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第四章 学園生活と地下アイドル
EP 6
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路地裏の歌姫(貧乏アイドル・リーザ登場)
巨大イカ(グランド・クラーケン)の解体を終え、食材を魔法の冷蔵庫(ルーベンスの亜空間収納)に詰め込んだ後。
カイトと龍魔呂の二人は、女性陣の水着撮影会を抜け出して、港町ルナミスの散策に出かけていた。
「へえ、活気がある街だなぁ。魚の匂いがすごいよ」
カイトは市場に並ぶ色とりどりの魚を見て歩いていた。
龍魔呂もサングラス越しに周囲を観察している。
「……だが、一本路地裏に入ればスラム街か。光があれば影があるな」
龍魔呂の視線は鋭い。
大通りは観光客で賑わっているが、少し奥まった場所には、塗装の剥げたアパートや薄汚れた子供たちの姿が見える。それは彼がかつて生きていた「底辺」の景色と重なるものだった。
「ん? 龍魔呂さん、何か聞こえない?」
カイトが足を止めた。
市場の喧騒の裏側から、微かだが、透き通るような歌声が聞こえてくる。
「……歌か?」
二人は音のする方へ、人気のない路地裏へと足を踏み入れた。
†
そこは、野良猫しかいないような吹き溜まりの広場だった。
夕日が長く影を落とす中、使い古された「みかん箱」の上に、一人の少女が立っていた。
ピンクがかった珊瑚色の髪をツインテールにし、フリフリの衣装を着ている。
だが、その衣装は安っぽい布をツギハギして作った手製のもので、所々にほつれが見える。靴も底がすり減っている。
少女は誰もいない広場に向かって、満面の笑みでマイク(木の棒)を握りしめていた。
「みんなー! 今日も元気にいっくよー! 聞いてください、私のデビュー曲!」
観客は、ゴミ箱の上で欠伸をしている三匹の野良猫だけ。
それでも少女は、まるで満員のスタジアムにいるかのように、全力で歌い出した。
「♪ガンガンガン! アタマガガン!
視界が回るよ 39度!
インフルエンザ大魔王(ウィルス) やっつけろ!」
カイトはずっこけそうになった。
なんだその歌詞は。
メロディはポップで可愛いのに、歌詞の内容がやけに所帯じみているというか、医療的だ。
「♪今だ! 必殺! タミフルパーンチ!
コ・ウ・セ・イ・ザ・イ! ビーム!(キラッ☆)」
少女はキレのあるダンスと共に、ビシッと決めポーズをとった。
完璧な笑顔。
だが、その直後だった。
グゥゥゥゥゥゥ~~~~ッ。
盛大な音が、少女の腹から響き渡った。
少女は「あうっ」と赤面し、お腹を押さえてうずくまった。
「うぅ……。パンの耳一枚じゃ、タミフルパンチは出せませんわ……」
少女、リーザはフラフラとみかん箱から降りた。
その足取りは頼りなく、今にも倒れそうだ。
†
物陰から見ていたカイトと龍魔呂は、顔を見合わせた。
「……カイト」
「うん、龍魔呂さん」
言葉はいらなかった。
カイトは「お腹を空かせた子」を放っておけない農家気質。
そして龍魔呂は、「貧困の中で夢を追う子供」に対して、死んだ弟ユウを重ねてしまう最強のブラコン(オカン)気質。
二人は同時に動き出した。
「お嬢さん! 大丈夫かい!?」
カイトが駆け寄る。リーザは驚いて顔を上げた。
「ひゃっ!? に、人間……じゃなくて、ファンの方ですの!?」
「ファンというか……通りすがりだけど。お腹、空いてるんだね?」
カイトは優しく微笑むと、懐から包みを取り出した。
さっき市場で買ったばかりの、揚げたての「カニクリームコロッケ」だ。
「これ、よかったら食べて。まだ温かいよ」
