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第五章 最凶ダンジョン天魔窟
EP 7
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勇者パーティ、ダンジョン攻略に来る
カイト農場から南へ数百キロ離れた王都。
その王宮のテラスで、一組の夫婦が戦慄していた。
「……おい、セーラ。感じるか?」
「ええ、あなた。……背筋が凍るような、禍々しい気配だわ」
男の名はリュウ(鍵田 竜)。
かつて魔神王を討ち取り、世界を救った最強の勇者。
女の名はセーラ。
あらゆる魔法を使いこなし、夫と共に地獄を生き抜いた最強の聖女。
彼らは今、遥か彼方の「カイト農場」の方角を睨みつけていた。
「間違いない。魔神王クラス……いや、それ以上の怪物が、5体……いや6体は集まっている」
リュウの額に冷や汗が流れる。
彼らが感知したのは、天魔窟で遊んでいる神々(創造神、竜神、魔王、鬼神など)の魔力だ。
それが一箇所に密集しているのだから、世界崩壊の予兆に見えても仕方がない。
「アレンのためにも、放置はできないわ。……行きましょう、あなた」
「ああ。久々に『本業』に戻る時が来たようだな」
リュウは愛する息子アレン(6歳)の手を引き、決意を固めた。
家族旅行を装い、世界の脅威を秘密裏に排除する。
それが、最強夫婦のミッションだった。
†
数日後。
リュウ一家は、カイト農場へと辿り着いた。
表向きはのどかな農村風景。だが、リュウの歴戦の勘が警鐘を鳴らしていた。
(……おかしい。畑を耕しているのはスケルトン。空を飛んでいるのはドラゴン。そして、あの納屋から漂う、濃密な異界の気配……!)
「パパ、あそこ行きたい!」
「待ちなさいアレン。あそこが『敵の本拠地』よ」
セーラが杖を構え、リュウがユニークスキル【ウェポンズマスター】を発動し、亜空間から聖剣と魔剣を呼び出す準備をする。
「行くぞ。どんな罠が待ち受けていようとも、俺たちが粉砕する!」
三人は、地下ダンジョン(天魔窟)への入り口である納屋の扉を開けた。
ウィィィィン……♪
自動ドアが開く軽快な音。
そして、肌を撫でる涼しく快適な風(エアコン)。
「……は?」
リュウが固まった。
ジメジメした洞窟を想像していたのに、そこはピカピカの大理石の床と、極彩色のネオンが輝く別世界だった。
『いらっしゃいませー! 天魔窟へようこそー!』
愛想の良いゴーストの店員が、深々と頭を下げる。
BGMは軽快なジャズ。
「な、なんだここは……。幻術か? 精神攻撃か?」
セーラが警戒レベルを最大に引き上げる。
だが、リュウの足は、ある一点を見つめたまま動かなくなった。
彼の視線の先にあったのは、『コンビニ・ダンジョンマート』の看板だった。
「こ、コンビニ……?」
リュウの足が勝手に動く。
10年ぶりの光景。
整然と並んだ商品棚。明るい店内。
そして、おにぎりコーナー。
リュウは震える手で、棚に並んだ三角形の物体を手に取った。
パッケージには、異世界語だが、確かにこう書かれている。
【 ツ ナ マ ヨ 】
「……嘘、だろ……」
リュウの目から、大粒の涙が溢れ出した。
10年間。
来る日も来る日も、固い黒パンと、味の薄いスープ。
肉といえば臭みの強い羊肉か、パサパサの保存食。
夢にまで見た、白米。海苔。そしてマヨネーズ。
パリッ。
包装フィルムを開ける音。この音すら懐かしい。
ガブッ。
「…………ッ!!!!」
リュウはその場に崩れ落ちた。
口の中に広がる、ふっくらとした米の甘み。海苔の磯の香り。そして、ジャンキーで背徳的なツナマヨのコク。
「うめぇ……! うめぇよぉぉぉ……! 俺は……俺はこれを待っていたんだぁぁ……!」
最強の勇者が、コンビニの床で号泣しながらおにぎりを貪り食う。
亜空間の聖剣など、どうでもよくなっていた。
「あ、お客さん。床で食べると汚れますよ?」
そこへ、品出しをしていたエプロン姿の青年――カイトが声をかけた。
「あ、すみません……。あまりに懐かしくて……」
リュウが涙目で顔を上げる。
カイトは、リュウの黒髪と、その泣き方を見て、ハッと気づいた。
「もしかして……日本人、ですか?」
「……!」
リュウが目を見開く。
「あ、貴方も……?」
「はい! 僕、カイトです! 農場やってます!」
「お、俺はリュウ……元サラリーマンだ……!」
ガシィッ!!
