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「アヤナ……!」
みんな、私の登場に愕然としている。
ーーしっかりしろ、私!!
自分で自分を奮い立たせ、しっかり前を見て部屋へ入った。
お父様とお母様の側へ行き、2人をギュッと抱き締める。
「アヤナ……どうして……。」
暫く抱き締めた後、私は体を少し離してお母様の涙で濡れた頬を両手で包み込む。
お母様の頬を伝う涙を親指で何度拭っても、お母様の目からは涙がこぼれ落ちてしまう。
「お母様、泣かないで。」
泣き止んでほしくてお母様の頬にしたキスは逆効果だったみたいで……お母様は顔を背けると、肩を震わせて咽び泣いた。
私は今度はお父様に両手を伸ばし、頬を挟んでお父様の涙を拭う。
「お父様。騎士団を辞めるだなんて言わないで?お父様が辞めたら、みんな困っちゃうよ。それにね、私は騎士団の制服を着ているお父様もカッコ良くて大好きだから、見られなくなっちゃうのは寂しいな。」
私が言うと、お父様は眉尻を下げ、大粒の涙を流した。
そしてお父様も、私の頬に両手を添えて優しく撫でてくれる。
私の目からも、いつの間にか涙が溢れていた。
私は慌てて目をゴシゴシ擦り、笑って誤魔化そうとしたけれど、涙が止まらなくて上手く笑えない。
「エ、エヘヘ……」
「無理して笑うんじゃねえよ。」
後ろからヒョイッと龍斗さんに抱き上げられて、背中をトントンとされる。
抱っこされるのなんて久しぶりだな。
みんな、私が大きくなると、抱き締めてはくれても抱き上げるなんて事はしなくなった。もう10歳だもんね。
「へへっ。久しぶりの抱っこだ~。」
泣き笑いしながら龍斗さんの首にしがみ付く私の背中を、龍斗さんは私が落ち着くまでずっとトントンと撫でてくれていた。
少し落ち着きを取り戻した私は、意を決して龍斗さんを見る。
龍斗さんも私をジッと見つめ返し、小さく頷いた。
私は龍斗さんに降ろしてもらうと、王様に向き合い、そして見上げる。
「王様。」
王様は黙って私を見ていた。
その顔はとっても辛そうで……。
「私、コトネオールに行きます。」
だから、私は笑って言った。
王様のせいじゃないんだよ。
私は大丈夫だよ。って思いを込めて、精一杯笑ってみせた。
王様は一瞬顔を歪めたけれど、すぐに小さく微笑んで頷いた。
「……すまぬ。」
王様の大きな手が、私の頭を労るように優しく撫でる。
「俺も一緒に行くぜ。」
龍斗さんが横から私の肩を抱いて名乗りを上げた。
「龍斗さん!」
「彩菜も一応は伯爵令嬢なんだから、従者を連れて行っても文句は言われないだろ。」
龍斗さんの目は泣いたせいで赤くなっていた。
いつも私の為に行動してくれる優しい龍斗さん。
でも、ここは敢えて突っ込ませてもらおう。
「一応じゃなくて、ちゃんと伯爵令嬢だよ。」
口を尖らせて言うと、龍斗さんはいつもの調子でニヤッと笑って私の頭をガシガシと撫でた。
うん、私は大丈夫だよ。
私はみんなを見回して微笑んだ。
見回して……私をジッと見つめるラントおじ様に目を止める。
リスターの事を思うと胸が苦しくなって、私は思わず胸元をギュッと掴んでいた。
コトネオールに行ってしまったら、いつ帰ってこられるか分からない。
そんな状況の私が、侯爵家の将来有望なリスターの婚約者のままで良い筈ないよね……。
胸元を掴む手に力が入って震えが止まらない。
「……あの、ラントおじ様。私とリスターの婚約……解消してください。このままコトネオールに私が行っちゃったら、リスターの為にも良くないと思うから……。」
「はあ!?お前、何言ってんの?馬鹿か!?」
私の必死の申し出に、龍斗さんが呆れ顔で声を上げる。
ラントおじ様も私の前に膝をつき、震える私の手を両手で包み込むと、静かに首を横に振った。
「で、でも、いつ帰ってこられるか分からないし……。」
「リスターはいつまででもアヤナを待つよ。あの子がどれだけアヤナを好きか知っているだろう?」
「彩菜じゃなくても、みんな知ってるさ。婚約を解消する方がアイツの為にならねえよ。婚約解消なんてしたら、逆に何するか分かんねえからな。……考えるだけでも恐ろしいぜ。」
