神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
57 / 73

試練の時 〜フレイ〜

しおりを挟む
「フレイ、久しぶりだな。」

城内を歩いているところへ、後ろから声をかけられる。

振り向けば、中庭を横切ってこちらに近づいて来る2人の男がいた。

「カール隊長。ダナン副隊長。」


よっ!と、片手を上げ気さくな感じで近寄って来るこの姿だけを見れば、2人とも王国騎士団の隊長と副隊長とは思えないフレンドリーさだ。

まあ、私が小さい頃からの顔見知りだということもあるだろうが、2人の親しみやすい人柄もその一因だろう。

ダナン副隊長が私の肩に腕を回し、顔を近づけてニカッと笑うと腰を小突いてきた。

「お前、婚約したんだって?俺達より先に結婚するなんて許せないなぁ。」

「何言ってるんです?私はもう20歳ですよ。これでも遅い方じゃないですか。貴方達が結婚するのを待っていたら、一生独身のままです。」

ニッコリ笑って嫌味を言えば、2人は肩を竦めてお互いに目を合わせる。


この国の成人は16歳。皆、成人前には婚約し、成人したら1~2年の間に大体結婚するというのが一般的だった。

うちは政略結婚を推奨しない派だから、親が強制的な婚約をさせなかった。

私も3歳年下のコーディア嬢と出会うまでは、結婚なんてまだまだ先かな、なんて思っていたし、それでいいとも思っていた。

でも、花咲くように可憐に笑うコーディア嬢に一目惚れし、優しく、おっとりとした中身に恋をしてしまえば、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。

コーディア嬢に猛アタックをしてプロポーズを成功させれば、結婚まではすんなり決まった。

「とにかくおめでとう。結婚式は半年後だって?未来の宰相様の結婚だからね、騎士団総出で祝わせてもらうよ。」

カールさんが私の肩をポンポンと叩きながら祝福してくれる。

「アヤナには連絡取れたのか?将来のお義兄様の結婚式なんだ、勿論出席するんだろ?2年振りにアヤナに会えるのか~。」

「楽しみだね。早くアヤナに会いたいな。待ち遠しいよ。」

そうだ。私だってそう思っていた。

昨日までは。

「……コトネオールには、結婚が決まって直ぐに知らせを出しました。けれど、昨日届いた返事では……。」

私は、届いた返信内容を思い出し眉を顰める。

「まさか……戻って来れないのか?」

「はあ?そんな訳ないだろ。なあ?」

カール隊長は驚いて目を見開き、ダナン副隊長は訝し気に声を荒げた。


ーー結果を言えば、アヤナは戻って来ない。
パルラ姫の結婚がコトネオール国内で同時期に決まり、そちらに出席させるとの書面が、昨日届いたのだ。

因みに、こちら側からパルラ姫の結婚式参列はしなくていいとの書面も同封されていた。

「……それはどうにもタイミングが良過ぎるね。」

「アヤナを帰す気がないのは明らかだな。………….今日、一段とリスターの機嫌が悪いのは、これが原因か。」

……リスターはアヤナの事になると感情の抑えが効かなくなる。


幼少期からリスターはニコニコと微笑みを絶やさない子だった。何処にいても、何をしても、誰に対しても態度が変わらない。いつも微笑んでいて、穏やかな子だった。

……そう、いつも微笑んでいるから、感情が表に出ないのだ。

周りは、何でも卒なくこなし穏やかなリスターを、流石は宰相の子だ、私の弟だと言って褒め称えた。

けれど、それがリスターにとっては賛辞などで無く、プレッシャーにしかならない事を私は知っている。

私も侯爵家の跡取りとして、宰相の長男として生まれ、周りからのプレッシャーは相当なものだ。
幸いな事に、私の勉学や運動の才は他の人よりも優れていたらしく、優秀な成績を修める事が出来た。

……決して自慢などではない。

リスターには、侯爵家、宰相の息子としての重圧に、兄という私の存在がプラスされている。

私よりも繊細な心の持ち主のリスターが、微笑みという鎧をつけて周囲から自分の身を守ろうとするのを、私には理解できた。



そのリスターが、ある日、叔父上の屋敷から帰って来ると、顔を真っ赤にし興奮した様子で私にまくしたてるという事件が起きる。

私達家族にとって、リスターの興奮した姿を見る事は、まさに事件と言ってもいいくらいのものだったのだ。

アヤナに出会った日から、リスターは変わった。
周囲の人達からすれば、どこが変わったのかと思うかもしれないけれど。



リスターが微笑みを絶やさないのは通常通りだったが、足繁く叔父上の屋敷へ通い、アヤナに会いに行った。
そして、私達家族に、その日のアヤナがいかに可愛かったかを頬を染めて力説する。
それがリスターの日常になる程に、リスターはアヤナの虜になったのだ。

出会ってすぐアヤナの可愛さに一目惚れし、侯爵家とか宰相の息子とか関係なくリスターのことを好きだと言って慕ってくれるアヤナに、また恋に落ちた。

リスターは微笑むだけでなく、心の底から笑い、泣き、怒るようになったと思う。

全部、アヤナ絡みでだけどね。


そのアヤナが2年前、半ば強制的にコトネオールへ旅立ってしまった。

アヤナが旅立つまでの間、私の知る限り、リスターの表情筋はとてもよく働いていたと思う。

リスターは、アヤナと一緒に泣き、アヤナを怒り、アヤナと声を出して笑い合っていた。




ーーそして、アヤナがいなくなった日から、表情豊かだったリスターもまたいなくなったのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...