73 / 180
第七章 魔人サルバロス現る
EP 3
しおりを挟む
奇跡の安売り
翌朝。
カイト農場の畑では、いつものようにオークやゴブリン、そして新入りの難民たちが汗を流して鍬(くわ)を振るっていた。
「よいしょ、よいしょ。……土作りは大事だからね」
カイトが笑顔で指導する。
しかし、その平和な光景を、農場の柵に腰掛けたサルバロスが鼻で笑って見ていた。
「ハッ。相変わらず原始的だねぇ。泥にまみれて、汗をかいて……。そんな非効率なことをして、何が楽しいんだい?」
サルバロスは髪をかき上げ、大げさに溜息をついた。
「見ていられないな。私が『正解』を教えてあげよう」
彼は畑の中央へと歩み出た。
「みんな、手を止めろ! このサルバロス様の奇跡を見るがいい!」
パチンッ。
彼が高らかに指を鳴らした瞬間。
ゴゴゴゴゴゴッ……!
植えたばかりの種が、一瞬にして芽吹き、茎を伸ばし、実を結んだ。
わずか数秒で、畑一面に巨大なトマトやカボチャが出現したのだ。
「おおぉぉぉっ!?」
「すげぇ! 一瞬で育ったぞ!」
難民たちがどよめく。
水やりも、草むしりも、肥料もいらない。魔法一つで収穫できる。
かつて砂漠の国で見た光景と同じだ。
「どうだい? これが私の力だ。苦労なんて必要ない。私に祈れば、食料なんて無限に湧いてくるんだよ」
サルバロスは両手を広げ、称賛の嵐を待った。
難民の一部は「サルバロス様万歳!」とひれ伏しかけた。
だが。
農場の古株メンバーたちの反応は、冷ややかだった。
「……見た目は立派ですね」
魔族宰相ルーベンスが歩み寄り、巨大化したトマトをもぎ取った。
そして、懐からナイフを取り出し、スパッと切断した。
「……スカスカだ」
断面を見せつける。
中は空洞だらけで、水分も香りもない。ただ形を成しているだけの「トマトのような何か」だった。
「土壌の魔力を無理やり吸い上げ、細胞分裂を暴走させただけ。……これでは栄養価もゼロ。味もゴムのようでしょう」
「なっ……!?」
サルバロスが言葉に詰まる。
「それに、土を見てみなさい」
ルーベンスが地面を指差す。
急激に栄養を吸われた土は、白く乾き、ひび割れていた。
「一回の収穫のために、土地を殺す気ですか? これでは来年はペンペン草も生えませんよ」
論理的な完全論破。
サルバロスは顔を引きつらせた。
「だ、黙れ! 味など二の次だ! 飢えを凌げればいいだろう!」
彼はターゲットを変えた。
今度は、農具の手入れをしていたドワーフ王ガンテツの元へ向かった。
「おい老人! そんな錆びた鍬(くわ)を叩いて何になる! 私の錬金術を見よ!」
キラァァァンッ!