龍斗さんが言いながら身震いし、周りのみんなもそれに同意して頷いている。
「でも……。」
「それに、いつ帰れるか分からないなんて事にはさせねえよ。俺が一緒に行くんだからな。」
龍斗さんはニヤッと笑って王様の方を向いた。
「国王さんよ。彩菜が行く条件を、コトネオールの奴らに2つつけてくれ。1つは俺が従者として一緒に行くこと。そしてもう1つは、テックとパルラがコトネオールに慣れたらすぐに俺達が帰る許可を出すこと。この2つの条件を必ず取り付けて、正式に国書としてお互いこれを残しておいてくれ。」
龍斗さんがツラツラと述べる条件を、王様は黙って聞いていたけれど、2つ目の条件のところでは、明らかに眉を顰めて難色を示す。
「コトネオールは、アヤナを手放す気は無いだろう。テックがかなりアヤナに執着しているようだからな。仮に国書としても、あちらの国の方が優位だからそれを反故にするのは容易だろう。色々と理由をつけてアヤナを帰さないのは目に見えているぞ。」
「別にそれでもいいさ。大事なのは、みんなの前で国と国との約束を正式に交わしているって事実なんだから。俺達が何をしても、後から文句を言わせない為にな。」
「……何をする気だ。」
眉間の皺を更に濃くする王様に、龍斗さんは肩を竦めて見せた。
「嫌だなぁ、他国で生きていく為の保険だよ。心配するような事は何もしないって…………たぶん。」
……なんか、最後に小さい声でたぶんって聞こえたんですけど……大丈夫!?
私がジッと見ているのに気付いた龍斗さんは、眉尻を下げながら私の頭をポンポンとして、ちょっと心配そうに顔を覗き込んできた。
「明日、リスターにちゃんと話せよ?」
その言葉に、私は一気に血の気が引く。
ーーそうだ。今まで毎日のように会っていた大好きなリスターに、私は暫くの間離れ離れになる事を伝えなければならない。
上手く伝えられるだろうか?
リスターはどんな反応をするだろう?
怒る?悲しむ?
いろんな事を考えてしまって、きっと今日はもう寝られないんだろうな。
私は龍斗さんに力無く微笑んで、頷いて見せた。
みんな、私の登場に愕然としている。
ーーしっかりしろ、私!!
自分で自分を奮い立たせ、しっかり前を見て部屋へ入った。
お父様とお母様の側へ行き、2人をギュッと抱き締める。
「アヤナ……どうして……。」
暫く抱き締めた後、私は体を少し離してお母様の涙で濡れた頬を両手で包み込む。
お母様の頬を伝う涙を親指で何度拭っても、お母様の目からは涙がこぼれ落ちてしまう。
「お母様、泣かないで。」
泣き止んでほしくてお母様の頬にしたキスは逆効果だったみたいで……お母様は顔を背けると、肩を震わせて咽び泣いた。
私は今度はお父様に両手を伸ばし、頬を挟んでお父様の涙を拭う。
「お父様。騎士団を辞めるだなんて言わないで?お父様が辞めたら、みんな困っちゃうよ。それにね、私は騎士団の制服を着ているお父様もカッコ良くて大好きだから、見られなくなっちゃうのは寂しいな。」
私が言うと、お父様は眉尻を下げ、大粒の涙を流した。
そしてお父様も、私の頬に両手を添えて優しく撫でてくれる。
私の目からも、いつの間にか涙が溢れていた。
私は慌てて目をゴシゴシ擦り、笑って誤魔化そうとしたけれど、涙が止まらなくて上手く笑えない。
「エ、エヘヘ……」
「無理して笑うんじゃねえよ。」
後ろからヒョイッと龍斗さんに抱き上げられて、背中をトントンとされる。
抱っこされるのなんて久しぶりだな。
みんな、私が大きくなると、抱き締めてはくれても抱き上げるなんて事はしなくなった。もう10歳だもんね。
「へへっ。久しぶりの抱っこだ~。」
泣き笑いしながら龍斗さんの首にしがみ付く私の背中を、龍斗さんは私が落ち着くまでずっとトントンと撫でてくれていた。
少し落ち着きを取り戻した私は、意を決して龍斗さんを見る。
龍斗さんも私をジッと見つめ返し、小さく頷いた。
私は龍斗さんに降ろしてもらうと、王様に向き合い、そして見上げる。
「王様。」
王様は黙って私を見ていた。
その顔はとっても辛そうで……。
「私、コトネオールに行きます。」
だから、私は笑って言った。
王様のせいじゃないんだよ。
