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EP 19
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敗北を知ったエリートと、黄金の帰路
ミスリル・ゴーレムが粉砕されたドーム状の広間は、今や「宝の山」と化していた。
床一面に散らばる銀色の破片。その全てが、最高純度の魔法金属ミスリルだ。
「ヒャッハー! これも! あれも! 全部ワテのもんだす!」
ニャングルが目を血走らせて走り回っている。
彼の背負うマジックバッグ(風呂敷)は既にパンパンだが、それでも手当たり次第に詰め込んでいる。
「ダンナ! この量、普通なら数年分の採掘量でっせ! これを市場に少しずつ流せば、相場を崩さずに巨万の富が……グヘヘヘ!」
「欲張りすぎて腰をやるなよ。……さて」
坂上はPXで購入した缶コーヒー(三本目)を飲みながら、部屋の隅で呆然と立ち尽くす『白銀の剣』の面々に目を向けた。
リーダーのアルヴィスは、砕け散ったゴーレムの残骸を見つめ、力なく膝をついていた。
「……勝てない」
彼は震える声で呟いた。
「剣技でも、魔法でも、そして指揮能力でも……俺たちは、あんた達に何一つ勝てなかった」
王都のエリートとして、自信満々にやってきた。
だが現実はどうだ。
暗闇に怯え、罠にかかり、最後は足手まといになり、命を救われた。
プライドはずたずただった。
坂上は静かに歩み寄り、アルヴィスの前に立った。
「……悔しいか?」
「当たり前だ! ……悔しいさ。自分たちがこんなに無力だったなんて……」
アルヴィスが涙を滲ませて顔を上げる。その表情からは、以前のような傲慢さは消えていた。
坂上は、少しだけ目を細めた。
挫折を知らないエリートは脆い。だが、挫折を認めた若者は強くなる。かつて自分が育ててきた部下たちと同じだ。
「なら、仕事(ジョブ)をやろう」
「え?」
「見ての通り、戦利品が多すぎる。ニャングルの袋にも入り切らん」
坂上は顎でミスリルの山を指した。
「入り口まで運ぶのを手伝え。……『ゲートキーパー(荷物持ち)』と言って馬鹿にしていた仕事だが、今の君たちには相応しい任務だ」
「……ッ!」
アルヴィスは唇を噛み締め、そして立ち上がった。
「……ああ、やってやるよ。命を救われた借りは返す。俺たちは、負け犬のままで終わりたくないからな!」
彼は仲間たちに号令をかけ、黙々とミスリルの破片を拾い集め始めた。
その背中は、泥だらけで格好悪かったが、以前よりもずっと逞しく見えた。
◇
帰路はスムーズだった。
何しろ、ルナが開通させた「完全舗装のトンネル」があるのだ。
LEDライトで照らされた一本道を、重いミスリルを背負った一行はハイペースで進んだ。
「お腹すいたぁ……。ねぇ坂上さん、夜ご飯なに?」
「腹が減りすぎて、もうミスリルがビスケットに見えてきたぜ……」
ルナと龍魔呂がゾンビのように呻く。
確かに、連戦と土木工事でカロリーを消費しきっている。
「安心しろ。……今夜は『祝勝会』だ」
坂上は先頭を歩きながら、ニヤリと笑った。
「前回のカレーを超える、とっておきのメニューを用意してある」
「超える……だと!?」
龍魔呂の足取りが急に軽くなった。単純な男である。
◇
一行がダンジョンの入り口に戻った頃には、すっかり夜が更けていた。
満天の星空の下、涼しい夜風が火照った体を冷やしてくれる。
坂上は入り口近くの平地に**『ワンタッチ・タープテント』と『折り畳みテーブル』**を展開し、野外キッチンの設営に入った。
