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一章 田舎育ちの令嬢
43.エミリーとの攻防
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ディランはぐっすり眠って、翌朝には体調もすっかり回復していた。朝食を作ろうと、いつものように台所に向かうと、規則正しい包丁の音が聞こえてくる。ディランは台所の入口で、忙しなく働くエミリーの後ろ姿を目で追ってしまった。
「ディラン殿下、そこで何してるんですか!」
エミリーが、ディランの気配に気がついて振り返る。睨みつけられたが、正直可愛らしくて迫力はない。
「何って、朝ごはんを作……」
「駄目です! 部屋に戻って休んでて下さい」
エミリーはディランの言葉を遮って、ドシドシと音がなりそうな雰囲気で近寄ってくる。
「もう大丈夫だよ。そんなに酷くなかったしさ」
ディランが安心させるように笑って言ったが、エミリーはディランの腕をグイグイ引っ張って台所から追い出そうとしてくる。エミリーが弱い力で一生懸命引っ張ろうとするので、ディランは抵抗せずにエミリーについていった。
「今日はベッドから出ないで下さい! 昨日、ご自分がどんな状態だったか分かってるんですか?」
「わ、分かったから、そんな目で見ないでよ」
エミリーはディランを睨みつけているが目に涙が浮かんでいる。ディランは反論もできずに、自分の部屋に戻った。
ディランが部屋で手持ち無沙汰でいると、エミリーがお粥を作って持ってきてくれた。美味しかったが、眠っていて昨晩も食べていないディランが、それで足りるわけもない。
結局、それに気がついたエミリーに、2食分を用意させることになってしまった。
「エミリー。食欲もあるし、僕はこの通り元気……」
「駄目です!」
エミリーは回復を喜んでくれたが、ディランの訴えには被せるように否定の言葉が返ってくる。取り付く島もなさそうだ。
「分かった。今日は大人しくしておく」
「そうして下さい」
エミリーは安心した様子で、部屋から出ていく。ディランはエミリーの気配が去ったのを確認して、静かに部屋を出た。廊下を隠蔽魔法まで使って移動し、ボードゥアンの研究部屋の扉をノックする。
「開いてるよ」
部屋の中からボードゥアンの声が聞こえてくる。ディランは扉の中に入ってから隠蔽を解いた。
「師匠、申し訳ありませんでした」
「うん。とりあえず、座って」
ディランが頭を下げると、ボードゥアンが椅子に座るよう促す。手を握られて、魔力の状態を確認された。
「問題なさそうだね」
「はい、それで……」
ディランはボードゥアンの判断にホッして、口を開こうとするが手で制される。
「ディラン、先にお説教だよ。魔力を持つ者は、願えば使える魔法がいくらでもある。それでも、本で勉強した魔法しか使わないように指導されている理由は知っているでしょ? もう一度、これを読んで勉強しなさい」
「はい」
ボードゥアンは、魔道士の入門書をディランの横に積み上げる。入門書やそれに続く教本に記載された既存の魔法には、必ず使用時の注意点が併記されている。それを守れば、術者への危険はほとんどない。裏を返せば、危険を犯してきた先人の知識のおかげで安全が守られているということだ。
「……説教が苦手なの知ってるでしょ。こんな事、言わせないでよ」
「申し訳ありません」
「うん、分かってくれればいいよ。まぁ、過ぎたことはしょうがないよね。大事にならなくて良かったよ」
ボードゥアンはディランの髪を撫でる。ボードゥアンに本気で叱られたのなんてはじめてだ。ディランは思っていた以上に心配させたことを悟って、静かに反省した。
「ディラン殿下、そこで何してるんですか!」
エミリーが、ディランの気配に気がついて振り返る。睨みつけられたが、正直可愛らしくて迫力はない。
「何って、朝ごはんを作……」
「駄目です! 部屋に戻って休んでて下さい」
エミリーはディランの言葉を遮って、ドシドシと音がなりそうな雰囲気で近寄ってくる。
「もう大丈夫だよ。そんなに酷くなかったしさ」
ディランが安心させるように笑って言ったが、エミリーはディランの腕をグイグイ引っ張って台所から追い出そうとしてくる。エミリーが弱い力で一生懸命引っ張ろうとするので、ディランは抵抗せずにエミリーについていった。
「今日はベッドから出ないで下さい! 昨日、ご自分がどんな状態だったか分かってるんですか?」
「わ、分かったから、そんな目で見ないでよ」
エミリーはディランを睨みつけているが目に涙が浮かんでいる。ディランは反論もできずに、自分の部屋に戻った。
ディランが部屋で手持ち無沙汰でいると、エミリーがお粥を作って持ってきてくれた。美味しかったが、眠っていて昨晩も食べていないディランが、それで足りるわけもない。
結局、それに気がついたエミリーに、2食分を用意させることになってしまった。
「エミリー。食欲もあるし、僕はこの通り元気……」
「駄目です!」
エミリーは回復を喜んでくれたが、ディランの訴えには被せるように否定の言葉が返ってくる。取り付く島もなさそうだ。
「分かった。今日は大人しくしておく」
「そうして下さい」
エミリーは安心した様子で、部屋から出ていく。ディランはエミリーの気配が去ったのを確認して、静かに部屋を出た。廊下を隠蔽魔法まで使って移動し、ボードゥアンの研究部屋の扉をノックする。
「開いてるよ」
部屋の中からボードゥアンの声が聞こえてくる。ディランは扉の中に入ってから隠蔽を解いた。
「師匠、申し訳ありませんでした」
「うん。とりあえず、座って」
ディランが頭を下げると、ボードゥアンが椅子に座るよう促す。手を握られて、魔力の状態を確認された。
「問題なさそうだね」
「はい、それで……」
ディランはボードゥアンの判断にホッして、口を開こうとするが手で制される。
「ディラン、先にお説教だよ。魔力を持つ者は、願えば使える魔法がいくらでもある。それでも、本で勉強した魔法しか使わないように指導されている理由は知っているでしょ? もう一度、これを読んで勉強しなさい」
「はい」
ボードゥアンは、魔道士の入門書をディランの横に積み上げる。入門書やそれに続く教本に記載された既存の魔法には、必ず使用時の注意点が併記されている。それを守れば、術者への危険はほとんどない。裏を返せば、危険を犯してきた先人の知識のおかげで安全が守られているということだ。
「……説教が苦手なの知ってるでしょ。こんな事、言わせないでよ」
「申し訳ありません」
「うん、分かってくれればいいよ。まぁ、過ぎたことはしょうがないよね。大事にならなくて良かったよ」
ボードゥアンはディランの髪を撫でる。ボードゥアンに本気で叱られたのなんてはじめてだ。ディランは思っていた以上に心配させたことを悟って、静かに反省した。
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