私は大丈夫だよ。って思いを込めて、精一杯笑ってみせた。
王様は一瞬顔を歪めたけれど、すぐに小さく微笑んで頷いた。
「……すまぬ。」
王様の大きな手が、私の頭を労るように優しく撫でる。
「俺も一緒に行くぜ。」
龍斗さんが横から私の肩を抱いて名乗りを上げた。
「龍斗さん!」
「彩菜も一応は伯爵令嬢なんだから、従者を連れて行っても文句は言われないだろ。」
龍斗さんの目は泣いたせいで赤くなっていた。
いつも私の為に行動してくれる優しい龍斗さん。
でも、ここは敢えて突っ込ませてもらおう。
「一応じゃなくて、ちゃんと伯爵令嬢だよ。」
口を尖らせて言うと、龍斗さんはいつもの調子でニヤッと笑って私の頭をガシガシと撫でた。
うん、私は大丈夫だよ。
私はみんなを見回して微笑んだ。
見回して……私をジッと見つめるラントおじ様に目を止める。
リスターの事を思うと胸が苦しくなって、私は思わず胸元をギュッと掴んでいた。
コトネオールに行ってしまったら、いつ帰ってこられるか分からない。
そんな状況の私が、侯爵家の将来有望なリスターの婚約者のままで良い筈ないよね……。
胸元を掴む手に力が入って震えが止まらない。
「……あの、ラントおじ様。私とリスターの婚約……解消してください。このままコトネオールに私が行っちゃったら、リスターの為にも良くないと思うから……。」
「はあ!?お前、何言ってんの?馬鹿か!?」
私の必死の申し出に、龍斗さんが呆れ顔で声を上げる。
ラントおじ様も私の前に膝をつき、震える私の手を両手で包み込むと、静かに首を横に振った。
「で、でも、いつ帰ってこられるか分からないし……。」
「リスターはいつまででもアヤナを待つよ。あの子がどれだけアヤナを好きか知っているだろう?」
「彩菜じゃなくても、みんな知ってるさ。婚約を解消する方がアイツの為にならねえよ。婚約解消なんてしたら、逆に何するか分かんねえからな。……考えるだけでも恐ろしいぜ。」
龍斗さんが言いながら身震いし、周りのみんなもそれに同意して頷いている。
「でも……。」
「それに、いつ帰れるか分からないなんて事にはさせねえよ。俺が一緒に行くんだからな。」
龍斗さんはニヤッと笑って王様の方を向いた。
「国王さんよ。彩菜が行く条件を、コトネオールの奴らに2つつけてくれ。1つは俺が従者として一緒に行くこと。そしてもう1つは、テックとパルラがコトネオールに慣れたらすぐに俺達が帰る許可を出すこと。この2つの条件を必ず取り付けて、正式に国書としてお互いこれを残しておいてくれ。」
龍斗さんがツラツラと述べる条件を、王様は黙って聞いていたけれど、2つ目の条件のところでは、明らかに眉を顰めて難色を示す。
「コトネオールは、アヤナを手放す気は無いだろう。テックがかなりアヤナに執着しているようだからな。仮に国書としても、あちらの国の方が優位だからそれを反故にするのは容易だろう。色々と理由をつけてアヤナを帰さないのは目に見えているぞ。」
「別にそれでもいいさ。大事なのは、みんなの前で国と国との約束を正式に交わしているって事実なんだから。俺達が何をしても、後から文句を言わせない為にな。」
「……何をする気だ。」
眉間の皺を更に濃くする王様に、龍斗さんは肩を竦めて見せた。
「嫌だなぁ、他国で生きていく為の保険だよ。心配するような事は何もしないって…………たぶん。」
……なんか、最後に小さい声でたぶんって聞こえたんですけど……大丈夫!?
私がジッと見ているのに気付いた龍斗さんは、眉尻を下げながら私の頭をポンポンとして、ちょっと心配そうに顔を覗き込んできた。
「明日、リスターにちゃんと話せよ?」
その言葉に、私は一気に血の気が引く。
ーーそうだ。今まで毎日のように会っていた大好きなリスターに、私は暫くの間離れ離れになる事を伝えなければならない。
上手く伝えられるだろうか?
リスターはどんな反応をするだろう?
怒る?悲しむ?
いろんな事を考えてしまって、きっと今日はもう寝られないんだろうな。
私は龍斗さんに力無く微笑んで、頷いて見せた。
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