闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1162話 0008品丹薬

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遠方から向けられた挑戦の視線を、蕭炎は軽く目をやっただけでそっと逸らした。

この男は普段なかなか見せない面があるが、今日は明らかに興奮しすぎているようだ。

七品頂峰の薬か?

その場でそう思った瞬間、蕭炎の口許には自然と冷笑が浮かんだ。

この成績なら上位十に入るのは難しくないが、それだけのことだ。

本当の優勝争いとなると、この宋清はまだ資格がない。

そんな思考を巡らせながら、蕭炎の視線は薬炉の中に向けられた。

碧緑の炎の中をゆっくり回転する丸みのある薬品——その色は暗赤に近いもので、血の精華が凝縮されたかのような印象だった。

表面には光がちらつくように揺らめき、まるで目のように奇妙な感覚を与える。

「燃え立てる」炎の中で丹薬がゆっくりと回転する様子を見つめる蕭炎の胸中は熱い情熱に駆られる。

空の重なり合う黒雲の間から、巨大な銀蛇が一瞬で天を裂き、宋清のいる石台へと突進した。

しかし彼女は全てを受け止めてしまった。

自分の視線を蕭炎に無視されたことに気づいた宋清は顔を引き攣らせた。

周囲を見回すと、場外の人々や曹颖、丹晨らはほとんど驚きの目を向けず、その光景が彼の虚栄心を満足させるには程遠かった。

七品頂峰の薬を作り出すのは、丹塔の資格のある長老たちでさえ成功率が低いものだ。

それが彼の手で完成しても、想像したほどの衝撃は起こらなかった。

胸中で不満をため息と共に吐き出しながら、宋清はようやく集中力を高めた。

この七品頂峰の薬に伴う雷雲は弱いものではない。

もし軽視すれば丹薬が破壊されるかもしれない——その時は本当に彼が泣かされることになる。

宋清が全力で空を駆ける雷雲に対処し始めた頃、周囲の空間も激しく揺らぎ始めた。

明らかにそれは雷雲が引き起こしたものだ。

そしておそらくこの雷雲が触発したのか、参加者の薬炉から驚異的なエネルギー波動が立ち上っている。

彼らが作り出す丹薬は間もなく完成するようだ。

その状況を察知し、参加者たちの表情はさらに険しくなった。

ここで何か失敗すれば全てが無駄になるのだ。

「轟!」

と空に響く雷鳴と共に、重厚なエネルギー波動が広がり、ある石台の上空で新たな形を成した。

「七品頂峰の薬が誕生したぞ!」

その光景を見て周囲から驚きの声が沸き起こった。

「ドン! ドン! ドン!」



彼らの驚きの声が消える前に、突然連続したエネルギー波動が爆発的に増幅し、空を覆うように広がった。

無数の銀色の蛇のような電光が天を埋め尽くし、先程まで晴れだった空は一瞬で闇夜に変わった。

その間も時折青白い稲妻が走り、目眩むような強烈な光が空を切り裂く。

わずか十数分の間に九粒の七品上級丹薬が同時に完成したという事実は驚異的だった。

つまり現在の空には九つの丹雷が存在するのだ。

この壮観な情景は生涯に一度とは言えない稀有なものだ。

そのため広場周辺の人々もその天を揺るがす雷光に心を奪われ、震える声で歓呼を上げた。

その叫びと轟音が融合し、恐ろしいほどの巨響となって四方八方に拡散した。

丹域の端までその余韻が伝わってくるほどだった。

突然現れた八つの丹雷に驚いた宋清は周囲を見回し、冷ややかな笑みを浮かべた。

これらの者の雷光の勢いは自分より劣っている。

つまり彼らの丹薬の質も自分が上位であることを示しているのだ。

銀色の稲妻が空を駆け抜け、石台に爆発するように降り注ぐと同時に、その空一面で低く轟く雷鳴が響き渡った。

この万雷奔騰という奇観の中、蕭炎や曹颖、慕骨老人らはまるで何も聞いていないかのように、それぞれの薬鼎に視線を凝らせていた。

ある石台では丹晨が蓮座に坐し、顔色が極端に蒼白になっていた。

彼女の体はもともと弱く、この状態を支えているのは魂魄の力だけだったが、何とか耐え抜いていたようだ。

「あと少しで成功だ!」

丹晨の視線は薬鼎から離れず、手印を刻々と変化させながら、膨大な魂魄エネルギーを注ぎ込んでいる。

その中には微かに霊気の粒子が混ざり込んでいた。

「プチッ!」

突然彼女の頬が赤くなり、そのまま血を噴き出して薬鼎の中に落とした。

