【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

文字の大きさ
118 / 119
番外編

IF テスター千晴は恋をする2

しおりを挟む
 二千四十五年の元日は僕にとって試練の年の幕開けだった。
 バイトで地元に帰れなかった僕は、新年の挨拶をする為実家に電話して「すまない千晴。来期の授業料は払えそうにないんだ」というお父さんの謝罪を聞いた。
 会社の業績不振で年末で仕事をリストラされたお父さんは、退職金を元手に小さなお弁当屋さんを始める事にしたのだそうだ。
 僕は鈴森家の末っ子で兄二人と姉一人はすでに社会人だ。
 料理上手で道の駅で手製のおこわやお総菜を売っていた母、そのおこわやお総菜は結構人気でお弁当を売って欲しいという話も元々あったらしい。両親はまだ辛うじて四十代で今からなら店を開いてもやっていける体力もある。だけど予定外の出店には資金が少し足りなかった。
 一年休学して、その間資金を準備するから待っていてくれと言われてつい「実はそれくらいはバイトで貯めていた」なんて見栄を張ってしまった。
 お店なんて流行るかどうか分らないし、お金なんていくらあっても足りないだろう。
 兄さん達だって独立してそれぞれ部屋を借りて住んでいるからそんなに余裕があるわけない。だとしたら自分で頑張るというしか無かったんだ。

「もし三百五十万貰えるなら、卒業までの授業料払えるし、部屋代も出せる」

 お金を即急に用意しないといけなくて、どうしようと高額バイトのサイトを見ていたら見つけたのがVRMMOのゲームのテスターだった。
 価格が高いのは、十八禁BLゲームのテスターで、エッチィ状態になった時のデータを取る事を了承してくれる方という但し書きがあったからだ。
 ゲームを殆どやらない僕は知らなかったけれど、昔あったゴーグルを付けてゲームをして臨場感を楽しむなんてのじゃなく、今時のゲームは脳にゲーム世界が影響するらしい。

 映像を見て自分が体験している気持ちになるのじゃなく、なんて言うか夢を見ている感覚に近いらしい。
 ゲームによっては現実の自分の感覚を持ちながら、ゲームだと理解して体感するものもあるらしいけれど、僕がバイトとしてやったのは現実の自分の記憶は無く、ゲームの世界の一員として実際の自分は全く忘れてゲームを楽しめるものだった。
 つまり、現実の大学生鈴森千晴ではなく、ゲームの世界に生まれ変わったと思っているモブとしてゲームの世界を体験するというバイトを僕は引き受けた筈だったのだ。
 このゲームはノーマルエッチありの十八禁と特殊プレイや特殊性癖ハードプレイがある二十五禁の二種類があったけれど、僕はまだ十九歳の成人前だから選んだのは十八禁の方。

 エッチィ反応もデータとして記録されるのは恥ずかしいけれど、その分バイト代が高い。
 このバイト代一回と今までバイトで貯めてたお金を会わせたら、なんとか一年分の授業料が払える。部屋代は無理だけど、その位はこれからバイト探して頑張れば何とかなるかもしれない。
 あと、両親にはまだ言えてないけれど、恋愛対象が男性な僕はゲームで男性との疑似恋愛が出来るのもちょっと興味があったから、このバイトはお金だけではない利益もあったんだ。

「二十五禁ゲームになんでなったのか謎だけど、でもラッキーだよね。これでお金の心配しなくてすむ」

 騙された感が薄いのは、ゲームでの僕の相手雅が格好良かったっていうのがある。
 本気で僕好みだったんだよ、雅。
 ゲーム中、リアルな僕の記憶は無かった。
 リアルの記憶ありでもゲーム出来るらしいけれど、僕は記憶無し、完全にゲームのキャラになりきるバージョンのテスターだったから、ゲーム体感中はリアルは忘れてハルになりきってたけれど、ゲームが終わるとプレイ中の記憶は残って、あれがゲームだったという記憶だけが残る。

「なんか、凄い喪失感」

 これが未成年がプレイ出来ない理由なんだろうな。
 現実とゲームの両方の記憶があって、今凄く辛い。
 だって、現実には雅はいないし、僕は好きになってくれる人も好きな人もいないんだ。

「やばい、淋しい。泣きそう」

 雅の小姓として求められていたゲームの中とは違い、現実に雅はいない。
 ハルが不安になると抱きしめてくれた、あのたくましい頼りになる腕、優しい笑みに言葉。
 あんな幸せな時間はもう二度と僕の前には現れないんだ。

「雅」

 シャワーを浴びながら、涙が溢れるのを止められない。
 馬鹿だなあ僕、あれは仮想空間の産物。今回僕以外テスターはいないと聞いてるからあれはつまりゲームのキャラでしかないし、僕とした会話もすべてインプットされていたものなんだ。

「早くアンケート書いて帰ろう」

 テストが終わって今はテスト休み期間中だ。
 バイトをするからと誰とも約束をしていなかったから、アパートに帰っても一人。
 淋しい気持ちのまま、一人の部屋に帰るのはもの凄く淋しいけれど、どうしようも無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

処理中です...