【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

お揃いがばれた

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「ハル、どうした?」

 僕の部屋に来たのは三回目だっていうのに、ソファーに座る雅は部屋の主みたいに見える。
 僕はその姿に、きゅんとしてうっとりと雅を見つめてしまう。
 主みたいに見えるというのは、僕の願望に近いんだろう。
 雅が僕の部屋の主と言うことは、僕は小姓で雅はご主人様。
 そんな未来はありえないけれど、妄想していいならしてみたい。
 だって、ご主人様だよ。
 どんなに望んだって、そうはならないであろう未来だよ。
 雅がご主人様なんて、そんな未来があるのなら妄想でいいから実現したい。

 ゲームでは雅ルートでは主人公の木村春は雅の小姓になる。平民だから彼は妻にはなれないという設定だった。他ルートでは正妻になるエンドがあるので、これは単なる設定でしかないと思うけれど。雅ルートでは彼は小姓で終わるんだ。
 そして、小姓になった彼は最後に雅を「僕の大好きな旦那様」と呼ぶんだ。
 ゲームの最後は、学園卒業後の二人的な感じで人物スチル無しの声だけだった。

 それぞれの攻略対象者への台詞は覚えている。
 木村藤四郎:「ご主人様、今宵も僕を愛でて下さいませ」
 川島樹里:「ダーリン。だ~いすきっ。今日も一杯しようね」
 谷崎信也:「信也様、今日も僕を愛して下さいますか?」
 森村喜一郎:「きいちゃん。今日はまだキスしてくれてないよぉ。ね~え。だいすき」

 そして、雅は「僕の大好きな旦那様、ずっと一緒にいてくれますか?」だった。
 攻略対象者の台詞は全部同じで「お前を一生愛すると誓うよ」だ。
 あの時の雅の声優さんの声、大好きだったんだよなあ。
 雅ルートはヘッドフォン必須。
 声を聞く時目を瞑るのはお約束だった。
 雅のスチルって、彼のちょっとSな感じが分るスチルが多かったから、他のキャラより妄想が刺激されるスチルが多くて、前世の僕はそれで何回抜いたか分らない。本当、前世の俺は雅への妄想にお世話になりました。
 身バレが怖かった僕は、とにかく勤めている会社や周辺に絶対悟られない、それだけは注意して生きていた。
 日常に使っている小物、うっかりスマホを見られた時に察したりされないように。注意し続けたあまり、童貞で友達らしい友達もいなかった。
 家に友達を招く事も無く、ゲームだけで欲望を処理する日々。
 何が自分の性癖を広める原因になるか分らないから。
 それを恐れて、最大限の予防を張る日々だった。
 前世を考えると、同性への思いがバレても問題にならない現世は天国だ。
 貴族の家を継ぐ以外の子供は、殆ど貴族の家の愛人になるしかない未来。
 考えようによっては絶望の未来でも、同性だからと自分の思いを封じなくていいのは、ある意味有り難いと思って良いのかも知れない。
 それが政略で好きでも何でもない相手に嫁ぐしかないと分っていても、前世よりはマシだと思うんだ。

「コーヒーいれるね」

 無理矢理現実世界に戻って雅に声を掛ける。
 前世と今世を比べるのは、色んな事が違い過ぎて難しいな。

「その前に充電始めないと駄目なんじゃないか」
「あ、そうだった。忘れてた」

 前世の僕は夢想していた。
 大好きなBLゲームで、大好きな推しと番えるエンドを。
 前世の僕ではあり得ないから、夢想して諦めていた。
 
 あり得ない未来だと思いながらも、それを望めるのではと妄想して願った。
 前世の俺が願ったのは、ささやかな未来だ。
 好きな人と思いが繋がり、思い合う未来。
 だけどそんな未来は永久に来なくて、望めば望むだけ絶望しかなかった。
 現実が辛いからゲームの世界を妄想していた、雅が僕のご主人様になってくれる。ありえない未来を。
 そんなもの、現世では得られないのだと思いながら、僕が好きな人と思い合える未来があれば良いと願った。
 もしも僕の望みが叶うなら、ただ一つ。

 好きな人と結ばれたい。

 そんな未来はないと分っていたのに、僕はそう願ったんだ。だから今は片想いでも幸せだ。今後雅が主人公を思うようになったら、辛くなるんだろうけれど。それでも、誰も好きになっちゃ駄目だと怯えて暮らしていた前世よりマシなのかもしれない。

「雅はお腹空いてないの?良かったら、一つどう?」

 さっき買ったベーカリーの袋を覗き込みながら聞くと雅は「飲み物だけ貰えればいい」という答えが返ってきた。

 僕がもしもゲームの設定通りに小姓になれたら、もしそうだったらなんて呼びたいかな?
 ご主人さまよりは、旦那様って呼びたい。
 いや、僕の大好きなご主人様とかも良いっ!
 って、こんな妄想虚しいだけだよね。
 現実はただの友達で、雅は主人公の為に存在する攻略対象者なんだから。

「はぁ」

 現実に思考が戻ると、妄想中幸せすぎた分だけ落ち込む。
 落ち込みながら、携帯ショップの紙袋からスマホを取り出して、充電コードと接続する。
 購入して最初のフル充電ってどのくらいの時間が掛かるんだろと疑問に思いながら、充電時間が長ければその分雅と一緒にいられるんだと期待してしまう。

「コーヒー、雅はお砂糖とか無しだっけ?」

 好みはブラックだと知ってるけど、ゲームの設定で知ってるだけ。
 そういう話をした記憶はない。

「あれ、言ったことあったか?」
「ええと。聞いたことは無かったけど、以前雅がコーヒーを食堂で頼んでるのを見て、あの」

 話したことないけど、お昼休みにコーヒー頼んでるのを見たことはある。
 僕は砂糖たっぷりのカフェオレしか飲めないから、雅はブラックなんだ、格好良いと思ってた。
 前世を思い出す前の話だ。

「それで、覚えてたんだ」
「あ、いや、あの。僕は甘いコーヒーしか飲めないから、雅はあんな苦いの飲めちゃうんだって、あのだから」

 慌てて言い訳しながら、よく考えたらそんな些細な場面を記憶してるってストーカーっぽくないか?と青くなる。
 冷静になると焦って、でも上手い言い訳が思いつかない。

「なんか、格好良いなぁって思ったから覚えてたのっ。僕なんか、砂糖と牛乳たっぷりのカフェオレしか飲めないから、家の兄様にも子供だなって笑われてるし」

 急いで言い訳しながら、言わなくていい兄の話までしてしまう。
 こういうの墓穴を掘るっていうのか、それとも穴があったら入りたいの方?

「ふうん。それよりさ、ハルの選んだこの色俺のと似てるな」
「え?」
「スマホの色。縁のところが違うみたいだけど、ほぼ同じだな」
「え、えぇ?そ、そうなの??」

 やばいっ。
 ケースに入れる前に雅に見せちゃ駄目だったのに。

「ほら」
「同じ機種だった?」

 雅は自分のスマホを取り出して、僕のスマホと並べる。
 機種は違うはず、僕のは出たばかりの最新機種だし。
 でも、色が同じなのバレちゃったよ。

「いや、同じメーカーだけどハルの方が新しい奴だな」
「そ、そうなんだ。一番オススメのだってショップで宣伝してたんだ」

 ひくひくと笑顔が引きつる。
 色を選ぶ時、真っ先に雅のスマホの色が浮かんだんだ。
 他のメーカーならシルバーとか黒とか白とか、その辺りだったけれど。
 幸いにも後継機種だったから、同じ系統の色だったんだ。
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