【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

頑張るしかないよね_その2

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「お礼なんか別にいらないけど」
「そういうわけにはいかないでしょ。雅の時間使っちゃうんだよ」

 もっと雅といたいから食事の時間を引き延ばしたいけれど、もうデザートだから引き延ばすの限界だ。つまり幸せな時間が終わる。

「学園のテスト位なんでもないし、ハルに教えるのが負担になるわけがないだろ」
「頭が良い人ってそうなの? 僕にはテストってだけで凄い負担だよ」
「なら、テスト以外の勉強も教えないといけないな」
「え」
「ハルはなんだか頼りなさ過ぎる」
「あの、それって僕が馬鹿っていう意味?」

 僕、雅にどう思われてるの?
 ちょっと好きかなって程度のクラスメイト?
 弟っぽい印象の、気になる存在?
 あんまりにも馬鹿すぎるから、心配になる友達?
 一体どれなの。気になるよ。教えてよ。
 それが少しでも恋愛に発展するのか、希望があるのかないのか、今すぐ教えてよ。

「そんなわけないだろ。ハルは次の行動が読めなくて心配になるってことだ。友達の為とは言えよく知りもしない相手の部屋に単身乗り込むし、規則忘れて商業施設の人間に個人的に繋がりを持たされようとするし。放っておくと何するか分らなくて心配になる」
「それは、申し訳ありません」

 これは、あまりにも馬鹿すぎるから、心配になる友達って感じなんだろうか。
 そこに弟要素が加わる。つまり、恋愛要素は皆無なのかな。

「ハルは悩まなくていいから、デザートを楽しめよ。俺が考えてフォローすればいいだけの話だから」
「うん」
 
 何だか複雑な心境だけど、確かにデザートを楽しまないのは損だ。今日のデザートは、あの夢の食べ物を作った人の手によるチョコレートケーキなんだから。
 僕が勉強を教わったお礼と、スマホの設定のお礼に夕食をご馳走すると言ったら、雅がそのお礼にデザートを頼んであげると、特別にサロンの菓子職人さんにデザートを頼んでくれたのだ。
 あのクッキーの美味しさを知っていたから食べるのはもの凄く楽しみだったし、雅が僕の為に頼んでくれたというのも嬉しかった。
 たった数時間前の話なのに、今は凄く昔みたいな気がする。
 だって今は、ただただ悲しいだけだ。
 食べ終わったら雅は自分の部屋に戻ってしまう。
 そしたら僕は、これからの事を考えなくちゃいけないんだ。

「体調崩したばかりなんだから、無理はするなよ」
「うん。ありがと。強迫観念半日僕に付き合わせちゃってごめんね。昨日だって迷惑掛けたのに、申し訳なさすぎだね」
「別に迷惑じゃないし、俺が好きでやったことだから気にする必要はない」
「ありがとう。雅はやっぱり優しいね」

 ああ、雅が優しいのが辛い。
 Sキャラ設定じゃなかったの? って、文句言いたくなる位に雅は優しすぎる。
 こんなん諦められないよ。すでに好きだけど、更に好きになっちゃうよ。
 雅が将来何人か愛人を持つ様になるなら、その末端でいいから雅の側にいたい。
 父様は僕が幸せになるようにって言ってたけれど、雅とじゃなきゃ幸せになんかなれないよ。だって好きなのは雅なんだもん。

「雅」
「ん?」

 雅のテーブルマナーは完璧だ。
 学園でテーブルマナーが酷い人を探す方が難しいけれど、その中でも雅の食事の仕方はマナー教本のお手本の様に綺麗で完璧だ。コーヒーカップを持つ姿だけでも見惚れてしまう。
 そういえば、主人公は上手く骨付き肉が食べられなくて馬鹿にされるんだっけ、あれは誰のイベントだったかな。
ゲームのイベントとか設定を全部覚えているつもりだったけれど、ちょっと忘れてるところがあるみたいなんだよなあ。

「ねえ、テスト期間中ずっと一緒に勉強したいって言ったら迷惑かな」
「いや。元々そのつもりだったが」
「え」

 少しでも一緒に居たくて勇気を振り絞ってそう言えば、雅から予想外の答えが返ってきた。
 さっきのは冗談じゃなかったの?

