神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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ずっと好きなんです

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「どういう事か、説明してくれる?」


……私は今、家にある図書室で、本棚を背にしてリスターに壁ドンをされている。

昨夜、ラントおじ様にはリスターの都合の良い時間に家に来てもらうようお願いしてあったんだけど……まさか、こんな早く来てくれるとは。


私は朝食を食べ終えると、1階にある図書室に1人で居た。

すると、扉が荒々しく開けられる音がして、足音がドンドンと近づいて来る。

本棚の隙間から現れたリスターは怒っていた。

……いつものリスターのように、微笑んでいるけど目は笑っていないとかではない。明らかに怒っているのが表情から見てとれる。

リスターはズンズンと私に近づくと、私を奥の本棚にまで追い詰め、顔を挟むように両手を本棚にバンッと叩きつけた。


そして、冒頭のセリフに辿り着くのである。

「ねえ、どういう事?」

「え、あ、あのね、やっぱり急にコトネオールに行く事になっちゃって…………行かないって言ってたのに、ごめんなさい。」

「昨日父上に聞いたよ。はらわたが煮え繰り返る思いだけど、それはアヤナに怒るべき事じゃないから、後でゆっくり話そう。僕が怒っているのは、そんな事じゃない。」


壁ドンされたまま、至近距離でリスターにすごまれている。

うわ~ん、怖いよ~!


……でも、そんなリスターもカッコイイと思ってしまう私はかなり重症だ。

「ねえ、婚約を解消したいってどういう事?」

「……え?」

「僕と婚約を解消してどうするの?僕が嫌になったの?それとも、他に好きな奴が出来た?」

「そんな事あるわけないよ!私が好きなのはリスターだけだもん!!」

「じゃあなんで?」 


ううっ……顔がめっちゃ近い!!

怒られてるんだけど、睨まれてるんだけど、カッコ良くてドキドキするっ!


「だって……コトネオールに行ったら、いつ戻ってこられるか分かんないし……ずっとリスターを待たせるわけにもいかないって思ったんだもん。」

「…………そう。アヤナには、僕がどれだけアヤナの事が好きなのかが、まだちゃんと伝わっていなかったんだね。」

「リスター」

リスターが至近距離のまま私の髪を一房手に取り、それにキスをする。

「アヤナのこの艶やかな黒髪が好き。」


次に、私の目、鼻、頬にと、チュッチュッとリップ音を響かせながらキスを落とす。

「このキラキラとした目も、スッとした高い鼻も、ピンクに染まる頬も、好き。」

そしてリスターは、私の顎を優しく掴んでクイッと上を向かせると、自分の唇を重ねて深く長くキスをした。

「この、口紅なんてしなくても赤くてふんわりした柔らかい唇も、鈴が鳴るように可愛らしい声も、好き。」

唇を離し、息がかかるくらいの顔の近さで囁かれて、私は背中がゾクゾクした。

「家族思いなところも、元気で明るくて真っ直ぐで、みんなに優しいところも、自分が悪いと思ったことは素直に謝れるところも、僕を大好きでいてくれるところも、全部、全部好きだよ。」

壁ドンされたまま、片方の手で頬を撫でながら言われた私は、足に力が入らずにヘニャヘニャとへたり込みそうになってリスターに抱き留められる。

「僕はね、アヤナ以外の女の子になんて興味は無いんだ。僕のお嫁さんは、アヤナにしかなれないんだよ。だから、婚約解消なんて2度と言わないで。」

「は、はいっ!」

リスターの腕の中で、私は何度も頷いた。
見上げたリスターは優しく微笑んでいて、愛しげに私の髪を梳いている。

私は胸がキュンキュンして思わず涙が出そうになってしまい、リスターにギュッと抱きついてそれがバレないようにした。

リスターとも、もう会えなくなってしまう。
今まで、殆ど毎日のように会っていたのに……。

私は寂しくて、悲しくて、暫くリスターから離れる事が出来なかった。

リスターも私の髪を梳いたり、背中を撫でたりしながら、私の気が済むまで抱き締めてくれている。

私はリスターに抱き付いて、リスターの温もりを、息遣いを、鼓動を、全身で感じ、胸に刻んだ。





「ふふっ。ねえアヤナ、この絵本を覚えてる?僕達が出会いたての頃、これでよく一緒に字の勉強をしたね。」

「もちろん、覚えてるよ!この絵本の王子様がリスターみたいでとってもカッコイイの。1番好きな絵本なんだぁ。」


涙が落ち着いてきたところで、私とリスターは図書室の片隅に設置してある椅子に横並びで座り、肩寄せ合って本を見ていた。

2人で手にしているのは昔、リスターと一緒に読んでいた絵本。
まだ上手く話せず、字も読んだり書いたり出来なかった私に、リスターは嫌な顔1つせず何度も何度も読んで聞かせ字を教えてくれた。

リスターは絵本をパラパラとめくり悲しそうに微笑む。

「あの時は、ただただ幸せだったな。アヤナと長く離れ離れになるなんて、考えもしなかったよ。」

「リスター……。」

私がリスターの手を握ると、リスターは真剣な眼差しで私を見つめる。

「でも、これも僕に与えられた試練だと思って頑張って耐える事にしたんだ。アヤナが僕のところに戻ってくるまで、心も体も今以上に鍛えてもっともっと強くなるよ。強くなって、絶対に騎士になる。」


リスターの握り返してくれた手に力が籠る。

「だからアヤナ。どんなに遠く離れても、僕のことをずっと好きでいて。ずっと、僕のことだけを……。」

「うん。ずっと、ずっと好きだよ。何処にいても、どんなに遠く離れても、私はリスターが好き。……リスターも余所見しちゃ嫌だからね?ずっと、私だけのリスターなんだからね?」

「ふふっ。そんなの、当たり前だよ。……ずっと待っているから、必ず僕のところに戻ってね。」


私達は手を取り合い、いつの間にか泣いていた。

泣いて、思い切り泣いて、泣き疲れて最後には2人で笑ってしまうくらい、泣いた。


目を真っ赤にしたリスターが、私の左手の薬指にキスをする。


「アヤナ、大好きだよ。僕の、僕だけのお姫様。」
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