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本編
まさかのイベントですか
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「ハル、ごめんっ」
「ち、違っ。雅のせいじゃないから」
僕の涙に、雅が焦りだすけれど涙が止まらない。
困って辺りを見渡せば、今まで気がつかなかったけど何人か立ち止まってこちらを見ている。
お休みの昼間、寮に籠らず出歩く人は少なくない。
今いるのは寮に近い小道だから、余計に人目につく。
「だ、大丈夫だから、なんか安心しちゃったら気が緩んで」
「安心?」
「雅に呆れられたと思って、あの僕馬鹿だから嫌われちゃったかなって」
やっと止まった涙を拭くため、ハンカチを出そうとしてポケットを探るけど見つからない。
持ってくるの忘れたのかな? 困ってたら雅が指先で拭ってくれた。
「呆れないし嫌わない。ここは人目がある、寮に戻ろう」
「うん」
嫌われちゃったのかなとか、高校生にもなって友達に言う台詞じゃないよなと、反省しながら雅の少し後ろを歩き寮へと戻る。
寮の入り口は人気が無く、管理人さんの姿も見えなくて僕は内心ホッとしながら階段へ向かおうとした。
「あ、こんにちはっ」
寮の入り口は管理人室に続くドア、その前に荷物の受け取りや諸々の手続きをする為のカウンターがあり、その反対側にはソファーセットが置いてある。
そのソファーに、何故か木村春が座っていた。
人が居ないと思ったのに、何故よりによって君がいるの? 複雑な気持ちでぺこりと頭を下げる。
彼が転校して来てから、僕は寮の入口で挨拶をした以外の会話はしていない。
クラスでは席が離れているし、休み時間は川島君達が彼の側にいるから用事がなくても声を掛けるなんて気にはならなかった。
「何か?」
「あの、今日は良い天気なので部屋にいるのも勿体ないかなって。でも僕お店とかよく分からないからどうしようかなって考えてたところなんです。山城様、もしお時間……」
まだあまり機嫌が直ってない感じの雅にも動じずに、木村君は可愛らしい笑顔でハキハキと答える。
この人、嫌になるくらいに可愛い。
大きな瞳を縁取る睫毛は、エクステつけているのかと思う位に長いくて、二重の目をより大きく見せている気がする。
舞が憂い顔の美人なら、木村君はふわりと明るい癒し系の美人だと思う。
こんな可愛い子に言われたら、そりゃ佐々木様でも気に入るだろうし、一瞬舞を忘れて夢中になっちゃうのも納得だ。というか、この前の朝挨拶した時よりも可愛さが増している気がする。
「そうか、ハル」
「あ、僕部屋に戻るね」
木村君の説明を聞いた雅が僕の名前を呼ぶから、僕はびくっとしながら階段を指差した。
「なんだ?俺も一緒に行くぞ。スマホの設定一人じゃ無理なんだろ」
「え、設定やってくれるの。助かるけど、いいの?」
木村君は雅に案内して欲しいんじゃないのかな、雅だって木村君と仲良くなるチャンスなんじゃ。
「なにが、スマホの設定もだがテスト勉強忘れてないか?」
「あ、忘れてた」
色々重なってすっかり忘れてた。
え、勉強教えてくれる約束覚えてたってこと。
「あの」
「じゃあ、俺達はこれで」
そっけなくそう言うと、雅は僕の手首を掴み階段に向かって歩き始めた。
「ごめんね、また学校で」
雅がどんどん歩いていくから、手首を掴まれた僕は呆然としてる木村君に急いで会釈して足早に歩くしかない。
い、いいの。雅、木村君悲しそうだよ? 優先しなきゃいけないの向こうじゃないの??
