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試練の時 3 〜フレイ〜
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リスターは震える手で絵本を元あった場所に戻すと、自分の宛名が書いてある封筒を暫く凝視していた。
「読まないのかい?」
全く動かなくなったリスターに痺れを切らした私は堪らず声をかける。
ハッと我に返り、封を開けようとするリスターだが、手が震えて思うように開けられないらしい。
「私が開けようか?」
見兼ねた私が手を差し出すも、リスターはブンブンと勢いよく首を横に振ってそれを拒否する。
アヤナからの手紙は、自分の手で丁寧に扱いたいというところか。
リスターはピリピリと慎重に封を開け、中に入っていた便箋2枚を取り出すと、大きく息を吐いた。
そして、意を決したように2つに折り畳まれた便箋をパラッと開き、文字を目で丁寧に追う。
徐々にリスターの頬が赤く色づき、目から涙が溢れる。
涙は後から後から溢れ出し、リスターは顔を歪めて泣き崩れた。
読んだ手紙を胸に抱いて号泣するリスターを目の当たりにして、私も涙が止まらない。
嬉しい。
2年振りに感情を露わにする弟の姿を見て、私は只々嬉しかった。
どんなに泣き崩れた姿であろうと、何も感じていないような、無表情のリスターよりはずっといい。
リスターの感情を豊かにさせるのは、やはりアヤナしかいないのだ。
手紙1つで、ここまでリスターを泣かせるなんて。
可愛らしく微笑む従妹を思い出し、私の心も温かくなる。
泣きながらリスターの背中を摩っていると、リスターがフッと表情を緩めて私を見た。
「なんで兄上まで泣いているんですか。」
「だって嬉しいから。」
「嬉しい?」
「久々にリスターの表情筋が仕事をしていて嬉しいんだよ。」
泣き笑いしてそう言う私に「なんだよ、それ。」と、リスターが可笑しそうに笑い、そして泣いた。
一頻り泣いて落ち着いてきたリスターは、宝物を扱うように丁寧に手紙をしまった。
「なんて書いてあったの?」
私は内容が気になってリスターと手紙を交互に見つめる。
「教えませんよ。」
リスターは私を一瞥して再び本探しに取り掛かった。
「ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないか。」
気になってしょうがない私は、ついついリスターに文句を言ってしまう。
リスターは私に向き直ると、ニッコリと綺麗な笑顔を見せた。
「アヤナからの、初めてのラブレターなんです。教えるわけないでしょう。叔母上にも早く手紙を渡したいので、無駄口を叩いていないでとっとと行きますよ。」
スタスタと図書室を出て行くリスターの後を追って、私も急いで叔母上の部屋へと向かった。
叔母上は急いで戻って来た私達に目を丸くしていたけれど、リスターが差し出した手紙を見てもっと驚き、目を見開く。
手紙を受け取り読み始めた叔母上も、大粒の涙を流して泣き崩れた。
けれど、涙に濡れるその顔には、生気が蘇ってきているのがはっきりと分かる。
リスターが叔母上のほっそりとした手を両手でそっと包み込むと、目を潤ませ優しく微笑んだ。
「叔母上……今回、アヤナが帰る事は叶いませんでしたが、アヤナは必ず帰って来ますよ。こんなにも僕達に愛を伝えてくれているのです。アヤナなら、どんな事をしてでも帰って来ると思いませんか?」
「ええ……ええ、そうね。」
涙をポロポロ零しながら、叔母上は何度も何度も頷く。
「僕は今まで、アヤナが遠くに行ってしまったのが辛すぎて、自分の悲しみや寂しさばかりを嘆いていました。……本当はアヤナの方が何倍も、何十倍も辛いんだって分かってた筈なのに……。この手紙で、改めて思い知らされました。」
リスターの目からも涙が零れ落ちる。
「僕達も頑張りましょう。アヤナがいつ戻って来ても笑顔でいられるように。あの愛おしいアヤナの顔が曇ってしまわないように。」
手を取り合って泣いている私の身内は、普段はとびきりの美人達だ。
そんな2人が今は泣き過ぎてボロボロで、お世辞にも綺麗とは言えない状態だった。
けれど、私はこの状態の2人を、ずっと見ていたいと思った。
ポロポロでも、ぐしゃぐしゃでも、生気を取り戻した2人は、私には眩し過ぎるくらいに輝いて見えたから。
アヤナはどうしてあの思い出の詰まった絵本に手紙を挟んでいたのか。
旅立つ前、きっとアヤナも辛かったはず。そんな中でも、残していく人々の気持ちを慮り、アヤナを思って絵本を開くであろうリスターに手紙を残したのだ。
自分の愛する人々の悲しみが、、少しでも和らぐように。
おそらく、リスターがあの絵本を手に取る時は、相当心が弱っているのではないかと踏んでのことだろう。
アヤナの予想は見事に的中した。
そして手紙を読んだリスター達が喜んでいるのも、アヤナの予想通りだったかもしれない。
いや、2人の心まで救ったのは、予想以上だったのではないだろうか。
手紙1つで、あそこまで弱っていた人の心を救えるアヤナは凄い。
生気の蘇った2人を目の当たりにしながら、私はアヤナに感心していた。
アヤナがここに戻って来られる日は、まだ少し先になるかもしれない。
けれど、それでも大丈夫だと今なら思える。
表情が豊かになり、生きる活力を取り戻したリスターなら、きっともう大丈夫だと。
