闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1442話 黄泉妖聖

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「ドン!」

空に、蕭炎の一撃が大長老の黒い毒気をまとった掌と衝突した。

灼熱の炎が突然跳ね上がると、劇薬の気味は全て消し飛んだ。

その強烈な力で大長老は急ぎ足で後退り、体中の血流まで乱れさせられた。

蕭炎の異火の力は彼を相当に苦しみさせた。

「大長老よ、貴方は降伏した方が良いでしょう。

貴方は私の敵には勝てないし、妖天啸は十回合もすれば妖瞑に敗れるでしょう。

その時、妖瞑が手を空けると、貴方の運命はもっと悪いものになるはずです」

金光巨人としての蕭炎が大長老を見下ろすように言った。

彼の声には笑みがあった。

それを聞いた大長老の顔がゆがんだ。

余裕で妖天啸の戦いを一瞥すると、心臓が沈む。

今の後者は妖瞑に完全に押さえ込まれており、狼狽うろたえた姿は明らかに長くも続かない。

「混蛋!何年もの努力が水の泡か」

大長老の胸中は怒りと悔恨で一杯だった。

彼は九幽地冥蟒族を完全に支配できると思っていたが、現実はその支配さえ虚構の物だったのだ。

危機が訪れた時、支配というものは笑い話になる。

「お前の好兄弟よ、何年もかけてこれだけか? あまりにも期待外れだ」

大長老が怒りながら思考を巡らせていると、突然近くから冷笑が響いた。

次の瞬間、驚天動地の巨音と共に妖天啸の悲鳴が聞こえた。

「負けたのか?」

その惨憺たる叫びに大長老は息を呑んだ。

振り返ると、妖天啸は山頂で死んだ犬のように横たわり、かつて千仞あった山峰も崩れ落ちていた。

斗聖同士の戦いは手のひらで砂を握るように恐ろしいのだ。

「ドン!」

妖瞑が妖天啸の胸に凄まじい力で踏みつけた。

その衝撃波は周囲の巨石を粉々に砕き、妖天啸からは内臓まで混ざった血しぶきが飛び散った。

この光景を見て九幽地冥蟒族の族人達は目を見開いた。

二人の戦いはあまりにも凄惨だったのだ。

狼狽うろたえた妖天啸だが、妖瞑も全身に傷だらけで顔は血まみれだった。

彼は「死なないかぎり全力を出す」ということを示したのである。

そうでなければ一星斗聖をこれほど早く倒すことは不可能だった。

「この妖瞑が妖天啸への憎悪は天にも及ぶのか、手のひらで殺すようなものだ」

その二人の血まみれの姿を見て蕭炎も驚いた。

これが本当の全力なのだ。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 私を許せ! 当年あの畜生の大長老に騙されてやったことだけよ!」