サルバロスが触れた鉄クズが、一瞬で光り輝く剣へと変化した。
「すごいだろう! 黄金の剣だ!」
「……ふん」
ガンテツは鼻を鳴らし、その剣を指でピンと弾いた。
パキンッ。
黄金の剣は、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
「なっ、何をする!」
「見た目だけのガラクタじゃ。分子構造がデタラメじゃわい。こんなもんで土を掘ったら、破片が散らばって畑が台無しになる」
ガンテツは唾を吐き捨てた。
「ワシらの道具には魂がこもっとる。お前の魔法には、愛がねぇんだよ」
†
「くっ……くそっ……! どいつもこいつも!」
サルバロスは焦った。
今までなら、この程度の奇跡で愚民どもは泣いて喜んだはずだ。
なぜだ。なぜこの農場の連中は、誰も驚かない。
彼は最後の頼みの綱、この農場の主であるカイトを見た。
あの純朴そうな青年なら、きっと騙せるはずだ。
「カイト君! 見てくれ! 私が天候を操って、雨を降らせてあげよう!」
サルバロスが空に魔法を放つ。
ざあっと雨が降り始めた。
「どうだい! これで水やりも不要だ!」
しかし、カイトは悲しそうな顔で空を見上げた。
「……ダメだよ、サルバロスさん」
「え?」
「今の時期、野菜たちは日光を浴びて甘くなるんだ。今、雨を降らせたら、根腐れしちゃうよ」
カイトは、濡れたトマトの葉を優しく拭った。
「野菜にはリズムがあるんだ。無理やり起こしたり、無理やり水を飲ませたりしちゃかわいそうだよ」
「かわいそう」。
その言葉が、サルバロスのプライドを深々と刺した。
効率化してやったのに。
楽にしてやったのに。
なぜ感謝しない。なぜ崇めない。
「……愚かな。貴様らは愚かだ!」
サルバロスは雨を止め、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
「いいだろう。私の高尚な考えが理解できないなら、それでいい。……だが、後悔することになるぞ」
彼はマントを翻して去っていった。
その背中からは、隠しきれないどす黒いオーラが漏れ出していた。
カイト農場の「プロ意識」と「自然への敬意」の前に、偽りの奇跡は通用しなかった。
だが、プライドを傷つけられた愉悦犯ほど、厄介なものはない。
彼は次の手段――農場内部からの「分断工作」へと切り替える。
翌朝。
カイト農場の畑では、いつものようにオークやゴブリン、そして新入りの難民たちが汗を流して鍬(くわ)を振るっていた。
「よいしょ、よいしょ。……土作りは大事だからね」
カイトが笑顔で指導する。
しかし、その平和な光景を、農場の柵に腰掛けたサルバロスが鼻で笑って見ていた。
「ハッ。相変わらず原始的だねぇ。泥にまみれて、汗をかいて……。そんな非効率なことをして、何が楽しいんだい?」
サルバロスは髪をかき上げ、大げさに溜息をついた。
「見ていられないな。私が『正解』を教えてあげよう」
彼は畑の中央へと歩み出た。
「みんな、手を止めろ! このサルバロス様の奇跡を見るがいい!」
パチンッ。
彼が高らかに指を鳴らした瞬間。
ゴゴゴゴゴゴッ……!
植えたばかりの種が、一瞬にして芽吹き、茎を伸ばし、実を結んだ。
わずか数秒で、畑一面に巨大なトマトやカボチャが出現したのだ。
「おおぉぉぉっ!?」
「すげぇ! 一瞬で育ったぞ!」
難民たちがどよめく。
水やりも、草むしりも、肥料もいらない。魔法一つで収穫できる。
かつて砂漠の国で見た光景と同じだ。
「どうだい? これが私の力だ。苦労なんて必要ない。私に祈れば、食料なんて無限に湧いてくるんだよ」
サルバロスは両手を広げ、称賛の嵐を待った。
難民の一部は「サルバロス様万歳!」とひれ伏しかけた。
だが。
農場の古株メンバーたちの反応は、冷ややかだった。
「……見た目は立派ですね」
魔族宰相ルーベンスが歩み寄り、巨大化したトマトをもぎ取った。
そして、懐からナイフを取り出し、スパッと切断した。
「……スカスカだ」
断面を見せつける。
中は空洞だらけで、水分も香りもない。ただ形を成しているだけの「トマトのような何か」だった。
「土壌の魔力を無理やり吸い上げ、細胞分裂を暴走させただけ。……これでは栄養価もゼロ。味もゴムのようでしょう」
「なっ……!?」
サルバロスが言葉に詰まる。
「それに、土を見てみなさい」
ルーベンスが地面を指差す。
急激に栄養を吸われた土は、白く乾き、ひび割れていた。
「一回の収穫のために、土地を殺す気ですか? これでは来年はペンペン草も生えませんよ」
論理的な完全論破。
サルバロスは顔を引きつらせた。
「だ、黙れ! 味など二の次だ! 飢えを凌げればいいだろう!」
彼はターゲットを変えた。
今度は、農具の手入れをしていたドワーフ王ガンテツの元へ向かった。
「おい老人! そんな錆びた鍬(くわ)を叩いて何になる! 私の錬金術を見よ!」
キラァァァンッ!
