神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
55 / 73

笑顔で、いってきます

しおりを挟む
コトネオールへ出発するまでの1週間、私は荷物を纏めたり、親しい人に別れの挨拶をしたり忙しかった。

龍斗さんはお城に通って国書にしたためる内容を王様とラントおじ様と話し合って決め、コトネオール側にそれを承諾させていた。

周りのみんなには、やっぱり国書には期待出来ないって言われていたけど、龍斗さんは「御守りみたいなもんだから。」って言って不敵な笑みを浮かべている。


私は出発の日まで、お父様とお母様と一緒のベッドで眠った。

たわいもない話しをして、眠くなったらお父様とお母様に抱き付いて寝る。

そんなささやかな、だけど、私にとっては物凄く幸せな日々は、あっという間に過ぎてしまった。





「アヤナちゃん、体には気をつけてね。」

「私達は気儘な隠居生活だから、コトネオールに会いに行くよ。」

「無理しちゃ駄目よ。何かあったら1人で抱え込まずにリュートに相談しなさい。」

「…………会いに行く。」

港には、私と龍斗さんを見送る為に大勢の人が来てくれている。

お祖母様とお祖父様達も来てくれた。

「ありがとうございます。楽しみにしていますね。」

感謝の気持ちも込めて、1人ずつ抱擁していく。

ラントおじ様、エリーゼおば様、フレイお兄様も忙しい中駆けつけてくれている。
エリーゼおば様は泣き過ぎて顔が涙でグシャグシャだった。まあ、それでも綺麗なのは変わらないんだけど。
美人恐るべし!!

「アヤナちゃんがいない生活なんて考えられない!耐えられないわ!!」

「母上、落ち着いて……。アヤナが困ってしまうよ?」

泣き噦るエリーゼおば様の背中を摩りながら、フレイお兄様が宥めている。

「エリーゼおば様。私もおば様とお喋り出来なくなるのは凄く寂しいです。帰ってきたら、沢山お土産を持って会いに行きますね。そうしたら、またいっぱい、いっぱいお話しして下さい。」

私はニッコリ笑ってエリーゼおば様をギュッと抱き締め、フレイお兄様を見た。

「フレイお兄様も、忙しいのにありがとうございます。お兄様がビックリするくらい綺麗に成長して戻ってきますから、楽しみにしていて下さいね!」

「ふふっ……。それは楽しみだね。早く帰って来ておくれよ?」

眉尻を下げ目に涙を溜めるお兄様にも、私はギュッと抱き付いた。

「……アヤナ。」

抱き付いているフレイお兄様の後ろで、ラントおじ様が両手を広げてジッと私を見ている。

この光景も、暫くみら見られなくなるんだなぁ。

私も笑みを零しながら両手を広げてラントおじ様に飛びつくと、おじ様はガシッと私を抱き留めてくれた。

「……アヤナにばかり苦労をかけてすまない……。」

ラントおじ様は相変わらずの無表情だけど、掠れた声がなんだか辛そうで。
私はおじ様を見上げて満面の笑みを向けた。

「ラントおじ様、私はとっても幸せですよ!」

だから大丈夫。心配しないでね。

そう思ってニコニコしていると、おじ様はフッと表情を和らげて目を細めた。

おおーっ!!今、一瞬笑ったよね?最後にいいもの見させてもらいました!


「アヤナ、そろそろ行くよ。」

船の入り口で、テックとパルラ、宰相のルイスさんが待っている。


「お父様、お母様、それでは行ってきます!」

私はお父様とお母様に向き直し、笑顔で旅立ちの挨拶をする。


今日、私は笑顔でみんなの前から旅立つ事を決めていた。

これは、悲しい別れじゃない。私が色んな意味で成長する為のものだから。

お父様とお母様も、笑顔で送り出してくれる。
2人とも、堪えきれない涙が頬を伝っているけれど、何度も拭いながら、それでも私の事を思って、笑ってくれている。


お父様、お母様、泣かないで。

私は必ず帰ってくるから。


2人にギュッと抱き締められて挨拶を終えると、リスターが私の手を取りテック達の待つ方へ歩き出した。

後ろから、龍斗さんも付いてくる。

「アヤナをよろしくお願いします。」

船の入り口に着き、リスターがルイスさんに頭を下げて言った。

「お任せください。」

それに応えて頭を下げるルイスさん。
リスターは、テックに目を移すと、ニッコリ微笑んだ。

「アヤナは僕の婚約者だから、なるべく早く僕に返してね?」

「…………アヤナ、もう船が出発する。そろそろ乗るよ。」

テックはリスターを無視するように私に乗船を促し、手を差し出す。


一瞬、テックをギロリと睨んだリスターは、繋いでいる手を自分に引き寄せて私の唇にキスをした。

リスターの大胆な行動にパルラは顔を真っ赤にし、ルイスさんは目を丸くして驚いている。

テックは凄まじい形相でリスターを睨み、龍斗さんは苦笑しながらテックの肩をポンポンと叩いて宥めていた。

みんなの前でキスをされた私の顔も真っ赤になっているだろう。

でも、リスターはそんな周りの状況を気にする事無く、私の頬を愛しそうに優しく撫でて、テックに見せつけるように左手薬指にもキスをした。

「アヤナ、好きだよ。ずっと待ってるからね。」

「うん。私も大好き。行ってきます!」

私がコクコクと頷き笑顔で言うと、リスターも優しく微笑んでくれた。

それからリスターはテックを一瞥した後、龍斗さんに私を託して頭を下げる。

「リュートさん、アヤナをよろしくお願いしますね。」

「ああ。任せておけ。アヤナがお前のところに戻るまで、俺が全力で守ってやるよ。」

龍斗さんはニッと笑い、私の頭をガシガシと撫でた。




私達は船に乗り込み、動き出した船上から、港で見送ってくれている人達に手を振って最後のお別れをしている。

段々と遠ざかる私を見て、遂にお母様は耐えかねて泣き崩れてしまった。

お母様を支えるお父様の肩も大きく揺れていて、泣いているのが分かる。

その2人の横には、リスターが寄り添ってくれていた。

ありがとう、リスター。私が戻ってくるまで、お父様とお母様をお願いね。

私は笑って大きく手を振った。もう離れ過ぎて表情は確認出来ないけれど、リスターも手を振り返してくれている。




その姿が小さくなってやがて見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...