「アルヴィス、君たちも座れ。労働の対価だ」
「えっ、俺たちもいいのか……?」
「荷物を運んだだろう。働かざる者食うべからずだが、働いた者には飯を食わせるのが俺の流儀だ」
エリート組も恐縮しながらテーブルの末席に着く。
そして、坂上が取り出したのは、あの大鍋と、再びの**『海軍カレー(業務用)』**だった。
「やったぁ! カレーだぁ!」
「……フン。悪くねぇが、昼間と同じじゃねぇか?」
龍魔呂が待ちきれない様子でスプーンを構える。
だが、坂上は人差し指を振った。
「甘いな、龍魔呂。……ここからが『本番』だ」
坂上はPXウィンドウを開き、検索カテゴリ【冷蔵食品】をタップした。
取り出したのは、黄色と白の細長い物体が詰まった大袋。
『シュレッドチーズ(ミックスチーズ・1kg)』。
さらに、緑色の筒に入った**『粉チーズ』**。
「チーズ……?」
「カレーに……チーズだと……?」
龍魔呂が怪訝な顔をする。
この世界でもチーズは一般的だが、それは硬い保存食か、酒のつまみとして食べるものであり、熱々の汁物に入れる発想はない。
「見ていろ。これが『悪魔の合体』だ」
坂上は、コンロで温めた大鍋のカレーの上に、惜しげもなくミックスチーズを投入した。
ザラザラザラ……。
山盛りのチーズが、褐色の海に沈んでいく。
グツグツ……
熱でチーズが溶け出し、カレーソースと混ざり合う。
スパイシーな香りに、濃厚な乳脂肪の甘い香りが加わる。
とろり、と糸を引くチーズ。
「……ゴクリ」
誰かが唾を飲み込んだ。
視覚と嗅覚への二重の暴力。
坂上はお玉で、チーズがたっぷり絡んだルーを掬い上げ、白米の上にかけた。
さらに仕上げに、粉チーズを雪のように振りかける。
「完成だ。……『とろけるダブルチーズカレー』」
夜空の下、黄金色に輝くその一皿は、あまりにも罪深い輝きを放っていた。
ミスリル・ゴーレムが粉砕されたドーム状の広間は、今や「宝の山」と化していた。
床一面に散らばる銀色の破片。その全てが、最高純度の魔法金属ミスリルだ。
「ヒャッハー! これも! あれも! 全部ワテのもんだす!」
ニャングルが目を血走らせて走り回っている。
彼の背負うマジックバッグ(風呂敷)は既にパンパンだが、それでも手当たり次第に詰め込んでいる。
「ダンナ! この量、普通なら数年分の採掘量でっせ! これを市場に少しずつ流せば、相場を崩さずに巨万の富が……グヘヘヘ!」
「欲張りすぎて腰をやるなよ。……さて」
坂上はPXで購入した缶コーヒー(三本目)を飲みながら、部屋の隅で呆然と立ち尽くす『白銀の剣』の面々に目を向けた。
リーダーのアルヴィスは、砕け散ったゴーレムの残骸を見つめ、力なく膝をついていた。
「……勝てない」
彼は震える声で呟いた。
「剣技でも、魔法でも、そして指揮能力でも……俺たちは、あんた達に何一つ勝てなかった」
王都のエリートとして、自信満々にやってきた。
だが現実はどうだ。
暗闇に怯え、罠にかかり、最後は足手まといになり、命を救われた。
プライドはずたずただった。
坂上は静かに歩み寄り、アルヴィスの前に立った。
「……悔しいか?」
「当たり前だ! ……悔しいさ。自分たちがこんなに無力だったなんて……」
アルヴィスが涙を滲ませて顔を上げる。その表情からは、以前のような傲慢さは消えていた。
坂上は、少しだけ目を細めた。
挫折を知らないエリートは脆い。だが、挫折を認めた若者は強くなる。かつて自分が育ててきた部下たちと同じだ。
「なら、仕事(ジョブ)をやろう」
「え?」
