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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
21.湖のほとり
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小高い丘を越えて森に入ると、すぐに目的地の湖が見えてきた。お昼頃に着く予定だったが、かなり早い到着となりそうだ。のんびり乗馬を楽しむつもりが、調子に乗って馬を走らせ過ぎた。
後ろから追いついてきたルークが呆れた顔をしている。カゴを抱えたままディランを追って来たのだから大変だったのだろう。
「流石に目的地まで突っ走るとは思いませんでしたよ」
「ごめん。楽しくなっちゃってさ」
ディランはイタズラが見つかった子供のように、ルークに謝りながら隠れてエミリーと笑い合う。カランセ伯爵の愛馬は軍馬だけあって疲れた様子も見せず、ディランがあげたおやつを得意気に食べていた。
「私も一人で馬に乗れるようになりたいです」
エミリーが馬を労うように撫でながら言う。ディランは、エミリーに懇願するように上目遣いで見られて、さり気なく視線を外した。そんなふうに見つめられたら、いつの間にか頷いてしまいそうだ。
「馬は危ないよ。落馬したら怪我ではすまないことだってあるんだ」
「ディラン様は心配しすぎです。長旅をしても熱を出さないくらい丈夫になったので、練習すれば大丈夫ですよ」
エミリーがぷっくりと頬を膨らめして抗議してくるので、ディランはかわいい表情につい笑ってしまう。
「ディラン様!」
「ごめんごめん。伯爵の許可が取れたなら、僕が練習に付き合うよ」
「お父様ですか……説得できる自信がありません」
伯爵は夫人が馬に乗るのも許可していないようだった。エミリーの姉は馬を乗り回しているようなので、基準はよく分からない。ただ、姉だけが伯爵似の体格だというので、その辺りが影響しているのかもしれない。
「エミリー、頑張って」
ディランは無責任にエミリーを応援する。伯爵に任せればエミリーの安全は護れそうだ。エミリーは心の籠もらない応援に不満そうな顔をしている。
「お昼には早いし、散歩でもしようか」
「はい!」
ディランが話をそらして手を差し出すと、エミリーはすぐに機嫌を直してディランの手を取る。ディランたちは湖の畔をお昼すぎまでのんびりと歩いた。
「ピクニックって楽しいですね」
エミリーは休憩のための敷物を広げながら楽しそうに笑う。エミリーは身体が弱く外出が制限されていたので、ピクニックも初めてらしい。
「僕もこんなに穏やかで楽しいピクニックは初めてだよ」
ディランのピクニックの思い出は、チャーリーとシャーロットに引きずられるようにして行ったものばかりだ。
「ピクニックってなると、シャーロットが兄上のために食事を作るって毎回張り切ってさ。料理なんか普段しないからパンに具材を挟むだけで大騒動だったよ。手伝わされる身にもなってほしいよね」
「いつも、ディラン様が手伝っていたんですか?」
エミリーがカゴの中のパンをディランに手渡しながら聞いてくる。
「うん、いつも前日に呼び出されるんだ。兄上には見せられないとか言ってさ。おかげで、僕の方が料理が得意になっちゃったよ」
「一緒に料理……。チャーリー殿下がお二人の関係を勘違いするのも分かる気がします」
「えっ!? なんで?」
エミリーがじっとりと見つめてくるので、ディランは苦笑するしかない。子分のように使われてきた歴史も嫉妬の対象になるようだ。嫉妬されて困るような嬉しいような。ディランは複雑な気持ちになって言い訳すべきか非常に悩んだ。
「今度、シャーロット様に誘われたら、私も連れていってくださいね」
「うん、エミリーと一緒なら楽しくなりそうで嬉しいよ」
ディランが微笑みかけるとエミリーがつられたように笑顔になる。
「ディラン様って、ちょっとずるいです」