サルバロスが触れた鉄クズが、一瞬で光り輝く剣へと変化した。
「すごいだろう! 黄金の剣だ!」
「……ふん」
ガンテツは鼻を鳴らし、その剣を指でピンと弾いた。
パキンッ。
黄金の剣は、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
「なっ、何をする!」
「見た目だけのガラクタじゃ。分子構造がデタラメじゃわい。こんなもんで土を掘ったら、破片が散らばって畑が台無しになる」
ガンテツは唾を吐き捨てた。
「ワシらの道具には魂がこもっとる。お前の魔法には、愛がねぇんだよ」
†
「くっ……くそっ……! どいつもこいつも!」
サルバロスは焦った。
今までなら、この程度の奇跡で愚民どもは泣いて喜んだはずだ。
なぜだ。なぜこの農場の連中は、誰も驚かない。
彼は最後の頼みの綱、この農場の主であるカイトを見た。
あの純朴そうな青年なら、きっと騙せるはずだ。
「カイト君! 見てくれ! 私が天候を操って、雨を降らせてあげよう!」
サルバロスが空に魔法を放つ。
ざあっと雨が降り始めた。
「どうだい! これで水やりも不要だ!」
しかし、カイトは悲しそうな顔で空を見上げた。
「……ダメだよ、サルバロスさん」
「え?」
「今の時期、野菜たちは日光を浴びて甘くなるんだ。今、雨を降らせたら、根腐れしちゃうよ」
カイトは、濡れたトマトの葉を優しく拭った。
「野菜にはリズムがあるんだ。無理やり起こしたり、無理やり水を飲ませたりしちゃかわいそうだよ」
「かわいそう」。
その言葉が、サルバロスのプライドを深々と刺した。
効率化してやったのに。
楽にしてやったのに。
なぜ感謝しない。なぜ崇めない。
「……愚かな。貴様らは愚かだ!」
サルバロスは雨を止め、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
「いいだろう。私の高尚な考えが理解できないなら、それでいい。……だが、後悔することになるぞ」
彼はマントを翻して去っていった。
その背中からは、隠しきれないどす黒いオーラが漏れ出していた。
カイト農場の「プロ意識」と「自然への敬意」の前に、偽りの奇跡は通用しなかった。
だが、プライドを傷つけられた愉悦犯ほど、厄介なものはない。
彼は次の手段――農場内部からの「分断工作」へと切り替える。
60
あなたにおすすめの小説
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
追放されたけど気づいたら最強になってました~無自覚チートで成り上がる異世界自由旅~
eringi
ファンタジー
勇者パーティーから「役立たず」と追放された青年アルト。
行くあてもなく森で倒れていた彼は、実は“失われし最古の加護”を持つ唯一の存在だった。
無自覚のまま魔王を倒し、国を救い、人々を惹きつけていくアルト。
彼が気づかないうちに、世界は彼中心に回り始める——。
ざまぁ、勘違い、最強無自覚、チート成り上がり要素満載の異世界ファンタジー!
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
最弱職〈祈祷士〉だった俺、実は神々の加護持ちでした~追放されたけど無自覚チートで世界最強~
eringi
ファンタジー
パーティから「役立たず」と言われ追放された祈祷士ルーク。だが彼の祈りは神々に届いており、あらゆる奇跡を現実にする「神の権能」だった。本人は気づかぬまま無双し、救った相手や元パーティの女性たちから次々想いを寄せられる。裏切った者たちへの“ざまぁ”も、神の御業のうちに。無自覚チート祈祷士が、神々さえも動かす伝説を紡ぐ──!
転生辺境の雑用兵、知らぬ間に世界最強になっていた件 〜追放されたけど美女たちに囲まれて安寧生活〜
eringi
ファンタジー
辺境軍の雑用兵として転生した青年・レオン。異世界に転生したのに、剣も魔法も地味でパッとしない日々。ところが彼の“地味な努力”が、実は世界の理をゆるがすほどの能力だと気づく者が次々と現れる。貴族令嬢、魔族の姫、神官少女──気づけばハーレム状態に。追放された元仲間が破滅していく流れの中、本人だけは「俺、そんな強いかな?」と首をかしげる。無自覚最強×ざまぁ×追放後スローライフ×英雄伝説が交錯する、異世界逆転ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる