田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第九章 異議あり!学校法廷

EP 1

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【悲報】入学式、校長の挨拶がポテチを食べながら
​カイト農場の北側の丘に、威容を誇る巨大建造物が完成していた。
建材は神話級の世界樹。窓ガラスはダイヤモンド。外壁は元・魔人が築いた絶対防御の石垣。
​『カイト分校(仮)』。
​その記念すべき第一回入学式が、今日、執り行われようとしていた。
​「ううむ……これ、本当に学校か? 魔王軍の最終要塞の間違いではないのか?」
「パパ、怖いよぉ……」
​校門の前では、新入生となる魔族や亜人の子供たち、そしてその保護者たちが、あまりのプレッシャーに震え上がっていた。
だが、中に入ればそこはカイト農場。
講堂(体育館)には、紅白の幕が張られ、のどかな雰囲気が漂っている……はずだった。
​「えー。あー。マイクテス、マイクテス」
​ステージの中央。
金色の演台に肘をつき、気だるげにマイクを叩いているのは、この学校の初代校長・創造神ルチアナである。
彼女の左手には、袋から直接掴んだポテチ(のり塩)が握られていた。
​「校長先生、挨拶をお願いします……(早く食べてください)」
​司会進行役の事務長ルーベンスが、こめかみに青筋を浮かべて囁く。
ルチアナは「バリボリ」と盛大な咀嚼音をマイクに乗せてから、口を開いた。
​「えー、新入生諸君。校長のルチアナです」
​バリボリ。
​「学校っていうのはね、まあ、適当に賢くなって、適当に遊ぶ場所よ」
​グビッ(コーラを飲む音)。
​「怪我しない程度に暴れていいけど、校舎壊したら修理費は実費請求だからね。あと、給食は残さず食え。龍魔呂がキレると怖いから。以上」
​「……み、短い! そして威厳がない!」
​保護者席からざわめきが起こる。
「あれが創造神様?」「ただの駄菓子好きの姉ちゃんじゃ……」という困惑の声。
だが、カイトだけは最前列でパチパチと手を叩いていた。
​「うんうん、ルチアナらしい、飾らない良い挨拶だね!」
「(カイト殿のフィルターはどうなっているんだ……)」
​ルーベンスが頭を抱える中、式は進行する。
​「続きまして、『校歌斉唱』です。音楽担当のリーザ先生、お願いします」
​「はーい! みんな、聴いてね!」
​ステージ袖から飛び出してきたのは、フリフリの衣装に身を包んだアイドル、リーザだ。
彼女はキラキラした笑顔でマイクを握りしめた。
​「この曲は、勉強の大切さを伝えるために、ルチアナ校長と徹夜で作った新曲よ! 題して……『最低賃金(ライフ・イズ・ハード)』!」
​「タイトルが不穏すぎるだろ!!」
​ルーベンスのツッコミを無視して、イントロなしのアカペラが始まった。
​「ガンガンガンガン ガッコウガガン!♪」
​重い。
歌い出しから、メロディが演歌のように重い。
​「最低賃金! 最低賃金!♪
夕暮れ公園 路地裏の隅♪
スーパーでもらった みかん箱♪
ここが私の 武道館♪」
​リーザの歌声は、プロ級に上手い。
だからこそ、歌詞の悲壮感がダイレクトに鼓膜を震わせる。
​「マイクは空き缶 愛をこめて♪
魂削って 歌うわ♪
投げ銭なんて ありゃしない♪」
​保護者席の魔族たちが涙ぐみ始めた。
「うぅ……なんて哀しい歌だ……」「この世の地獄か……」
​「誰も~ 誰も~ 聞いてくれない~♪
聞いてる奴らは 暇な奴♪
観客席には 野良の犬♪
あくびしている 三毛の猫♪」
​ポチ(始祖竜)とフェンリル(狼王)が、「俺たちのことか?」という顔でステージを見上げている。
そして、サビでリーザの絶叫が響き渡った。
​「最低賃金! 最低賃金!♪
私の値段は これっきり!♪
時給換算 命の安売り♪
バーゲンセールは 終わらない!♪」
​もはや校歌ではない。労働争議のシュプレヒコールだ。
だが、ここからが「教育的」なCメロだった。
​「あの時学校行って勉強してれば 高時給♪
因数分解 できてれば♪
タワマン・パーティ・シャンパンタワー♪
ラーラララ~ 幻さ……♪」
​ジャーン。
歌が終わると同時に、リーザはその場に膝をつき、スポットライトの下で項垂れた。
完璧な演出だ。
​静まり返る講堂。
数秒の沈黙の後、アレン(勇者の息子)がポツリと言った。
​「……父ちゃんみたいになりたくない」
​その言葉が引き金となり、子供たちの目に「炎」が宿った。
​「べ、勉強しなきゃ……!」
「因数分解って魔法を覚えれば、タワマン(城)に住めるんだ!」
「俺、頑張る! 最低賃金はいやだぁぁぁ!」
​ワァァァァッ!! と沸き起こる拍手喝采。
子供たちは恐怖によって学習意欲を爆発させていた。
​「すごいよリーザちゃん! 子供たちのやる気を引き出したね!」
​カイトは大絶賛だ。
ルーベンスは胃薬を飲み込みながら、遠い目をした。
​「(……まあ、結果オーライか。動機が不純すぎる気もするが)」
​カオス極まる入学式。
だが、その様子を校舎の外、はるか遠くの丘から「双眼鏡」で覗いている人影があった。
​「……何という野蛮な式典。教育基本法、労働基準法、児童福祉法……ツッコミどころが多すぎますわ」
​ゆるふわな金髪を風になびかせ、六法全書を片手に持つ美女。
ゴルド商会の令嬢にして、最強の弁護士、リベラ・ゴルドである。
​「カイト農場……噂以上の無法地帯(アウトロー)。この『法廷の聖女』が、法に代わって裁いて差し上げますわ!」
​彼女がポケットから取り出したのは、手作りクッキーではなく、分厚い「訴状」だった。
カイト分校に、法的バトルという新たな嵐が迫ろうとしていた。
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