【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

文字の大きさ
43 / 115
一章 田舎育ちの令嬢

43.エミリーとの攻防

しおりを挟む
 ディランはぐっすり眠って、翌朝には体調もすっかり回復していた。朝食を作ろうと、いつものように台所に向かうと、規則正しい包丁の音が聞こえてくる。ディランは台所の入口で、忙しなく働くエミリーの後ろ姿を目で追ってしまった。

「ディラン殿下、そこで何してるんですか!」

 エミリーが、ディランの気配に気がついて振り返る。睨みつけられたが、正直可愛らしくて迫力はない。

「何って、朝ごはんを作……」

「駄目です! 部屋に戻って休んでて下さい」

 エミリーはディランの言葉を遮って、ドシドシと音がなりそうな雰囲気で近寄ってくる。

「もう大丈夫だよ。そんなに酷くなかったしさ」

 ディランが安心させるように笑って言ったが、エミリーはディランの腕をグイグイ引っ張って台所から追い出そうとしてくる。エミリーが弱い力で一生懸命引っ張ろうとするので、ディランは抵抗せずにエミリーについていった。

「今日はベッドから出ないで下さい! 昨日、ご自分がどんな状態だったか分かってるんですか?」

「わ、分かったから、そんな目で見ないでよ」

 エミリーはディランを睨みつけているが目に涙が浮かんでいる。ディランは反論もできずに、自分の部屋に戻った。


 ディランが部屋で手持ち無沙汰でいると、エミリーがお粥を作って持ってきてくれた。美味しかったが、眠っていて昨晩も食べていないディランが、それで足りるわけもない。

 結局、それに気がついたエミリーに、2食分を用意させることになってしまった。

「エミリー。食欲もあるし、僕はこの通り元気……」

「駄目です!」

 エミリーは回復を喜んでくれたが、ディランの訴えには被せるように否定の言葉が返ってくる。取り付く島もなさそうだ。

「分かった。今日は大人しくしておく」

「そうして下さい」

 エミリーは安心した様子で、部屋から出ていく。ディランはエミリーの気配が去ったのを確認して、静かに部屋を出た。廊下を隠蔽魔法まで使って移動し、ボードゥアンの研究部屋の扉をノックする。

「開いてるよ」

 部屋の中からボードゥアンの声が聞こえてくる。ディランは扉の中に入ってから隠蔽を解いた。

「師匠、申し訳ありませんでした」

「うん。とりあえず、座って」

 ディランが頭を下げると、ボードゥアンが椅子に座るよう促す。手を握られて、魔力の状態を確認された。

「問題なさそうだね」

「はい、それで……」

 ディランはボードゥアンの判断にホッして、口を開こうとするが手で制される。

「ディラン、先にお説教だよ。魔力を持つ者は、願えば使える魔法がいくらでもある。それでも、本で勉強した魔法しか使わないように指導されている理由は知っているでしょ? もう一度、これを読んで勉強しなさい」

「はい」

 ボードゥアンは、魔道士の入門書をディランの横に積み上げる。入門書やそれに続く教本に記載された既存の魔法には、必ず使用時の注意点が併記されている。それを守れば、術者への危険はほとんどない。裏を返せば、危険を犯してきた先人の知識のおかげで安全が守られているということだ。

「……説教が苦手なの知ってるでしょ。こんな事、言わせないでよ」

「申し訳ありません」

「うん、分かってくれればいいよ。まぁ、過ぎたことはしょうがないよね。大事にならなくて良かったよ」

 ボードゥアンはディランの髪を撫でる。ボードゥアンに本気で叱られたのなんてはじめてだ。ディランは思っていた以上に心配させたことを悟って、静かに反省した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり
恋愛
前世は少食だったクリスティア。 今世も侯爵家の令嬢として、父に「王子の婚約者になり、次期王の子を産むように!」と日々言いつけられ心労から拒食気味の虚弱体質に! しかし、十歳のお茶会で王子ミリアム、王妃エリザベスと出会い、『ガリガリ令嬢』から『偏食令嬢』にジョブチェンジ!? 仮婚約者のアーク王子にも溺愛された結果……順調に餌付けされ、ついに『腹ペコ令嬢』に進化する! 今日もクリスティアのお腹は、減っております! ※pixiv異世界転生転移コンテスト用に書いた短編の連載版です。 ※ノベルアップ+さんに書き溜め読み直しナッシング先行公開しました。 改稿版はアルファポリス先行公開(ぶっちゃけ改稿版も早くどっかに公開したい欲求というものがありまして!) カクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェ、ツギクル(外部URL登録)にも後々掲載予定です(掲載文字数調整のため準備中。落ち着いて調整したいので待ってて欲しい……)

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...