「見ての通り、戦利品が多すぎる。ニャングルの袋にも入り切らん」
坂上は顎でミスリルの山を指した。
「入り口まで運ぶのを手伝え。……『ゲートキーパー(荷物持ち)』と言って馬鹿にしていた仕事だが、今の君たちには相応しい任務だ」
「……ッ!」
アルヴィスは唇を噛み締め、そして立ち上がった。
「……ああ、やってやるよ。命を救われた借りは返す。俺たちは、負け犬のままで終わりたくないからな!」
彼は仲間たちに号令をかけ、黙々とミスリルの破片を拾い集め始めた。
その背中は、泥だらけで格好悪かったが、以前よりもずっと逞しく見えた。
◇
帰路はスムーズだった。
何しろ、ルナが開通させた「完全舗装のトンネル」があるのだ。
LEDライトで照らされた一本道を、重いミスリルを背負った一行はハイペースで進んだ。
「お腹すいたぁ……。ねぇ坂上さん、夜ご飯なに?」
「腹が減りすぎて、もうミスリルがビスケットに見えてきたぜ……」
ルナと龍魔呂がゾンビのように呻く。
確かに、連戦と土木工事でカロリーを消費しきっている。
「安心しろ。……今夜は『祝勝会』だ」
坂上は先頭を歩きながら、ニヤリと笑った。
「前回のカレーを超える、とっておきのメニューを用意してある」
「超える……だと!?」
龍魔呂の足取りが急に軽くなった。単純な男である。
◇
一行がダンジョンの入り口に戻った頃には、すっかり夜が更けていた。
満天の星空の下、涼しい夜風が火照った体を冷やしてくれる。
坂上は入り口近くの平地に**『ワンタッチ・タープテント』と『折り畳みテーブル』**を展開し、野外キッチンの設営に入った。
「アルヴィス、君たちも座れ。労働の対価だ」
「えっ、俺たちもいいのか……?」
「荷物を運んだだろう。働かざる者食うべからずだが、働いた者には飯を食わせるのが俺の流儀だ」
エリート組も恐縮しながらテーブルの末席に着く。
そして、坂上が取り出したのは、あの大鍋と、再びの**『海軍カレー(業務用)』**だった。
「やったぁ! カレーだぁ!」
「……フン。悪くねぇが、昼間と同じじゃねぇか?」
龍魔呂が待ちきれない様子でスプーンを構える。
だが、坂上は人差し指を振った。
「甘いな、龍魔呂。……ここからが『本番』だ」
坂上はPXウィンドウを開き、検索カテゴリ【冷蔵食品】をタップした。
取り出したのは、黄色と白の細長い物体が詰まった大袋。
『シュレッドチーズ(ミックスチーズ・1kg)』。
さらに、緑色の筒に入った**『粉チーズ』**。
「チーズ……?」
「カレーに……チーズだと……?」
龍魔呂が怪訝な顔をする。
この世界でもチーズは一般的だが、それは硬い保存食か、酒のつまみとして食べるものであり、熱々の汁物に入れる発想はない。
「見ていろ。これが『悪魔の合体』だ」
坂上は、コンロで温めた大鍋のカレーの上に、惜しげもなくミックスチーズを投入した。
ザラザラザラ……。
山盛りのチーズが、褐色の海に沈んでいく。
グツグツ……
熱でチーズが溶け出し、カレーソースと混ざり合う。
スパイシーな香りに、濃厚な乳脂肪の甘い香りが加わる。
とろり、と糸を引くチーズ。
「……ゴクリ」
誰かが唾を飲み込んだ。
視覚と嗅覚への二重の暴力。
坂上はお玉で、チーズがたっぷり絡んだルーを掬い上げ、白米の上にかけた。
さらに仕上げに、粉チーズを雪のように振りかける。
「完成だ。……『とろけるダブルチーズカレー』」
夜空の下、黄金色に輝くその一皿は、あまりにも罪深い輝きを放っていた。
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