ディランが首を傾げると、エミリーは何でもないと言ってディランの作ったパンを食べはじめる。エミリーが美味しいと言って作り方を聞いてくるので、ディランは『ずるい』の意味を聞く機会を失ってしまった。
後ろから追いついてきたルークが呆れた顔をしている。カゴを抱えたままディランを追って来たのだから大変だったのだろう。
「流石に目的地まで突っ走るとは思いませんでしたよ」
「ごめん。楽しくなっちゃってさ」
ディランはイタズラが見つかった子供のように、ルークに謝りながら隠れてエミリーと笑い合う。カランセ伯爵の愛馬は軍馬だけあって疲れた様子も見せず、ディランがあげたおやつを得意気に食べていた。
「私も一人で馬に乗れるようになりたいです」
エミリーが馬を労うように撫でながら言う。ディランは、エミリーに懇願するように上目遣いで見られて、さり気なく視線を外した。そんなふうに見つめられたら、いつの間にか頷いてしまいそうだ。
「馬は危ないよ。落馬したら怪我ではすまないことだってあるんだ」
「ディラン様は心配しすぎです。長旅をしても熱を出さないくらい丈夫になったので、練習すれば大丈夫ですよ」
エミリーがぷっくりと頬を膨らめして抗議してくるので、ディランはかわいい表情につい笑ってしまう。
「ディラン様!」
「ごめんごめん。伯爵の許可が取れたなら、僕が練習に付き合うよ」
「お父様ですか……説得できる自信がありません」
伯爵は夫人が馬に乗るのも許可していないようだった。エミリーの姉は馬を乗り回しているようなので、基準はよく分からない。ただ、姉だけが伯爵似の体格だというので、その辺りが影響しているのかもしれない。
「エミリー、頑張って」
ディランは無責任にエミリーを応援する。伯爵に任せればエミリーの安全は護れそうだ。エミリーは心の籠もらない応援に不満そうな顔をしている。
「お昼には早いし、散歩でもしようか」
「はい!」
ディランが話をそらして手を差し出すと、エミリーはすぐに機嫌を直してディランの手を取る。ディランたちは湖の畔をお昼すぎまでのんびりと歩いた。
「ピクニックって楽しいですね」
エミリーは休憩のための敷物を広げながら楽しそうに笑う。エミリーは身体が弱く外出が制限されていたので、ピクニックも初めてらしい。
「僕もこんなに穏やかで楽しいピクニックは初めてだよ」
ディランのピクニックの思い出は、チャーリーとシャーロットに引きずられるようにして行ったものばかりだ。
「ピクニックってなると、シャーロットが兄上のために食事を作るって毎回張り切ってさ。料理なんか普段しないからパンに具材を挟むだけで大騒動だったよ。手伝わされる身にもなってほしいよね」
「いつも、ディラン様が手伝っていたんですか?」
エミリーがカゴの中のパンをディランに手渡しながら聞いてくる。
「うん、いつも前日に呼び出されるんだ。兄上には見せられないとか言ってさ。おかげで、僕の方が料理が得意になっちゃったよ」
「一緒に料理……。チャーリー殿下がお二人の関係を勘違いするのも分かる気がします」
「えっ!? なんで?」
エミリーがじっとりと見つめてくるので、ディランは苦笑するしかない。子分のように使われてきた歴史も嫉妬の対象になるようだ。嫉妬されて困るような嬉しいような。ディランは複雑な気持ちになって言い訳すべきか非常に悩んだ。
「今度、シャーロット様に誘われたら、私も連れていってくださいね」
「うん、エミリーと一緒なら楽しくなりそうで嬉しいよ」
ディランが微笑みかけるとエミリーがつられたように笑顔になる。
「ディラン様って、ちょっとずるいです」
ディランが首を傾げると、エミリーは何でもないと言ってディランの作ったパンを食べはじめる。エミリーが美味しいと言って作り方を聞いてくるので、ディランは『ずるい』の意味を聞く機会を失ってしまった。
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