【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

文字の大きさ
12 / 115
一章 田舎育ちの令嬢

12.身体検査

しおりを挟む
 2杯目のお茶を飲み終えたところで、ディランは本題に入ることにした。友人がいないと話していたエミリーと、シャーロットが仲良くお喋りしている様子は微笑ましいが、それが目的でシャーロットを呼んだわけではない。

 ここにシャーロットがいるのは、エミリーの身体検査をして、『誘惑の秘宝』を持っているか確認するためだ。エミリーが自分の意志ではなく所持している可能性もある。

「そろそろ始めるよ。まずは、シャーロットに守護の魔法をかけるね」
 
 年頃の女性の身体検査をディランが直接するわけにはいかない。他の理由による身体検査なら侍女達だけでも問題ないが、同性さえ魅了してしまう可能性を考えると精神面の訓練を受けている人間がいる方が承認になる。その点、シャーロットはチャーリーの婚約者であり、女性の中では一番厳しい訓練を受けてきたはずだ。

 それでも、ディランは悪意ある第三者が関わっている可能性を考えて、シャーロットに何重にも魔法をかける。

「こんな感じかな。じゃあ、後はよろしくね」

「わたくしに任せて頂戴」 

「シャーロット様、よろしくお願いします」

 ディランは2人にやるべきことを伝えて部屋を出た。エミリーは、談話室に完備されているシャワールームで王宮侍女が磨き上げ、侍女が用意した服に着替えてもらう。

 シャーロットはその間、隠し持っている物がないかを監視してくれているはずだ。

 ディランは侍女に呼ばれるまで、学院の図書室で時間を潰した。


「ディラン殿下、お待たせしました」

「気にしないで。予定通りだよ」

 ディランが部屋に戻ると、エミリーは、誰が選んだのか分からないド派手なドレスを着て恥ずかしそうにしていた。シャーロットが隣で満足そうな顔をしているので、今どきの宮殿ファッションなのだろう。

 恥ずかしそうにしているところも含めて可愛いが、ディランの好みとしては、もう少し落ち着いた色の方が好きだ。

「何か気になるところはあった?」

「ええ。あったわよ」
 
 シャーロットが淑女らしい控えめな笑顔で答える。なんとなく胡散臭い。

「何が気になったの?」

「エミリーの胸がわたくしより大きかったわ」

「胸が大きい?」

 胸の大きいシャーロットよりエミリーの胸は大きいらしい。ボリュームのあるドレスのせいで分かりにくいが、これはかなり有用な情報だ。

(違う違う! 全然有用じゃない!)

 ディランは慌てて想像を追い出す。咳払いをして表情を引き締めた。

「シャーロット、真面目に話してよ」

「わたくしは真面目ですわよ」

 ディランは油断するとエミリーの胸に向かいそうな視線を上げてシャーロットを睨む。シャーロットは扇子を広げて口元を隠しているが、淑女の仮面が完全にはがれ落ちていた。

「察しが悪いわね。胸以外に気になることは無かったということよ。ネックレス以外は、学院指定の制服だったし、細工のしようもないわ」

「なるほど……ごめん。僕も見させてもらうね」

「はい、大丈夫です」

 エミリーには離れてもらって、ディランはシャーロットの監視下でエミリーが身につけていた制服とネックレスを確認する。

「イヤらしい顔をしていたら、後でチャーリー様から叱って頂きますわよ」

「気をつけるよ」

 今回に限ってはチャーリーも同世代の男として味方になってくれそうだが、エミリーに嫌われたくないので煩悩は捨て去る。どの持ち物からも魔法の気配はなかったが、念の為、魔道具になりやすいネックレスを手に取った。

「珍しいね。日時計かな?」

「はい、そうです。カランセ伯爵家の子供たちは、代々学院入学の歳になると両親から贈られるんです。今は御守の意味が強いですが、農業に携わる者の多い家系なので、昔は外で時間を把握するのに役立ったと聞いています」

「へー、王家で印章指輪を贈られるのと似ているね」

 ディランも学院入学とともに贈られた指輪を付けているが、王族として行う大切な書類などの承認には、署名の他に指輪の印が必要となる。個人毎に新たに作られる紋章が印となっているので責任も発生するが、大人の仲間入りができたと貰ったときには嬉しかった。

 ディランがエミリーの日時計をひっくり返してみると、蔦のような模様と花が3輪彫り込まれていた。それは紋章のようで、そのあたりも印章指輪と似ている。

 入学時に渡されたとなると魅了していた時期と重なるが、念入りに調べてみたが魔力の気配は感じない。いくつか隠蔽解除の魔法もかけてみたが、少なくとも世に知られている隠蔽術は施されていなかった。

 どうやら、エミリーの持ち物に『誘惑の秘宝』はないようだ。

(本当に原因が分からないな)

 後回しにしてしまったが、今でもエミリーからは魔力が漂っている。ディランが知る魅了の方法は排除したはずだが、エミリーは魅了を続けているということだ。

「エミリーが『誘惑の秘宝』を使っていないことが確認できたよ。ふたりとも協力ありがとう」

「ディラン殿下、シャーロット様。私のためにありがとうございました」

 エミリーがペコリと頭を下げる。しかし、その表情は複雑そうで解決が遠のいた事に気づいているようだった。

 ディランもエミリー自身から得られる情報からは、これ以上できることがない。あとは王家に残る機密の情報に頼るしかない。

「近いうちに禁書を読みに行ってくるから、そうすれば、何か打開策は見つかるかもしれない。しばらく、辛抱してね」

 ディランはそう言って、エミリーを励ました。ディランはもうエミリーを疑ってはいない。

 具体的な事を何も言ってあげられないのは心苦しいが、ディランにとっても未知の領域なので仕方ない。王家の書庫に眠る膨大な資料に答えがあることを願う。

「せっかくドレスを着ているのだから、わたくしと夕食を楽しみましょう。お気に入りのお店の予約を入れておくわ」

「シャーロット様の行くようなお店に、私みたいな者は……」

「わたくしが招待しますから、何も心配いらないわ」

 エミリーは恐縮していたが、シャーロットが持ち前の強引さで押し切ってしまった。シャーロットがチョコレートをたっぷり使ったデザートが出るお店だと言うと、エミリーの目が一瞬輝いたので、シャーロットととの食事を嫌がっているわけではないだろう。

 ディランは心のメモに『エミリーはチョコレートが好き』と書き込んで、2人とは学院の前で別れた。お茶のときにも話が弾んでいたようだし、エミリーを慰める役はシャーロットに譲ったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

処理中です...