ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

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親子の話し合いに、私は必要ですか?

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「は~、この紅茶とっても美味しいです。」

「そうか、良かった。これも食べなさい。」

「ありがとうございます!」



お城の入り口でひと騒動終えた私達は、サイラスのお父さんに連れられて、客間って言う広い部屋に移動した。

大人の人が5、6人は余裕で座れそうなゆったりとしたソファーに私とサイラスを座らせ、お父さんは向かいのソファーへ座る。

そこへすぐに女の人が来て、熱々の紅茶とクッキーを私達の前に用意してくれた後、すぐにその場を去って行った。


「ユーカ、熱いから少し冷めるのを待って飲もうね。」

「はーい。」


サイラスが私の近くまで紅茶のカップを引き寄せてくれながら言うので、素直に返事をして冷めるのを待つ。

やる事もないから、キョロキョロと辺りを見渡して観察する。


広すぎるくらいの部屋には、私達が座っているソファーとテーブルが置いてあるくらいで、他には一切何も無い。

物が置かれていないからシンプルな筈なのに、壁や天井、吊るされている豪華な照明がキラキラしていて眩しかった。

そして、私達の目の前に座るお父さんも、キラキラと眩しいオーラを放っている。

サイラスがメイソンさん達に王子と呼ばれていたから分かってはいたけど、お父さんは獣人国の王様なんだって。



獣人の国では20歳が成人。

サイラスのお父さんは成人を迎える前に、1年間、素性を隠してサイラスのお母さんがいる国へ行ったらしい。
そして、両親を早くに亡くし、食堂で働くサイラスのお母さんと出会った。
2人はすぐに恋に落ちて、お父さんはお母さんに自分の事を全て正直に話したんだって。
それでもお母さんは変わらずお父さんを愛し、暫くしてサイラスを身籠る。
20歳になるお父さんは獣人の国へお母さんを一緒に連れて行こうとしたけど、お母さんはそれを拒否。
皆を説得し、迎えに来てくれるまで待つと言って残ったらしい。
お父さんは1人で獣人の国へ帰り、国王である父に話すも大反対。
獣人の国は割とオープンで、国際結婚も増えてきたんだけど、王族の他国民との婚姻はまだまだ認められていない。

お母さんは、きっと反対されるって分かってたんだね。

お父さんは、安心してお母さんに獣人の国へ来てもらえるように、国王だけでなく、国王の側近や自分の側近、そしてお城で働く人々にも理解を求めて毎日奮闘した。
やっと、なんとか皆に認められてお母さんを迎えに行けたのは、お母さんと別れた2年後で。
その時には、もうお母さんは住んでいた家にはおらず、町を出た後だったそうだ。
その後のお母さんとサイラスの事は、前に私も聞いていたから、なんとなく想像がつく。
町から町へ住居を転々とし、最終的にあの森の中に隠れ住んだ2人を、お父さんや使いの人達が探し当てるのは難しかったと思う。

それが何で最近になって発見出来たかというと。

私とサイラスが町に出た時に起きた騒動を、町へ消息を探しに来ていたお父さんの従者達が耳にしたから。

獣人も、人によって色々な生き物に変身するらしいんだけど、狼の姿になれるのは王族だけなんだって。

そこから隅々まで探し、あの森中の家を発見したそうだ。

まさかお母さんが死んでしまっているとは夢にも思わず、相当なショックを受けたお父さんは、私達の前だというのにも構わず号泣した。

大人の男の人が泣く姿を見るのは初めてで、どうしたら良いのか分からずにオロオロする私の横で、サイラスは何か言いたげに、けれど黙ってお父さんを睨みつけていた。


全てを話し終え、号泣するお父さんの涙が止まるまで紅茶を飲んで静かに待っていようと、ひと口紅茶を飲みハァ~と息を吐いたら、お父さんの後ろに立って控えていたメイソンさんが私の側に来て、テーブルに置かれているクッキーを差し出してくれる。

メイソンさんにお礼を言って、クッキーにも手を伸ばす。


モグモグモグ


「!?お、美味しいです~!!」


私がこの世界へ来て、初めてのお菓子。

甘くて、美味しくて、私は思わず声を上げ、ほっぺたに手を当てて悶絶した。


「フフッ。そんなに美味しいか?まだあるから、沢山食べなさい。」


「ありがとうございます!」

と、メイソンさんに言いながら夢中でクッキーを頬張っていると、すごく視線を感じてハッと顔を上げる。

視線の主はサイラスで、私をジト目でジ~ッと見ていた。


「まだ話し途中なのに、なんでクッキー食べながらメイソンとお喋りして和んでるのさ。」

「え?なんかお話しも終盤みたいだし、そろそろ親子2人で話し合った方がいいんじゃないかと……」


私がサイラスを見上げて言うと、サイラスは思いっきり眉間に皺を寄せて渋い顔をする。


「なんで?2人でなんて嫌だよ。」

「え~……」


いやいや、こっちがなんでだよ。

ちゃんとお父さんと話さないと駄目じゃん。

その為に来たのに。


サイラスの言葉に、今度は私が眉間に皺を寄せてサイラスとお父さんを見る。

サイラスは顔をプイッと背けちゃってるし、お父さんは泣き止んだみたいだけどサイラスの態度に困り顔で私に助けを求めてるしで。

そんな2人を見ていて、私の顔は渋面MAXになった。



…………そして、渋面MAXの私に事態の収拾を願うメイソンさんが、切羽詰まった様子で懇願してくるのは、このすぐ後のことだった。






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