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「出来ないわけがありません、神は万能です」
人の形になった神の使いが、当然とばかりに言い切るから、アンカーは「万能? 能無しの間違いでしょ」と毒を吐く。
「何を言うのです」
「万能なら、私と義妹の入れ替わりに気が付かないなんておかしいでしょ。義妹に私の魔力が譲渡されていようが、どんな狡い手を使おうが、私が神の愛し子ならそれに気が付くべきでしょ。それを気が付くこともなく、義妹が神殿に祈りを捧げたら加護を与えるとか、万能が聞いて呆れるわ」
『加護はアンカーの命が尽きた時に与え、神殿では加護の覚醒を行っただけだ』
「だから?」
「あなたが魔力の譲渡をしていた為、義妹にはあなた程ではなくとも加護が使える様になっていたのでしょう。だから神殿にあなたの姿をした義妹がお参りをした際、加護が覚醒した。ただ、その力は本来のものではなく、あたなが牢で奴隷から解放された時、本来の加護があなたの中で覚醒した」
不満そうな顔でそう言うと、神の使いは「使われなかった加護の力があなたの中に流れ込み、命の終わりに大きな呪いとなって世界を壊したのです。きっと」と告げた。
「ふううん、そう。それはどうでもいいわ。今更どうにもならないから。それで、お母様の命は助かるのね? じゃあ今すぐお母様を助けて」
『分かった……アンカーの母親は、奴隷の足輪をつけているな。主人はアンカーの父親だ』
「なんですって?」
『効果は魔力の譲渡だけだな』
「そんなもの壊して、ううん壊すのではなく、父とお母様の立場を入れ替えて」
「それだけでいいのか」
今までの生で、父の魔力がどの程度だったかまでアンカーは覚えてはいなかったけれど、魔法大国の王女だった母の魔力量が少ないわけがないのだから、父は自分だけでなく母も都合よく使っていたのだと気が付いた。
「よくないわ。父と義母と義妹三人に奴隷の腕輪をつけて、主人をお母様にして。効果は魔力の譲渡。三人は生命維持に最低限必要な量だけを残すこと。回復の度魔力譲渡するようにして。お母様にはその腕輪を不審に思わない様にすることは出来る?」
『ここまでするなら、何をしても同じだろう。三人も腕輪を着けているのが当然だと思わせよう』
「そうね、それが義妹の存在を許す条件だとお母様達に認識させて」
アンカーを非難する様な目で見ている神の使いを、アンカーは冷めた目で見つめ返す。
正しい事を行うのだけが神では無いだろう、正しい事しか行わず神が本当に万能なら、そもそもアンカーを何度も生き返らせるなんて愚は犯さない筈だと、アンカーはほの暗い気持ちで笑う。
『終わった。アンカーの母親は長く生きる』
「ありがとう」
するりと出た感謝の言葉にアンカー自身が驚いた、驚いて目を見開いていると神と神の使いも同じく驚いている様に感じて首を傾げる。
「なに」
『感謝されることではない、ただアンカーを生かす為にしたことだ』
本当に戸惑っている様子の神に、この存在はやはり子供の様なものなのだとアンカーは苦笑する。
「それでもありがとう。お母様を救ってくれたことに感謝します。正直な気持ちを言えば私自身がこれから生きていくことよりも、お母様が今死なない事の方が嬉しいわ」
『なぜだ、母親の命を救えたのは良い事だろうが、アンカーと母親は別の人間だろう』
本当に理解出来ないのか、神はアンカーの感謝の理由が分からないと言う。
それがおかしくて、アンカーは声を上げ笑う。
「おかしいわ、神ってやっぱり万能じゃない」
ひとしきり笑った後で、アンカーは目尻に浮かんだ涙を指先で拭って「こんなに笑ったこと一度もないわ」とまた笑う。
『そうか、愛し子が笑うと私も嬉しい気がする』
「単純なのね、でもこれが最初で最後の笑いかもしれないわよ」
『なぜ、アンカーの望みは叶えた』
「本当にお馬鹿さんなのねえ、お母様を救ったのは私が自死しないため、これから先幸せに暮らせるかどうかなんて分からないわ。おそらく無理だと思うけれどね」
一気に以前の記憶を思い出した弊害なのか、アンカーの頭の中には誰に何をされたかが鮮明に残っている。
今誰かに会ったら、その人がいつ何を自分にしたのかアンカーはすぐに思い出せるだろう。
だが、その記憶は相手には無いのだ。アンカーは相手に恨みを告げることすら出来ないのに、相手がそういう行いをした人だという記憶だけが鮮明なのだから始末が悪い。
『なぜだ』
「記憶があるからよ。恨みしかこの世界にないの、お母様以外の人に私が持っている感情はそれだけ。私は一生誰かを好きになることはないでしょうね」
『それでは幸せだったと命が尽きる時思うのは出来ないということか』
ぽつりと、途方に暮れた子供の様に言う神に、アンカーは苦笑しながら頷く。
嫌いな人、恨みがある人しかいない世界で、幸せだったと生涯を終えることは難しいだろうと、アンカーはこっそりと思う。
「今私の願いを叶えてくれたから、私が死ぬ時に神を能無しと罵ることはしないわ。勿論自死もしない。私が今誓えるのはそれぐらいね」
「それは……」
