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第三章 勇者と聖女様、神話級の相手のパシリにされる
EP 7
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女神ルチアナ、酔っ払って登場
天使長ヴァルキュリアの降臨によって、聖教国の騎士団は完全に沈黙した。
だが、信仰の拠り所を失いかけているボルジア枢機卿だけは、狂乱の縁(ふち)で踏みとどまっていた。
「認めん……! 断じて認めんぞ!」
彼は血走った目で叫んだ。
「天使長様が、あのような農婦の格好をして、異端者に味方するはずがない! これは悪魔が見せている幻術だ! そうだ、貴様らは集団催眠にかかっているのだ!」
ボルジアは天を仰ぎ、最後の祈りを捧げた。
「お救いください、創造神ルチアナ様! この不届きな偽物たちに、真の裁きを! あなたの敬虔な信徒である私に、御力をお貸しください!」
その悲痛な叫びが、農場の空気に波紋を広げた。
そして――願いは聞き届けられた。
ただし、彼が想像していた形とは、180度違う方向で。
「――あ~もう、うるさぁぁぁぁいッ!!」
屋台『龍神軒』の赤提灯が揺れた。
のれんをバッと跳ね上げて出てきたのは、一人の女性だった。
金色の髪はボサボサ。
上はヨレヨレの芋ジャージ、下はスウェット。
右手には飲みかけの生ビールジョッキ、左手には齧りかけの焼き鳥(豚バラ)を持っている。
顔はほんのり赤く、足元は千鳥足だ。
「せっかくの休日なのに! デュークのラーメンと龍魔呂のカクテルで優勝してたのに! ギャーギャー喚いて、酒が不味くなるじゃないのよ!」
彼女はゲップを漏らしながら、ボルジアを睨みつけた。
「な、なんだこの女は……?」
ボルジアは呆気にとられた。
神聖なる戦場に、場違いな酔っ払い女が現れた。
「ええい、下がれ下民(げみん)! 私は今、創造神ルチアナ様と交信しているのだ! 貴様のような薄汚い酔っ払いが……」
「あぁん?」
女性がこめかみに青筋を浮かべた。
その瞬間、彼女の全身から『神気』が爆発した。
ズドオオオオオオオッ!!!!
大地が悲鳴を上げ、空の色が七色に変わる。
天使長ヴァルキュリアの時とは比較にならない、世界そのものを構成する根源的なプレッシャー。
だが、その圧力には微かに「アルコールの匂い」が混じっていた。
「だ・れ・が、薄汚い酔っ払いよ?」
彼女の背後に、光の輪(ヘイロー)が出現する。ただし、少し歪んでいる。
「ひっ……!?」
ボルジアが息を呑む。
この圧倒的な存在感。魂が本能的に平伏を強要されるこの感覚。
まさか。嘘だろ。
その時、空中に浮いていたヴァルキュリアが、慌てて地上に降りて跪いた。
「も、申し訳ありません! ルチアナ様! 私が処理に手間取ったばかりに、お手を煩わせてしまい……!」
「ル……ルチアナ……様……?」
ボルジア、聖女アリア、勇者カイル、そして騎士団全員が石化した。
ヴァルキュリア(本物の天使長)が、あのジャージ女を「ルチアナ様」と呼んだ。
「そ、そのお姿……まさか……」
ボルジアは教典の挿絵を思い出した。
純白のドレスを纏い、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる女神ルチアナ。
目の前にいるのは、ジャージを着て、焼き鳥のタレを口につけ、ビール片手に仁王立ちする女。
【理想】 vs 【現実】
パリンッ。
ボルジアの中で、何かが砕け散った。
「う、嘘だぁぁぁぁッ!! 私の女神様が、こんな干物女(ひものおんな)なわけがなぁぁぁいッ!!」
「誰が干物よ! 私はありのままの自分を愛してるの! 文句ある!?」
ルチアナはジョッキを地面に叩きつけ(割れないように加減して)、指を鳴らした。
「いいわ、そんなに疑うなら証拠を見せてあげる。【世界改変(ワールド・エディット)】!」
彼女が酔った勢いで世界に干渉した。
一瞬にして、空から「おつまみの雨(スルメやナッツ)」が降り注ぎ、農場の近くの川が「ビール」に変わった。
神のみぞ行える、理不尽な奇跡。
「見たか! これが神の力よ! ついでにアンタらの鎧、重そうだからジャージに変えてあげるわ!」
シュンッ!
