闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1443話 黄泉天怒

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黄泉天怒の怒りが沸き立つ

「黄泉妖聖」

蕭炎は妖冥を鋭く見据え、ややあってにっこりと笑みを浮かべた。

「どうだ?この黄泉妖聖という存在、九幽地冥蟒族との関わりがあるのか?」

「ふん、黄泉妖聖が我が族の一族とは言えないが、その血脈は我々と深い縁を持つ。

かつての蓋世の強者が滅びた際、彼の遺伝は時と共に消え去ったのだよ。

九幽地冥蟒族には黄泉石碑という古来より伝わる石がある。

そこには黄泉妖聖が生涯をかけて修得した全ての術が刻まれており、さらにその奥深くに彼の精血が残されていると聞く」

「精血……」蕭炎は指先をわずかに動かした。

黄泉妖聖という存在は斗帝への足掛かりに近い実力で、その血脈は次第に変異していく。

もし完全な進化を果たせば、子孫にもその力を引き継ぎ、百代にわたって守られる新たな古種が誕生するはずだった。

しかし彼の最後の進化は死と共に途絶え、その子嗣もその恵みを得られなかった。

それでも黄泉妖聖の精血は斗聖にとっては大きな魅力であり、得れば自身の実力向上に繋がる。

「なぜ貴族はその黄泉石碑を今に至るまで取り出さないのか?」

「ふーん、蕭炎君はやはり警戒心が強いな。

黄泉石碑は我が九幽地冥蟒族の鎮族之宝だ。

その上には黄泉指と黄泉掌という二つの術が刻まれている。

前者は天階低級の術で、後者は天階中級。

両方とも強力だが、一族長や少数の長老のみが修練できる」

「黄泉指、黄泉掌……最後の一つは?」

蕭炎は微かに頷いた。

天階中級の術は確かに強いが、彼にはそれほど魅力的ではない。

手元にある天階の術も少なくないからだ。

「黄泉天怒……」

妖冥は笑みを浮かべた。

「黄泉指は生死断ち、黄泉天怒は魂を粉砕する術。

かつて黄泉妖聖がその名で畏れられたあの技だ」

この瞬間、蕭炎の心は確かに揺れた。

正確には音波術である黄泉天怒は天階高級の術であり、当時記録に残る強者たちもその前に震えていた。

彼の手にある古籍にも記されていたが、その威力は斗聖すらも脅かすものだった。

天階高級の術!

