【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

文字の大きさ
109 / 119
本編

モブらしく生きる

しおりを挟む
「ハル」

 深い深いため息の後、雅は僕を抱きしめながら諭すように言った。

「ハルは優しいから、優しすぎるから自分の気持ちよりも俺とこいつの気持ちを優先しようとするんだろう。だけど、それは違う」
「僕、優しくなんかないよ」

 僕は自分が大事で雅が同じくらい大事。
 保険医に、主人公に襲われたのはショックだけど、ショックすぎるけれどでももう二人は拘束されているから大丈夫。だとしたら今優先しないといけないのは雅の事だよね。

「ハル。自分がどういう状態か理解してくれ。白井の気持ちを優先している場合じゃないだろ」
「違うよ、優先してるのは雅、雅の気持ちだよ」

 雅が呆れながら言うのを即否定する。
 僕は白井さんなんてどうでもいい。大事なのは大切なのは雅の気持ち、それだけだ。

「雅は白井さんを信じていたでしょ。信頼してたし、気を許していたでしょ」
「それは」
「だから、ちゃんと話し合わないと駄目だよ。話し合って解決する話でもないかもしれないけれど。勿論僕は白井さんを許せないよ。彼のせいで僕は怖い目にあったんだし、僕を認められないにしてもやり方があったんじゃないかと思うけれど。でも、それとこれは別の話だよ」

 白井さんが僕を害したから、だから排除するというのは簡単な話だ。
 でもそこに雅の気持ちも白井さんの気持ちも、考えられていない。
 そんなの駄目だと思う。

「雅が僕だけに関心を持ってくれてたら良いと思うけれど、そういう考えも違うと思うんだ。だからね、雅。ちゃんと話をして」
「ハル」
「大好きだよ。雅。助けに来てくれて本当に嬉しかったよ」

 ぎゅうっと抱きついて、雅の胸にすり寄る。
 雅の愛用している香水の香りに僕は、心のそこから安心出来た。 
 大丈夫。雅が側にいなくても僕は大丈夫。

「雅の部屋で待ってる。傷痛いから先生の診察を受けて待っているから、僕のところに帰って来てね」

 断腸の思いで両手を離して、笑顔を作って雅から少し距離を取る。

「ハル」
「待ってるから」

 それだけ言って、僕はメイドさん達と一緒に寮に戻った。
 ずきすきと痛い傷は、かなりの重傷で麻酔をしながら再度縫われて死にそうになったけれど、心の傷よりはずっとずっとマシだったんだ。

「痛いよ、痛いよぉ」

 ぽろぽろと涙を流しながら、麻酔が効いてくるまでの時間を耐える。
 痛いのは傷なのか、離れて白井さんと話をしているだろう雅への気持ちなのか、それすら分らなかった。

「千晴様お労しい。どうぞ気をしっかり持って」
「酷い傷です。何故こんな」
「踏まれて、それで」

 説明しないといけないのに、痛みで上手く話せない。
 綺麗に縫われていた筈の傷は、酷かった。
 包帯をほどかれた傷は、無残に開いていた。
 縫われていた箇所が引きちぎられて、そんなに大きくなかった筈の傷口がぐちゃぐちゃになっていたのだ。

「まず縫っていた糸を抜糸して、それから傷を整えます。それが終わってから再度縫うことになります」

 お医者さんの説明に、僕は涙目で頷くしかない。

「麻酔が効いてくれば痛みも和らぐでしょう。もう少しだけ耐えて下さい」

 お医者さんの言葉なんて納得出来ないけれど、頷くしか無い。

「痛い」

 ぽろぽろと涙が出る。涙が止らない。
 だけどこれは痛みのせいじゃない。雅が側にいないせいだ。
 自分で白井さんと話をしろといったくせに、雅が近くにいないのが辛くてたまらないんだ。

「千晴様、もう少しです。もう少しで麻酔が効いてきますから」
「うん。ごめんね泣いたりして。大丈夫だから」

 メイドさん達に作り笑いをして、なんとか堪える。
 そうしないと、僕を守れなかったメイドさんが辛い思いをするって分ってるから僕は無理矢理に笑顔を作る。

「大丈夫だよ。大丈夫だから」

 泣きながら僕は、雅がいない空間で痛みに耐え続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

処理中です...