50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一

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EP 10

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俺たちのメシ、俺たちのルール
​ 商業都市コルムで一番の格式を誇る宿屋、『金の月亭』。
 その最上階にあるスイートルームは、今、異世界には存在しないはずの芳醇な香りに満たされていた。
​「だ、ダンナ……これ、ホンマに食い物でっか? 泥水みたいに見えますけど……」
​ ニャングルが、テーブルの中央に置かれた湯気の立つ皿を、恐る恐る覗き込む。
 そこにあるのは、白い米と、とろりとした褐色のソース。
 坂上がスキル【酒保】で購入した、『特選・よこすか海軍カレー(レトルト)』だ。
​ 昼間の炊き出しで出した業務用とは違う。
 牛肉と野菜がゴロゴロと入った、一箱500円はする高級品である。
 さらに、付け合わせには『福神漬け』と『ラッキョウ』、飲み物は氷(PXで購入したロックアイス)を入れた水。
​ 完璧な布陣だ。
​「見た目で判断するな。……食えばわかる」
​ 坂上は自らのスプーンを手に取り、手本を見せるようにカレーを一口食べた。
 口の中に広がる、玉ねぎの甘みとスパイスの辛味、そして牛肉の旨味。
 疲れた体に染み渡る、文明の味だ。
​「……美味い」
​ その一言が、合図だった。
​「いっただっきまーす!!」
​ ルナが猛然とスプーンを突き刺し、口いっぱいに頬張った。
​「んんぅぅぅーー!!!」
​ 彼女がのけ反る。
​「なにこれぇぇ! お昼のより美味しい! お肉がトロトロ! 辛いけど止まらないぃぃ!」
「お嬢様、口の周りが大変なことになっていますよ。……ほう、この赤い漬物(福神漬け)、甘じょっぱくて良いアクセントですね」
​ ネギオも優雅に試食し、分析を開始している。
 そして、龍魔呂。
 彼はスプーンを使わず、皿を持ってガツガツと流し込んでいた。
​「……ッ、辛(かれ)ぇ! だが……力が湧いてきやがる」
​ 彼は懐から角砂糖を取り出し、カレーに放り込もうとした。
 だが、坂上がその手をピシャリと叩く。
​「やめろ。味のバランスが崩れる」
「あ? 甘味が足りねぇんだよ」
「なら、これを食え」
​ 坂上はPXから『フルーツ缶詰(ミックス)』を取り出し、デザートとして出してやった。
 龍魔呂は不満げに鼻を鳴らしたが、カレーの後に食べた甘いシロップ漬けの果物に、分かりやすく目を輝かせた。
​「……悪くねぇ」
​ ニャングルに至っては、味よりも成分分析に必死だ。
​「この黄色い粉(ターメリック)……この刺激的な香り(クミン)……あきまへん、これ全部輸入したら、城が一つ建つくらいの利権になりまっせ! ダンナ、独占契約を! 是非とも!」
​ ◇
​ 嵐のような食事が終わり、全員が満腹感に浸っている頃。
 坂上は、食後のホットコーヒーを人数分淹れ、テーブルに置いた。
 部屋の空気が、少しだけ引き締まる。
​「さて……飯の後は、反省会(デブリーフィング)だ」
​ 坂上がコーヒーを一口すすり、静かに切り出した。
​「今回の作戦、結果としては上出来だ。街は解放され、死者はゼロ。報酬も十分に出た」
​ 彼は視線を巡らせる。
​「だが、課題は山積みだ。……ルナ」
「は、はいっ!」
「お前の魔法は強力だが、周囲への被害(コラテラル・ダメージ)を考慮していない。『大地の壁』で出口を塞いだ時は、敵より先に市民がパニックになるところだったぞ」
「うぅ……ごめんなさい……つい、張り切っちゃって」
​ ルナがしょんぼりと耳を垂れる。
​「次は射線(ライン・オブ・ファイア)と退路を確保してから撃て。ネギオ、お前が制御しろ」
「御意。お嬢様の手綱は、きつく握っておきます」
​ 次に、坂上は龍魔呂を見た。
​「龍魔呂。お前の突入力は素晴らしい。だが、単独行動(スタンド・プレー)が過ぎる」
「……俺は俺のやり方でやっただけだ」
「今回は俺の『青い滑り台』があったから良かったが、平地なら集中砲火を浴びていたぞ。……死に急ぐな」
​ 坂上の言葉に、龍魔呂はふいと視線を逸らした。
 だが、その表情に反発の色はない。
 自分の背中を守ってくれる指揮官がいることの「楽さ」を、彼も感じ始めていたからだ。
​「そして、ニャングル」
「へ、へい!」
「請求額がエグすぎる。……まあ、今回は悪徳商人相手だから不問にするが、次はもう少し手心を加えろ」
「そりゃ無理な相談でっせ、ダンナ。商売は戦争だすからな!」
​ 坂上は苦笑し、コーヒーカップを置いた。
​「総評としては……」
​ 全員が、ゴクリと息を飲む。
 元・一等海佐、歴戦の指揮官からの評価。
​「……『シルバー人材(残り物)』にしては、悪くないチームだ」
​ 坂上が、ニヤリと笑った。
 それは、堅物な彼が見せた、初めての柔らかな表情だったかもしれない。
​「人材ギルドで断られた連中が、街一つ救ったんだ。胸を張れ」
​ その言葉に、ルナがパァッと顔を輝かせた。
 龍魔呂は「……ケッ」と悪態をつきながらも、口元の緩みを隠すようにコーヒーを飲んだ。
 ネギオは静かに一礼し、ニャングルは「よっしゃ!」とガッツポーズをする。
​ 坂上は、窓の外を見た。
 夜空には、日本のそれとは違う、二つの月が輝いている。
​ 元の世界に戻れるかは分からない。
 だが、この騒がしくも頼もしい連中と一緒なら、この異世界での「第二の人生(セカンド・ライフ)」も、そう退屈なものではなさそうだ。
​「さて、明日は早起きだぞ。……PX(ここ)の在庫補充もしなきゃならんしな」
​ コーヒーの湯気の向こうで、新たな最強部隊の伝説が、今まさに始まろうとしていた。
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