闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0840話 化生火

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灰色の炎が蕭炎の頭上に浮かんでいる。

その色は灰褐色で、灰色の太陽のように空間を歪ませる恐ろしい高温を発し続けている。

この温度はかつて蕭炎が得た青蓮地心火に近いものだが、**(ここに補完が必要な単語)**という言葉が浮かぶ。

確かに近いものの、異火はこの世界で唯一無二の存在だ。

その不可逆性を萧炎はよく理解している。

弄焰決の奥秘は確かに深いが、異火を生み出すことは不可能だ。

最大限に近づくだけではあるが、「超越する」というのは永遠に叶わない。

魔炎谷の三位長老である方言たちも同じ考えにはない。

彼らが体内の斗気で作り出した灰褐色の炎は、彼らの確信に満ちている。

この「化生火」は多くの敵を葬り去ってきた。

その中には黒角域の頂点級戦士さえ含まれていた。

灰色の炎がゆっくりと舞い上がり、方言の冷たい笑みと共に突然三つに分裂した。

それぞれが彼らの体の中に飛び込んでいく。

体内に入った瞬間、三人の周囲から猛り立つ熱気は潮のように蕭炎へ押し寄せた。

その波涛の中で蕭炎の衣が翻るが、彼の表情は変わらない。

三人を見回し、軽く笑った。

「三位、この炎を融合させたというものの、実際は自分たち自身に傷を与えるようなものではないかと…」

萧炎の笑い声に応じて方言も冷ややかに言った。

「蕭門主は良い眼力だ。

我々が『化生火』と呼ぶこの炎を融合させるたび、老夫らの体内には必ずや灼熱の傷が残る。

だが菩提化体涎を取り戻せば、それなど些細なことだ」

「なるほど、貴方たちがそれを『化生火』と名付けるのも無理はない。

魔炎谷の弄焰決は確かに独自性があるが、本物の異火と比べれば見劣りするものよ」蕭炎は笑みを浮かべながら手印を作り始めた。

「天火三玄変!」

その瞬間、碧緑色の炎が火山のように彼の体内から噴出し、体の周りを包んでから再び内部に戻った。

その過程で蕭炎の気力は急激に増大した。

現在の蕭炎は四星斗皇だが、**(ここに補完が必要な単語)**という言葉が浮かぶ。

天火三玄変の加成があれば、彼は斗皇頂点級と互角に戦える。

しかし方言のようなほぼ斗宗に近い強者とはまだ差があるのだ。



「久しくも聞かせていただいた、蕭門主が異火を操るという噂は真実のようだ。

今や我ら三人にその力を披露していただきたい。

言ってみれば、我が等の『化生火』と真正の異火が対決する機会など滅多にないものよ。

この度は、蕭門主にお手本を拝見したい次第だ」

方言が冷笑いながら答える。

蕭炎の急激な気配変化にも動揺の色はなく、彼が秘法で実力を向上させていることを事前に知っていたからだろう。

「聞かれたか? 一対三となれば、正直手間取るところではあるが…この三人が斗気を用いず炎で勝負しようとする点が問題だ。

己の短所で敵の長所に突っ込むとは、自ら苦境を作り出すようなものではないか」

蕭炎の唇端が微かに歪んだ。

屈指を軽く弾くと掌上に淡青色の炎が浮かび上がる。

翡翠のような碧緑ではなく、その色は透明な水玉のようにも見える。

これは『琉璃遂心火』ではなく、彼が長らく単独で使わなかった第一の本源異火──『青蓮地心火』だ。

この異火は蕭炎にとって最も親しいもの。

制御の度合いでは言うまでもなく完璧で、指先から自然と流れるように炎を操ることができる。

その時、蘇千と小医仙が韓楓と莫天行に囲まれ激戦中。

一方、モヤイとチサンは紫研へと近づきつつあった。

明らかに二人で彼女を抑え込もうとしているようだ。

モヤイとチサンの動きを見た蕭炎は眉根を寄せた。

その目には鋭い殺意が宿る。

この卑劣な連中、子供相手に多数派で勝負するなど許容できない。

