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一章 田舎育ちの令嬢
11.可愛い?
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その日の放課後、ディランは諸々の準備を終わらせてから、エミリーを談話室に呼び出した。
「とりあえず、適当に座って。隠蔽の魔法がかかった状態はどう?」
「はい、教室の席に座っていると近寄ってくる人もいますけど、キョロキョロと近くを見回した後に去っていくので安心して過ごせました。ありがとうございます」
ディランはエミリーを教室まで送り届けたときに解いた魔法を、授業後に再びかけに行き、しばらくそのまま過ごしてもらっていた。魅了がかかった状態でも、視界に入らなければ行き過ぎた行動は取らないらしい。お昼に想定したことを再び確認しておいたのだ。
「そう、それなら良かった。明日は今日と同じ方法で過ごしてもらって、問題なければ隠蔽の魔道具を作って渡すよ。解決法が見つかるまでは、他の人から認識されなくなっちゃうけど……」
「問題ありません。その……友人もいませんし、大丈夫です」
エミリーが寂しそうに笑う。
「次の休みには、父上と会うことになってるんだ。王家の書庫の使用許可をもらう予定だから、その中から解決法を見つけてみせるよ」
「よろしくお願いします」
エミリーは手伝いたそうだったが、書庫に入るのは難しい。ディランは何か手伝ってほしいことがあったら声をかけると言って納得してもらった。
トントン
「開いてるから、どうぞ」
ディランの返事を受けて王宮侍女たちが3人入ってくる。お茶会をするようなセットの準備と、ディランがお願いした女性物の洋服などを運び入れた。
普段はディランの母に仕えている侍女を、これからすることのために呼んだのだ。ディランのことは子供の頃から知っているので、同世代の女の子と2人でいる状況が珍しいのか、探るような視線でエミリーを見ていた。
コホン
ディランが咳払いすると、フフフと顔を見合わせて笑って、部屋の端に澄ました顔で並んだ。母に見られているようでやりづらいが、口の固い顔見知りに頼みたかったので仕方ない。
「どなたか、いらっしゃるんですか?」
エミリーが茶器が3人分なのに気がついて聞いてくる。
「うん、実は……」
「ディラン! わたくしを呼び出すなんていい度胸ね!」
ディランが説明しようとすると、ノックもせずにシャーロットが部屋に入ってくる。その姿にエミリーがビクッと肩を揺らして縮こまった。
シャーロットは強い言葉のわりに、ディランに頼られて喜んでいることを隠しきれていない。しかし、そう感じるのはディランがシャーロットと長い付き合いだからだろう。エミリーはシャーロットの方を見れずに俯いたままだ。
「大丈夫。シャーロットには説明したから」
「ええ、先程聞きましたわよ。エミリー嬢も大変でしたのね。チャーリー様はよく人をからかいますのに、わたくしはまた騙されてしまいましたわ。ごめんなさいね」
シャーロットは扇子で口元を隠して恥ずかしそうに笑う。エミリーが目線で助けを求めてくるので、まずはシャーロットを座らせる。
「まぁ、王宮パティシエのマカロンじゃない」
「シャーロットとエミリーのために用意したんだ。たくさんあるから好きなだけ食べて」
「ディランにしては気が利くじゃない」
シャーロットがご機嫌にマカロンを口に運ぶ。チャーリーがシャーロットのために雇ったパティシエは、シャーロットの好みを全て把握しているので、ディランもシャーロットに頼みごとがあるときには使わせてもらっている。もちろん、チャーリーがいないとき限定だが……
「僕の推測だけど、兄上はシャーロットを怒らせるために、エミリーに近づいたんだと思うんだ」
「チャーリー様って、可愛いところがあるのよ。きっと、わたくしの気を引きたかったのね」
シャーロットは頬を染めて宙を見た。きっと、ディランが一生知り得ない『可愛い』チャーリーを思い浮かべているのだろう。チャーリーがシャーロットを怒らせようとした理由については、ディランとシャーロットで全く見解が異なるが、あえて指摘はしない。
「なるほど? そうなんですね……」
エミリーは理解が追いつかない様子でシャーロットが見つめる方向を同じようにぼんやり見ている。
「シャーロット。なんで、あの森でエミリーに注意しようと思ったの?」
「えっ? なんでだったかしら? あの場所がちょうどいいと思っただけよ」
「そっか、ならいいや」
ディランはチャーリーの思惑について把握したかったが、シャーロットからは情報を得られそうにないので早々に諦める。
「エミリーも甘い物が苦手じゃないなら、遠慮せず食べてみて。美味しいよ」
ディランは、エミリーの前にいくつかマカロンを取り分けた。
「そうですわ。お試しになって。わたくしのオススメですのよ」
「はい、いただきます」