「雅、木村君は」
「川島達が気付けば案内するだろう。頼まれてもいないのに余計な気を回して、あいつらに煩く言われるなんて面倒だろ」
確かに川島君達は雅の家と派閥が違うから、基本仲は良くない。
佐々木様程じゃないにしても、小さな嫌みの応酬はしてるのを見たことある。
「それにハルの勉強の方が大事だ」
うわぁ。
心臓止まるかと思った。
元々勉強教わる約束だったから、深い意味はないのかもしれないけど、自分の方が大事って言われた気になっちゃうじゃないか。
「それにスマホの設定、ハルがやったら半日かけても終わらなそうだし」
「そこまで酷くないよっ!」
むっと怒って否定しながら、浮かれる気持ちを抑えられない。
木村君は、雅に案内して欲しそうだった。
さっき、確かに「山城様、もしお時間」って言ってたし、誘おうとしてたんだ。
川島君達と仲良くしていて、休日雅と出掛けてたら問題になったかもしれないけれど、木村君は平民だから派閥云々は詳しくないだろう。
雅はそれを考えて断ったのかもしれない。でも。
「でも、設定してもらえたら凄くすごーく助かる。あっ」
「どうした」
嬉しい気持ちが一瞬で沈んだ。
さっきの共通イベントだ。
学園の案内をしなかった攻略対象者について、好感度を上げたいキャラを指定しお助けイベントを起こす事が出来るというものだ。
転校してはじめての休日に、主人公は寮の入口にいる。
主人公はそこで出会った攻略対象者に案内を頼もうとするけれど、断られてしまう。
ここで、それでもとお願いすると、高感度が下がってしまう。逆に何も言わなかった場合好感度は変化なしとなる。
そして、休み明けに「不躾なお願いをしようとして申し訳ありません」と謝る主人公に「放課後で良ければ案内しよう」と攻略対象者が言うんだ。ここで高感度が上がり、ルート確定に近づく。
これ、雅ルートに入りかけてるって事だ。
「ハル?」
「あの、スマホって最初フル充電しないといけないんだよね」
「そうだな」
「その間雅に無駄な時間使わせちゃうよ」
イベントを思い出して声を出しちゃったけど、思いだした事がもうひとつある。
ショップでフル充電してから設定して下さいねと言われてたのだ。
僕はその間お昼食べたりするけど、雅に申し訳ない。
「コーヒー位入れてくれるだろ?」
「それは勿論」
「それ飲んで待ってるし、充電しながら勉強してればいいだろ」
「合理的ではあるね。じゃあ美味しいコーヒー入れるね、コーヒーマシンが」
スイッチ一つで美味しいコーヒーが入れられる、コーヒーマシンがキッチンに置いてあるのだ。
「あぁ、頼む」
「任せて」
雅に返事をしながら、こんな風に雅を部屋に招くのをもうすぐ出来なくなるのかなと、考えていた。
まだ確定じゃないとはいえ、雅ルートに入りつつあるのは確かなんだ。
雅のルートが進んだら、本当に雅は主人公を選んじゃうんだろうか。
「……」
雅ルートに入りつつあるというだけで、確定じゃない。学園を案内したのは雅じゃないし、他の人の名前呼びイベントもすでに起きている。木村君は誰を選ぶんだろう。雅、なんだろうか。
階段を上りながら、ちらりと後ろを振り返ると、木村君は立ち止まったまま僕達を見つめていた。
「ち、違っ。雅のせいじゃないから」
僕の涙に、雅が焦りだすけれど涙が止まらない。
困って辺りを見渡せば、今まで気がつかなかったけど何人か立ち止まってこちらを見ている。
お休みの昼間、寮に籠らず出歩く人は少なくない。
今いるのは寮に近い小道だから、余計に人目につく。
「だ、大丈夫だから、なんか安心しちゃったら気が緩んで」
「安心?」
「雅に呆れられたと思って、あの僕馬鹿だから嫌われちゃったかなって」
やっと止まった涙を拭くため、ハンカチを出そうとしてポケットを探るけど見つからない。
持ってくるの忘れたのかな? 困ってたら雅が指先で拭ってくれた。
「呆れないし嫌わない。ここは人目がある、寮に戻ろう」
「うん」
嫌われちゃったのかなとか、高校生にもなって友達に言う台詞じゃないよなと、反省しながら雅の少し後ろを歩き寮へと戻る。
寮の入り口は人気が無く、管理人さんの姿も見えなくて僕は内心ホッとしながら階段へ向かおうとした。
「あ、こんにちはっ」
寮の入り口は管理人室に続くドア、その前に荷物の受け取りや諸々の手続きをする為のカウンターがあり、その反対側にはソファーセットが置いてある。
そのソファーに、何故か木村春が座っていた。
人が居ないと思ったのに、何故よりによって君がいるの? 複雑な気持ちでぺこりと頭を下げる。
彼が転校して来てから、僕は寮の入口で挨拶をした以外の会話はしていない。
クラスでは席が離れているし、休み時間は川島君達が彼の側にいるから用事がなくても声を掛けるなんて気にはならなかった。
「何か?」
「あの、今日は良い天気なので部屋にいるのも勿体ないかなって。でも僕お店とかよく分からないからどうしようかなって考えてたところなんです。山城様、もしお時間……」
まだあまり機嫌が直ってない感じの雅にも動じずに、木村君は可愛らしい笑顔でハキハキと答える。
この人、嫌になるくらいに可愛い。
大きな瞳を縁取る睫毛は、エクステつけているのかと思う位に長いくて、二重の目をより大きく見せている気がする。
舞が憂い顔の美人なら、木村君はふわりと明るい癒し系の美人だと思う。
こんな可愛い子に言われたら、そりゃ佐々木様でも気に入るだろうし、一瞬舞を忘れて夢中になっちゃうのも納得だ。というか、この前の朝挨拶した時よりも可愛さが増している気がする。
「そうか、ハル」
「あ、僕部屋に戻るね」
木村君の説明を聞いた雅が僕の名前を呼ぶから、僕はびくっとしながら階段を指差した。
「なんだ?俺も一緒に行くぞ。スマホの設定一人じゃ無理なんだろ」
「え、設定やってくれるの。助かるけど、いいの?」
木村君は雅に案内して欲しいんじゃないのかな、雅だって木村君と仲良くなるチャンスなんじゃ。
「なにが、スマホの設定もだがテスト勉強忘れてないか?」
「あ、忘れてた」
色々重なってすっかり忘れてた。
え、勉強教えてくれる約束覚えてたってこと。
「あの」
「じゃあ、俺達はこれで」
そっけなくそう言うと、雅は僕の手首を掴み階段に向かって歩き始めた。
「ごめんね、また学校で」
雅がどんどん歩いていくから、手首を掴まれた僕は呆然としてる木村君に急いで会釈して足早に歩くしかない。
い、いいの。雅、木村君悲しそうだよ? 優先しなきゃいけないの向こうじゃないの??