騎士団500名の白銀の鎧が、一瞬で「学校指定の芋ジャージ(えんじ色)」に変わった。
聖女アリアの法衣も、勇者カイルの装備も、全てジャージだ。
「い、いやぁぁぁ! ダサい! ダサいですわぁぁ!」
スッピンのアリアが絶叫する。
これで確定した。
目の前の酔っ払いは、紛れもなく、この世界の創造主である。
「神よ……なぜ……なぜなのですか……」
ボルジアはその場に崩れ落ちた。
信仰していた神が、自分たちをジャージに変えてゲラゲラ笑っている。
地獄の方がまだマシだった。
――そんなカオスな状況に、一人の男が割って入った。
「こらー! ルナちゃん(偽名)! また飲みすぎたのか!」
カイトだ。
彼はピザカッターを持ったまま、創造神に駆け寄った。
「お客さんに失礼だろ! それに、魔法で衣装を変えるイタズラはやめなさい!」
カイトはルチアナの手からビールジョッキを取り上げ、代わりに「お冷(水)」を持たせた。
「ほら、水飲んで! 頭冷やすんだ!」
「むぅ……。だってカイトぉ、こいつらがうるさいんだもん……」
ルチアナがむくれる。
世界を創造した女神が、一人の農夫に叱られ、シュンとしている。
「うるさくても、お客さんは神様だろ? ……あ、ルナちゃんも自称女神様だったっけ。ややこしいな」
カイトは呆れたように笑い、ルチアナの背中をさすった。
「ほら、向こうで座ってて。あとで味噌汁作ってあげるから」
「……ん。カイトの味噌汁なら許す」
ルチアナは大人しく屋台の方へ戻っていった。
†
その光景を見ていたボルジア枢機卿は、今度こそ完全に理解(誤解)した。
(あ、あの男……。創造神ルチアナ様を『ルナちゃん』と呼び、酒を取り上げ、説教し、味噌汁で餌付けした……?)
神を使役する男。
いや、神すらも「手のかかる同居人」として扱う男。
彼こそが、この世界の真の支配者(フィクサー)。
「ひっ……ひぃぃぃ……!」
ボルジアは失禁しながら後ずさった。
勝てるわけがない。神に挑むどころか、神を飼っている男に喧嘩を売ってしまったのだ。
「に、逃げ……」
ボルジアが逃亡を図ろうとした、その時。
農場の影から、冷酷な声が響いた。
「……お会計はまだだぞ」
次回、鬼神龍魔呂が動く。
「閉店時間だ。帰れ」
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「お救いください、創造神ルチアナ様! この不届きな偽物たちに、真の裁きを! あなたの敬虔な信徒である私に、御力をお貸しください!」
その悲痛な叫びが、農場の空気に波紋を広げた。
そして――願いは聞き届けられた。
ただし、彼が想像していた形とは、180度違う方向で。
「――あ~もう、うるさぁぁぁぁいッ!!」
屋台『龍神軒』の赤提灯が揺れた。
のれんをバッと跳ね上げて出てきたのは、一人の女性だった。
金色の髪はボサボサ。
上はヨレヨレの芋ジャージ、下はスウェット。
右手には飲みかけの生ビールジョッキ、左手には齧りかけの焼き鳥(豚バラ)を持っている。
顔はほんのり赤く、足元は千鳥足だ。
「せっかくの休日なのに! デュークのラーメンと龍魔呂のカクテルで優勝してたのに! ギャーギャー喚いて、酒が不味くなるじゃないのよ!」
彼女はゲップを漏らしながら、ボルジアを睨みつけた。
「な、なんだこの女は……?」
ボルジアは呆気にとられた。
神聖なる戦場に、場違いな酔っ払い女が現れた。
「ええい、下がれ下民(げみん)! 私は今、創造神ルチアナ様と交信しているのだ! 貴様のような薄汚い酔っ払いが……」
「あぁん?」
女性がこめかみに青筋を浮かべた。
その瞬間、彼女の全身から『神気』が爆発した。
ズドオオオオオオオッ!!!!
