【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

チョコレートを買いに行こう その2

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「千晴様、落ち込まないで下さい」
「うん、大丈夫。ごめんね気を遣わせて」

 放課後、僕は舞とコンビニに向かっていた。
 昼休み終わりに、雅に放課後舞と買い物に行くからお勉強会の時間を遅らせてもいいかと雅に尋ねると「相手は宮原舞だけか?」と念押しされた後、買い物が終わったら雅の部屋に行く約束をさせられた。

 そわそわと午後の授業という名のテストを過ごし、舞と連れだって教室を出た。
 コンビニの品揃えは素晴らしい。
 男子しかいない学園のコンビニだというのに、バレンタインコーナーがしっかりあるし前世デパートの催事場に出ていた様な有名パティシエ監修のチョコレートやレストランやスウィーツ店のチョコが並んでいるし、義理チョコっぽいものもあるけれど、全体的に価格が高い。
 雅は甘い物が得意じゃないから、ビターチョコ系のものを探したいなと思っている。
 佐々木様は、舞と一緒なら甘い物も食べるらしい。
 
「図書館に行くって雅が言ってただけで、あの子はそれに無理矢理付いていっただけだよ」

 無理矢理じゃ無かったというのは、分ってるけれど。気持ち的に無理矢理だったと思いたくてそう言うと、舞は「無理矢理です。山城様、迷惑そうでした」と慰めてくれた。
 僕がずっと雅の放課後の時間を奪ってたから、機会を窺っていたんだろうか? 木村春は図書館に寄ってから帰ると言う雅に「僕も行こうと思ってたんです、ご一緒していいですか」と声を掛けて来た。
 僕の顔は引きつったし、教室の中は一瞬シンとなった。
 雅は僕に向かって図書館に寄ると言っていただけなのに、そこに木村春が割り込んできたからだ。僕とも仲が良いなら兎も角、木村春と僕が会話したのは二回だけだ。
 木村春は、攻略対象者の四人以外はあまり会話をしているところを見た事がない。
 性格が悪いとか、話が通じないタイプではない。
 声を掛けられれば普通に会話をするらしいけれど、自分から声を掛けるのがその四人というだけだ。
 佐々木藤四郎、川島樹里、谷崎信也、山城雅の四人の内、雅を除く三人は彼を名前で呼んでいるし川島君はかなり彼に傾倒している感じだ。攻略としては一番川島君が進んでいるんだろう。
 佐々木様は舞を小姓にした為なのか、割と突き放した感じ。谷崎様は親しい友人なのかなという程度、雅は仲が良いような適当に相手をしているような感じで、名前呼びは許していない。残る一人の攻略対象者森村喜一郎は学年が違うから、全く分らない。

「まあ、今日は一緒に帰れなかったから。僕がどうこう言える話じゃないし、予定を急に変更したのは僕だし」

 僕が用事があると言った時、ちょっと位残念そうにして欲しかったのは僕の我が儘だ。
 雅があっさり納得したのを見て、がっかりしたのも僕の我が儘だ。

「チョコレート、いいの残ってるといいね」

 気持ちを変えようと、舞に向かって明るく言いながらコンビニの中に入る。
 落ち込んでいる最大の理由は、あれが雅ルートのイベントな気がするからだ。発生時期が早すぎるから確定じゃないけれど、たぶんイベントだ。
 二年生なってから主人公が雅攻略を進められていない時期に起きるイベントで、雅が一人図書館に向かうのを知った主人公が勇気を出して声を掛ける。
 そこで少しでも好感度が上がっていれば「勝手にしろ」と雅は答えそうで無ければ無言のまま教室を出て行く。
 今日は無言だった。僕の頭を一撫でして「部屋で待ってる」と言って教室を出て行った。
 時期もそうだけど、このパターンはゲームに無かったから悩んだけれど、やっぱりあれは雅ルートのイベントだったのだと思う。名前呼びイベントが三人分進んでいる状態だからこっちも早く発生したのかもしれない。

「バレンタインコーナーいつからあったのでしょう。もっと早く買いにくれば良かったですね。」
「分からないな。僕休みの日も来たけど、その時は雅も一緒だったから見てなかったんだぁ」

