【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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一章 田舎育ちの令嬢

45.魔道具作り

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 ディランは翌日にはベッドを出る許可をもらえたが、魔法の使用は禁じられたままだった。エミリーには1日中監視されていたが、ボードゥアンは、困るディランを楽しそうに見ているだけだ。

 ディランもエミリーに伯爵領の郷土料理を教わったり、それなりに楽しく過ごしてしまったので、あまり文句も言えない。エミリーはボードゥアンに頼まれて、魅了魔法の研究にも協力していたようだが、があるので、ディランは参加していない。

 そんな時間を過ごして、エミリーから魔法使用の許可がおりたのは3日後のことだった。

 朝食を食べたあと、魔道具作りをするため3人でボードゥアンの研究部屋に集まる。

 使用する素材は金の腕輪と魔吸草を想定して用意してある。一般的な魔力吸収の魔道具と同じだろうという仮定からだ。うまくいかなければ、ボードゥアンとディランで考えた、第2案、第3案を試してみることになるだろう。

「じゃあ、始めよっか。エミリーちゃんは扉の近くまで下がってくれる?」

「ここでいいですか?」

「うん」

 ボードゥアンはエミリーをディランのいる作業台から離して、念入りに保護魔法をかけた。普通は肌の接触がなければ魔力を吸えないが、特殊な魔力なので想定外の出来事を避けるための処置だ。

「ディラン、いいよ」

「では、始めます」

 ディランは魔吸草を軽く握って数日前の魔法を思い浮かべる。

(エミリーを助けてみせる)

 しかし、魔法は発動せれず、魔吸草から魔力が漏れていくだけだった。魔法陣が出現するどころか、魔吸草はなんの変化も示さない。

(お願いします!)

 ディランの必死な願いも虚しく、無駄に消費されていく魔力のせいで疲労だけが溜まっていく。快適な温度に魔法で保たれた部屋の中でも、ディランの額からは汗が滲み出ていた。

「ディラン殿下……」

 エミリーの心配そうな声が聞こえる。その瞬間、薄っすらと魔法陣が魔吸草に浮かび上がった。ディランが驚いていると、ボードゥアンが小さく歓声を上げながら魔法陣を書き留め始める。

「面白いね。ディラン、視線を上げた方がいいんじゃない? 」

 ボードゥアンの言葉を受けて、ディランは魔吸草と腕輪に集中していた意識をエミリーに向ける。エミリーは両手を胸の前で合わせながら、ディランの方を祈るように見つめていた。ディランと視線が合うと、エミリーは恥ずかしそうに頬を染める。

「おっ! いい感じ」

 ボードゥアンが嬉しそうな声が聞こえる。ディランの手元が輝きだして、しばらくすると手の中にあったはずの魔吸草を握る感覚が薄れていった。

 ディランが研究台に視線を戻すと、魔吸草が黄金の砂粒のように変わって腕輪に吸い込まれていくのが見える。すべて腕輪に吸い込まれてしまうと、周囲の輝きも消えて、もとの薄暗い部屋に戻った。

「師匠、どうですか?」

「魔法陣は書き取れたよ。できれば、もう一度見せてくれると精度が上がって助かるかな。魔力は大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 ディランは、すぐに新たな魔吸草を握りしめる。

「エミリー、ごめんね」

 エミリーはディランの謝罪を首を傾げて聞いていたが、ディランがエミリーをまっすぐ見つめながら魔吸草に魔力を流し始めると、顔を真っ赤にしてコクンと頷いた。

「うん! 完璧!」

 2人の間に流れたなんとも言えない空気は、ボードゥアンの明るい声で飛散した。ディランは魔吸草が砂になって消えるのを確認すると、額の汗を拭う。落ち着いてからボードゥアンの手元を見ると、美しい魔法陣が描き出されていた。今まで調べていた魔力吸収の魔法陣とは全く異なる図案だ。

「よく知られた魔力吸収とは別物ってことですよね」

「うん、新しい魔法と魔道具だよ。完成したらレポートにまとめたいけど……禁書室行きなのが勿体ないよね」

「やっぱり、そうなりますよね」

 これらの存在は魅了の魔法の存在を裏付ける証拠になる。王太子の判断にはなるが、公にはできないだろう。禁書室に入れるまで、この屋敷から情報を出さないよう、資料の扱いには注意が必要だ。

「エミリーちゃんも、国家機密ってことだけは頭に入れといてね」

「は、はい。分かりました」

 エミリーは緊張気味に返事をする。当然の反応だが、ディランは最近慣れてしまって緊張感のない自分に気づかされた。

「とにかく、魔道具を作れそうで良かってよ」

「僕、頑張ります」

「あの……休憩はしっかりと取ってくださいね。私はここに居させて貰えるなら、ゆっくりで大丈夫です。危険なことだけは絶対にしないで下さい。お願いします」

 エミリーはペコリと頭を下げる。ディランが無茶をしたせいだと思うといたたまれない。

「分かってるよ、エミリー。大丈夫だからさ」

「お師匠様、殿下を見張ってて下さい」

「うん、いいよ~」

 ボードゥアンが面白そうにディランとエミリーを見比べて、適当に返事をする。明らかに真剣味のない言葉なのに、エミリーはホッとしたように笑った。

 自業自得だが、不真面目なときのボードゥアンより信用を無くしていることを知って、ディランはかなり落ち込んだ。ここ数日のエミリーの様子からすると、信用回復にはかなり時間が必要になりそうだ。


 その後、ディランは休憩を十分すぎるほど取りながら、ボードゥアンと協力して魔力を腕輪に流し続けた。ディランは魅了の魔力吸収の魔法を直接的に、ボードゥアンは魔法陣を介して間接的に行っていく。初めて作る魔道具だったため、ボードゥアンが参加しても1日以上かかり、完成したのは翌日の夕方だった。
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