【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

諦めるのは早いよ

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「舞は佐々木様の事どう思ってる?」

 好きだよね、とは聞けないから恐る恐るそう聞いた。
 話をしながら僕はしっかりサンドイッチとサラダを完食して、デザートを食べ始める。
 食堂のランチはいつも美味しいけれど、それ以上にデザートが美味しい。
 今日のフルーツタルトも絶品だ。

「どうと言われましても」
「じゃあ、あの転校生がサラダを佐々木様の名前を呼ぶのは、どう思う?」

 これは意地の悪い質問だろうか。
 言った途端舞は、俯いてしまった。

「ごめん、無神経だったね」

 慌てて謝る僕に、舞は俯いたまま無言で首を横に振る。

「藤四郎様が良いと仰っているなら、僕がどうこう言える立場ではありませんから」

 そう言いながら、舞の声は泣きそうだ。

「分かっているのです。僕は、藤四郎様には不釣り合いだと。それでもまだ夢を見ていたくてこの学園に来てしまいました」
「夢?」
「僕は、学園に通っている間に藤四郎様が小姓に望んで下さらなければ、家に支援して下さっている方のところにお世話になるお約束をしています」
「え」
「相手は父よりもだいぶ年上の方で、幼い頃から祖父の様に優しくして下さった恩のある方です」

 舞の話を僕は貧血を起こしそうな気持ちで聞いていた。
 お父様よりもだいぶ年上で祖父の様な人のところに行くって、妾ということだよね?
 それ、すでに決定ってこと?

「本当は学園に通わずその方のところに行く筈でした。でも藤四郎様は僕が学園に通うと勘違いされていて、父に受験の話をしたものですから、それで僕は三年の猶予を頂ける事が出来ました」
「そのお世話になる話って、佐々木様は?」

 知ってて学園に舞を通わせたのかな?

「いいえ、知りません。勿論小姓にならなければという条件も」
「それを舞から言えないの?」
「言えるわけがありません。僕はそんな立場ではありませんから。僕は、昔藤四郎様がしてくださった約束を心の支えに、諦めきれずにここに来てしまっただけですから。三年、お側にいられたらそれで諦めるつもりで」

 涙を浮かべながら、舞はパクリとタルトを口にする。

「約束?」
「小さい頃です。もうきっと藤四郎様は覚えていないでしょう」
「でも、舞は覚えているんだよね。それ聞いてもいい?」
「自分の名前を呼ぶ許可を与える事で、未来があると誤解しそうな相手には名前を呼ばせたりしないから。美空は誰に何を言われても自分を藤四郎と呼べと」
「え」

 美空って、誰?
 急に出てきた聞いた事の無い名前に首を傾げて舞を見れば、舞は「ああ」と呟いた後教えてくれた。

「舞と言う名は、僕の家の次男に付けられる呼び名です。成人して嫁ぐか一人立ちして名を変えるまでの仮の名前です。美空という名前は藤四郎様が幼い頃に僕に付けて下さった二人しか知らない名前です」

「みそら」
「はい、美しい空と書いて美空です。僕はこの学園に来るまで家から外に出たことがありませんでした。時々家に藤四郎様が彼のお父様に連れられてくる以外、兄以外の同じ年頃の子供には会うこともなく。勉強は家庭教師に教えられ育ちました。僕も弟達も兄以外の兄弟とは顔を合わせた事が無いのです」

 それって特殊環境過ぎる。
 どうしてモブレベルのキャラの設定がそんなに重いんだよ。ゲーム開発した奴ら何考えてこんな設定。
 この世界はバリバリの貴族社会で、家を継ぐ嫡男以外は家によっては軽く扱われてしまう。
 家は家族仲が比較的良くて、僕は父にも兄にも可愛がられて育ったけれど、それでも卒業したら政略の駒としての未来しかきっと無い。

「僕も家庭教師任せだったけれど、外出は許して貰えていたよ。どうして?」
「僕の家は、跡取りの兄以外はそうやって育ちます。弟が何人いるかすら僕は把握していませんが、すべて家を支援する方にお世話になる未来が決まっていると聞いています。僕だけ例外なんです。でも、藤四郎様とのご縁が切れれば僕も弟達と同じ様になるでしょう」

 ゲームとはいえ信じられない設定が出てきた。
 しかも、これゲームでは出てこない。
 ああ、そうかここはゲームの世界だと僕が思っているだけで、現実なんだ。
 だからゲームには出てこなかった設定が、現実として僕の前に現れる。
 舞はゲームではただ途中で消えていく佐々木様の幼なじみというだけだったけれど、自分で未来を切り開く実力がなければ当主の言いなりになる事が当り前だと思うしかないんだ。
 主人公が佐々木様ルートで友達エンドにならない限り、その未来は確定になってしまう。主人公と佐々木様が上手くいってしまうと、幼なじみはいつの間にか退学してるんだから、あれ? 退学? それっていつの話だろ。

「いつか、美空を本当の名前にしてくださると幼い時の藤四郎様は約束してくださいましたけれど、あの人に名前を呼ばせているのですからもう望みはないのかもしれませんね」
「そんなこと、相手が平民だから佐々木様も警戒しなかったのかもしれないよ」
「この学園の中で藤四郎様を名前で呼んでいるのは、僕以外は藤四郎さんより上の家の方、しかも嫡男の方だけなんですよ」

 そ、そこまで徹底してたの?
 ええと、ゲームではなんで名前呼びイベント起きたんだっけ?
 どうしよう、焦って思い出せない。

「もう諦める時期か来たのかもしれません。諦めて僕は藤四郎様の前から消えるべきなのかも」

 い、いや。まだだよ。
 まだ諦めるのは早いから!
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