄せ不確かな声で言った

「あなたたちが蕭門の人間か?」



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