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一章 田舎育ちの令嬢
44.新しい魔法
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ディランが神妙な顔で頭を撫でられていると、ボードゥアンがいつもの表情に戻ってクスリと笑う。
「危険性を無視すれば、面白い実験だったよね」
「あの……それで、どうなったんですか?」
ディランはボードゥアンの様子を伺いつつ恐る恐る聞いてみる。もう一度叱られるかと思ったが、ボードゥアンは研究者の顔になって楽しそうに語り出す。
「完璧だったよ。エミリーちゃんの周囲の魔力がディランに吸い寄せられて、きれいになくなったんだ。魅了の魔法が完全に消えてたのは半日くらいだったかな。ディランが倒れなかったら、もっと細かく観察できたのに……もう一回試してみる?」
「いえ……エミリーに泣かれたくないのでやめておきます」
「だよねー。せめて、ディランが自分の魔力を減らしてから発動してくれてたらな。現段階ではディランが倒れたのが、体内魔力が増えすぎたせいなのか、異質な魔力が体内に入ったせいなのかも判断できないよ。残念」
ボードゥアンはしょんぼりしてしまっている。好奇心を抑えきれない雰囲気で、ディランを叱っていたボードゥアンと同一人物には見えない。
「すみません。師匠に相談してからにすれば良かったです」
「うーん。残念だけど、相談されてたら、流石のボクでも発動させないよ。ディランが死んじゃったら、面白いなんて言えないもん」
ボードゥアンがサラリと怖いことを言うので、サッと血の気が引く。確かに、体内魔力が増えすぎるだけでも命を落とす子供はいる。だからこそ、魔力吸収の研究が盛んに行われてきたわけで……
「今頃怖くなったの?」
ボードゥアンがディランの強張った頬を軽く引っ張る。ディランは素直にコクリと頷いた。
ディランには、別に命がけの実験をしたつもりはなかった。自分の浅はかな行動に、今度こそしっかり反省する。
「その気持ち忘れちゃだめだよ。まぁ、ボクも人の事は言えないけどね」
ボードゥアンは過去を思い出したのか苦い顔をしている。ディランは武勇伝を聞きたくて静かに待っていたが、ボードゥアンはディランの視線に気づくと、にっこり笑って話を戻した。
「ボクの見解では、ディランの魔法を使って魔道具を作る分には、問題ないんじゃないかと思うんだ。魅了の魔力を実際に吸うわけではないしね。ディランのことだから、この程度で済むなら無理してでもエミリーちゃんのために魔道具を作るつもりだったんでしょ? それなら、ボクの監視下でやってもらうよ」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
「うん。あとは、何に魔法を入れ込むかだけど……」
そこからは、実際に使う素材や方法の議論になった。普通は慣れた魔法でない場合、魔法陣を使うが、今回は魔法陣がまだ存在しない。ディランは想いの強さで、発動経験の少なさを補う必要がある。
「ディランが発動させた魔法陣を書き取ったら、ボクも手伝えるようになるからさ。調整しながら完成まで頑張ろうね」
「はい。頑張ります」
ディランが気合を入れていると、ボードゥアンに髪をガシャガシャと混ぜられる。
「作るのは明日以降かな?」
「そうですね……僕、今日はエミリーにベッドから出るなって言われてるんです。師匠、もう大丈夫だってエミリーのことを説得してくれませんか? そうすれば、今日からでも取りかかれます」
「ボクは別に明日以降で構わないよ。危ない事をしたのは確かなんだから、あの子が納得するまで我慢するしかないんじゃない?」
ボードゥアンはクスクスと笑っている。ディランは当てが外れてがっかりした。体調が万全なのに、やりたいことができないのはもどかしい。
「でも……エミリーのためには早く作ってあげないといけないんです。遅くなったら、夏期休暇中に伯爵領へ帰省させてあげられなくなります」
「うん、そうだね。ボクじゃなくて、エミリーちゃんを説得しなよ。ボクはどっちでもいいし、どちらかというと今の状況の方が面白いかな」
「そんなこと言わないで下さいよ」
ディランがじっとりと見つめても、ボードゥアンは面白そうに笑うだけだ。
「ほら、ベッドに戻りなよ。ボクまで叱られちゃうよ」
「あっ! 師匠……」
ボードゥアンは笑顔で手を振りながら、魔法でディランを部屋の外にふわりと運んでしまう。先程渡された入門書もディランの胸元に勢いよく飛んできて、それに気を取られているうちに研究部屋の扉を閉められてしまった。