その血は炎の中で翻る丹薬と融合し、次の瞬間輝くような光を放った。

「バーン!」

血の染みた丹薬から驚異的なエネルギー波動が爆発的に放出され、耐え抜いていた薬鼎もその圧力に砕け散り、無数の破片となった。

その直後十丈にも及ぶ緑色の光柱が空高く伸び上がり、銀色の雷雲を恐怖させた。

それらは何か忌ましい存在のように急いで退避し、以前は威張っていた雷雲も光柱に近づかなかった。

光柱が無数の視線の中で天に昇り、その通り過ぎた地点で突然雲霧が集まり、瞬時に百メートルにも及ぶ雷雲を形成した。



そして最も驚くべきは、この雷雲が青と銀の二色を帯びていることだった。

「二色の雷雲か……」空を見上げる人々の声が広場に響き渡った。

二色の雷雲を持つ丹雷(たんらい)は、多くの人が生で見たことがない光景だ。

高台の上で玄空子らも表情を引き締めながらその二色の雷雲を凝視し、互いに目配りをした後、頷き合った。

「この丹家の娘はやはり特別だ。

八品の薬を作り出し、さらに二色の雷雲まで呼び寄せたんだ」

八品の薬は薬界の頂点に位置する。

七品との差は一品だけだが、それは天地の違いと言っても過言ではない。

八品の薬は霊性を持ち、ある意味では基本的な知性さえ備えている。

つまり八品の薬は生命そのものと言えるのだ。

それは生きた存在に近い。

そして八品の薬は想像を絶する厳格さで区別される。

品質は肉眼で判断できず、雷雲の色から識別される。

薬の品質が高ければ成形時に呼び出す丹雷の色も増えるという。

九色の丹雷ならばそれは造化之力を持つ九品に達したとされ、神丹(しんたん)と呼ばれるのも当然だ。

そして丹晨(たんちん)が二色の雷雲を呼び寄せたということは、彼女が八品の薬を作り出し、さらに二色の丹雷を持つ八品の薬を完成させたことを意味した。

空に広がる二色の雷雲から迫力ある雷威が溢れ、周囲で宋清らが呼び寄せた丹雷はその前に比べて見劣りしてしまった。

二色の雷雲を見つめる人々の口が開いたがすぐに苦々しい表情になった。

この二色の丹雷が出れば彼らは完全に圧倒されていたのだ。

石台の上で丹晨が血を流した唇を拭いながら蒼白な顔で空を見上げた。

その頬に笑みが浮かんだ時、痩せた小さな体がゆっくりと立ち上がった。

この弱々しい姿は斗尊(とうそん)級の強者ですら軽視できない。

今日の結果はどうあれ、丹家の名はこの小娘によって中州(ちゅうしゅう)に響き渡ることだろう。

「くすり……」その頬に笑みが浮かんだ瞬間、遠方から妖艶な笑い声が聞こえた。

彼女が顔を振ると曹颖(そうえん)がゆっくりと立ち上がった。

白は蒼白のままでも美しい顔には誇り高々な弧線が刻まれていた。

薬作りも曹颖の誇りだった。

妖女の名は虚偽ではない。

長年の丹塔での苦修(くしゅう)が、今やこの万目一処で完全に開花するのだ。

その頬に鳳凰のような誇り高い弧線が浮かび、玉手が突然印を結んだ。

「起け!」

と叫ぶと「ドン!」

と巨きな光柱が薬鼎(やくとう)から爆発し天高く伸びた。



光の柱が激しく駆け回り、空に雲と霧が急速に凝縮し始めた。

その無数の驚愕の視線の中で、二色の輝きが現れたが、鋭い目を持つ人々は青と銀の下に極めて薄い淡紅色の光を認めることもできた。

「また八品丹薬か!」

広場全体がその瞬間、底から沸騰し始めた。

人々の目に血色が浮き上がり、雷雲の輝く空を見つめる視線は熱狂に満ちていた。

全身の血液が一気に沸騰する中、この瞬間こそが真の丹会なのだ!

宋清は驚愕の目で雷雲を仰ぎ見た。

曹颖や丹晨といった奇才たちと比べれば自分は遥かに及ばない——「しかしまだ間に合うかもしれない…」

その思考が頭を駆け抜けた時、彼は遠くにある石台に座る蕭炎がようやく硬直した姿勢からゆっくり立ち上がっているのを目撃した。

瞬間、広場全体が息を吞むほどの注目を集めた。

高台では玄空子たちも手を握りしめながら、その蒼白い雲の下で痩せた体を揺らす姿に視線を集中させた。

かつてこの地で薬塵という男が驚異的な実力を示した場所。

あの当時「煉薬界最輝く天才」と呼ばれた人物の弟子である今の人間——その血脈は再び栄光を取り戻すことができるのか?

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