「えっ……こ、こんなご馳走……!」
リーザの目が釘付けになる。
黄金色に輝く衣。漂う濃厚なカニとホワイトソースの香り。
彼女の主食である「パンの耳」とは次元が違う。
「で、でも私、お金なんて……」
「いいんだ。君の歌、すごく元気が出たからさ。そのお代だよ」
カイトが言うと、リーザの瞳が潤んだ。
歌を褒められた。ご飯をもらった。
地上に来てから冷たい視線ばかり浴びてきた彼女にとって、それは初めての「温かさ」だった。
「あ、ありがとうございます……!」
リーザは震える手でコロッケを受け取り、ガブリと齧り付いた。
サクッ。トロッ。
「んんっ~~~!! 美味しいぃぃぃ!!」
彼女は頬を膨らませ、ボロボロと涙をこぼした。
「おいしい……あったかい……。海の底のワカメサラダよりずっと美味しいですわ……!」
その姿を見て、龍魔呂がサングラスを外し、目頭を押さえた。
「……食え。もっと食え。足りなければ、俺が市場の在庫を全部揚げてきてやる」
龍魔呂の声が震えている。完全に感情移入していた。
彼は上着を脱ぎ、寒そうにしているリーザの肩にかけてやった。
「……いい歌だったぞ。『タミフル』の意味は分からんが、魂は伝わった」
「本当ですか!? おじ様たち、私のファン第一号になってくれますの!?」
リーザは口の周りをコロッケの欠片だらけにして、キラキラした笑顔を向けた。
「ああ、なるよ! 俺はカイト。こっちは龍魔呂さん。君の名前は?」
「私はリーザ! トップアイドルを目指す、人魚……じゃなくて、普通の女の子です!」
こうして、運命の歯車が噛み合った。
農夫と、鬼神と、人魚姫。
この出会いが、やがて海の女王を巻き込む大騒動へと発展し、カイト農場に新たな「歌」をもたらすことになる。
だがその前に、まずは彼女のプロデューサー(元凶)である、あの女神と引き合わせなければならない。
次回、涙の再会(?)。
「コロッケと涙とプロデューサー」へ続く!
巨大イカ(グランド・クラーケン)の解体を終え、食材を魔法の冷蔵庫(ルーベンスの亜空間収納)に詰め込んだ後。
カイトと龍魔呂の二人は、女性陣の水着撮影会を抜け出して、港町ルナミスの散策に出かけていた。
「へえ、活気がある街だなぁ。魚の匂いがすごいよ」
カイトは市場に並ぶ色とりどりの魚を見て歩いていた。
龍魔呂もサングラス越しに周囲を観察している。
「……だが、一本路地裏に入ればスラム街か。光があれば影があるな」
龍魔呂の視線は鋭い。
大通りは観光客で賑わっているが、少し奥まった場所には、塗装の剥げたアパートや薄汚れた子供たちの姿が見える。それは彼がかつて生きていた「底辺」の景色と重なるものだった。
「ん? 龍魔呂さん、何か聞こえない?」
カイトが足を止めた。
市場の喧騒の裏側から、微かだが、透き通るような歌声が聞こえてくる。
「……歌か?」
二人は音のする方へ、人気のない路地裏へと足を踏み入れた。
†
そこは、野良猫しかいないような吹き溜まりの広場だった。
夕日が長く影を落とす中、使い古された「みかん箱」の上に、一人の少女が立っていた。
ピンクがかった珊瑚色の髪をツインテールにし、フリフリの衣装を着ている。
だが、その衣装は安っぽい布をツギハギして作った手製のもので、所々にほつれが見える。靴も底がすり減っている。
少女は誰もいない広場に向かって、満面の笑みでマイク(木の棒)を握りしめていた。
「みんなー! 今日も元気にいっくよー! 聞いてください、私のデビュー曲!」
観客は、ゴミ箱の上で欠伸をしている三匹の野良猫だけ。
それでも少女は、まるで満員のスタジアムにいるかのように、全力で歌い出した。
「♪ガンガンガン! アタマガガン!