シャーロットはマカロンの種類について熱心にエミリーに説明している。エミリーはシャーロットの笑顔に安心できたのか、勧められたマカロンを食べて幸せそうな顔をした。
「とりあえず、適当に座って。隠蔽の魔法がかかった状態はどう?」
「はい、教室の席に座っていると近寄ってくる人もいますけど、キョロキョロと近くを見回した後に去っていくので安心して過ごせました。ありがとうございます」
ディランはエミリーを教室まで送り届けたときに解いた魔法を、授業後に再びかけに行き、しばらくそのまま過ごしてもらっていた。魅了がかかった状態でも、視界に入らなければ行き過ぎた行動は取らないらしい。お昼に想定したことを再び確認しておいたのだ。
「そう、それなら良かった。明日は今日と同じ方法で過ごしてもらって、問題なければ隠蔽の魔道具を作って渡すよ。解決法が見つかるまでは、他の人から認識されなくなっちゃうけど……」
「問題ありません。その……友人もいませんし、大丈夫です」
エミリーが寂しそうに笑う。
「次の休みには、父上と会うことになってるんだ。王家の書庫の使用許可をもらう予定だから、その中から解決法を見つけてみせるよ」
「よろしくお願いします」
エミリーは手伝いたそうだったが、書庫に入るのは難しい。ディランは何か手伝ってほしいことがあったら声をかけると言って納得してもらった。
トントン
「開いてるから、どうぞ」
ディランの返事を受けて王宮侍女たちが3人入ってくる。お茶会をするようなセットの準備と、ディランがお願いした女性物の洋服などを運び入れた。
普段はディランの母に仕えている侍女を、これからすることのために呼んだのだ。ディランのことは子供の頃から知っているので、同世代の女の子と2人でいる状況が珍しいのか、探るような視線でエミリーを見ていた。
コホン
ディランが咳払いすると、フフフと顔を見合わせて笑って、部屋の端に澄ました顔で並んだ。母に見られているようでやりづらいが、口の固い顔見知りに頼みたかったので仕方ない。
「どなたか、いらっしゃるんですか?」
エミリーが茶器が3人分なのに気がついて聞いてくる。
「うん、実は……」
「ディラン! わたくしを呼び出すなんていい度胸ね!」
ディランが説明しようとすると、ノックもせずにシャーロットが部屋に入ってくる。その姿にエミリーがビクッと肩を揺らして縮こまった。
シャーロットは強い言葉のわりに、ディランに頼られて喜んでいることを隠しきれていない。しかし、そう感じるのはディランがシャーロットと長い付き合いだからだろう。エミリーはシャーロットの方を見れずに俯いたままだ。
「大丈夫。シャーロットには説明したから」
「ええ、先程聞きましたわよ。エミリー嬢も大変でしたのね。チャーリー様はよく人をからかいますのに、わたくしはまた騙されてしまいましたわ。ごめんなさいね」
シャーロットは扇子で口元を隠して恥ずかしそうに笑う。エミリーが目線で助けを求めてくるので、まずはシャーロットを座らせる。
「まぁ、王宮パティシエのマカロンじゃない」
「シャーロットとエミリーのために用意したんだ。たくさんあるから好きなだけ食べて」
「ディランにしては気が利くじゃない」
シャーロットがご機嫌にマカロンを口に運ぶ。チャーリーがシャーロットのために雇ったパティシエは、シャーロットの好みを全て把握しているので、ディランもシャーロットに頼みごとがあるときには使わせてもらっている。もちろん、チャーリーがいないとき限定だが……
「僕の推測だけど、兄上はシャーロットを怒らせるために、エミリーに近づいたんだと思うんだ」
「チャーリー様って、可愛いところがあるのよ。きっと、わたくしの気を引きたかったのね」
シャーロットは頬を染めて宙を見た。きっと、ディランが一生知り得ない『可愛い』チャーリーを思い浮かべているのだろう。チャーリーがシャーロットを怒らせようとした理由については、ディランとシャーロットで全く見解が異なるが、あえて指摘はしない。
「なるほど? そうなんですね……」
エミリーは理解が追いつかない様子でシャーロットが見つめる方向を同じようにぼんやり見ている。
「シャーロット。なんで、あの森でエミリーに注意しようと思ったの?」
「えっ? なんでだったかしら? あの場所がちょうどいいと思っただけよ」
「そっか、ならいいや」
ディランはチャーリーの思惑について把握したかったが、シャーロットからは情報を得られそうにないので早々に諦める。
「エミリーも甘い物が苦手じゃないなら、遠慮せず食べてみて。美味しいよ」
ディランは、エミリーの前にいくつかマカロンを取り分けた。
「そうですわ。お試しになって。わたくしのオススメですのよ」
「はい、いただきます」
シャーロットはマカロンの種類について熱心にエミリーに説明している。エミリーはシャーロットの笑顔に安心できたのか、勧められたマカロンを食べて幸せそうな顔をした。
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