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第五章 最凶ダンジョン天魔窟
EP 8
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麻雀卓を囲む神と悪魔
地下遊楽施設『天魔窟』のB3階。
大人の社交場であるこのフロアの一角に、紫煙漂う個室『四神闘技場(麻雀ルーム)』があった。
ジャラジャラジャラ……。
全自動卓(魔法駆動)が牌を洗う音が、心地よく響く。
その卓を囲んでいたのは、世界の裏側を支配する超大物たちだった。
東家(トンチャ):魔族宰相ルーベンス。
漆黒のスーツを着こなし、片眼鏡の奥で冷徹な計算を行っている。
南家(ナンチャ):鬼神龍魔呂。
サングラスを外し、鋭い眼光で卓上の「流れ」を読んでご、静かに牌を磨いている。
西家(シャーチャ):カイト。
「ルールはよく分からないけど、絵合わせだよね?」とニコニコしている。
そして、北家(ペーチャ)に座らされたのは――。
コンビニおにぎりで理性が崩壊し、ふらふらとここに迷い込んだ勇者リュウだった。
「……ほう。日本の『麻雀』を知っているとは。やはり貴様も転生者か」
ルーベンスが手牌を整えながら、冷ややかな視線を向ける。
「ああ。大学時代、講義をサボって打ち込んだもんだ。……経済学部卒の計算力、舐めないでもらおうか」
リュウは眼鏡(伊達)をクイッと上げた。
相手は魔族と鬼神だが、麻雀は運と確率のゲーム。魔力で殴り合うわけではないなら、勝機はある。
ここで勝って大量のKコインを稼げば、あのUFOキャッチャーの「最高級霜降り肉」や「伝説の美酒」を持ち帰れるのだ。
「レートは『点ピン』ならぬ『点野菜』だ。……負ければ、相応の労働をしてもらうぞ」
「望むところだ。俺の【ウェポンズマスター】の手先は器用だぞ」
こうして、神と悪魔と勇者による、血で血を洗う闘牌が始まった。
†
「ポン」
「チー」
場が動く。
ルーベンスの打ちは、完璧な理論派(デジタル)だ。
『超・高速演算』により、捨て牌から相手の手の内を読み切り、危険牌を絶対に通さない。さらに影魔法で相手の動揺(影の揺らぎ)を感知する鉄壁の守り。
(……フン。勇者の手は『タンピン三色』。待ち牌は【六万】か。……通さんぞ)
対する龍魔呂は、究極の感覚派(オカルト)だ。
殺気と直感で「当たり牌」を察知し、さらに相手が恐怖を感じる牌を叩きつけて精神を削る。
(……ここだ。死の匂いがする)
バチィンッ!!
龍魔呂が牌を強打するたびに、卓に亀裂が入りそうになる。
「くっ……! なんだこのプレッシャーは……!」
リュウは脂汗を流していた。
魔神王との決戦以上に神経が削られる。
彼の計算では「ここは押せる」はずなのに、龍魔呂の殺気が「切れば死ぬぞ」と告げてくるのだ。
(落ち着け……俺は勇者だ。確率論(セオリー)を信じろ!)
リュウは震える手で危険牌を通した。
セーフ。
よし、流れは来ている!
だが、この卓には計算も殺気も通じない、「特異点」が存在していた。
「あ、これ綺麗な鳥さんの絵だね! いらなーい」
カイトだ。
彼はセオリー無視で、ドラだろうが役牌だろうが、気に入らない絵柄を捨てまくっていた。
「おいおいカイト君……。そんな無防備な捨て牌じゃ、カモにされるぞ?」
リュウは余裕を見せて忠告した。
カイトの捨て牌はバラバラ。どう見ても初心者の「国士無双(役満)狙い」崩れだ。そんなものが成立する確率は天文学的に低い。
(勝てる! この局、俺がもらった!)
