田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第三章 勇者と聖女様、神話級の相手のパシリにされる

EP 6

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天使長、ブチ切れる
 カイト農場の入り口は、異様な静寂に包まれていた。
 聖剣は抜けず、聖女はスッピンにされ、騎士団はルナの浄化魔法で戦意喪失して座り込んでいる。
「お、おのれ……! おのれぇぇッ!!」
 聖教国のボルジア枢機卿は、怒りで顔をドス黒く染めていた。
 このままでは終われない。聖教国の威信が、自分の地位が、こんな泥だらけの農場で失墜してしまう。
「認めん……! こんな不条理は認めんぞ!」
 ボルジアは懐から、禍々しい紋章が描かれた巻物を取り出した。
 それは教会に伝わる禁忌の品『上位天使召喚のスクロール』。
 使用者の寿命と引き換えに、天界の兵隊である「権天使(プリンシパリティ)」を呼び出し、敵を殲滅させる最終兵器だ。
「ここが悪魔の巣窟であることは明白! ならば、神の軍勢によって灰燼(かいじん)に帰してくれるわ!!」
 ボルジアが巻物を広げ、絶叫した。
「出でよ、神の尖兵! この汚らわしい異端者どもに、『神の鉄槌』を下せぇぇッ!!」
 ズズズズズ……ッ!
 空が割れ、雲の隙間から神々しい光の柱が降り注ぐ。
 その中から、巨大な槍を持った、身長3メートルほどの「権天使」が姿を現そうとしていた。
 圧倒的な神気。騎士たちが畏怖して震え上がる。
 ――しかし。
 その召喚の光よりもさらに強く、鋭い殺気が、農場の奥から放たれた。
「……やかましいですね」
 冷徹な声が響いた。
 ビニールハウスの扉が開き、エプロン姿の女性が出てきた。
 天使長ヴァルキュリアである。
 彼女の手には、収穫したばかりのバジルが入った籠が握られている。
「神聖なハーブの手入れ中だというのに……。誰が誰に、鉄槌を下すのですか?」
「な、なんだ貴様は! ただの農婦が、神の御業(みわざ)に口出しするな!」
 ボルジアが唾を飛ばして怒鳴る。
 ヴァルキュリアはため息をついた。
「農婦……。ええ、今はそうです。ですが」
 彼女はゆっくりとエプロンの紐を解いた。
 そして、空を見上げた。そこには、今まさに召喚されようとしている「権天使」の姿がある。
「下がりなさい、三等兵。……誰の許可を得て、私の農場(職場)に土足で踏み込もうとしているのです?」
 バサァッ!!!!
 ヴァルキュリアの背中から、純白に輝く四枚の翼が展開された。
 同時に、彼女の全身から黄金のオーラが噴出する。
 それは、ボルジアが呼び出した「権天使」など比較にならない、天界の最高位に位置する**「熾天使(セラフィム)」**の輝きだった。
「ひっ……!?」
 召喚されかけていた権天使が、ヴァルキュリアの姿を見た瞬間、空中で直立不動の姿勢をとった。
 そして、ガクガクと震えながら深々と敬礼し――シュンッ! と音速で天界へ逃げ帰ってしまった。
「あ……? き、消え……?」
 ボルジアが呆然と空を見上げる。
 ヴァルキュリアは冷ややかな目で、地上にへたり込んでいる人間たちを見下ろした。
 彼女の体はふわりと浮き上がり、神々しく輝いている。
「あ、あれは……!」
「四枚の翼……黄金の髪……! きょ、教典に描かれている『天使長ヴァルキュリア様』だ!」
 騎士団の中から、悲鳴のような声が上がった。
 聖教国の人間なら誰もが知っている、信仰の頂点に立つ存在。
 それが今、目の前に顕現している。
「嘘だ……ありえない……! なぜ天使長様が、こんなド田舎の農場に……!?」
 ボルジアが腰を抜かす。
 ヴァルキュリアは、ゴミを見るような目で彼を一瞥した。
「あなた達の信仰心は腐っていますね。私利私欲のために『神の名』を騙り、罪なき人々(とバジル)を傷つけようとするとは」
 彼女の声は静かだが、絶対的な重みを持って響いた。
「あなた達の魂は、この畑の肥料にも劣ります。……消え失せなさい」
 ドォォォォォンッ……!
 覇気だけで、ボルジアと聖女、勇者が吹き飛ばされ、地面に転がった。
 圧倒的な「格」の違い。
 彼らが今まで築き上げてきた権威もプライドも、本物の神の使いの前では塵に等しかった。
「あ、あぁ……神よ、お許しを……!」
 騎士たちは一斉に武器を捨て、地面に額を擦り付けて土下座した。
 ボルジアだけが、まだ現実を受け入れられずに泡を吹いて痙攣している。
 完全なる決着。
 誰もがヴァルキュリアにひれ伏した。
 ――ただ一人を除いて。
「おおーっ! すごいすごい!」
 パチパチパチパチ!
 拍手の音が響いた。
 ピザカッターを持ったカイトが、目を輝かせて拍手していたのだ。
「ヴァルキュリアさん、すごい演出だね! 背中から羽根が出る仕掛け、どうなってるの!? それにワイヤーアクション(空中浮遊)まで!」
 カイトは、これも「余興」だと思い込んでいた。
 ヴァルキュリアの神々しい姿も、騎士たちの土下座も、すべて「中世騎士コスプレツアー」の一環としての演劇だと解釈したのだ。
「さっすがヴァルキュリアさん! お客さんを楽しませるために、天使になりきってくれるなんて!」
「えっ? あ、オーナー……?」
 カイトの無邪気な笑顔に、ヴァルキュリアの厳格な表情が崩れた。
 彼女は慌てて地面に降り、翼を収納した。
「い、いえ、その……お恥ずかしいところを……」
「恥ずかしくないよ! かっこよかった! ほら、お客さんたちも感動してひれ伏してるじゃないか!」
 カイトは土下座している騎士たちを見た。
「みなさーん! ショーは楽しんでもらえましたかー? ピザのおかわり、まだありますよー!」
 騎士たちは顔を見合わせた。
 天使長様の上司(オーナー)である、この農夫の青年……。
 彼こそが、天使長すら顎で使う「真の創造主」なのではないか?
 騎士たちのカイトを見る目が、「憐れみ」から「絶対的な畏怖」へと変わった瞬間だった。
 だが、ボルジア枢機卿だけは諦めていなかった。
 彼は狂乱し、最後の悪あがきに出ようとしていた。
「認めん……! これは幻覚だ! 悪魔の幻術だ! そうだ、この女は偽物だ!」
 彼は錯乱しながら叫んだ。
「ならば、本物の神に問うまでよ! 創造神ルチアナ様の名において、この偽物を裁いてやる!」
 その言葉がフラグとなった。
 農場の奥、屋台『龍神軒』のベンチで、生ビールを飲んでいたジャージ姿の女性が、うるさそうに立ち上がったのだ。
「あーもう、うるさいなぁ! せっかくの昼飲みが台無しじゃない!」
 次回、創造神ルチアナ、酔っ払ったまま降臨。
 「私が神だけど、なんか文句ある?」
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