「雅、木村君は」
「川島達が気付けば案内するだろう。頼まれてもいないのに余計な気を回して、あいつらに煩く言われるなんて面倒だろ」
確かに川島君達は雅の家と派閥が違うから、基本仲は良くない。
佐々木様程じゃないにしても、小さな嫌みの応酬はしてるのを見たことある。
「それにハルの勉強の方が大事だ」
うわぁ。
心臓止まるかと思った。
元々勉強教わる約束だったから、深い意味はないのかもしれないけど、自分の方が大事って言われた気になっちゃうじゃないか。
「それにスマホの設定、ハルがやったら半日かけても終わらなそうだし」
「そこまで酷くないよっ!」
むっと怒って否定しながら、浮かれる気持ちを抑えられない。
木村君は、雅に案内して欲しそうだった。
さっき、確かに「山城様、もしお時間」って言ってたし、誘おうとしてたんだ。
川島君達と仲良くしていて、休日雅と出掛けてたら問題になったかもしれないけれど、木村君は平民だから派閥云々は詳しくないだろう。
雅はそれを考えて断ったのかもしれない。でも。
「でも、設定してもらえたら凄くすごーく助かる。あっ」
「どうした」
嬉しい気持ちが一瞬で沈んだ。
さっきの共通イベントだ。
学園の案内をしなかった攻略対象者について、好感度を上げたいキャラを指定しお助けイベントを起こす事が出来るというものだ。
転校してはじめての休日に、主人公は寮の入口にいる。
主人公はそこで出会った攻略対象者に案内を頼もうとするけれど、断られてしまう。
ここで、それでもとお願いすると、高感度が下がってしまう。逆に何も言わなかった場合好感度は変化なしとなる。
そして、休み明けに「不躾なお願いをしようとして申し訳ありません」と謝る主人公に「放課後で良ければ案内しよう」と攻略対象者が言うんだ。ここで高感度が上がり、ルート確定に近づく。
これ、雅ルートに入りかけてるって事だ。
「ハル?」
「あの、スマホって最初フル充電しないといけないんだよね」
「そうだな」
「その間雅に無駄な時間使わせちゃうよ」
イベントを思い出して声を出しちゃったけど、思いだした事がもうひとつある。
ショップでフル充電してから設定して下さいねと言われてたのだ。
僕はその間お昼食べたりするけど、雅に申し訳ない。
「コーヒー位入れてくれるだろ?」
「それは勿論」
「それ飲んで待ってるし、充電しながら勉強してればいいだろ」
「合理的ではあるね。じゃあ美味しいコーヒー入れるね、コーヒーマシンが」
スイッチ一つで美味しいコーヒーが入れられる、コーヒーマシンがキッチンに置いてあるのだ。
「あぁ、頼む」
「任せて」
雅に返事をしながら、こんな風に雅を部屋に招くのをもうすぐ出来なくなるのかなと、考えていた。
まだ確定じゃないとはいえ、雅ルートに入りつつあるのは確かなんだ。
雅のルートが進んだら、本当に雅は主人公を選んじゃうんだろうか。
「……」
雅ルートに入りつつあるというだけで、確定じゃない。学園を案内したのは雅じゃないし、他の人の名前呼びイベントもすでに起きている。木村君は誰を選ぶんだろう。雅、なんだろうか。
階段を上りながら、ちらりと後ろを振り返ると、木村君は立ち止まったまま僕達を見つめていた。
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