田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

文字の大きさ
90 / 100
第八章 スローライフな学校を作る

EP 10

しおりを挟む
女子トイレという名の戦場(コスメ・ウォーズ)
​カイト分校の校舎内には、カイトの謎のこだわりによって建設された、王宮のサロンよりも豪華な『女子パウダールーム』が存在する。
壁はローズクォーツ、鏡は真実を映すミスリルミラー。
そこは男たちには決して踏み込めない、聖域にして――最前線の戦場であった。
​「……ねぇ、ルチアナぁ」
​巨大な鏡の前で、魔王ラスティアが冷ややかな視線を横に送った。
そこには、地球産の高級ファンデーションをバフバフと叩き込んでいる創造神ルチアナの姿があった。
​「あんた、その化粧……ちょっと濃すぎない? 舞台女優でも目指してるの?」
​「あら、失礼ね」
​ルチアナは手を止めず、鏡越しにラスティアを睨み返す。
​「これは『ナチュラルメイク』よ。地球の最新トレンドなんだから。それに、神の肌は発光するから、これくらい抑えないと眩しいのよ」
​「へぇ、くすみ隠しじゃなくて?」
​「ぶっ飛ばすわよ?」
​一瞬、パウダールームの重力が歪んだ気がしたが、ルチアナはふふんと鼻で笑った。
​「それにラスティアこそ、ガツガツしすぎよ? 香水臭いし、胸元の開いた服ばっかり着て。そんなんじゃ、カイトみたいな朴念仁な男は来ないわよ? 『引く』わよ?」
​「なっ……!?」
​ラスティアの眉がピクリと跳ねる。
「ガツガツしている」――それは彼女が一番気にしていることだ。カイトへのアプローチが空回りし続けている自覚があるだけに、ダメージは深い。
​「まぁまぁ、お二人とも。見苦しいですわよ?」
​その間に割って入ったのは、不死鳥フレアだ。
彼女は優雅にリップグロスを塗りながら、うっとりと自分の唇を眺めている。
​「化粧とは、私みたいな『元から美しい女』がしてこそ相応しいのよ? 素材が良いからこそ、装飾が映える……分かります? 私は塗らなくても美しいですけど、世界への配慮として塗ってあげているんですの」
​圧倒的なナルシズム。
だが、誰も否定できない。黙っていれば彼女は世界屈指の美女だからだ。
​「……あら、フレアさん。若さだけが美しさではありませんわよ?」
​静かな、しかし芯の通った声が響く。
元聖女セーラだ。彼女は落ち着いた手つきで髪を整えている。
​「私は一線を退きましたけど……まだまだ、落ちぶれてませんわ。夫(リュウ)はアレですけど、母親としての包容力、そして酸いも甘いも噛み分けた『大人の魅力』……カイト様や龍魔呂さんが求めているのは、そういう癒やしではありませんこと?」
​セーラの背後に、聖母のようなオーラ(既婚者の余裕)が立ち昇る。
未婚の三柱(ルチアナ・ラスティア・フレア)にとって、「人妻」というブランドは未知の脅威だ。
​ピリリリリ……。
鏡が微振動を始める。
魔王の殺気、神の威圧、不死鳥の自意識、聖女の意地。
四つの巨大なエゴが衝突し、パウダールームの空間が歪み始めたその時。
​「――お化粧って、何かしらぁ?」
​空気を読まない、甘ったるい声が落ちた。
洗面台に踏み台を置いて、ちょこんと手を洗っていたエルフのルナだ。
​彼女は鏡の中の、濃い化粧をしたお姉様たちを不思議そうに見上げ、首をコテンと傾げた。
​「お顔に色を塗って……『小ジワ』や『シミ』を隠す事? 大変ねぇ」
​ドゴォォォォンッ!!(精神的爆発音)
​四人の動きが完全に停止した。
「小ジワ」。
「シミ」。
永遠の命を持つ彼女たちにとって、それは禁句中の禁句。
​ルナは悪気のない(ように見える)満面の笑みで、自身のプルプルの頬を指差した。
​「私みたいな、若くて可愛い娘には必要ないもん。だって、お肌ツルツルだもの。ね?」
​クリティカルヒット。
効果は抜群だ。
​ルチアナ(数億歳)、ラスティア(数千歳)、フレア(3000歳)、セーラ(30代)。
全員が、ルナ(見た目10歳前後)の圧倒的な「ロリ属性」と「天然の暴力」の前に沈黙した。
※なお、ルナの実年齢は20歳だが、エルフ基準では子供であり、見た目の説得力が違いすぎる。
​「……ラスティア」
「……何よ、ルチアナ」
​ルチアナが低く呟く。
​「……ブラック・ホールって、ここ(女子トイレ)で出せる?」
「……出せるわよ。今なら、喜んで」
​「ま、待ちなさいお二人とも!」
​セーラが慌てて止めるが、フレアも目が据わっている。
​「焼きましょう。この生意気なエルフごと、若さという概念を……!」
​「きゃあ~、お姉様たちが怖~い! カイト様ぁ~!」
​ルナは素早く察知し、脱兎のごとくパウダールームから逃げ出した。
そのあざとい背中を見送りながら、残された四人の大人の女性たちは、鏡の前で深く、深くため息をついた。
​「……厚塗り、しようかしら」
「……ええ。コンシーラー貸して」
​女子トイレという戦場。
今日の勝者は、化粧など必要としない「圧倒的若さ(ロリ)」であった。
カイトがこの後、泣きついてきたルナを慰め、それを追ってきた四人に囲まれて修羅場になるのは、また別の話である。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi
ファンタジー
前世では病弱で、病室の窓から空を見上げることしかできなかった私。 そんな私が転生したのは、魔法と剣があるファンタジーの世界。 ……とはいえ、勇者でも聖女でもなく、物語に出てこない“モブキャラ”でした。 貴族の家に生まれるも馴染めず、破門されて放り出された私は、街の片隅―― 「しろくま通り」で、小さなお菓子屋さんを開くことにしました。 相棒は、拾ったまんまるのペンギンの魔物“ピノ”。 季節の果物を使って、前世の記憶を頼りに焼いたお菓子は、 気づけばちょっぴり評判に。 できれば平和に暮らしたいのに、 なぜか最近よく現れるやさしげな騎士さん―― ……って、もしかして勇者パーティーの人なんじゃ?! 静かに暮らしたい元病弱転生モブと、 彼女の焼き菓子に癒される人々の、ちょっと甘くて、ほんのり騒がしい日々の物語。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

処理中です...