「……」
ディランには、今のエミリーを説得できるわけがない。ディランは諦めて、部屋で入門書を読んで時間を潰すことにした。
「危険性を無視すれば、面白い実験だったよね」
「あの……それで、どうなったんですか?」
ディランはボードゥアンの様子を伺いつつ恐る恐る聞いてみる。もう一度叱られるかと思ったが、ボードゥアンは研究者の顔になって楽しそうに語り出す。
「完璧だったよ。エミリーちゃんの周囲の魔力がディランに吸い寄せられて、きれいになくなったんだ。魅了の魔法が完全に消えてたのは半日くらいだったかな。ディランが倒れなかったら、もっと細かく観察できたのに……もう一回試してみる?」
「いえ……エミリーに泣かれたくないのでやめておきます」
「だよねー。せめて、ディランが自分の魔力を減らしてから発動してくれてたらな。現段階ではディランが倒れたのが、体内魔力が増えすぎたせいなのか、異質な魔力が体内に入ったせいなのかも判断できないよ。残念」
ボードゥアンはしょんぼりしてしまっている。好奇心を抑えきれない雰囲気で、ディランを叱っていたボードゥアンと同一人物には見えない。
「すみません。師匠に相談してからにすれば良かったです」
「うーん。残念だけど、相談されてたら、流石のボクでも発動させないよ。ディランが死んじゃったら、面白いなんて言えないもん」
ボードゥアンがサラリと怖いことを言うので、サッと血の気が引く。確かに、体内魔力が増えすぎるだけでも命を落とす子供はいる。だからこそ、魔力吸収の研究が盛んに行われてきたわけで……
「今頃怖くなったの?」
ボードゥアンがディランの強張った頬を軽く引っ張る。ディランは素直にコクリと頷いた。
ディランには、別に命がけの実験をしたつもりはなかった。自分の浅はかな行動に、今度こそしっかり反省する。
「その気持ち忘れちゃだめだよ。まぁ、ボクも人の事は言えないけどね」
ボードゥアンは過去を思い出したのか苦い顔をしている。ディランは武勇伝を聞きたくて静かに待っていたが、ボードゥアンはディランの視線に気づくと、にっこり笑って話を戻した。
「ボクの見解では、ディランの魔法を使って魔道具を作る分には、問題ないんじゃないかと思うんだ。魅了の魔力を実際に吸うわけではないしね。ディランのことだから、この程度で済むなら無理してでもエミリーちゃんのために魔道具を作るつもりだったんでしょ? それなら、ボクの監視下でやってもらうよ」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
「うん。あとは、何に魔法を入れ込むかだけど……」
そこからは、実際に使う素材や方法の議論になった。普通は慣れた魔法でない場合、魔法陣を使うが、今回は魔法陣がまだ存在しない。ディランは想いの強さで、発動経験の少なさを補う必要がある。
「ディランが発動させた魔法陣を書き取ったら、ボクも手伝えるようになるからさ。調整しながら完成まで頑張ろうね」
「はい。頑張ります」
ディランが気合を入れていると、ボードゥアンに髪をガシャガシャと混ぜられる。
「作るのは明日以降かな?」
「そうですね……僕、今日はエミリーにベッドから出るなって言われてるんです。師匠、もう大丈夫だってエミリーのことを説得してくれませんか? そうすれば、今日からでも取りかかれます」
「ボクは別に明日以降で構わないよ。危ない事をしたのは確かなんだから、あの子が納得するまで我慢するしかないんじゃない?」
ボードゥアンはクスクスと笑っている。ディランは当てが外れてがっかりした。体調が万全なのに、やりたいことができないのはもどかしい。
「でも……エミリーのためには早く作ってあげないといけないんです。遅くなったら、夏期休暇中に伯爵領へ帰省させてあげられなくなります」
「うん、そうだね。ボクじゃなくて、エミリーちゃんを説得しなよ。ボクはどっちでもいいし、どちらかというと今の状況の方が面白いかな」
「そんなこと言わないで下さいよ」
ディランがじっとりと見つめても、ボードゥアンは面白そうに笑うだけだ。
「ほら、ベッドに戻りなよ。ボクまで叱られちゃうよ」
「あっ! 師匠……」
ボードゥアンは笑顔で手を振りながら、魔法でディランを部屋の外にふわりと運んでしまう。先程渡された入門書もディランの胸元に勢いよく飛んできて、それに気を取られているうちに研究部屋の扉を閉められてしまった。
「……」
ディランには、今のエミリーを説得できるわけがない。ディランは諦めて、部屋で入門書を読んで時間を潰すことにした。
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