二人は固い握手を交わした。
言葉はいらない。異世界で「ツナマヨ」に感動できる同志というだけで、魂が通じ合ったのだ。
†
一方、夫の醜態(?)に警戒を強めていた妻セーラ。
「リュウ! 何を毒されているの! しっかりなさい!」
彼女は杖を構え、周囲を威圧した。
その視界の端に、ピンク色に輝く『UFOキャッチャー』が入った。
景品の箱には、こう書かれていた。
【S級ポーション配合・究極アンチエイジング美容液 ~マイナス10歳肌を貴女に~】
「……え?」
セーラの動きが止まった。
30代に差し掛かり、最近目元の小ジワを気にしていた元聖女。
彼女は杖を投げ捨て、ガラスケースに張り付いた。
「こ、これは……若返りの秘薬!? 王家にも伝わっていない伝説の……!」
セーラは財布から銀貨を鷲掴みにし、両替機へ走った。
「やりなさい! 今すぐ両替を! 私が全財産を賭けて獲ってやるわ!」
†
そして、息子のアレン。
彼はすでに、B2階のマグナギア闘技場へ迷い込んでいた。
「すっげー! ロボットだ! 動いてる!」
目の前で戦うドワーフ王ガンテツとカイトのトラクター。
男の子の夢が詰まった光景に、アレンは大興奮だ。
「僕もやりたい! パパ、ママ、僕これに乗る!」
†
数時間後。
カイト農場の休憩スペースにて。
ツナマヨおにぎりを5個完食し、幸せそうにお茶を啜るリュウ。
大量のコインを消費してゲットした美容液を抱きしめるセーラ。
ドワーフ王に弟子入りして、スパナを握っているアレン。
かつて魔神王を倒した最強の勇者パーティは、天魔窟の文明(と物欲)の前に、完全敗北していた。
「……カイト君」
リュウがしみじみと言った。
「ここは……天国か?」
「あはは、ただの農場ですよ。……よかったら、また遊びに来てくださいね」
「ああ。……いや、移住を検討させてくれ。公務員なんて辞めてやる」
リュウの目は本気だった。
こうして、天魔窟に新たな常連(重課金勢)が加わった。
だが、遊び呆けている場合ではない。
B3階の雀荘では、魔界の宰相と鬼神が、新たなカモ(勇者)を待ち構えていたのだ。
次回、麻雀卓を囲む神と勇者!
「麻雀卓を囲む神と悪魔」へ続く!
カイト農場から南へ数百キロ離れた王都。
その王宮のテラスで、一組の夫婦が戦慄していた。
「……おい、セーラ。感じるか?」
「ええ、あなた。……背筋が凍るような、禍々しい気配だわ」
男の名はリュウ(鍵田 竜)。
かつて魔神王を討ち取り、世界を救った最強の勇者。
女の名はセーラ。
あらゆる魔法を使いこなし、夫と共に地獄を生き抜いた最強の聖女。
彼らは今、遥か彼方の「カイト農場」の方角を睨みつけていた。
「間違いない。魔神王クラス……いや、それ以上の怪物が、5体……いや6体は集まっている」
リュウの額に冷や汗が流れる。
彼らが感知したのは、天魔窟で遊んでいる神々(創造神、竜神、魔王、鬼神など)の魔力だ。
それが一箇所に密集しているのだから、世界崩壊の予兆に見えても仕方がない。
「アレンのためにも、放置はできないわ。……行きましょう、あなた」
「ああ。久々に『本業』に戻る時が来たようだな」
リュウは愛する息子アレン(6歳)の手を引き、決意を固めた。
家族旅行を装い、世界の脅威を秘密裏に排除する。
それが、最強夫婦のミッションだった。
†
数日後。
リュウ一家は、カイト農場へと辿り着いた。
表向きはのどかな農村風景。だが、リュウの歴戦の勘が警鐘を鳴らしていた。
(……おかしい。畑を耕しているのはスケルトン。空を飛んでいるのはドラゴン。そして、あの納屋から漂う、濃密な異界の気配……!)