リュウの手牌が完成する。
リーチ一発、ツモ。満貫確定の綺麗な手だ。
「リー……」
リュウがリーチ棒を出そうとした、その時。
「あ、揃ったかも!」
カイトが無邪気に牌を倒した。
パタリ。
そこに並んでいたのは、1と9の数牌、そして字牌の全て。
麻雀における最高難易度の役満。
「……【国士無双・十三面待ち(ダブル役満)】?」
ルーベンスの片眼鏡が割れた。
龍魔呂がサングラスを落とした。
リュウが椅子から転げ落ちた。
「な、ななな……!? 馬鹿な! 捨て牌を見る限り、絶対にテンパイしてなかったはずだ!」
リュウが絶叫する。
ルーベンスがカイトの手牌と山を確認し、青ざめた。
「……ありえない。カイト殿、貴方……『嶺上開花(リンシャンカイホウ)』で、しかも『ハイテイ』で、さらにドラが全部乗っている……?」
確率など存在しなかった。
カイトが「欲しい」と思った牌が、物理法則を無視してそこに現れたのだ。
彼のスキル【絶対栽培(すべてを育てる力)】は、手配の「育ち」すらも支配していたのである。
「えへへ、よくわかんないけど、僕の勝ち?」
カイトの笑顔が、勇者リュウにトドメを刺した。
†
数時間後。
「うぅ……。すっからかんだ……」
リュウは真っ白に燃え尽きていた。
財布の中の金貨も、さっき稼いだKコインも、全てカイトとルーベンスに吸い取られた。
借金まみれだ。
「約束通り、働いてもらいますよ、勇者殿」
ルーベンスが冷酷に借用書(労働契約書)を突きつける。
「仕事は簡単です。農場の草むしり、ドブ掃除、そしてポチ殿の散歩係です」
「ポ、ポチ殿の散歩……?」
リュウは窓の外を見た。
そこでは、全長数百メートルの始祖竜ポチが、「散歩の時間だオラァ!」と咆哮しながら大地を揺らしていた。
「死ぬ! あんなの散歩させたら俺が死ぬ!」
「大丈夫だよリュウさん! ポチは甘噛みしかしないから!」
カイトが爽やかに笑う。
こうして、救国の勇者リュウは、カイト農場の「下っ端アルバイト(借金返済中)」として雇われることになった。
だが、彼にとっての地獄はこれからだった。
同じ頃、カラオケボックスでは、彼の妻セーラもまた、別のトラブル(ママ友会)に巻き込まれていたのだ。
次回、アイドルの歌声が海を越える!
「リーザのカラオケ・リサイタル」へ続く!
地下遊楽施設『天魔窟』のB3階。
大人の社交場であるこのフロアの一角に、紫煙漂う個室『四神闘技場(麻雀ルーム)』があった。
ジャラジャラジャラ……。
全自動卓(魔法駆動)が牌を洗う音が、心地よく響く。
その卓を囲んでいたのは、世界の裏側を支配する超大物たちだった。
東家(トンチャ):魔族宰相ルーベンス。
漆黒のスーツを着こなし、片眼鏡の奥で冷徹な計算を行っている。
南家(ナンチャ):鬼神龍魔呂。
サングラスを外し、鋭い眼光で卓上の「流れ」を読んでご、静かに牌を磨いている。
西家(シャーチャ):カイト。
「ルールはよく分からないけど、絵合わせだよね?」とニコニコしている。
そして、北家(ペーチャ)に座らされたのは――。
コンビニおにぎりで理性が崩壊し、ふらふらとここに迷い込んだ勇者リュウだった。
「……ほう。日本の『麻雀』を知っているとは。やはり貴様も転生者か」
ルーベンスが手牌を整えながら、冷ややかな視線を向ける。
「ああ。大学時代、講義をサボって打ち込んだもんだ。……経済学部卒の計算力、舐めないでもらおうか」
リュウは眼鏡(伊達)をクイッと上げた。
相手は魔族と鬼神だが、麻雀は運と確率のゲーム。魔力で殴り合うわけではないなら、勝機はある。
ここで勝って大量のKコインを稼げば、あのUFOキャッチャーの「最高級霜降り肉」や「伝説の美酒」を持ち帰れるのだ。
「レートは『点ピン』ならぬ『点野菜』だ。……負ければ、相応の労働をしてもらうぞ」
「望むところだ。俺の【ウェポンズマスター】の手先は器用だぞ」
こうして、神と悪魔と勇者による、血で血を洗う闘牌が始まった。
†
「ポン」
「チー」
場が動く。
ルーベンスの打ちは、完璧な理論派(デジタル)だ。
『超・高速演算』により、捨て牌から相手の手の内を読み切り、危険牌を絶対に通さない。さらに影魔法で相手の動揺(影の揺らぎ)を感知する鉄壁の守り。
(……フン。勇者の手は『タンピン三色』。待ち牌は【六万】か。……通さんぞ)
対する龍魔呂は、究極の感覚派(オカルト)だ。
殺気と直感で「当たり牌」を察知し、さらに相手が恐怖を感じる牌を叩きつけて精神を削る。
(……ここだ。死の匂いがする)
バチィンッ!!