大地が悲鳴を上げ、空の色が七色に変わる。
天使長ヴァルキュリアの時とは比較にならない、世界そのものを構成する根源的なプレッシャー。
だが、その圧力には微かに「アルコールの匂い」が混じっていた。
「だ・れ・が、薄汚い酔っ払いよ?」
彼女の背後に、光の輪(ヘイロー)が出現する。ただし、少し歪んでいる。
「ひっ……!?」
ボルジアが息を呑む。
この圧倒的な存在感。魂が本能的に平伏を強要されるこの感覚。
まさか。嘘だろ。
その時、空中に浮いていたヴァルキュリアが、慌てて地上に降りて跪いた。
「も、申し訳ありません! ルチアナ様! 私が処理に手間取ったばかりに、お手を煩わせてしまい……!」
「ル……ルチアナ……様……?」
ボルジア、聖女アリア、勇者カイル、そして騎士団全員が石化した。
ヴァルキュリア(本物の天使長)が、あのジャージ女を「ルチアナ様」と呼んだ。
「そ、そのお姿……まさか……」
ボルジアは教典の挿絵を思い出した。
純白のドレスを纏い、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる女神ルチアナ。
目の前にいるのは、ジャージを着て、焼き鳥のタレを口につけ、ビール片手に仁王立ちする女。
【理想】 vs 【現実】
パリンッ。
ボルジアの中で、何かが砕け散った。
「う、嘘だぁぁぁぁッ!! 私の女神様が、こんな干物女(ひものおんな)なわけがなぁぁぁいッ!!」
「誰が干物よ! 私はありのままの自分を愛してるの! 文句ある!?」
ルチアナはジョッキを地面に叩きつけ(割れないように加減して)、指を鳴らした。
「いいわ、そんなに疑うなら証拠を見せてあげる。【世界改変(ワールド・エディット)】!」
彼女が酔った勢いで世界に干渉した。
一瞬にして、空から「おつまみの雨(スルメやナッツ)」が降り注ぎ、農場の近くの川が「ビール」に変わった。
神のみぞ行える、理不尽な奇跡。
「見たか! これが神の力よ! ついでにアンタらの鎧、重そうだからジャージに変えてあげるわ!」
シュンッ!
騎士団500名の白銀の鎧が、一瞬で「学校指定の芋ジャージ(えんじ色)」に変わった。
聖女アリアの法衣も、勇者カイルの装備も、全てジャージだ。
「い、いやぁぁぁ! ダサい! ダサいですわぁぁ!」
スッピンのアリアが絶叫する。
これで確定した。
目の前の酔っ払いは、紛れもなく、この世界の創造主である。
「神よ……なぜ……なぜなのですか……」
ボルジアはその場に崩れ落ちた。
信仰していた神が、自分たちをジャージに変えてゲラゲラ笑っている。
地獄の方がまだマシだった。
――そんなカオスな状況に、一人の男が割って入った。
「こらー! ルナちゃん(偽名)! また飲みすぎたのか!」
カイトだ。
彼はピザカッターを持ったまま、創造神に駆け寄った。
「お客さんに失礼だろ! それに、魔法で衣装を変えるイタズラはやめなさい!」
カイトはルチアナの手からビールジョッキを取り上げ、代わりに「お冷(水)」を持たせた。
「ほら、水飲んで! 頭冷やすんだ!」
「むぅ……。だってカイトぉ、こいつらがうるさいんだもん……」
ルチアナがむくれる。
世界を創造した女神が、一人の農夫に叱られ、シュンとしている。
「うるさくても、お客さんは神様だろ? ……あ、ルナちゃんも自称女神様だったっけ。ややこしいな」
カイトは呆れたように笑い、ルチアナの背中をさすった。
「ほら、向こうで座ってて。あとで味噌汁作ってあげるから」
「……ん。カイトの味噌汁なら許す」
ルチアナは大人しく屋台の方へ戻っていった。
†
その光景を見ていたボルジア枢機卿は、今度こそ完全に理解(誤解)した。
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