田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第七章 魔人サルバロス現る

EP 7

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カイトの「かわいそう」
​ カイト農場の上空を、赤黒い雷雲が覆い尽くしていた。
 魔人サルバロスが放つ強大な魔圧に、風が止み、鳥たちは逃げ去り、世界が恐怖に震えている――はずだった。
​「…………」
​ 静寂の中、カイトが一歩前へ出た。
 彼の表情には、サルバロスが期待していた「絶望」も「恐怖」も、あるいは「正義の怒り」すらもなかった。
 眉をハの字に下げ、まるで捨てられた子犬を見るような、困ったような顔。
​「……ねえ、サルバロスさん」
​ カイトの静かな声が、雷鳴の合間に響いた。
​「なんだ? 命乞いか? それとも怒りに震えているのか?」
​ サルバロスがニヤニヤと見下ろす。
 カイトはゆっくりと首を横に振った。
​「ううん。違うよ。……ただ、見ていて辛いんだ」
​「ハッ! 辛いだろうとも! 自分の大切な農場が壊されるんだからな!」
​「そうじゃないよ」
​ カイトは、サルバロスの目を真っ直ぐに見つめて言った。
​「君が……あまりにも『かわいそう』で」
​ ピタッ。
 サルバロスの動きが止まった。
 時が止まったかのように、場の空気が凍りついた。
​「……は? 今、なんと言った?」
​「かわいそう、って言ったんだ」
​ カイトは諭すように続けた。
​「だって、そうでしょ? 君はサンドリア国を復興させるために、すごく頑張ったんだよね?
 魔法で城を作って、緑を育てて、みんなを笑顔にして……。それって、すごく大変な作業だし、すごい才能だよ」
​ 農夫だから分かる。
 何かを「育てる」ことの尊さと労力が。
 たとえ魔法で短縮したとしても、そこには創造のエネルギーがあったはずだ。
​「なのに君は、それを自分で壊して喜んでる。……それって、一生懸命作った積み木を、友達がいないから自分で蹴飛ばしてる子供と同じだよ」
​「なっ……!?」
​「虚しくないの? 壊した後には、ガレキと砂しか残らないんだよ?
 君の心の中には、たぶん『種』がないんだ。だから、外側をどれだけ飾り立てても、誰かを踏みつけにしても、自分の中に何も実らない。……ずっと空っぽのままだ」
​ カイトの言葉は、刃物よりも鋭く、魔法よりも深く突き刺さった。
 悪口ではない。
 100%純粋な、混じりっけなしの「同情」。
​「君は『絶望を見るのが好き』って言ったけど、違うよね。
 君は……そうやって他人を壊すことでしか、自分を確認できない『寂しい人』なんだね」
​ カイトは溜息をついた。
​「ごめんね。僕、君のことすごい人だと思ってたけど……今はただ、痛々しくて見てられないよ」
​ ブチッ。
​ サルバロスの頭の中で、何かが切れる音がした。
​「……かわいそう……だと……?」
​ 全身が震え出した。
 この私が? 神に近い力を持つ魔人サルバロスが?
 下等な農夫ごときに、同情されている?
​「ふざけるな……ふざけるなァァァァッ!!」
​ サルバロスの顔が紅潮し、青筋が浮かび上がった。
 余裕たっぷりの「愉悦犯」の仮面が剥がれ落ち、ヒステリックな「癇癪持ちの子供」の本性が露わになる。
​「誰に向かって口を聞いている! 私は支配者だ! お前らが私を憐れむんじゃない! お前らが私に怯えて、許しを請うんだよォォッ!」
​ サルバロスの自尊心(プライド)はズタズタだった。
 「怖い」と言われれば喜べた。「許せない」と言われれば笑えた。
 だが、「かわいそう」だけは。
 それだけは、彼の存在価値を根底から否定する猛毒だった。
​「もういい! 遊びは終わりだ!」
​ サルバロスが両手を天に突き上げた。
 上空の雷雲が渦を巻き、赤黒い極太のエネルギーが一点に収束していく。
​「消えろ! 農場も、人間も、魔王も! 塵一つ残さず消し飛んでしまえェェェッ!!」
​ 戦略級殲滅魔法『終焉の雷鎚(カタストロフィ・ハンマー)』。
 一撃で都市を蒸発させる威力が、今まさに解き放たれようとしていた。
​「カイト! 伏せて!」
 ラスティアが叫び、防御魔法を展開しようとする。
​ だが、カイトは動かなかった。
 ただ悲しげに首を横に振り、ポツリと言った。
​「……やっぱり、壊すことしかできないんだね」
​ その時。
 カイトの背後の影から、一人の男がゆらりと立ち上がった。
​「……オーナーが悲しむ顔は見たくなくてな」
​ 低く、冷たい声。
 サルバロスが魔法を放とうとした、その瞬間――。
​ スパァンッ。
​ 乾いた音が響いた。
 サルバロスの、天に掲げた両腕が、手首から先を失って宙を舞っていた。
​「……え?」
​ サルバロスは自分の手首のない腕を見て、呆然とした。
​「それと……。俺の作った飯を食った客を殺そうとは、いい度胸だ」
​ そこには、包丁一本を手に下げた、鬼神龍魔呂が立っていた。
 もはや「優しいバーテンダー」の顔ではない。
 かつて世界を震え上がらせた、最凶の処刑人「DEATH4」の殺気が、暴走する魔人を見下ろしていた。
​ 次回、鬼神、動く!
 「鬼神、動く」へ続く!
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