田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第三章 勇者と聖女様、神話級の相手のパシリにされる

EP 5

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聖女の浄化魔法 VS ルナの神域魔法
 聖剣に拒絶された勇者カイルに代わり、前に進み出たのは聖女アリアだった。
 彼女はハンカチで口元を覆い、軽蔑しきった目で農場を見渡した。
「オエッ……! なんて臭いですの! 腐敗と死の匂いが充満していますわ!」
 彼女が指摘したのは、畑に撒かれている「特製肥料」の匂いだった。
 それは魔族宰相ルーベンスが計算し、オークたちが調合した『ドラゴンゾンビの骨粉』や『魔獣の堆肥』であり、農作物にとっては最高の栄養源だ。
 だが、温室育ちの聖女には、ただの「穢(けが)れ」にしか見えなかった。
「許せませんわ。神聖なる大地を、このような汚物で満たすなど……! わたくしが全て消し去って差し上げます!」
 アリアは法衣を翻し、聖なる杖を掲げた。
「穢れし大地よ、神の光に焼かれなさい! 【聖域浄化(セイクリッド・ピュリファイ)】!」
 カッ!
 杖の先から白い光線が放たれた。
 それは畑の肥料を「悪」と認定し、蒸発させようと襲いかかる。
「ああっ!? 私の計算した『黄金比率肥料(1キロ金貨5枚相当)』がぁぁ!!」
 後ろで見ていたルーベンスが悲鳴を上げた。
 だが、その光が地面に届く直前。
 ブンッ!
 横合いから飛んできた「何か」が、聖女の魔法をハエ叩きのように弾き飛ばした。
「……なっ!?」
 アリアが目を見開く。
 そこに立っていたのは、泥だらけのエプロンを着た銀髪の少女――ルナだった。
 彼女の手には、世界樹の杖『ミストルティン』が握られている。
「めっ! ですわ」
 ルナは頬を膨らませて怒っていた。
「お野菜さんのご飯(肥料)を消そうとするなんて、なんて酷いことをしますの!」
「な、なんですって!? 農婦風情が、聖女であるわたくしに意見する気!?」
 アリアは激昂した。
 自分の高貴な魔法が、こんな薄汚い小娘に防がれたことが許せなかった。
「黙りなさい! 貴女ごとき、この最大出力の聖魔法で、塵一つ残さず浄化して……」
「浄化……?」
 ルナが小首を傾げた。
 そして、パァァァッと顔を輝かせた。
「ああ! お掃除対決ですのね! 受けて立ちますわ!」
 ルナの中でスイッチが入った。
 彼女にとって「浄化」とは、敵を倒すことではない。世界をピカピカにすることだ。
 そして何より、庭師として、農業顧問補佐として、よそ者に「掃除」で負けるわけにはいかない。
「見ていてください、カイト様! 本物の『綺麗』を見せてあげますわ!」
 ルナが杖を高く掲げた。
 周囲の大気中のマナが、渦を巻いて彼女の杖に吸い込まれていく。
 その魔力総量は、アリアの聖魔法の数百倍、いや数千倍。
「ひっ……!? な、なによそのデタラメな魔力は!?」
 アリアが顔を引きつらせて後ずさる。
 だが、もう遅い。
 世界樹の巫女が放つ、慈愛と暴走の極光。
「汚れも、曇りも、ぜ~んぶサヨナラ! 【世界樹の極光(ユグドラシル・オーロラ)】☆」
 シュヴァアアアアアアアアアアッ!!!!
 世界が、エメラルドグリーンの光に飲み込まれた。
 それは破壊の光ではない。
 あらゆる物質を「あるべき清らかな姿」へと強制的に還元する、神域の洗浄魔法だ。
 光の奔流が、聖教国の騎士団を飲み込む。
「うわぁぁぁぁ! 鎧のサビが落ちていくぅぅ!」
「虫歯が治った!? 腰痛も消えたぞ!」
「心が……洗われる……。俺たち、なんで戦っていたんだっけ……?」
 騎士たちは戦意を喪失し、あまりの心地よさにその場へへたり込んだ。
 そして、光の直撃を受けた聖女アリアは――。
「いやぁぁぁぁッ! やめてぇぇぇ! 私の『聖女の加護(厚化粧)』がぁぁぁ!!」
 バリンッ!
 彼女が顔に施していた何重もの「美肌魔法」「デカ目補正魔法」「小顔結界」が、ルナの圧倒的な浄化力によって、ガラスのように砕け散った。
 光が収まった後。
 そこに立っていたのは、聖女アリア……によく似た、「地味で素朴な顔立ちの女性」だった。
 眉毛は薄く、肌にはソバカスがあり、目は半分くらいの大きさになっている。
「あ……あぅ……」
 アリア(スッピン)は、自分の顔をペタペタと触り、絶望の悲鳴を上げた。
「み、見ないでぇぇぇぇ!! わたくしの、毎朝2時間かけた『聖なる威光(メイク)』がぁぁぁ!!」
 彼女はその場にうずくまり、顔を隠して泣き出した。
 物理的なダメージはゼロ。しかし、精神的なダメージは即死級だった。
 †
「ふふん! 私の勝ちですわね!」
 ルナはドヤ顔で杖を収めた。
 農場はピカピカになり、空気は澄み渡り、騎士団は温泉上がりのようにリラックスし、聖女はスッピンになって泣いている。
 それを見たカイトは、感心して拍手をした。
「すごい! ルナちゃん、今の光の演出、最高だったよ!」
 彼は騎士団がへたり込んだのを、「ショーの演出に感動してくれている」と解釈した。
「あのお客さん(アリア)も、感動して泣いてるみたいだし。やっぱりルナちゃんの魔法は人を幸せにするね!」
「えへへ、それほどでもありませんわ!(カイト様に褒められた!)」
 ルナは嬉しそうにカイトに抱きついた。
 一方、指揮官であるボルジア枢機卿は、ガタガタと震えていた。
 勇者は剣を抜けず、聖女は化粧を剥がされて戦闘不能。騎士団は骨抜き。
「ば、馬鹿な……! ここは悪魔の巣窟だと言うのか!?」
 彼は錯乱し、禁断の言葉を叫んだ。
「おのれ異端者ども! こうなれば、『神の鉄槌』を下してくれる!」
 ボルジアが懐から取り出したのは、天使を強制召喚する禁呪のスクロールだった。
 だが、その行動が、農場に住む「本物の管理者」の逆鱗に触れることになる。
 ビニールハウスの中でバジルの世話をしていた天使長ヴァルキュリアが、静かにじょうろを置いた。
「……神の鉄槌、ですか。いいでしょう」
 彼女の背中から、純白の四枚翼がバサリと展開される。
 次回、本物の天使降臨。
 枢機卿、信仰の根幹をへし折られる!
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