妖瞑が胸元を踏みつけると、妖天啸は恐ろしい表情で叫んだ。



「今や貴方の兄貴と知り得たか?この数百年にわたる苦難は、貴方のせいだぞ」妖瞑が低い声でそう言い放ちながら、ゆっくりと膝をついて妖天啸の頭部に手を伸ばした。

血まみれの顔面が突然現れた瞬間、その鋭い殺意から一転して柔らかな表情になった。

「卜(ほ)から大まで全て貴方の先取りだ。

貴方が死ぬなら、私も快楽を得られない」

妖天啸は妖瞑の手に触れるだけで全身が震え出す。

彼は相手の心の中にある殺意を直感的に感じ取っていた。

その瞬間、体内の斗気(とうき)が逆流し爆発寸前だったが、妖瞑の視線が鋭く下りた途端、掌が最も凶悪な刃のように頭蓋に突き刺さった。

血と脳漿が四方八方に飛び散る。

「ドン!」

手を引き抜いた妖瞑は表情を変えずに立ち上がると、掌の間に拳大の黒い球体を握りしめた。

その表面には光沢があり、内部に渦巻く霧の中で叫び声と共に妖天啸の顔が浮かんでいる。

九幽地冥蟒族の全員が山頂を見上げていた。

彼らは妖天啸の気配と血脈の振動が完全に消えたことを感じ取っていた。

「グッ…」

大长老(たいれんしょう)は唾を飲み込んだ。

彼は妖瞑が本当にここまで冷酷だとは予想していなかった。

妖天啸の魔核(まかく)まで生々と引きちぎり取り出したことに、復讐(ふくしゅう)の機会を与えないという意図があったのだ。

「大长老、次は貴方の番だ」

妖瞑が深いため息を吐きながら、妖天啸の遺体を包み込むと、顔を歪めて大长老を見上げた。

その極度に歪んだ視線を見て、大长老は身震いした。

彼は自分が妖瞑の手にかかれば、妖天啸よりもさらに惨酷な末路を辿ることを悟ったのだ。

「魔蛇天爆(まさ天天暴)!」

大长老が突然牙を嚙み締めながら両手を高速で結び、体躯が膨張し皮膚が蠢き始めた。

何かが体内から這い出ようとしている様子だった。

その光景を見た蕭炎(しょうえん)は眉根を寄せながら後退り始めた。

自爆の気配を感じ取っていたのだ。

「まさか自爆するのか!」



その妖瞑も大长老のその極めて果断な一手に驚きを隠せなかったが、すぐに身を引き締め退避した。

「轟!」

蕭炎と妖瞑が退避する直前、大长老の身体は驚天動地の爆発で粉々になった。

恐ろしいエネルギー衝撃が瞬時に千丈(約3km)以内の全ての山岳を平らげた。

「嗤嗤!」

そのエネルギー衝撃が発生した時、無数の漆黒のエネルギー蛇が四方八方に暴走し始めた。

それらの蛇は地面に接触するとすぐに姿を消す。

「自爆ではないな。

この老体は狡猾だ。

魔核を分身の中に隠して**を捨てたのか」

その光景を見た蕭炎の目に驚きの色が浮かんだ。

この老人は確かに機転が利く。

肉躯を失えば実力は大幅に低下するだろう。

復活までには何年もかかるかもしれない。

「ふん、老体にやられたか……」

エネルギー衝撃が徐々に消散し、妖瞑の姿が蕭炎の隣に現れた。

彼は九幽地冥蟒族の族人に声をかけた。

「命令だ!万里以内を徹底的に捜索せよ!その老鬼を見つけ出せ!」

「はい!」

いくつかの長老が慌てて応じた。

妖瞑はかつてこの一族で相当な名前があったが、数百年間失踪していた。

しかし先程妖天啸を斬殺した凶威は依然として一族を震撼させていた。

「妖瞑族長様のご再登頂おめでとうございます!我々は死に物活けして従います!」

最も資格の高い長老が速やかに近づき、妖瞑に向かって礼を述べた。

「面倒なのは一族の問題だ。

不要な者はそのままにしておくんだ」妖瞑は淡々と答えた。

彼が再び頂点に立つためには、妖天啸の信頼者を排除する必要があった。

そうでないといずれ問題になるだろう。

「はい!」

その言葉に長老たちは慌てて礼を返した。

蕭炎は妖瞑が冷静に一族の問題を処理している様子を見て、小さくうなずいた。

この男は数百年間封印されていたにもかかわらず気魄は変わらなかった。

もし機会があれば成長すれば一大人物になるかもしれない。

「シュ!」

ティン(原文中の名前?)が金剛琉璃身を解除すると、彩鳞たちも深淵から飛び出し蕭炎の周囲に浮かんだ。

彼らは先ほどの戦闘で手が出せなかったため姿を見せていなかった。

「萧炎兄弟、今回はお力を貸していただきありがとうございます」

妖瞑が一族の指示を終えると、蕭炎に向かって深々と頭を下げた。

蕭炎は笑顔で手を振った。

「萧炎兄弟、この恩義は返せないほど大変だが……いずれにせよ、私は何か報酬を与えるべきだ。

ほら、私が言う報酬はきっと気に入るだろう」

妖瞑がしばらく考えた後、突然笑みを浮かべて言った。

「お?」

蕭炎の眉が僅かに上げられた。

「黄泉妖聖という名前は聞いたことがあるか?」

妖瞑が笑いながら尋ねた。

「黄泉妖聖……」

蕭炎が一瞬硬直し、やがて顔色を変えた。

「遠古時代に斗帝に近づいたとされる黄泉大聖のことですか?」



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