弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里

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願望

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「シャーロットは横顔も美しいね。ずっと見ていても飽きないよ。」

「授業に集中してください。」

「この後のお昼は一緒に食べられるかい?」

「食べません。」


黙々と黒板の字をノートへ写す私に、アンソニーが朝から懲りずに話しかけてくる。
お陰で授業に全然集中出来ない。

明らかに授業を妨害している筈なのに、隣国の王子だからって先生も怒らないでいる。迷惑極まりない。



授業終了のチャイムが鳴り、お昼時間に突入した。

筆記用具やノートを片付けている私の手をアンソニーが掴み引き寄せる。


「さあ、一緒に食堂へ行こう。」

「さっきお断りしましたけど?」

「そうだっけ?まあいいじゃないか。」

「よくありません。」


そんなやり取りをしていると廊下からドタバタと足音が近付いてきて、勢いよくルーカスが教室に飛び込んで来た。


「お姉様に気安く触るなっ!」


ルーカスは私の手を掴んでいたアンソニーの手をバシッと叩き落とすと、私とアンソニーの間に入って威嚇をする。


「やれやれ、到着するのが早かったね。もっとゆっくりでも……というか毎回休み時間になったら来なくても大丈夫だよ?シャーロットには僕がいるんだから。」

「お前がいるから来るんだろうが!!」

「ルーカス、声が大きいわ。クラスの皆に迷惑よ。」


今にもアンソニーに掴みかかろうとするルーカスを宥めながら、つい深い溜息が漏れてしまう。


階段での件があってから、アンソニーは今まで以上に私に構ってくるようになった。

学校でも家でもところ構わず接近しては甘い言葉を囁いてくるのだ。

そのせいで近頃お兄様やルーカス、果てはオーウェン様の機嫌まで悪くなっている。


オーウェン様は私の護衛になってから休みを取っていない。

常に私の側にいて守ってくれている。
最近はアンソニーがウロチョロしていて特に気を張っているからか、オーウェン様の代名詞ともなっている眉間の皺が、いつもより一層濃くなっていた。


ルーカスがアンソニーとのお昼を断固拒否してくれたお陰で、今はルーカスと2人静かに昼食を食べられている。


「ねえルーカス。お願いがあるのだけど。」

「うん?何?」


アンソニーを追い払えた事でご機嫌なルーカスは、モグモグと昼食を頬張りながら首をコテンと傾げる。


ーーああ、今日も可愛さ百パーセントだわ。


午前の疲れがルーカスの可愛さに癒されていくのを感じながら、中庭の木陰でルーカスが食堂から調達してきたサンドイッチにパクリと齧り付いた。


「お願いって?」

「うん…………あのね、学園の無い日だけでいいんだけど、私の部屋で一緒に寝てくれない?」

「…………はい?今、なんて言ったの?」

「うん…………だからね、学園が休みの日だけ、私と一緒の部屋で寝て欲しいの。」


私にそう言われたルーカスは見事に固まった。

そして暫く固まっていた後、ボンっと音がしそうなくらいに顔が真っ赤になってアワアワと慌てふためいている。


「ちょちょちょちょっとお姉様!!自分が何言ってるか分かってるの!?」

「勿論よ。ルーカスに私の部屋で寝てもらいたいからお願いしているのよ。」

「ね、寝て!?お姉様と僕が一緒に寝るの!?無理無理無理無理っ!!!」


言いながら益々顔を真っ赤にさせてバタバタと両手を振り回し必死に拒否するルーカスを見て、私はショックを受けた。


「そんなに嫌がらなくても…………昔はよく一緒に寝ていたじゃない。」

「いつの話をしているのさっ!そもそも何で僕と一緒に寝たがるの?明らかにおかしいでしょ!!」

「だって……だってね、オーウェン様の眉間の皺がヤバいんだもの。」

「は?そんなの今更じゃないか。オーウェンのあの眉間の皺はいつ見てもヤバいよ。」

「そ、そうなんだけど、そうじゃなくて。最近、アンソニーが私に構ってくるせいでオーウェン様にも疲れが溜まっているんじゃないかと思って……。」


ルーカスに拒否されたショックをまだ引き摺りつつ、そういう考えに至ったことをポツポツと話す。

私が学園に行っている間が、オーウェン様の唯一休める時間なんだと思う。

それ以外にオーウェン様が私から離れていた時はこれまで無いんだよね。

勿論、私が自室に居る時も、夜寝ている時も部屋の外でずっと護衛してくれている。

さすがに私が寝た後は他の人と交代してオーウェン様にも休んでほしいのだけれど、頑なに拒否されたのだ。


だから、私が学園のお休みの日にはオーウェン様の休める時間が全く無くなってしまう。

そこで、私の出した解決案が先程ルーカスにしたお願いなのである。


「ルーカスが一緒に寝てくれるなら、貴方の護衛が部屋の前にいてくれるでしょ?そうしたらオーウェン様に休んでもらえるじゃない。」

「オーウェンを休ませたいからって僕を巻き込まないでよ。」

「だって、昔みたいにルーカスと一緒に寝たいんだもん。ルーカスってば大きくなってから私に触られるの嫌がるじゃない?私はもっと可愛いルーカスとくっ付きたいのに!」

「お姉様……本音がダダ漏れですけど……それに別にお姉様を嫌がってる訳じゃないし……ただ僕の心臓がドキドキし過ぎて耐えられないってだけで……」


真っ赤な顔でモジモジしながら上目遣いとか…………ルーカス、貴方可愛すぎるでしょ。

ルーカスがそんな風にいつまでも可愛いから私がいつまで経っても弟離れ出来ないんじゃないの!


「ルーカス~お願い~!オーウェン様を休ませてあげたいのも本当なのよ~。お願いったらお願い~!」

「うっ……」



最終的に、ルーカスの腕にしがみ付き泣き落としをしてなんとかOKの返事をもらった。


「うぅっ…………お姉様と一緒に寝るなんて……僕の心臓いつまでもつかな…………アハハ~、推しと同じベッドで寝て心臓がブッ壊れるなら本望か~……アハハ~……」



ーーあれ?なんかルーカスの様子がおかしい。大丈夫!?


その日のお昼休みは、真っ赤な顔のままブツブツと独り言を呟く様子のおかしくなったルーカスをなんとか正気に戻すのに時間を使ってしまい、せっかくルーカスが調達してきてくれたサンドイッチも少ししか食べる事が出来なかった。


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