田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第五章 最凶ダンジョン天魔窟

EP 9

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リーザのカラオケ・リサイタル
 天魔窟のB4階にある、完全防音カラオケボックス『セイレーン』。
 最新の音響設備と、異世界転移者たちの記憶から抽出された楽曲データが揃うこの場所で、今まさに伝説のライブ(練習)が行われようとしていた。
 特大パーティールーム。
 ステージに立つのは、農場専属アイドルとなった人魚姫リーザ。
 プロデューサーの女神ルチアナ(すでに泥酔)がタンバリンを叩き、カイトと勇者リュウ(借金返済の休憩中)が観客としてソファに座っている。
「聴いてください! ルチアナPから授かった、新曲です!」
 リーザがマイクを握りしめ、瞳をキラキラと輝かせた。
「この歌は、古代の戦士『オーエル(OL)』たちが、邪悪な魔王『ジョーシ(上司)』と戦い、伝説になる物語だと聞きました! 心を込めて歌います!」
「……嫌な予感がするな」
 リュウが冷や汗を拭う。
 モニターにタイトルが表示された。
 『サビ残なOLのテーゼ』
「ぶふっ!?」
 リュウがお茶を吹き出した。
 チャラッチャ~♪ チャラッチャ~♪(あの有名なイントロ)
 壮大な音楽と共に、リーザが歌い出す。
(歌い出し)
♪サビ残な上司のように
社畜よ 神話になれ
「うっ……!」
 リュウが胸を押さえて呻く。
 リーザの無垢な美声が、元・サラリーマンの古傷を正確に抉ってくる。
(Aメロ)
♪青いグラフ(営業成績)が 今 胸のドアを叩いても
私だけをただ見つめて 命令(い)いつけるあなた
そっと定時を 求めることに夢中で
労基(運命)さえまだ知らない いたいけな瞳
「やめろ……やめてくれ……」
 リュウが膝から崩れ落ちる。
 「青いグラフ」や「労基」という単語が、呪言(カース)となって彼の精神を蝕む。
 だが、リーザは意味を分かっていないため、悲劇のヒロインになりきって切なく歌い上げる。
(Bメロ)
♪だけどいつか気付くでしょう その背中には
遥か終電 目指すための 羽根があること
「羽根なんてねぇよ! あるのはタクシーチケット(自腹)だけだよ!」
 リュウが涙ながらにツッコミを入れるが、リーザの熱唱は止まらない。
 そして、サビへ突入しようとした――その時だった。
 バァァァァァンッ!!
 防音ドアが物理的に吹き飛んだ。
 入り口に立っていたのは、真珠のドレスを纏い、鬼の形相をした海の女王リヴァイアサンだった。
「リーザ! ここにいましたのね! また変な歌を……!」
「お、お母様!? 練習の邪魔をしないでください!」
「邪魔などしていません! お母様も混ぜなさい!」
「えっ?」
 リヴァイアサンはマイク(2本目)をひったくると、ステージに上がり込んだ。
「私も地上(ここ)に来て、アイドルの動画を研究しましたわ! 娘だけにいい格好はさせません! デュエットですわよ!」
「お母様……! はいっ!」
 母と娘、最強の海洋親子が並び立つ。
 曲はクライマックスのサビへ。
(サビ)
♪サビ残なOLのテーゼ
窓際からやがて飛び立つ(※比喩)
 『窓際ぁぁぁぁぁ~~~~ッ!!』
 リヴァイアサンのオペラ歌手のような超高音が、リーザのアイドルボイスと共鳴する。
 「窓際族」という言葉の哀愁が、物理的な衝撃波となってカラオケルームを揺らす。
♪ほとばしる熱いストレスで
有給を裏切るなら
 パリィィィィンッ!!
 「ストレス」の部分で込められた魔力が臨界点を超え、テーブルの上のグラスと、リュウの眼鏡(伊達)が砕け散った。
♪この稟議(そら)を抱いて輝く
社畜よ 神話になれ
 ズドオオオオオオオオッ!!!!
 歌い終わった瞬間、カラオケマシンの採点機能が限界突破し、爆発した。
 (採点:測定不能・国家転覆レベル)
 †
「はぁ……はぁ……。気持ちいい……!」
 リヴァイアサンが紅潮した顔で肩で息をする。
 リーザも完全燃焼の笑顔だ。
「やりましたね、お母様! 『リンギ』って、きっと世界を救う聖剣の名前ですね!」
「ええ、そうですわね! 稟議を通す……なんて重みのある言葉でしょう!」
 親子は手を取り合い、感動を分かち合っている。
 その対面で。
 勇者リュウは、ソファで真っ白な灰になっていた。
「……稟議……ハンコ……差し戻し……うっ、頭が……」
 カイトが慌てて駆け寄る。
「リュウさん! しっかりして! ここは異世界だよ! もう稟議書なんて書かなくていいんだよ!」
「カイト君……。俺、帰るよ……。ポチ殿の散歩の方が、この歌よりマシだ……」
 リュウはよろよろと部屋を出て行った。
 最強の勇者の心を折ったのは、魔神王でも邪神でもなく、「社畜の歌(パロディ)」だった。
 †
 ちなみに、この時リヴァイアサンの歌声(超音波)は、地下を抜けて地上の海まで届いていた。
 その影響で、ルナミス近海の魚たちが、翌朝なぜか「整列して死んだような目で泳ぐ(通勤ラッシュ泳ぎ)」という奇妙な現象が確認されたが、原因は不明とされている。
 歌って踊って、心を破壊して。
 天魔窟の夜は更けていく。
 だが、遊びすぎたツケは必ず回ってくる。
 神々の手持ちコイン(Kコイン)が、底をつきかけていたのだ。
 次回、神々が労働に目覚める!?
 「カイト農場、経済圏を確立する」へ続く!
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