田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第七章 魔人サルバロス現る

EP 3

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奇跡の安売り
​ 翌朝。
 カイト農場の畑では、いつものようにオークやゴブリン、そして新入りの難民たちが汗を流して鍬(くわ)を振るっていた。
​「よいしょ、よいしょ。……土作りは大事だからね」
​ カイトが笑顔で指導する。
 しかし、その平和な光景を、農場の柵に腰掛けたサルバロスが鼻で笑って見ていた。
​「ハッ。相変わらず原始的だねぇ。泥にまみれて、汗をかいて……。そんな非効率なことをして、何が楽しいんだい?」
​ サルバロスは髪をかき上げ、大げさに溜息をついた。
​「見ていられないな。私が『正解』を教えてあげよう」
​ 彼は畑の中央へと歩み出た。
​「みんな、手を止めろ! このサルバロス様の奇跡を見るがいい!」
​ パチンッ。
 彼が高らかに指を鳴らした瞬間。
​ ゴゴゴゴゴゴッ……!
​ 植えたばかりの種が、一瞬にして芽吹き、茎を伸ばし、実を結んだ。
 わずか数秒で、畑一面に巨大なトマトやカボチャが出現したのだ。
​「おおぉぉぉっ!?」
「すげぇ! 一瞬で育ったぞ!」
​ 難民たちがどよめく。
 水やりも、草むしりも、肥料もいらない。魔法一つで収穫できる。
 かつて砂漠の国で見た光景と同じだ。
​「どうだい? これが私の力だ。苦労なんて必要ない。私に祈れば、食料なんて無限に湧いてくるんだよ」
​ サルバロスは両手を広げ、称賛の嵐を待った。
 難民の一部は「サルバロス様万歳!」とひれ伏しかけた。
​ だが。
 農場の古株メンバーたちの反応は、冷ややかだった。
​「……見た目は立派ですね」
​ 魔族宰相ルーベンスが歩み寄り、巨大化したトマトをもぎ取った。
 そして、懐からナイフを取り出し、スパッと切断した。
​「……スカスカだ」
​ 断面を見せつける。
 中は空洞だらけで、水分も香りもない。ただ形を成しているだけの「トマトのような何か」だった。
​「土壌の魔力を無理やり吸い上げ、細胞分裂を暴走させただけ。……これでは栄養価もゼロ。味もゴムのようでしょう」
​「なっ……!?」
 サルバロスが言葉に詰まる。
​「それに、土を見てみなさい」
​ ルーベンスが地面を指差す。
 急激に栄養を吸われた土は、白く乾き、ひび割れていた。
​「一回の収穫のために、土地を殺す気ですか? これでは来年はペンペン草も生えませんよ」
​ 論理的な完全論破。
 サルバロスは顔を引きつらせた。
​「だ、黙れ! 味など二の次だ! 飢えを凌げればいいだろう!」
​ 彼はターゲットを変えた。
 今度は、農具の手入れをしていたドワーフ王ガンテツの元へ向かった。
​「おい老人! そんな錆びた鍬(くわ)を叩いて何になる! 私の錬金術を見よ!」
​ キラァァァンッ!
 サルバロスが触れた鉄クズが、一瞬で光り輝く剣へと変化した。
​「すごいだろう! 黄金の剣だ!」
​「……ふん」
​ ガンテツは鼻を鳴らし、その剣を指でピンと弾いた。
​ パキンッ。
​ 黄金の剣は、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
​「なっ、何をする!」
​「見た目だけのガラクタじゃ。分子構造がデタラメじゃわい。こんなもんで土を掘ったら、破片が散らばって畑が台無しになる」
​ ガンテツは唾を吐き捨てた。
​「ワシらの道具には魂がこもっとる。お前の魔法には、愛がねぇんだよ」
​ †
​「くっ……くそっ……! どいつもこいつも!」
​ サルバロスは焦った。
 今までなら、この程度の奇跡で愚民どもは泣いて喜んだはずだ。
 なぜだ。なぜこの農場の連中は、誰も驚かない。
​ 彼は最後の頼みの綱、この農場の主であるカイトを見た。
 あの純朴そうな青年なら、きっと騙せるはずだ。
​「カイト君! 見てくれ! 私が天候を操って、雨を降らせてあげよう!」
​ サルバロスが空に魔法を放つ。
 ざあっと雨が降り始めた。
​「どうだい! これで水やりも不要だ!」
​ しかし、カイトは悲しそうな顔で空を見上げた。
​「……ダメだよ、サルバロスさん」
​「え?」
​「今の時期、野菜たちは日光を浴びて甘くなるんだ。今、雨を降らせたら、根腐れしちゃうよ」
​ カイトは、濡れたトマトの葉を優しく拭った。
​「野菜にはリズムがあるんだ。無理やり起こしたり、無理やり水を飲ませたりしちゃかわいそうだよ」
​ 「かわいそう」。
 その言葉が、サルバロスのプライドを深々と刺した。
​ 効率化してやったのに。
 楽にしてやったのに。
 なぜ感謝しない。なぜ崇めない。
​「……愚かな。貴様らは愚かだ!」
​ サルバロスは雨を止め、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
​「いいだろう。私の高尚な考えが理解できないなら、それでいい。……だが、後悔することになるぞ」
​ 彼はマントを翻して去っていった。
 その背中からは、隠しきれないどす黒いオーラが漏れ出していた。
​ カイト農場の「プロ意識」と「自然への敬意」の前に、偽りの奇跡は通用しなかった。
 だが、プライドを傷つけられた愉悦犯ほど、厄介なものはない。
 彼は次の手段――農場内部からの「分断工作」へと切り替える。
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