「勉強教える約束だったろ」
「でもテストの間ずっととは言ってなかったし、迷惑じゃないの?」
「迷惑なら、最初から断っている。ハルに教えるのは俺にとってはいい復習になるから迷惑なんかじゃないさ。テストが終わってからも俺がハルに教える」
「じゃあ、お願いしてもいい?」

 主人公には申し訳ないけれど、僕には春休みに入るまでしかないんだから許して欲しい。

「勉強教わるお礼はどうしようか」
「お礼なんかいらない。そんなつもりで約束したわけじゃない」
「でも」
「どうしてもというなら、ハルの手料理でも食べさせて貰おうか。料理出来るんだろ?」
「出来るけど、なんで知ってるの?」

 料理は幼い頃からやっていた。
 これも父様の教育の一つだった。
 母様は林檎の皮もむけない人だけど、僕も妹も料理の勉強をさせられた。
 妹は途中で止めてしまったけれど、僕は学園に来るまでずっと数人の料理人と菓子職人に指導を受けた。
 父様曰く、側室が正妻に勝つには胃袋を掴む必要があるというのだ。
 社交や家の事は正妻がすべて行なうから、側室はただ主人である夫を癒やす人であるべきで、声を荒げたり意見を言ったりしてはいけないし、夫が休める様に気を配らなければならない。その為に料理を覚えて夫が好きなものを何でも作る事が出来る様にしなければいけないと言われていた。
 でも寮に入ってからはあまり料理はしていない。
 休日のブランチを作ったりする程度だ。
 自分一人分を作るより、食堂で食べた方が手軽だし楽だからだ。

「調理器具や調味料が揃っているようだから、作れるのかと思ったんだが違うのか」
「作れるよ。そんなに上手じゃないけれど。自分が食べたいものは一通り作れると思う」

 まさか雅に手料理を食べさせる日が来るとは思って無かったけれど、僕なんかの料理を本当に食べてくれるんだろうか。

「じゃあ、テストが終わったら。そうだな土曜日の夕食をハルが作ってくれ」
「いいよ。そんなのがお礼になるなら。いくらでも」

 嘘みたいだ。
 雅に食べて貰えるなんて。

「雅は何が食べたい? リクエストとかある?」

 今日が最初で最後の二人だけの食事じゃないんだ。
 そう考えるだけで、嬉しくなってくる。

「ハルの得意な料理は」
「煮込みハンバーグとか、オムライスとかかな」
「ハルらしいな」
「僕らしいって何それ。ミートパイとか肉じゃがとかだって作れるよ」
「へえ。肉じゃがか。学食でしか食べた事がないな」

 そういえば肉じゃがって貴族の食卓には出てこないらしい。
 僕も家の食事として出てきた事はない。料理の勉強で、庶民の味として習ったんだ。

「雅は肉じゃがとか好き?」
「そうだな。ハルが作ったのなら好きかもしれないな」

 何だろう、この口説き文句的な台詞。
 僕の気持ちをドキドキさせて雅は何がしたいんだろう。
 弟ぐらいしか思って無いくせに。

「はじめて食べてもらうなら、雅の好きな食べ物を作りたいよ。ねえ、何が好き?」
「ハルが自信があるものじゃなく?」
「うん。雅は何が好き?」
「そうだな。考えておく」
「じゃあ、金曜日の放課後までに食べたい物考えておいてね。約束だよ」

 こういう約束をいつまで出来るのか分らないけれど、最初で最後でもいいから約束したい。

「ああ。土曜日一緒に食材を買いに行こうか」
「うん」

 凄い、土曜日に一緒に居られるんだ。
 食材を買いに行って、僕が料理を作って雅に食べて貰える。
 夢かな。これ。
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