紫研も蕭炎の視線を感じ取ると、軽く頬を膨らませて笑みを浮かべた。

「大丈夫よ、あの二人は私が相手にするわ。

あなたはその三人おじいちゃんたちとどうにでもして」

紫研の声が耳に届き、蕭炎は僅かに驚いた。

彼女は特に不安そうではなかった。

何かしらの秘密を持っているようだし、手段も色々と持っているらしい。

この斗皇に入って間もないにも関わらず戦闘力は相当なものだ。

モヤイとチサンが連携してもすぐに片付けるほどではない。

「萧門主よ、今や分心する時ではあるまい」

蕭炎の視線を四方八方に走らせている間に、方言が冷然と笑みを浮かべた。

手印を激しく動かすと灰褐色の炎が彼の周囲に渦巻き、半尺ほどの炎鳥へと変化した。

その炎鳥は翼を羽ばたくと蕭炎へ向けて鋭く突進する。

灰褐色の炎鳥が一瞬で蕭炎から丈許りの距離まで迫った時、突然淡青色の炎網が現れた。

それはまるで空から降るように伸びて炎鳥を包み込む。

炎鳥が炎網に捕らえられた瞬間、方言の顔に険悪な表情が浮かんだ。

手印を変えると炎鳥は風船のように膨張し灰褐色の炎が淡青色の網を炙り始めた。

網は徐々に虚ろさを帯びて…「えっ?」



青蓮地心火で構成された炎の網が変化したことに気付いた蕭炎は低く驚きを漏らし、目元に異様な光を浮かべた。

方言三人が一生かけて凝縮させた「化生火」は確かに独自の特徴を持ち、少なくとも獣火と比べて格段に優れているようだった。

しかし、「化生火」がどれだけ強力であろうと、本物の異火とは比較にならないほど脆いのだ。

唇の端に冷ややかな色を浮かべながら、蕭炎は掌を強く握り締めた。

膨張し続けた青色の炎の網がついに限界を迎えようとしたその時、突然強烈な光芒を放ち猛然と縮小した。

爆発音「プチッ!」

と共に巨大な炎鳥は網から切り離され、無数の炎の粒子となって方言体内へと流れ込んでいった。

「グハァ!」

炎が逆流する中、方言の喉からは低く重い呻き声が漏れた。

先ほどの炎の衝突で彼も少なからず傷ついていたようだ。

その「化生火」が分離し網を回避したことに蕭炎は再び驚嘆し、ある驚愕の考えが頭をよぎった。

「もしこの『化生火』を捕獲して焚決(フンケツ)で吸収・精錬するなら…焚決に進化させる可能性はないか?」

方言三人の一生の斗気で形成されたこの炎は、異火ではないものの蕭炎がこれまで見た中でも最も強力なものだった。

そしてとにかく炎ならば焚決は吸収できる——かつて紫火を精錬した時と同じように。

ただし現在の焚決の段階では通常の獣火は効果がないが、「化生火」は異なるかもしれない。

この炎を捕獲すれば方言三人の実力は大きく低下し、再びここまで回復するにはどれだけ時間がかかるだろうか。

そのような状況を想像すると、蕭炎の口角にさらに鋭い笑みが浮かんだ。

「お前たちが炎遊びをするなら、おれにも見せてやる!炎は形を持たないものだよ」——通常人間が捕獲するのは難しいが、二種類の異火を持つ彼には苦労しない。

「老二(ろうに)、老三(ろうさん)!」

蕭炎の思考を察したのか、先ほどまで暗い表情だった方言が険しい声で叫んだ。

「星空火宿(せっくうかそく)!」

その呼びかけに魔炎谷の長老二人は一瞬驚き合ったが、すぐに牙を剥いて手印を変えた。

体内から濃厚な茶褐色の炎が四方八方に噴出し、空中で絡み合い、方言も自身の化生火を全て融合させると、その間に異様に激しいエネルギー波動が発せられた。

「バァッ!」

茶褐色の炎雲が翻騰する中、突然鷲のような鳴き声と共に灼熱の風が吹き出し、十丈を超える巨大な灰褐色の炎神鳥がゆっくりと形を成した。

その姿を見た蕭炎は目を瞬かせながらも、すぐに笑みを浮かべた。

「この星空火凰(せっくうかりょう)は三人の化生火を全て凝縮したものだろう」「ならば…おれは遠慮なく頂戴するよ」

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