【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

ぬいぐるみの行き先は

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「はい」

 何も考えずに僕はドアを開いた。
 インターフォンを受けずに、すぐにドアを開くなんてなんて不用心なことしてるんだろう。
 でもなんか色んな事がどうでもよくて、というより不用心とかそういうのが頭の中に浮かんでなかった。

「誰が来たのか確認せずにドアを開けるなよ」
「み、雅?」

 ドアを開いた先に立っていたのは雅だった。

「入っても?」
「え、あの」
「それとも誰か来てる?」

 思わず後ろを振り返った僕に、雅が尋ねるから慌てて首を振る。

「そうじゃなくて、ちょっと部屋が散らかっていて」

 雅にテーブルの上を見られるのが恥ずかしい。
 狼雅のグッズを出したままなんだ。
 本人はあれが自分をモデルにしたものだって知ってるんだから、それを僕が全部持ってるってどう思うのか。

「そんなの気にしない」
「雅、あの? 何持ってるの?」
「俺には不要なものだ」
「あの、取りあえず中に入って」

 雅の言い方に頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。
 玄関の中に入りドアを閉め鍵を掛けると、後ろ手に持っていたものを雅は僕の目の前に尽きだした。大きな紙袋を受取り、中を覗くと入っていたのはあのぬいぐるみだった。

「うわっ。何、え、えええっ。なんで」
「クジを引いたらラストワンとかいうので無理矢理渡された」
「雅あのクジ引いたの? 最後の一回だったの?」

 まさか本人の元へぬいぐるみが行くとは、クジを作った人達も思わなかっただろう。

「あの、これ」
「俺はぬいぐるみを部屋に飾る趣味はない。いらないなら捨てろ」
「あの、捨てるなんてとんでもない。あの、あの。これ」

 欲しかったんだ。これどうしても欲しかったんだ。
 くじを引いても当たらなかったから、今日くじが残っていたとしてもきっと僕の元には来ないだろうと分っていた。
 だって、それがあのゲームの仕様だから。

「僕が貰って良いの?」
「だから持ってきたんだが」

 雅はどんどん廊下を進み、リビングへと近付いていく。
 リビングのドアを開いて、そして動かなくなった。

「雅、あ。すぐ片付けるから、ごめんね。汚くて驚いたよね」

 そういえば、狼雅グッズに気を取られてチョコレートの存在を忘れていた。
 ギフトバッグと包装紙も片付けていないし、チョコレートはお皿に移さずに箱の中で割って食べていた。正直に言えば行儀が悪い。

「いや、くつろいでいるところに来たみたいで悪かったな」
「なんだか今日は疲れちゃって、買った高級チョコレートでも食べて癒やされようかと」

 もの凄い言い訳だと自分でも思う。
 包装紙を見ればバレンタイン仕様だと一目で分るだろうし、それを一人で食べている僕って変だろう。
 誰かから貰ったと思われるか、誰かにあげられなかったと思われるかの二択かもしれない。

「ハルもクジひいたんだ」
「え、あの。うん。コーヒー入れるから座って」

 ソファーにぬいぐるみを出して座らせ、雅にもソファーを勧める。

「ああ、ありがとう」

 チョコレートを直視しない雅は、優しい。
 僕はうろたえながら、コーヒーを用意し雅の前にカップを置いた。

「凄いね。制服本物みたい」

 チョコレートの話題を避けたくて、ぬいぐるみを両手で捧げ持つとその出来をじっくりと眺め始める。
 銀縁眼鏡も針金を曲げて作ったとかじゃなく、本物っぽいクオリティだ。流石にレンズは入ってないけれど。雅が使ってる眼鏡にそっくりだ。
 昨日は気が付かなかったけれど、制服は学園で使用している布地と同じものが使われているみたいだし、なんと履いている靴が脱げるし靴下まで履いている。

「凄いなあ。うーん、ふわふわ」

 僕のところに来てくれたのが信じられなくて嬉しすぎて、思わず抱きしめて頬ずりしてしまう。
 眼鏡は固定されていて顔から外せないけれど、僕雅の眼鏡を外した顔知らないしその辺りは気にならない。

「嬉しそうだな」
「うん。あ、うん」

 素直に頷いて、これは雅モデルのぬいぐるみだったと思い出した時は遅かった。
 本人の前で、分身とも言えるぬいぐるみに頬ずりするって、なにしてるんだよ僕。

「これがグッズって奴か。ふうん」
「あのね、雅」
「知ってる? これ俺がモデルらしいよ。他にも佐々木藤四郎がドラゴン、川島樹里が狐、
谷崎信也がライオン、森村喜一郎がうさぎなんだってさ」
「そうらしい……ね」

 知らなかったと言えばいいのに、肯定しちゃう僕の馬鹿。
 雅は驚いた様に僕の顔を凝視してる。
 モデルが雅と知ってて頬ずりする僕、本人を前に凄い度胸だ。

「コンビニの店員さんが教えてくれたんだよ。僕がこの狼が雅に似てるって言ったら、内緒だよって」
「そ、そうか」
「ぬいぐるみも欲しかったんだ。ラストワン賞が狼のぬいぐるみだって知って、凄く欲しかったんだ」

 こんな風に言うつもりじゃなかったけれど、勇気を出せ自分。

「雅がモデルだって知ったから、どうしても欲しかったんだ」
「ハル」
「ごめんなさい。雅が好き、大好きなんだ」

 告白出来ないと諦めた筈なのに、こんな告白しても雅を困らせるだけなのに。
 一度好きだと口にしたら、感情が抑えられなくなった。

「迷惑だって分ってるけど、好きなの止められない。どうしても諦められなっ」

 涙がぽろりとこぼれ落ちた瞬間、雅に抱きしめられた。
 雅に抱きしめられたまま、涙がポロポロと落ちていく。

「雅」
「好きだ」
「え」
「好きだ。ずっと好きだった」

 これは夢? 僕雅に好きだって言われてる?

「雅」
「迷惑なんかじゃない。好きなんだ」
「雅、みや……」

 嬉しくて、でも混乱して、僕は雅の胸に顔を押しつけ泣き続ける。
 好きと言われて抱きしめられて、嬉しいのに。
 雅の言葉が信じられない。
 だって主人公は、木村春はどうするの?

「あのチョコレート本当は俺のだった?」

 混乱する頭で、でも声に出さず頷く事で返事をする。

「でも自分で食べようとしてたんだ?」

 また頷く。だって自分がモブのイベント要員だって気がついたから。
 告白なんてしちゃ駄目だって思ったから。

「告白、チョコ渡して言うつもりだったよ。でも今日雅に迷惑掛けたから怖くなって、僕が雅の近くにいたらまた迷惑掛けるって、そう思って」

 こんな告白して、雅が今後主人公に気持ちが動いたらどうなるんだろう。
 雅も僕を好きって言ってくれたのは嬉しいけれど、そうなったらなったで、今後がどうなるのか怖い。

「迷惑なわけないだろ。そう思うならあんな風にあいつらとやり合わない」
「そうだけど」
「ハルが好きだ。だから、迷惑を掛けるとか考えないで欲しい」
「好きでいてもいいの?」
「ああ」

 抱きしめられたまま何度も何度も好きだと言われて夢みたいな気持ちを持つ一方で、僕は大きな不安を抱えていたんだ。
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