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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
22.日記の感想
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食事を済ませたあと、ディランたちは湖を眺めながらのんびり過ごした。エミリーが王女の日記を読むというので、ディランも隣で伯爵家の書庫から借りてきた魔道書を広げる。会話はないが、ディランによりかかるように座るエミリーの温もりが心地良い。
エミリーは日記をもう少しで読み終えるようだ。前半のページは普通の日記のようにヴァランティーヌ王女の学院生活が短い文章で書かれていたようだが、希望に溢れた日記は突然途切れてしまったらしい。おそらく、事件に巻き込まれて日記どころではなくなってしまったのだろう。
あとに続く文章は、すべてが終わったあとに王女の手によって書かれたもののようだ。先日読んだ文章で察していたが、やはりヴァランティーヌ王女は処刑されていなかった。王女の意向もあるので詳しいことは聞いていないが、エミリーの説明から確信することができた。
「えっ!? えー!!」
エミリーの絶叫に近い声で、湖を泳いでいた水鳥たちが一斉に飛び立つ。順番に食事を摂っていた護衛の3人が、ディランたちに駆け寄ってきた。
「エミリー、どうしたの?」
「どうされましたか?」
「違うんです。ごめんなさい」
エミリーは慌てて立ち上がり、ディランと護衛たちにペコペコと頭を下げる。
「何もなければいいんですよ」
護衛らしい顔をしていたルークが、いつもの親しみやすい表情に戻ってヘラリと笑う。護衛たちは周囲を見回したあと静かに離れていった。
「大丈夫?」
「はい、驚かせてすみません」
エミリーは表情を隠すようにディランの肩に顔を寄せている。耳まで赤くなっていてかわいい。
「ディラン様……」
「うん?」
「日記、読み終わりました。魅了の魔法をなくす方法も分かりましたよ」
エミリーは真っ赤な顔のまま、ディランを見上げている。喜んでいるようではあるが、エミリーの表情からは戸惑いも見て取れる。
「なにか、問題があった?」
「あ、いえ。王女様の魅了の魔法はちゃんと消えたので、普通の暮らしが送れていると書いてありました」
「そう。僕に協力出来そうなことはある? 何でも言って」
「はい、お願いします……あっ! いえ! ディラン様にお願いすることは今の所ないです。今の所? えっと……自然に解けます! きっと、たぶん……」
エミリーはあわあわしていて挙動不審だ。首を傾げたり赤くなったり忙しそうで心配になってくる。
「一度落ち着こうか」
「は、はい!」
ディランはパニックになっているエミリーを座らせて、果実水を魔法で冷やして渡す。エミリーはゴクゴクと飲んで、息をゆっくり吐き出した。
「その……自然に魔法が消えるまで待つ方がよさそうです。うまく説明できなくてすみません」
「うん、気にしないで。僕にできる事があったら、いつでも言ってね。伯爵家の人かシャーロットになら、この件に関して何を話しても大丈夫だから、相談できる人がいたら相談するんだよ。一人で抱え込むのは大変でしょう?」
「はい、ありがとうございます。えっと……魔法を消す方法は、私にとって幸せな方法だったので安心して下さい。自分から試してみるのは……ちょっと難しいので、いつ解けるか分からないです。でも、私は大丈夫なので」
「うん、分かったよ」
ディランがエミリーの髪を撫でると、エミリーは恥ずかしそうに笑った。
「王女様が日記を残して下さって良かったです。読んだら少し安心できました」
「そう。それなら良かった」
ディランには結局よく分からなかったが、エミリーが嘘を言っているようにも見えない。『安心できた』という言葉をそのまま受け取っても良いだろう。
日記はエミリーから返されたが、エミリーに絶対に見ないで欲しいと念押しされたので、ディランはエミリーにも分かるように日記に仮の封印をしてからバッグにしまった。
エミリーは日記をもう少しで読み終えるようだ。前半のページは普通の日記のようにヴァランティーヌ王女の学院生活が短い文章で書かれていたようだが、希望に溢れた日記は突然途切れてしまったらしい。おそらく、事件に巻き込まれて日記どころではなくなってしまったのだろう。
あとに続く文章は、すべてが終わったあとに王女の手によって書かれたもののようだ。先日読んだ文章で察していたが、やはりヴァランティーヌ王女は処刑されていなかった。王女の意向もあるので詳しいことは聞いていないが、エミリーの説明から確信することができた。
「えっ!? えー!!」
エミリーの絶叫に近い声で、湖を泳いでいた水鳥たちが一斉に飛び立つ。順番に食事を摂っていた護衛の3人が、ディランたちに駆け寄ってきた。
「エミリー、どうしたの?」
「どうされましたか?」
「違うんです。ごめんなさい」
エミリーは慌てて立ち上がり、ディランと護衛たちにペコペコと頭を下げる。
「何もなければいいんですよ」
護衛らしい顔をしていたルークが、いつもの親しみやすい表情に戻ってヘラリと笑う。護衛たちは周囲を見回したあと静かに離れていった。
「大丈夫?」
「はい、驚かせてすみません」
エミリーは表情を隠すようにディランの肩に顔を寄せている。耳まで赤くなっていてかわいい。
「ディラン様……」
「うん?」
「日記、読み終わりました。魅了の魔法をなくす方法も分かりましたよ」
エミリーは真っ赤な顔のまま、ディランを見上げている。喜んでいるようではあるが、エミリーの表情からは戸惑いも見て取れる。
「なにか、問題があった?」
「あ、いえ。王女様の魅了の魔法はちゃんと消えたので、普通の暮らしが送れていると書いてありました」
「そう。僕に協力出来そうなことはある? 何でも言って」
「はい、お願いします……あっ! いえ! ディラン様にお願いすることは今の所ないです。今の所? えっと……自然に解けます! きっと、たぶん……」
エミリーはあわあわしていて挙動不審だ。首を傾げたり赤くなったり忙しそうで心配になってくる。
「一度落ち着こうか」
「は、はい!」
ディランはパニックになっているエミリーを座らせて、果実水を魔法で冷やして渡す。エミリーはゴクゴクと飲んで、息をゆっくり吐き出した。
「その……自然に魔法が消えるまで待つ方がよさそうです。うまく説明できなくてすみません」
「うん、気にしないで。僕にできる事があったら、いつでも言ってね。伯爵家の人かシャーロットになら、この件に関して何を話しても大丈夫だから、相談できる人がいたら相談するんだよ。一人で抱え込むのは大変でしょう?」
「はい、ありがとうございます。えっと……魔法を消す方法は、私にとって幸せな方法だったので安心して下さい。自分から試してみるのは……ちょっと難しいので、いつ解けるか分からないです。でも、私は大丈夫なので」
「うん、分かったよ」
ディランがエミリーの髪を撫でると、エミリーは恥ずかしそうに笑った。
「王女様が日記を残して下さって良かったです。読んだら少し安心できました」
「そう。それなら良かった」
ディランには結局よく分からなかったが、エミリーが嘘を言っているようにも見えない。『安心できた』という言葉をそのまま受け取っても良いだろう。
日記はエミリーから返されたが、エミリーに絶対に見ないで欲しいと念押しされたので、ディランはエミリーにも分かるように日記に仮の封印をしてからバッグにしまった。
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