 雅のイベントの事は頭の隅に押しやって、舞と話す。
 お店には休み中にも雅と来たけれど、その時はバレンタインコーナーは見てなかったんだ。だって、それどころじゃなかったし。

「バレンタインコーナーは、あ、あそこですね」

 舞が店の中を見渡し、レジ近くに大きく場所を取ってあるバレンタインコーナーを見つけて指差す。
 僕達みたいに駆け込みで買いに来る人達で、コーナー辺りは結構な混み具合だった。

「結構売れちゃってるね。バレンタイン明日だもん仕方ないね」

 手頃な千円台のチョコはもう無かった。
 自分用なら兎も角、雅にお手軽チョコを渡すつもりは元々無かったからいいけれど、こんなに棚が空っぽになる位買う人がいるのかと驚いた。

「舞はどんな感じのにするの」
「藤四郎様には、中に色々なクリームが入ったトリュフの様なものがいいかと考えていました。藤四郎様はピスタチオクリームやお酒が入ったものがお好きなので、それがあるといいのですが」

 舞は佐々木様の事を話す時、とても嬉しそうなのが僕も嬉しい。
 舞はゲームでは、幼なじみとしてしか出てこない名前もないキャラだけれど現実はこんなに可愛くて一途に佐々木様を思っている人なんだ。

「へえ、ピスタチオか、お酒入りって何となくイメージ納得だね。佐々木様はお酒も飲まれるの?」

 驚く事にこの世界、お酒は十六歳を過ぎると貴族は飲んでいいとされている。
 平民は二十五歳まで禁止だけど、貴族に属する舞みたいな小姓は貴族と同じ扱いになる。
 こういうところを考えると、ここが前世と違う世界なんだと思う。

「ワインより、ブランデーやウィスキーの様なものがお好きな様です。でも僕は弱いので殆ど飲めないので、お相手出来ないのが残念ですが」
「僕も飲めない。ワイン一杯で寝ちゃう」

 前世は一人宅飲みしてた。他人と飲むのは無理だった。酔ったはずみで何かをばらしちゃったら困るから。飲むときは一人、が絶対だった。
 今世は社交で飲む程度、でも弱いしすぐ眠くなる。
 雅はどうなのかな。ゲームでは雅は飲むシーンが無かった。
 酒豪は佐々木様と森村様だったかな? その辺りの記憶はあまりない。ゲームの記憶が曖昧なんだと、最近気がついた。イベントも起こってから気がつく。これじゃ意味がない。でも、どうしようもない。

「雅はお酒好きかどうか分らないなあ。甘いもの好きじゃないとしか分からない。あ、これいいかも」

 話ながらチョコレートを選んでいくと、板チョコで一枚九千五百円というとんでもないものを見つけた。裏を見ると内容量三百グラムと書いてある。もの凄く高級なチョコレートだ。ほぼ一万円だもん。

「ビターチョコレートですね」
「うん。雅あんまり甘いの好きじゃ無いし、こういう板チョコみたいな方が好みな気がする。これなら最悪溶かしてコーヒーに混ぜられそう」

 バレンタインコーナーに並ぶチョコレートの中で、ちょっと異質な感じのチョコレート。
 正直なところ、板チョコに一万円近く出す人の気持ちが理解出来ないけれど、ポップには『ゆっくりと口の中で溶かして、カカオの風味をお楽しみ下さい』と書いてあるので、きっと甘いだけのチョコでは無いのだろうと思う。

「僕はどうしましょう。トリュフだとこの辺りでしょうか。あ」
「なあに、なにか見つけたの?」
「これ、柚の皮が使われているって書いてあるので」

 なんだろ、柚に思い出でもあるのかな。
 舞の顔が赤い。

「藤四郎様の口に合うか分りませんが、僕これにしようと思います。同じ箱に抹茶味のトリュフも入っていますし、これなら藤四郎様も食べて下さるかもしれません」

 柚の皮を使ったチョコレート。
 柚の皮を刻んでクリームにしたものを包んだトリュフと、チョコレートに柚の皮を練り込んだチョコで作ったトリュフ。後は抹茶味のクリームを包んだトリュフ。
 これも結構高い税抜き一万、一粒五百円。でも美味しいならいいのかな。

「佐々木様、気に言ってくれるといいね」
「はい」

 チョコレートの箱を抱きしめて笑う舞の顔は、最高に可愛かった。
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