きっぱりと答えるアンカーに、神の使いは何を言えばいいのかと戸惑い神の声の方に視線を向ける。
人の形になった神の使いが、当然とばかりに言い切るから、アンカーは「万能? 能無しの間違いでしょ」と毒を吐く。
「何を言うのです」
「万能なら、私と義妹の入れ替わりに気が付かないなんておかしいでしょ。義妹に私の魔力が譲渡されていようが、どんな狡い手を使おうが、私が神の愛し子ならそれに気が付くべきでしょ。それを気が付くこともなく、義妹が神殿に祈りを捧げたら加護を与えるとか、万能が聞いて呆れるわ」
『加護はアンカーの命が尽きた時に与え、神殿では加護の覚醒を行っただけだ』
「だから?」
「あなたが魔力の譲渡をしていた為、義妹にはあなた程ではなくとも加護が使える様になっていたのでしょう。だから神殿にあなたの姿をした義妹がお参りをした際、加護が覚醒した。ただ、その力は本来のものではなく、あたなが牢で奴隷から解放された時、本来の加護があなたの中で覚醒した」
不満そうな顔でそう言うと、神の使いは「使われなかった加護の力があなたの中に流れ込み、命の終わりに大きな呪いとなって世界を壊したのです。きっと」と告げた。
「ふううん、そう。それはどうでもいいわ。今更どうにもならないから。それで、お母様の命は助かるのね? じゃあ今すぐお母様を助けて」
『分かった……アンカーの母親は、奴隷の足輪をつけているな。主人はアンカーの父親だ』
「なんですって?」
『効果は魔力の譲渡だけだな』
「そんなもの壊して、ううん壊すのではなく、父とお母様の立場を入れ替えて」
「それだけでいいのか」
今までの生で、父の魔力がどの程度だったかまでアンカーは覚えてはいなかったけれど、魔法大国の王女だった母の魔力量が少ないわけがないのだから、父は自分だけでなく母も都合よく使っていたのだと気が付いた。
「よくないわ。父と義母と義妹三人に奴隷の腕輪をつけて、主人をお母様にして。効果は魔力の譲渡。三人は生命維持に最低限必要な量だけを残すこと。回復の度魔力譲渡するようにして。お母様にはその腕輪を不審に思わない様にすることは出来る?」
『ここまでするなら、何をしても同じだろう。三人も腕輪を着けているのが当然だと思わせよう』
「そうね、それが義妹の存在を許す条件だとお母様達に認識させて」
アンカーを非難する様な目で見ている神の使いを、アンカーは冷めた目で見つめ返す。
正しい事を行うのだけが神では無いだろう、正しい事しか行わず神が本当に万能なら、そもそもアンカーを何度も生き返らせるなんて愚は犯さない筈だと、アンカーはほの暗い気持ちで笑う。
『終わった。アンカーの母親は長く生きる』
「ありがとう」
するりと出た感謝の言葉にアンカー自身が驚いた、驚いて目を見開いていると神と神の使いも同じく驚いている様に感じて首を傾げる。
「なに」
『感謝されることではない、ただアンカーを生かす為にしたことだ』
本当に戸惑っている様子の神に、この存在はやはり子供の様なものなのだとアンカーは苦笑する。
「それでもありがとう。お母様を救ってくれたことに感謝します。正直な気持ちを言えば私自身がこれから生きていくことよりも、お母様が今死なない事の方が嬉しいわ」
『なぜだ、母親の命を救えたのは良い事だろうが、アンカーと母親は別の人間だろう』
本当に理解出来ないのか、神はアンカーの感謝の理由が分からないと言う。
それがおかしくて、アンカーは声を上げ笑う。
「おかしいわ、神ってやっぱり万能じゃない」
ひとしきり笑った後で、アンカーは目尻に浮かんだ涙を指先で拭って「こんなに笑ったこと一度もないわ」とまた笑う。
『そうか、愛し子が笑うと私も嬉しい気がする』
「単純なのね、でもこれが最初で最後の笑いかもしれないわよ」
『なぜ、アンカーの望みは叶えた』
「本当にお馬鹿さんなのねえ、お母様を救ったのは私が自死しないため、これから先幸せに暮らせるかどうかなんて分からないわ。おそらく無理だと思うけれどね」
一気に以前の記憶を思い出した弊害なのか、アンカーの頭の中には誰に何をされたかが鮮明に残っている。
今誰かに会ったら、その人がいつ何を自分にしたのかアンカーはすぐに思い出せるだろう。
だが、その記憶は相手には無いのだ。アンカーは相手に恨みを告げることすら出来ないのに、相手がそういう行いをした人だという記憶だけが鮮明なのだから始末が悪い。
『なぜだ』
「記憶があるからよ。恨みしかこの世界にないの、お母様以外の人に私が持っている感情はそれだけ。私は一生誰かを好きになることはないでしょうね」
『それでは幸せだったと命が尽きる時思うのは出来ないということか』
ぽつりと、途方に暮れた子供の様に言う神に、アンカーは苦笑しながら頷く。
嫌いな人、恨みがある人しかいない世界で、幸せだったと生涯を終えることは難しいだろうと、アンカーはこっそりと思う。
「今私の願いを叶えてくれたから、私が死ぬ時に神を能無しと罵ることはしないわ。勿論自死もしない。私が今誓えるのはそれぐらいね」
「それは……」
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