【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

どうしよう、どうしたら?

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「舞」

 佐々木様の名前呼びイベントは春休み前、これがクリアできないとルート消滅になりこれ以後好感度を上げても友達エンドにしかならない。
 名前呼びイベントをクリアしても、この後好感度が上手く上げられなければ友達エンドになるから、まだ幼なじみ退学が確定したわけじゃない筈だ。
 でも、テストすら始まってないというのに、すでに主人公である木村春は佐々木様を名前で呼び始めている。 
 僕はこの世界はゲームの世界だと思っているけれど、実は現実だからゲームの展開と同じにはならないのだろうか。
 分らない。

「僕、家に連絡します」
「連絡って」
「望みは無くなったから、話を進めて下さいと」
「舞、諦めるの早すぎるよ。うわっ」

 慌ててしまい紅茶のカップを地面に落としてしまうけど、殆んど飲んでしまってたから零れたのは僅かだ。

「中身殆んど無くてよかった」
「火傷されませんでしたか?」
「うん、驚かせてしまってごめんね。って、僕のことはいいんだよ。今は舞の話。駄目だよ諦めちゃ。まだ気持ちが向こうに移ったと確定したわけじゃないでしょ」

 名前呼びを許したとしても、まだゲームだったら序盤も序盤だ。
 まだ佐々木様が主人公の相手だと決まったわけじゃない。攻略対象者は五人いるんだし。ここがゲームの設定と違う、ゲームとは違う未来も存在しているならまだ舞にも望みはある筈なんだ。

「いいえ」
「え」
「食堂で、藤四郎様は僕に気が付きませんでした。昨日もそうでした。昨日はたまたま注意が他に向いていたのだと思いましたが、今日もそうでした」
「それは、偶然が」

 言いかけて黙り込む。偶然が重なっただけとは言いにくい。
 食堂は混んでると行っても、佐々木様はドアの方を向いて座ってたし、舞は僕と違って人気があるから食堂入った瞬間視線を集める。
 本当ビックリなんだけど、雅といても舞といても注目される人達てすぐに気がつかれるんだよね。
 隣に立つのが怖いほど、視線を感じるんだよ。
 だから、佐々木様が舞に気がつかないわけがない。
 だから、視線が合わなかったというならそれはわざとだ。

「藤四郎様は約束を忘れていらっしゃるんです。大きくなってから約束の話をしたことはありません。けれど僕は幼い頃の約束に縋って、藤四郎様も約束を覚えていてくれるのだとと信じたかった。それだけなんです」

 ポタポタと舞の目から涙がこぼれ落ちる。

「舞、好きなんだね」
「はい。でも」
「諦める前にせめて思いを伝えるのは出来ない?」
「断られると分っているのに思いを伝えても、藤四郎様の迷惑になるだけです。お話が進めば僕は学園を退学する事になるでしょう。そうしたら二度とお会い出来ないのですから、藤四郎様を困らせたくありません」

 舞の性格ならそうだろう。
 断られる為に告白しても、仕方ない。迷惑を掛けるだけだと諦めてしまうだろう。
 でも、本当に断られちゃうのかな。まだ望みはあるんじゃないのかな。

「佐々木様以外の人も名前で呼ばせているんだよ。木村君が誰と付き合うのかまだ分らないんじゃないかな」

 舞にハンカチを差し出しながらそう言って、でも佐々木様と主人公が上手くいけば雅ルートは消えるんだと考えてしまった。
 佐々木様への思いに苦しんで、泣いている舞を目の前にして僕はなんて酷い事を考えてしまったんだろう。

「佐々木様はきっと転校生が平民で珍しくてちょっと興味がわいただけなんだよ。昨日も今日も話に夢中になっていて舞に気が付かなかっただけだよ」

 自分勝手な理由で佐々木様ルートを一瞬でも望んでしまった罪の意識から、僕は必死になって舞を慰める。

「家に連絡して、もし佐々木様が主、木村君を好きでも何でも無いと分ったらどうするの。話を進めてしまったら、後戻り出来ないんじゃないかな。そうなったら一生後悔することになるよ」

 佐々木様ルートのハッピーエンドは、幼なじみが退学してしまう。
 佐々木様の幼なじみが舞だと分った以上、退学を阻止して舞と佐々木様が上手くいったら佐々木様ルートは友達エンドで終わる事になる。
 そうなったら、雅と主人公が上手くいく可能性が上がってしまうけれど。
 でも、舞が父親よりも年上の人の所へ行くなんて、そんなの酷すぎる。

「後悔、一生後悔」
「告白する勇気が無いなら、せめてはっきりと結果が出るまでは学園に残っていようよ。佐々木様と木村君が仲良くしているのを見るのが辛いから学園から去りたいという気持ちも分るよ。でも、まだ諦めちゃ駄目だよ」
「諦めちゃいけませんか。辛くても、まだ逃げちゃいけませんか」
「だって好きなんだよね。家に帰ってしまったら二度と佐々木様と会えなくなるんだよね。それで舞はいいの?」

 まだ主人公は転校して来たばかり。
 これから誰とどうなるかなんて、分らない。
 互いを名前呼びする事で好感度が上がり易くなるけど佐々木様だけが名前で呼ばれているわけじゃないから、ゲームとして考えるなら三人を攻略中って事だ。
 なら、佐々木様ルートを外部から壊したらどうなる? 例えば僕が舞の気持ちを佐々木様に伝えたら。どうなる?

「僕への気持ちが無いとしても傍に、いいえ藤四郎様のお顔を見られるだけでも幸せです。許されるなら学園にいたいです。せめて一緒に卒業したいです」
「なら、頑張ろうよ。木村君が誰と上手くいくか分らないんだし、今すぐ諦めて自分の未来を閉ざしてしまうなんて悲しすぎるよ」

 ハンカチを握りしめたままの舞の手から、そっとハンカチを抜き取り涙を拭いてあげる。
 近くで見ても舞は可愛い。泣いて赤くなった目元の泣きぼくろが、妙に色っぽくてちょっとドキドキしてしまう。
 僕が佐々木様だったら、自分を思って泣いている舞を放っておいたりしないよ。
 舞が学園に通える様にしてくれたのが佐々木様だったとしたら、それは学園に通うと誤解したからじゃなく、舞と学園に通いたかったから誤解している振りしたんじゃないかと思う。
 僕は佐々木様とクラスは一緒でも全然親しくないけれど、頭の良い人だと思うしそんな誤解したりしない人なんじゃないかと思うんだよね。

「まだ、ここにいてもいいと思いますか」
「うん。舞が何も言わずに退学したら、佐々木様淋しいと思うよ。それに舞がいなくなったら僕だって淋しいよ」

 舞が言えないなら、僕が言おう。
 今ならまだ、佐々木様の好感度はそんなに上がっていない筈だし。だったら舞への情の方が気持ちの上で勝っているかもしれない。
 幼なじみの情があるなら、舞が父親よりも年上の人のところに行くなんて許せないと思ってくれるかもしれないし、ゲームの友達エンドでは佐々木様は気になる幼なじみがいると言っているんだから、望みはゼロじゃないはずだ。

 よし、善は急げだ。今晩佐々木様に話をしよう。
 決めた。

「頑張ろう。舞。僕でよければいつだって話聞くから」
「ありがとうございます。晴人様」

 涙を拭いて笑った舞は、やっぱり目茶苦茶可愛いかった。
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