闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1079話 寒冰王座

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青海の穏やかな笑みが一瞬で消えた。

その白い影が現れた刹那、彼は掌を引き込み体を震わせ凝固した空間から脱出し後退り始めた。

「貴様は一体何者か!?魂殿の関係に口出しせずともよかろう」

青海の怒声が会場に響き渡る。

空間歪みが徐々に解消され、その白い影が全員の視線を引きつけた。

雪白の髪は臀部まで垂れ、微風で優雅に揺らぐ。

素白の衣装からは類まれなる美しさが滲み出ていた。

多くの人々はその顔を見ることはできなかったが、細くしなやかな腰線から見る限り、まさに稀代の美女であることは明らかだった。

この姿を目の当たりにした蕭炎は一瞬で悟った。

小医仙以外にはあり得ない存在だ。

「成功したのか」

小医仙が現れたその時、蕭炎は驚きと喜びで目を見開いた。

彼女は首を傾げて振り返り、美しい顔を覗かせた。

美しくも冷たい視線が蕭炎に向けられると、彼の唇角に残る血痕を見て突然表情が険しくなった。

「あいつがやったのか」

「心配するな。

あの男は私がこれほど傷つける前に、十倍以上の重傷を負わせたんだ」

萧炎は笑みを浮かべ小医仙の様子を凝視した。

彼女の実力は既に斗尊級を超えていると直感していたが、その深遠な存在感は底なしの淵のように不気味だった。

「お前も蕭炎の仲間なのか」

青海が険しい表情で小医仙を見つめる。

彼女は軽く頷き、冷ややかな視線を青海に向けた。

「この件は魂殿と萧炎の因縁だ。

わざわざお前が関わろうとするなら、己の身分を考えてみよ。

貴様のような存在が許されるほどの勢力ではない」

青海の顔に怒りの色が浮かんだ。

先程の空間凝固術を見た彼は、相手の方が一線高いと感じていた。

三段階斗尊級に達したのかどうか、その実力を正確に測る方法がなかった。



「この若造の側にこんなにも強者が集まっているのか? 二人のドゥンゼン、我がフンテンですら軽視できない相手だ」

青海の目が小医仙の背後に立つ蕭炎へと向けられた。

大陸の端辺で生まれたはずの彼がどうして二人のドゥンゼンを護衛に持ってくるのか、理解不能だった。

「フンテンは聞いたこともないが… その一筋の髪さえも価値がある」

小医仙は青海の脅しを軽く笑い飛ばした。

彼女自身の毛髪一本の価値は、この老いた男の命よりも遥かに高い。

「おや、青海様が怒り出されるようだな… その言葉は相手を傷つけるものだよ」

蕭炎はため息をつく。

青海の怒りが沸騰する直前だった。

「ならば本尊者も試してみよう。

貴方の言うことが本当かどうか、ここで証明しようではないか」

小医仙の声が途切れた瞬間、青海の顔色が一変した。

枯れ葉のような手のひらに青白い光が宿り、鋭く言い放った。

「甘大、その男を捕まえろ。

この相手は私が取る」

九名のフンテン強者が青海の命令で天空から降り立つ。

彼らの気配は天蛇(てんざ)には及ばないが、先頭に立つ甘大は七星ドゥンゼンという実力を持つ。

灰色の霧が蕭炎を包み込む。

外見的には透き通るほど薄いが、その中に潜む劇毒は一触即発だった。

甘大たちもその危険性を感じ取り、一人が黒衣で体を覆って接近した。

「チィッ!」

という音と共に、彼の肌に灰色が広がり始めた。

毒性の反応に驚きながらも、甘大は周囲を見回す。

小医仙は青海へと視線を向けた。

その美しい目には冷たい光が宿り、この老いた男が蕭炎を捕らえようとする行為は許せない。

「私もドゥンゼンの実力を試してみる価値があるわ。

まずは貴方から」

小医仙嫣然一笑、白い手を軽く握ると灰色の気息が長い指に絡みつき、その気息が空間を渡る度に微細な波動が周囲に広がった。

青海の顔が引き締まった。

次の瞬間凶光を宿した目で身を翻し歪んだ空間を突き進み小医仙の前に現れた。

枯れ葉のような手は鷹のごとく伸び、その指先から激しい空間の震動が発生し白い首筋に直撃する。

軽やかな一歩で青海の鋭い攻撃を避ける小医仙は掌に纏った灰色の気息を強めた。

長い指が虚ろな空間を叩くと光速で相手の体に襲いかかった。

灰気の迫り来る瞬間青海は顔色を変えた。

その寒さは肌に直接触れる前に既に心臓を刺すような冷えだった。

「バキッ!」

青海の拳から青白い光が迸り空間を波打たせながら小医仙の手首めがけて直撃した。

衝突地点で空間が黒い亀裂を開き小医仙の体が震えた一方青海は二、三歩後退してようやく平衡を取り戻した。

息を整え青海は苦々しい表情になった。

掌から細い血柱が噴出する音と共に体内に侵入した毒気が吐き出された。

この劇薬はこれまでの経験の中で初めて出会ったものだった。

小医仙は追撃せずに炎の尊者のそばへ移動し掌で周囲の毒霧を収束させた。

空間が歪むと天火尊者の姿が現れた。

「炎斗師に傷がある。

手勢が足りないからここで戦うのは危険だ。

逃げるべきだ」

尊者は厳しい声で言った。

小医仙も頷いた。

この場所には長く留まれなかった。

「私が寒気の壁を破る、貴方は炎斗師を連れて行く」

尊者が空を見上げた。

青海の姿が視界に入った瞬間尊者はその場に消えた。

「オウ!」

尊者の拳が轟音と共に打たれ霧の壁が激しく揺らぎ薄くなっていった。

天霜子は顔を引き締め青海と尊者に向かって駆け出した。

二人の動きを見た小医仙は瞬時に反応し掌から灰色の毒気を撒き放ち天霜子と青海が身を固めた。

尊者は再び拳を振り上げ霧の壁に新たな亀裂を開いた。

「青海尊者、動く!彼らを逃がすな!」

尊者の動きを見た瞬間青海は尊者に向かって駆け出した。

尊者が炎で包まれる前に小医仙は尊者と炎斗師を連れて霧の外へ出ようとした。

「バキッ!」

尊者の拳が轟音と共に打ちつけ霧の壁が完全に崩れた。

尊者は炎の中に消えた。

青海は尊者の残した炎を見つめながら深く息を吐いた。

灰色の気息が再び広がり辺り一面に冷気が満ちた。



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