視界が回るよ 39度!
インフルエンザ大魔王(ウィルス) やっつけろ!」
カイトはずっこけそうになった。
なんだその歌詞は。
メロディはポップで可愛いのに、歌詞の内容がやけに所帯じみているというか、医療的だ。
「♪今だ! 必殺! タミフルパーンチ!
コ・ウ・セ・イ・ザ・イ! ビーム!(キラッ☆)」
少女はキレのあるダンスと共に、ビシッと決めポーズをとった。
完璧な笑顔。
だが、その直後だった。
グゥゥゥゥゥゥ~~~~ッ。
盛大な音が、少女の腹から響き渡った。
少女は「あうっ」と赤面し、お腹を押さえてうずくまった。
「うぅ……。パンの耳一枚じゃ、タミフルパンチは出せませんわ……」
少女、リーザはフラフラとみかん箱から降りた。
その足取りは頼りなく、今にも倒れそうだ。
†
物陰から見ていたカイトと龍魔呂は、顔を見合わせた。
「……カイト」
「うん、龍魔呂さん」
言葉はいらなかった。
カイトは「お腹を空かせた子」を放っておけない農家気質。
そして龍魔呂は、「貧困の中で夢を追う子供」に対して、死んだ弟ユウを重ねてしまう最強のブラコン(オカン)気質。
二人は同時に動き出した。
「お嬢さん! 大丈夫かい!?」
カイトが駆け寄る。リーザは驚いて顔を上げた。
「ひゃっ!? に、人間……じゃなくて、ファンの方ですの!?」
「ファンというか……通りすがりだけど。お腹、空いてるんだね?」
カイトは優しく微笑むと、懐から包みを取り出した。
さっき市場で買ったばかりの、揚げたての「カニクリームコロッケ」だ。
「これ、よかったら食べて。まだ温かいよ」
「えっ……こ、こんなご馳走……!」
リーザの目が釘付けになる。
黄金色に輝く衣。漂う濃厚なカニとホワイトソースの香り。
彼女の主食である「パンの耳」とは次元が違う。
「で、でも私、お金なんて……」
「いいんだ。君の歌、すごく元気が出たからさ。そのお代だよ」
カイトが言うと、リーザの瞳が潤んだ。
歌を褒められた。ご飯をもらった。
地上に来てから冷たい視線ばかり浴びてきた彼女にとって、それは初めての「温かさ」だった。
「あ、ありがとうございます……!」
リーザは震える手でコロッケを受け取り、ガブリと齧り付いた。
サクッ。トロッ。
「んんっ~~~!! 美味しいぃぃぃ!!」
彼女は頬を膨らませ、ボロボロと涙をこぼした。
「おいしい……あったかい……。海の底のワカメサラダよりずっと美味しいですわ……!」
その姿を見て、龍魔呂がサングラスを外し、目頭を押さえた。
「……食え。もっと食え。足りなければ、俺が市場の在庫を全部揚げてきてやる」
龍魔呂の声が震えている。完全に感情移入していた。
彼は上着を脱ぎ、寒そうにしているリーザの肩にかけてやった。
「……いい歌だったぞ。『タミフル』の意味は分からんが、魂は伝わった」
「本当ですか!? おじ様たち、私のファン第一号になってくれますの!?」
リーザは口の周りをコロッケの欠片だらけにして、キラキラした笑顔を向けた。
「ああ、なるよ! 俺はカイト。こっちは龍魔呂さん。君の名前は?」
「私はリーザ! トップアイドルを目指す、人魚……じゃなくて、普通の女の子です!」
こうして、運命の歯車が噛み合った。
農夫と、鬼神と、人魚姫。
この出会いが、やがて海の女王を巻き込む大騒動へと発展し、カイト農場に新たな「歌」をもたらすことになる。
だがその前に、まずは彼女のプロデューサー(元凶)である、あの女神と引き合わせなければならない。
次回、涙の再会(?)。
「コロッケと涙とプロデューサー」へ続く!
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