数々の試練を乗り越えようと頑張る我が弟と可愛い従妹を、力の限り応援しようと、私は今日、再度心に誓ったのだった。
「読まないのかい?」
全く動かなくなったリスターに痺れを切らした私は堪らず声をかける。
ハッと我に返り、封を開けようとするリスターだが、手が震えて思うように開けられないらしい。
「私が開けようか?」
見兼ねた私が手を差し出すも、リスターはブンブンと勢いよく首を横に振ってそれを拒否する。
アヤナからの手紙は、自分の手で丁寧に扱いたいというところか。
リスターはピリピリと慎重に封を開け、中に入っていた便箋2枚を取り出すと、大きく息を吐いた。
そして、意を決したように2つに折り畳まれた便箋をパラッと開き、文字を目で丁寧に追う。
徐々にリスターの頬が赤く色づき、目から涙が溢れる。
涙は後から後から溢れ出し、リスターは顔を歪めて泣き崩れた。
読んだ手紙を胸に抱いて号泣するリスターを目の当たりにして、私も涙が止まらない。
嬉しい。
2年振りに感情を露わにする弟の姿を見て、私は只々嬉しかった。
どんなに泣き崩れた姿であろうと、何も感じていないような、無表情のリスターよりはずっといい。
リスターの感情を豊かにさせるのは、やはりアヤナしかいないのだ。
手紙1つで、ここまでリスターを泣かせるなんて。
可愛らしく微笑む従妹を思い出し、私の心も温かくなる。
泣きながらリスターの背中を摩っていると、リスターがフッと表情を緩めて私を見た。
「なんで兄上まで泣いているんですか。」
「だって嬉しいから。」
「嬉しい?」
「久々にリスターの表情筋が仕事をしていて嬉しいんだよ。」
泣き笑いしてそう言う私に「なんだよ、それ。」と、リスターが可笑しそうに笑い、そして泣いた。
一頻り泣いて落ち着いてきたリスターは、宝物を扱うように丁寧に手紙をしまった。
「なんて書いてあったの?」
私は内容が気になってリスターと手紙を交互に見つめる。
「教えませんよ。」
リスターは私を一瞥して再び本探しに取り掛かった。
「ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないか。」
気になってしょうがない私は、ついついリスターに文句を言ってしまう。
リスターは私に向き直ると、ニッコリと綺麗な笑顔を見せた。
「アヤナからの、初めてのラブレターなんです。教えるわけないでしょう。叔母上にも早く手紙を渡したいので、無駄口を叩いていないでとっとと行きますよ。」
スタスタと図書室を出て行くリスターの後を追って、私も急いで叔母上の部屋へと向かった。
叔母上は急いで戻って来た私達に目を丸くしていたけれど、リスターが差し出した手紙を見てもっと驚き、目を見開く。
手紙を受け取り読み始めた叔母上も、大粒の涙を流して泣き崩れた。
けれど、涙に濡れるその顔には、生気が蘇ってきているのがはっきりと分かる。
リスターが叔母上のほっそりとした手を両手でそっと包み込むと、目を潤ませ優しく微笑んだ。
「叔母上……今回、アヤナが帰る事は叶いませんでしたが、アヤナは必ず帰って来ますよ。こんなにも僕達に愛を伝えてくれているのです。アヤナなら、どんな事をしてでも帰って来ると思いませんか?」
「ええ……ええ、そうね。」
涙をポロポロ零しながら、叔母上は何度も何度も頷く。
「僕は今まで、アヤナが遠くに行ってしまったのが辛すぎて、自分の悲しみや寂しさばかりを嘆いていました。……本当はアヤナの方が何倍も、何十倍も辛いんだって分かってた筈なのに……。この手紙で、改めて思い知らされました。」
リスターの目からも涙が零れ落ちる。
「僕達も頑張りましょう。アヤナがいつ戻って来ても笑顔でいられるように。あの愛おしいアヤナの顔が曇ってしまわないように。」
手を取り合って泣いている私の身内は、普段はとびきりの美人達だ。
そんな2人が今は泣き過ぎてボロボロで、お世辞にも綺麗とは言えない状態だった。
けれど、私はこの状態の2人を、ずっと見ていたいと思った。
ポロポロでも、ぐしゃぐしゃでも、生気を取り戻した2人は、私には眩し過ぎるくらいに輝いて見えたから。
アヤナはどうしてあの思い出の詰まった絵本に手紙を挟んでいたのか。
旅立つ前、きっとアヤナも辛かったはず。そんな中でも、残していく人々の気持ちを慮り、アヤナを思って絵本を開くであろうリスターに手紙を残したのだ。
自分の愛する人々の悲しみが、、少しでも和らぐように。
おそらく、リスターがあの絵本を手に取る時は、相当心が弱っているのではないかと踏んでのことだろう。
アヤナの予想は見事に的中した。
そして手紙を読んだリスター達が喜んでいるのも、アヤナの予想通りだったかもしれない。
いや、2人の心まで救ったのは、予想以上だったのではないだろうか。
手紙1つで、あそこまで弱っていた人の心を救えるアヤナは凄い。
生気の蘇った2人を目の当たりにしながら、私はアヤナに感心していた。
アヤナがここに戻って来られる日は、まだ少し先になるかもしれない。
けれど、それでも大丈夫だと今なら思える。
表情が豊かになり、生きる活力を取り戻したリスターなら、きっともう大丈夫だと。
数々の試練を乗り越えようと頑張る我が弟と可愛い従妹を、力の限り応援しようと、私は今日、再度心に誓ったのだった。
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