「パパ、あそこ行きたい!」
「待ちなさいアレン。あそこが『敵の本拠地』よ」
セーラが杖を構え、リュウがユニークスキル【ウェポンズマスター】を発動し、亜空間から聖剣と魔剣を呼び出す準備をする。
「行くぞ。どんな罠が待ち受けていようとも、俺たちが粉砕する!」
三人は、地下ダンジョン(天魔窟)への入り口である納屋の扉を開けた。
ウィィィィン……♪
自動ドアが開く軽快な音。
そして、肌を撫でる涼しく快適な風(エアコン)。
「……は?」
リュウが固まった。
ジメジメした洞窟を想像していたのに、そこはピカピカの大理石の床と、極彩色のネオンが輝く別世界だった。
『いらっしゃいませー! 天魔窟へようこそー!』
愛想の良いゴーストの店員が、深々と頭を下げる。
BGMは軽快なジャズ。
「な、なんだここは……。幻術か? 精神攻撃か?」
セーラが警戒レベルを最大に引き上げる。
だが、リュウの足は、ある一点を見つめたまま動かなくなった。
彼の視線の先にあったのは、『コンビニ・ダンジョンマート』の看板だった。
「こ、コンビニ……?」
リュウの足が勝手に動く。
10年ぶりの光景。
整然と並んだ商品棚。明るい店内。
そして、おにぎりコーナー。
リュウは震える手で、棚に並んだ三角形の物体を手に取った。
パッケージには、異世界語だが、確かにこう書かれている。
【 ツ ナ マ ヨ 】
「……嘘、だろ……」
リュウの目から、大粒の涙が溢れ出した。
10年間。
来る日も来る日も、固い黒パンと、味の薄いスープ。
肉といえば臭みの強い羊肉か、パサパサの保存食。
夢にまで見た、白米。海苔。そしてマヨネーズ。
パリッ。
包装フィルムを開ける音。この音すら懐かしい。
ガブッ。
「…………ッ!!!!」
リュウはその場に崩れ落ちた。
口の中に広がる、ふっくらとした米の甘み。海苔の磯の香り。そして、ジャンキーで背徳的なツナマヨのコク。
「うめぇ……! うめぇよぉぉぉ……! 俺は……俺はこれを待っていたんだぁぁ……!」
最強の勇者が、コンビニの床で号泣しながらおにぎりを貪り食う。
亜空間の聖剣など、どうでもよくなっていた。
「あ、お客さん。床で食べると汚れますよ?」
そこへ、品出しをしていたエプロン姿の青年――カイトが声をかけた。
「あ、すみません……。あまりに懐かしくて……」
リュウが涙目で顔を上げる。
カイトは、リュウの黒髪と、その泣き方を見て、ハッと気づいた。
「もしかして……日本人、ですか?」
「……!」
リュウが目を見開く。
「あ、貴方も……?」
「はい! 僕、カイトです! 農場やってます!」
「お、俺はリュウ……元サラリーマンだ……!」
ガシィッ!!
二人は固い握手を交わした。
言葉はいらない。異世界で「ツナマヨ」に感動できる同志というだけで、魂が通じ合ったのだ。
†
一方、夫の醜態(?)に警戒を強めていた妻セーラ。
「リュウ! 何を毒されているの! しっかりなさい!」
彼女は杖を構え、周囲を威圧した。
その視界の端に、ピンク色に輝く『UFOキャッチャー』が入った。
景品の箱には、こう書かれていた。
【S級ポーション配合・究極アンチエイジング美容液 ~マイナス10歳肌を貴女に~】
「……え?」
セーラの動きが止まった。
30代に差し掛かり、最近目元の小ジワを気にしていた元聖女。
彼女は杖を投げ捨て、ガラスケースに張り付いた。
「こ、これは……若返りの秘薬!? 王家にも伝わっていない伝説の……!」
セーラは財布から銀貨を鷲掴みにし、両替機へ走った。
「やりなさい! 今すぐ両替を! 私が全財産を賭けて獲ってやるわ!」
†
そして、息子のアレン。
彼はすでに、B2階のマグナギア闘技場へ迷い込んでいた。
「すっげー! ロボットだ! 動いてる!」
目の前で戦うドワーフ王ガンテツとカイトのトラクター。
男の子の夢が詰まった光景に、アレンは大興奮だ。
「僕もやりたい! パパ、ママ、僕これに乗る!」
†
数時間後。
カイト農場の休憩スペースにて。
ツナマヨおにぎりを5個完食し、幸せそうにお茶を啜るリュウ。
大量のコインを消費してゲットした美容液を抱きしめるセーラ。
ドワーフ王に弟子入りして、スパナを握っているアレン。
かつて魔神王を倒した最強の勇者パーティは、天魔窟の文明(と物欲)の前に、完全敗北していた。
「……カイト君」
リュウがしみじみと言った。
「ここは……天国か?」
「あはは、ただの農場ですよ。……よかったら、また遊びに来てくださいね」
「ああ。……いや、移住を検討させてくれ。公務員なんて辞めてやる」
リュウの目は本気だった。
こうして、天魔窟に新たな常連(重課金勢)が加わった。
だが、遊び呆けている場合ではない。
B3階の雀荘では、魔界の宰相と鬼神が、新たなカモ(勇者)を待ち構えていたのだ。
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