龍魔呂が牌を強打するたびに、卓に亀裂が入りそうになる。
「くっ……! なんだこのプレッシャーは……!」
リュウは脂汗を流していた。
魔神王との決戦以上に神経が削られる。
彼の計算では「ここは押せる」はずなのに、龍魔呂の殺気が「切れば死ぬぞ」と告げてくるのだ。
(落ち着け……俺は勇者だ。確率論(セオリー)を信じろ!)
リュウは震える手で危険牌を通した。
セーフ。
よし、流れは来ている!
だが、この卓には計算も殺気も通じない、「特異点」が存在していた。
「あ、これ綺麗な鳥さんの絵だね! いらなーい」
カイトだ。
彼はセオリー無視で、ドラだろうが役牌だろうが、気に入らない絵柄を捨てまくっていた。
「おいおいカイト君……。そんな無防備な捨て牌じゃ、カモにされるぞ?」
リュウは余裕を見せて忠告した。
カイトの捨て牌はバラバラ。どう見ても初心者の「国士無双(役満)狙い」崩れだ。そんなものが成立する確率は天文学的に低い。
(勝てる! この局、俺がもらった!)
リュウの手牌が完成する。
リーチ一発、ツモ。満貫確定の綺麗な手だ。
「リー……」
リュウがリーチ棒を出そうとした、その時。
「あ、揃ったかも!」
カイトが無邪気に牌を倒した。
パタリ。
そこに並んでいたのは、1と9の数牌、そして字牌の全て。
麻雀における最高難易度の役満。
「……【国士無双・十三面待ち(ダブル役満)】?」
ルーベンスの片眼鏡が割れた。
龍魔呂がサングラスを落とした。
リュウが椅子から転げ落ちた。
「な、ななな……!? 馬鹿な! 捨て牌を見る限り、絶対にテンパイしてなかったはずだ!」
リュウが絶叫する。
ルーベンスがカイトの手牌と山を確認し、青ざめた。
「……ありえない。カイト殿、貴方……『嶺上開花(リンシャンカイホウ)』で、しかも『ハイテイ』で、さらにドラが全部乗っている……?」
確率など存在しなかった。
カイトが「欲しい」と思った牌が、物理法則を無視してそこに現れたのだ。
彼のスキル【絶対栽培(すべてを育てる力)】は、手配の「育ち」すらも支配していたのである。
「えへへ、よくわかんないけど、僕の勝ち?」
カイトの笑顔が、勇者リュウにトドメを刺した。
†
数時間後。
「うぅ……。すっからかんだ……」
リュウは真っ白に燃え尽きていた。
財布の中の金貨も、さっき稼いだKコインも、全てカイトとルーベンスに吸い取られた。
借金まみれだ。
「約束通り、働いてもらいますよ、勇者殿」
ルーベンスが冷酷に借用書(労働契約書)を突きつける。
「仕事は簡単です。農場の草むしり、ドブ掃除、そしてポチ殿の散歩係です」
「ポ、ポチ殿の散歩……?」
リュウは窓の外を見た。
そこでは、全長数百メートルの始祖竜ポチが、「散歩の時間だオラァ!」と咆哮しながら大地を揺らしていた。
「死ぬ! あんなの散歩させたら俺が死ぬ!」
「大丈夫だよリュウさん! ポチは甘噛みしかしないから!」
カイトが爽やかに笑う。
こうして、救国の勇者リュウは、カイト農場の「下っ端アルバイト(借金返済中)」として雇われることになった。
だが、彼にとっての地獄はこれからだった。
同じ頃、カラオケボックスでは、彼の妻セーラもまた、別のトラブル(ママ友会)に巻き込まれていたのだ。
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