【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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一章 田舎育ちの令嬢

42.目を覚ますと

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 どのくらい気を失っていたのだろう。ディランが意識を取り戻して最初に聞いたのは、誰かのすすり泣く声だった。心配になって目を開けたが、視界がはっきりしない。

「ディラン殿下、私が分かりますか!?」

 何もかもが曖昧な中で、はっきりとディランを呼ぶ声が耳に届く。ディランは身体がうまく動かせなくて、目線だけで声の主を探した。

 ぼやけた視界の先で、エミリーが顔を涙でグチャグチャにして、ディランの手を握っている。

「……エミリー? 大丈夫?」

 ディランは声を張ったはずなのに掠れた小さな声しか出ない。それでも、エミリーには聞こえたようで、心配そうにディランの顔を覗き込んできた。

「ディラン殿下? どこか痛いところはありますか? 気持ち悪くないですか? 欲しいものはありますか? あ、喉がかわいてるなら……」

「エミリーちゃん、落ち着いて。そんなに早口で聞いたら、ディランも困っちゃうからね」

「す、すみません。お師匠様」

 畳み掛けるように聞いてくるエミリーの声に、ボードゥアンの落ち着いた声が割って入る。優しい手のぬくもりが離れていって、代わりにボードゥアンが視界に入ってきた。

「ディラン、とりあえずこれを飲みな」

 ディランは、ボードゥアンに無理やり身体を起こされて、酸っぱい水薬を口に流し込まれた。ディランは咳き込みそうになるのをなんとか我慢して飲み込む。薬が身体を通っていくのと同時に、視界がはっきりしてくる。

「師匠、これって?」

「懐かしいんじゃない? 魔吸草を煎じた薬だよ。感覚がはっきりしたなら、何か魔法を使って魔力を吐き出した方がいいよ」

 ボードゥアンに手を借りて再び横になると、ディランは助言の通り魔法で風を起こす。ディランが生まれて初めて使った魔法も風だった。これなら何も考えずに使うことができる。

 どのくらい、そうしていただろう。徐々に鉛のようだった身体が軽くなり、自由に身体が動くようになった。エミリーの姿を探すと、部屋の端で涙を拭いている。

「エミリー、心配かけてごめんね」

「は、はい。大丈夫です」

 エミリーは涙混じりの声で返事をする。ディランは顔を見て安心したかったのに、こちらを向いてはくれなかった。

「一応、ボクも心配したんだけど?」

「ありがとうございます、師匠。師匠の焦った声、久しぶりに聞きました」

 ディランが恥ずかしくてそんなふうに言うと、ボードゥアンは子供のようにプイッとディランから顔をそらす。ボードゥアンの耳が少し赤くて、ディランはつい笑いそうになった。

「それで、僕はどうなっていたのでしょう? 魔法は発動したのでしょうか?」

「うん、発動してたよ。気になると思うけど、詳しい話は休んでからにした方がいいかな。解決の糸口は視えたってことだけ伝えておくよ」

「良かった……」

 ボードゥアンが楽しそうに笑っている。ディランは安心して、再び眠りに落ちた。
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