この等級の斗技は、蕭炎がこれまでに初めて遭遇した類いではなかった。

彼の推測によれば、自身が悟り得た「仏怒輪廻」の威力すらも、この黄泉天怒には及ばないだろう。

そして「仏怒火蓮」については、もし蕭炎が浄蓮妖火を完全に吞み込み煉化できれば、その力は黄泉天怒と同等かそれ以上になるはずだ。

実質的な破壊力を比較すれば、黄泉天怒は仏怒火蓮に及ばないかもしれない。

しかし前者は殺人武器と言っても過言ではない。

一念発動すれば、同級の強者でさえ油断すると、その魂が深刻なダメージを受けるだろう。

なぜなら、魂こそが人体の根源であり、それが傷つけられれば、それに伴う後遺症は身体的な損傷よりも遥かに重大になるからだ。

別の言い方をすれば、蕭炎が黄泉天怒を修練し得たならば、三星级の斗聖者に対しても、相手が油断している限り大きな不利を押し付けることができるだろう。

「ふん、まさに黄泉妖聖の看板技である黄泉天怒だよ」妖瞑は萧炎の驚きに満足げに笑みを浮かべた。

「貴兄の言う通りなら、妖天啸や大长老も黄泉天怒を修練しているはずだ。

彼らがその術を発動させたら、私は止められなかったかもしれない」

蕭炎は言った。

もし妖天啸たちが本当に黄泉天怒を修練していたら、先ほどの展開は変わっていたに違いない。

天階上級の斗技は、遠古時代ですら非常に希少なものであり、ましてや現代ではそうあるまい。

「簡単にはいかないさ。

我が族ではこれまで誰も黄泉天怒の修練法を得たことがない。

その術は石碑の奥深くに隠されており、我々はそれを得る方法すらないからな。

また、妖聖の精血を損なうことを恐れて、誰もが強行してこなかったんだ」

妖瞑は笑って続けた。

「貴兄は何か言いたいのか?我が族の先達たちでさえ黄泉天怒を得られなかったのに、貴兄が得られるはずもないだろう」

蕭炎は首を横に振った。

「ふっ、他人事とは言えねーな。

だが萧炎兄弟なら問題ないさ」妖瞑は笑みを深めた。

「ほんと?異火か?貴兄の唯一の特徴はそれだけだよ」

「異火は強いが、この黄泉石碑との関係はないんだ。

我々が必要とするのは非常に強力な魂魄だ。

石碑の中に残る黄泉妖聖の残り魂魄を守護する鬼魂があるからさ。

黄泉天怒の修練法はその鬼魂の中にある」

妖瞑が笑った。

「我々魔族は魂魄に重きを置かないものだ。

私のような実力でも持つ魂魄は、七品煉薬師程度だろう。

それでは残された鬼魂を鎮めるには不十分なんだよ」

「数年の試みを通じて我々も気づいたが、少なくとも天境級の霊魂でなければ石碑に侵入する事は不可能だ。

そのような霊魂を持つのは人間界の錬金術師トップクラスのみであり、以前の一族でも協力を打診したことがある。

しかし黄泉石碑の存在を露呈させることによる不測の事態を懸念し、結局計画を断念せざるを得なかった。

なぜならその石碑には黄泉妖聖の精血が隠されているからだ。

それを知れば闘聖級の強者ですら蠢動するだろう。

一族の人間もその存在は知っているものの、内部に潜む真実については無知なのだ」

蕭炎は微笑みながら妖瞑を見つめ、「貴方だけを信じるのか? そんな重大な秘密を私に告げるのか?」

と問うた。

「炎の兄よ、些かも疑いようはない。

この情報を共有したのは、まず恩返しのためだ。

私は知恩不報の人間ではない。

二つ目は貴方の力を借りて石碑を開きたいからだ。

そうすれば我が一族の実力が向上し、九幽地冥蟒族を完全に掌握できる」

妖瞑は蕭炎の心の中を読み取り、「貴方は何を考えているのか? その通りだ」と前置きして真剣な表情で続けた。

蕭炎の視線が妖瞑と対峙し合う。

しばらくの沈黙の後、彼はようやく目を逸らし、「ならば試みるか。

石碑に封じられた妖聖の残骸魂魄に対抗してみよう」

「ふっ、その通りだ。

では妖瞑はここで炎の兄にお礼申し上げたい」

妖瞑が笑いながら答えると、蕭炎は頷いた。

「急ぐ必要はない。

今日も激戦を繰り返した貴方たちも休息が必要だろう。

一族の内部紛争など我々が口出しするべきではない。

まずは族内の業務整理に時間を取ろう。

明日の朝、黄泉石碑へ向かう」

妖瞑は頷き、「了解だ」と応じた。

夜間の騒乱で九幽地冥蟒一族は大打撃を受けたが、これは一族内部の問題であるため、蕭炎らは関知しない。

日の出と共に妖瞑が先に宿を訪ね、一行を後山へと案内した。

十数分の移動で彼らは古い祭壇に到着した。

その規模からして青色巨石で築かれた壮大な構造物だ。

頂上からは周囲の山々を見渡せる。

祭壇中央には約百丈の淡黄色の石碑が静かに立っていた。

古びた空気を漂わせ、恒久不変の存在のように感じられた。

その表面には複雑な紋様が刻まれ、奇妙な輝きを放っている。

巨大な指と掌印が彫り込まれており、そこから異常な情報を発散させているようだ。

妖瞑はまず石碑に礼を述べた後、蕭炎を見上げて続けた。

「これが我が一族の黄泉石碑で、『黄泉天怒』と妖聖の精血が隠されている。

その取得には貴方の力が必要なのだ」

蕭炎は黙って頷き、石碑に鋭い視線を注ぐ。

そこから伝わる強大な霊魂圧迫感に彼は驚嘆した。

「残骸の一部でさえこれほどの威圧があるなら、黄泉妖聖という存在はどれほど凄まじい強者だったのか……」

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