弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里

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策動 2 〜ルーカス〜

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「私がゲームの世界だと気付いたのは随分遅かったのよ。」


夕食後、王妃様の部屋に呼ばれた僕は用意されたお茶を啜りながら王妃様の話しを聞いていた。


王妃様に前世の記憶が戻ったのは、随分と前の事だったらしい。

幼少期に高熱を出した時に思い出したとか。


「けれどここがゲームの世界だとは微塵も思わなかったわ。」


お茶をコクリとひと口飲んで王妃様が苦笑する。


そりゃそうだ。

王妃様が子供の頃なんてゲームのストーリーが始まる何十年も前なんだから。


そこそこ家柄の良かった王妃様は王家主催のパーティーでお父様に見染められ、猛アプローチされて結婚、お兄様を産んでからも気付かなかったんだって。


"もしかして"と思い始めたのは、体の弱い王妃様がこれ以上子供が産めないという理由で、お父様が無理矢理側妃を迎えさせられそうになってからだとか。

どこかで聞いたような話だとは思ったらしいけど、この時はまだゲームの事を思い出してはいなかった。

思い出したのは側妃としてお城に来たお母様を見た時で、頭の中にゲームの映像が走馬灯の様に一気に流れたんだって。


それでもまだ半信半疑だった王妃様は、嫌がるお父様を説得してなんとかお母様を身篭らせる事に成功。

そして、お姉様が生まれ、名前が決まった時に確信したらしい。



ここが「ヒカラビ」の世界だって。



「ここが、私が前世で大好きだったゲームの世界だったなんて!!ルーカスにはこの感動が分かるでしょ!?ゲームの世界だって確信してからは嬉し過ぎて暫く体の震えが止まらなかったわ!!」

「分かります!!!推しキャラを目の前で拝めて、尚且つ同じ空間に一緒に居るとかマジヤバいですよね!!」

「そうなのよー!!」


2人でキャーキャーと興奮しながら話す姿は、誰が見ても異様だろうな。

最初に人払いしてくれていて良かった。


話しが脱線して王妃様とゲーム内容でメチャクチャ盛り上がってしまった。

王妃様の推しは、僕と同じでお姉様だった。やっぱりね。

この流れ的に絶対そうだと思った。


お姉様はゲームでは意地悪で我儘放題なキャラだからゲームをやり始めの頃は嫌う人が多い。
けれど裏設定というか、小説や漫画で明かされたお姉様の生い立ちや、お母様やお城の者達からの仕打ちのせいで歪んでしまった性格に対して同情する声が多数寄せられ、ゲームを愛するリピーター達には結構愛されていた。

僕は最初からお姉様推しだったけれど、サイドストーリーを読み漁ってからは益々ハマり、お姉様一筋に愛していた。

王妃様はゲームをリピしていくうちにお姉様にどっぷりハマったようだ。



お母様のキャラは分かっていたから、王妃様はお姉様を我が子のように沢山愛し、大切に育てた。

お兄様も、王妃様がお姉様を愛して可愛がる姿を見て育ったお陰でゲームのようにお姉様を遠巻きにするような事も無く、王妃様と一緒になって可愛がってくれたんだ。


グッジョブ、王妃様。


けれど、ここで一つ問題が。

王妃様が前世の記憶を思い出したのが幼少期だったこと。
そのせいで大好きだったゲームではあるが、登場人物に起きた出来事がいつ発生するのかうろ覚えになってしまっていたのだ。


「あの侍女長がロッティーに接近するのを防げていたなら、あの子があんなにも傷付かなくて済んだのに…………今思い返しても悔しいわ。」


王妃様がティーカップをギュッと握り締め眉間に皺を寄せる。

僕は王妃様の手にそっと自分の手を置き微笑んだ。


「王妃様はお姉様と僕に十分過ぎるくらいの愛を与えてくださっていますよ。」

「ルーカス…………あぁ、なんて可愛い子なんでしょう。」


目を細め僕の頭を撫でてくれる王妃様からは、深い愛情を感じる。

いつもいつも、王妃様はお姉様と僕に沢山の愛を与えてくれる。

王妃様がいてくれたから、お姉様はあんなにもキャラ変し、とっても優しくて内面から美しさが溢れ出る美少女に成長したのだろう。

まあ、どんなに性格が悪くても僕の推しはお姉様で変わりないけれど、せっかくなら内面も美しい方がいい。
そしてバッドエンドなんか迎えずに幸せになってもらいたいのだ。


そう考えれば考えるほど、王妃様には感謝しかない。


「ふふっ。ルーカスもゲームとはかなり性格が変わってしまったけれど、まさか貴方が転生者だったとはね。」

「こうして僕が愛されキャラになれたのも、王妃様のお陰ですね。」

「あらあら。」


ニッコリと笑う僕を見て王妃様もクスクスと笑った。



ーーそう、僕もゲームでは皆から疎まれるような気の強い俺様キャラだった。


そして、お姉様にはモブだと言ったけれど、何を隠そう僕も攻略対象のウチの一人なのだ。

心に闇を抱える僕がヒロインに絆されて好きになる、ルーカスルートもあったのを覚えている。

ルーカスはお姉様との関わりが多めだったからお兄様ルートと同じくらい攻略していた。

前世ではいけ好かない嫌なヤローだと思いながらプレイしていたが、まさか自分がルーカスに転生するなんて思いもしなかった。

ゲームでは姉弟とはいえ仲の悪かったお姉様とルーカスも、ここの世界ではお互いを溺愛するシスコン、ブラコン姉弟に仕上がっている。

今の僕のポジションは皆から可愛がられるワンコ系愛されキャラだ。

前世の性格とは全然違うから記憶を思い出した時は流石に小っ恥ずかしかったけど、前世と今の記憶が馴染んできてからは別にそれ程恥ずかしくもなくなった。

だって皆からは可愛い可愛いとチヤホヤされるし、何よりお姉様が僕を溺愛してくれるのだから。


毎日が楽しくて嬉しくて幸せでしょうがない。


「でも、ルーカスが転生者で助かったわ。正直言うと、どうやったらからロッティーを守れるのか不安だったの。」

「あー、そうですね。遂に動き出しちゃいましたもんね。あの第三王子までこんなに早く呼び寄せるとか…………本当に要らないことばかりしてくれますよ。」

「全く同感ね。今まで通り大人しくしていれば良かったものを…………私の可愛いロッティーに手を出したらどうなるのか思い知らせてあげないと……ねえ?」

「そうですね。」





僕と王妃様はお茶をコクリと飲み、不敵な笑みを浮かべたのだった。
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