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旅立ちの朝
しおりを挟む旅立つ日の朝は、いつも自然と早くに目が覚める。
まだ空が白み始めたころに、そっと扉を開けて寝室を出た。
広く大きなベッドに不死鳥姿のフータと一緒に眠るのが、獣人国を出てからのフータとの約束事。
旅先で私に何かあっては大変だからと、心配性のフータに強制的に決められた。
強制といっても慣れない場所に1人で寝るのは寂しいから、私としては大歓迎な約束だったんだけどね。
フータの羽はフワフワで暖かいし、フータの体温を感じながらだと安心して眠れるから、もう最近ではフータにくっついていないと逆に眠れなくなってしまっている。
……不死鳥の羽毛の威力、恐るべし。
まだ寝ているフータを寝室に残してダイニングルームへ行くと、すでに部屋の明かりがついていた。
扉を開けるキィッという音に反応して、中にいたグレイソンさんがこちらに目を向ける。
「ユーカ様、おはようございます」
「おはようございます」
大きなテーブルの上にカトラリーを用意していた手を止め挨拶をしてくれるグレイソンさんに私も挨拶を返しながら近寄る。
「私も何か手伝うことある?」
「ありがとうございます。もう終わりますので大丈夫ですよ。フータ様が起きられるまで何か飲みますか?」
「うん。紅茶がいいな。グレイソンさんも一緒に飲もう?」
「かしこまりました」
グレイソンさんは見上げる私の頭をひと撫でしてからサッと奥に行くとすぐに私のお気に入りの紅茶を淹れて戻ってきた。
椅子に座って待っていた私の前に紅茶を置くと、グレイソンさんも向かいに座って一緒に紅茶を飲む。
はぁ~、温まる。
「また暫くはこうしてユーカ様と紅茶を飲めなくなりますね」
フーフーと冷ましながら紅茶を飲む私をジッと見つめながら、グレイソンさんが寂しそうに少し眉尻を下げた。
「えー?すぐに帰ってくるよ?」
「ユーカ様のすぐは、私にとってはすぐではありません。ユーカ様の可愛らしい声を聞けないのかと思うと、1日がとても長く感じるのです」
「オーバーだなぁ」
クスクスと笑う私にグレイソンさんが目を細めていると、扉が開いて眠たそうなフータが欠伸をしながら入って来た。
一緒に食事を取る為、朝のフータは人の姿でやって来るのだ。
「グレイソンもすっかりユーカの可愛さに魅了されてしまったのう」
「おはよう、フータ!」
私の頭を撫でてから私の隣に座るフータはグレイソンさんの挿れてくれた紅茶をひと口飲むと、私を見つめ満足気にうんうんと頷く。
「ユーカの可愛さは皆に通ずるものがあるのだ。流石は我の愛し子。其方もそう思うであろう?グレイソンよ」
「フータ様の仰る通りでございます」
……グレイソンさんまでフータと一緒になってうんうんと頷いちゃってる。
2人とも、しっかりして。
それは身内の欲目というものですからね。
紅茶を飲んだ私とフータは、グレイソンさんお手製の栄養満点の朝食を食べ終わると用意してあった荷物をサッと背負って玄関に向かった。
その間もフータはグレイソンさんに「ユーカ様の体調管理をしっかりとしてくださいね」だの「くれぐれもユーカ様が危険な目に遭わないように注意してくださいよ」だのとずっと言い聞かせられていて、ちょっと……かなりゲンナリとしていた。
「グレイソン……お前、何処ぞの小姑のように口煩いのう」
「これも全てユーカ様の為です。いいですか、くれぐれも無事にお帰りくださいませ」
『しつこいわ!!』
不死鳥の姿に戻ったフータが翼をバタつかせグレイソンさんを追い払おうとしたのだが、グレイソンさんはそれを涼しい顔でヒョイと躱している。
「グレイソンさん、ありがとう!」
「……良い旅を。お帰りになられましたら、また話しを聞かせてください」
「うん!沢山お話しするからね!」
ギューッとグレイソンさんに抱きつけば、グレイソンさんもギュッと私を抱き締め返してくれた。
「いってきまーす!!」
フータの背中に乗って手を振ると、それを合図にフータがバサリと翼を羽ばたかせ空に舞う。
どんどんと遠去かり小さくなるグレイソンさんは、その姿が見えなくなるまでずっと私達に手を振ってくれていた。
「……はぁ、もう見えなくなっちゃった。寂しい……」
『ククッ。ユーカもすっかりグレイソンに懐いたのう。でもまあ、すぐに寂しくなくなるゆえ、楽しみにしておれ』
「えー?何それ?気になるー!!」
『コラッ、ユーカ!揺するでない!!危ないではないか!!』
フータが私の興味を引くようなことを言ってくれちゃったもんだから、気になってついフータの羽を掴んでユサユサと激しく体を揺すってしまった私は、危うくフータの背中からずり落ちそうになった。
……その後、目的地に着くまでずっとフータに説教をされ続けたのは、言うまでもない。
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