46 / 119
本編
ぬいぐるみの行き先は
しおりを挟む「はい」
何も考えずに僕はドアを開いた。
インターフォンを受けずに、すぐにドアを開くなんてなんて不用心なことしてるんだろう。
でもなんか色んな事がどうでもよくて、というより不用心とかそういうのが頭の中に浮かんでなかった。
「誰が来たのか確認せずにドアを開けるなよ」
「み、雅?」
ドアを開いた先に立っていたのは雅だった。
「入っても?」
「え、あの」
「それとも誰か来てる?」
思わず後ろを振り返った僕に、雅が尋ねるから慌てて首を振る。
「そうじゃなくて、ちょっと部屋が散らかっていて」
雅にテーブルの上を見られるのが恥ずかしい。
狼雅のグッズを出したままなんだ。
本人はあれが自分をモデルにしたものだって知ってるんだから、それを僕が全部持ってるってどう思うのか。
「そんなの気にしない」
「雅、あの? 何持ってるの?」
「俺には不要なものだ」
「あの、取りあえず中に入って」
雅の言い方に頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。
玄関の中に入りドアを閉め鍵を掛けると、後ろ手に持っていたものを雅は僕の目の前に尽きだした。大きな紙袋を受取り、中を覗くと入っていたのはあのぬいぐるみだった。
「うわっ。何、え、えええっ。なんで」
「クジを引いたらラストワンとかいうので無理矢理渡された」
「雅あのクジ引いたの? 最後の一回だったの?」
まさか本人の元へぬいぐるみが行くとは、クジを作った人達も思わなかっただろう。
「あの、これ」
「俺はぬいぐるみを部屋に飾る趣味はない。いらないなら捨てろ」
「あの、捨てるなんてとんでもない。あの、あの。これ」
欲しかったんだ。これどうしても欲しかったんだ。
くじを引いても当たらなかったから、今日くじが残っていたとしてもきっと僕の元には来ないだろうと分っていた。
だって、それがあのゲームの仕様だから。
「僕が貰って良いの?」
「だから持ってきたんだが」
雅はどんどん廊下を進み、リビングへと近付いていく。
リビングのドアを開いて、そして動かなくなった。
「雅、あ。すぐ片付けるから、ごめんね。汚くて驚いたよね」
そういえば、狼雅グッズに気を取られてチョコレートの存在を忘れていた。
ギフトバッグと包装紙も片付けていないし、チョコレートはお皿に移さずに箱の中で割って食べていた。正直に言えば行儀が悪い。
「いや、くつろいでいるところに来たみたいで悪かったな」
「なんだか今日は疲れちゃって、買った高級チョコレートでも食べて癒やされようかと」
もの凄い言い訳だと自分でも思う。
包装紙を見ればバレンタイン仕様だと一目で分るだろうし、それを一人で食べている僕って変だろう。
誰かから貰ったと思われるか、誰かにあげられなかったと思われるかの二択かもしれない。
「ハルもクジひいたんだ」
「え、あの。うん。コーヒー入れるから座って」
ソファーにぬいぐるみを出して座らせ、雅にもソファーを勧める。
「ああ、ありがとう」
チョコレートを直視しない雅は、優しい。
僕はうろたえながら、コーヒーを用意し雅の前にカップを置いた。
「凄いね。制服本物みたい」
チョコレートの話題を避けたくて、ぬいぐるみを両手で捧げ持つとその出来をじっくりと眺め始める。
銀縁眼鏡も針金を曲げて作ったとかじゃなく、本物っぽいクオリティだ。流石にレンズは入ってないけれど。雅が使ってる眼鏡にそっくりだ。
昨日は気が付かなかったけれど、制服は学園で使用している布地と同じものが使われているみたいだし、なんと履いている靴が脱げるし靴下まで履いている。
「凄いなあ。うーん、ふわふわ」
僕のところに来てくれたのが信じられなくて嬉しすぎて、思わず抱きしめて頬ずりしてしまう。
眼鏡は固定されていて顔から外せないけれど、僕雅の眼鏡を外した顔知らないしその辺りは気にならない。
「嬉しそうだな」
「うん。あ、うん」
素直に頷いて、これは雅モデルのぬいぐるみだったと思い出した時は遅かった。
本人の前で、分身とも言えるぬいぐるみに頬ずりするって、なにしてるんだよ僕。
「これがグッズって奴か。ふうん」
「あのね、雅」
「知ってる? これ俺がモデルらしいよ。他にも佐々木藤四郎がドラゴン、川島樹里が狐、
谷崎信也がライオン、森村喜一郎がうさぎなんだってさ」
「そうらしい……ね」
知らなかったと言えばいいのに、肯定しちゃう僕の馬鹿。
雅は驚いた様に僕の顔を凝視してる。
モデルが雅と知ってて頬ずりする僕、本人を前に凄い度胸だ。
「コンビニの店員さんが教えてくれたんだよ。僕がこの狼が雅に似てるって言ったら、内緒だよって」
「そ、そうか」
「ぬいぐるみも欲しかったんだ。ラストワン賞が狼のぬいぐるみだって知って、凄く欲しかったんだ」
こんな風に言うつもりじゃなかったけれど、勇気を出せ自分。
「雅がモデルだって知ったから、どうしても欲しかったんだ」
「ハル」
「ごめんなさい。雅が好き、大好きなんだ」
告白出来ないと諦めた筈なのに、こんな告白しても雅を困らせるだけなのに。
一度好きだと口にしたら、感情が抑えられなくなった。
「迷惑だって分ってるけど、好きなの止められない。どうしても諦められなっ」
涙がぽろりとこぼれ落ちた瞬間、雅に抱きしめられた。
雅に抱きしめられたまま、涙がポロポロと落ちていく。
「雅」
「好きだ」
「え」
「好きだ。ずっと好きだった」
これは夢? 僕雅に好きだって言われてる?
「雅」
「迷惑なんかじゃない。好きなんだ」
「雅、みや……」
嬉しくて、でも混乱して、僕は雅の胸に顔を押しつけ泣き続ける。
好きと言われて抱きしめられて、嬉しいのに。
雅の言葉が信じられない。
だって主人公は、木村春はどうするの?
「あのチョコレート本当は俺のだった?」
混乱する頭で、でも声に出さず頷く事で返事をする。
「でも自分で食べようとしてたんだ?」
また頷く。だって自分がモブのイベント要員だって気がついたから。
告白なんてしちゃ駄目だって思ったから。
「告白、チョコ渡して言うつもりだったよ。でも今日雅に迷惑掛けたから怖くなって、僕が雅の近くにいたらまた迷惑掛けるって、そう思って」
こんな告白して、雅が今後主人公に気持ちが動いたらどうなるんだろう。
雅も僕を好きって言ってくれたのは嬉しいけれど、そうなったらなったで、今後がどうなるのか怖い。
「迷惑なわけないだろ。そう思うならあんな風にあいつらとやり合わない」
「そうだけど」
「ハルが好きだ。だから、迷惑を掛けるとか考えないで欲しい」
「好きでいてもいいの?」
「ああ」
抱きしめられたまま何度も何度も好きだと言われて夢みたいな気持ちを持つ一方で、僕は大きな不安を抱えていたんだ。
223
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる